夜明けの使者【コミカライズ企画進行中!】

社菘

文字の大きさ
上 下
20 / 70
第4章

しおりを挟む



陽はただの優しさで、Playの延長線上でそう言ってくれただけなのに、思わず拒否するように大声を出してしまった口元を手で覆って俯くと、枢の頭に柔らかい唇が押し付けられた。

「ごめんなさい、星先生。先生の気持ちを考えずに言っちゃった……痛いとか汚いのとか嫌って言ってたのに、すみません……」
「ちが、ちがうんです…朝霧先生は悪くないんです、俺が……そういうの、苦手なだけで…」

本当に、これじゃどちらがDomなのか分からない。俯いている枢を陽は優しく抱きしめて、落ち着かせるように背中を撫でてくれる。その手が温かくて、陽の体温に安心して、枢は自分よりも細い陽の体をぎゅっと抱きしめた。

「俺、その……」
「うん?」
「そういう欲求はないと思ってたんです、今まで。ただ、パートナーになる人には優しくしたいし、甘やかしてあげたいと思っていただけで…」
「……うん、そうですよね」
「自分でもそう思ってたんですけど、でも…あなたにはそういうことをしたいって思う自分が怖くなって、あの……朝霧先生にそういうことをさせるためにパートナーになりたいわけじゃないし、ものすごく甘やかして、気持ちよくさせたいだけ、なのに…自分の中にDomとしての凶暴な気持ちもあって……」

正直な気持ちを話していると、背中を撫でていた陽の手が止まる。
やばい、引かれたよな……。
そう思って彼の顔を見上げると、陽は頬も額も首までもを真っ赤に染めていた。予想外すぎる反応に枢もじわりと顔が熱くなるのを感じながらも、陽から目が離せない。「ちょっといま、こっち見ないで下さい」と言われ、彼の手で目を覆われそうになったのを寸前で阻止した。

「え、な、なんで朝霧先生が赤くなってるんですか?」
「う、うるさいです!そーゆー質問しないでください、ノンデリカシー男じゃないですか……!」
「いや、聞きます。聞きたい。朝霧先生は俺と"そういうこと"ができるんですか……?」

わざと、コマンドは出さなかった。無理に聞き出すよりも、陽の本心が知りたかったのだ。コマンドを介さない質問だと分かった彼は恥ずかしそうに唇を噛んで、悔しそうにぺちんっと枢の額を叩いた。

「"そういうこと"を含めて、できない相手にパートナーの話なんか持ち掛けませんよ……」

ぶっきらぼうにそう言って、ぷいっと顔を逸らす陽。何となく、陽が枢にパートナー契約の話を持ちかけたのは『手軽』だからだと思っていたのだ。スケジュールが合わせやすく、同じマンションに住んでいるからバレる可能性が低い上に、女性の先生や生徒に手を出すより安全だから、それ以上に特別な感情はないのだろうなと。枢も最初はそれを受け入れただけだったが、陽は枢と『そういうこと』をしてもいいと思っていたなんて。

「ヒナ……〈Look俺を見て〉」
「うん、」
「俺たち、パートナーになりましょう。〈Speakどう思う?〉」

正式にパートナー契約をしたいと言うと、陽の目元にじわりと熱が広がるのが分かる。枢の肩に置いた手がきゅっとTシャツを掴んで、何度か小さく頷いた。

「うれしい……枢と、パートナーになりたい」

恥ずかしそうにしながらも頬をピンク色に染めて微笑む陽。そんな彼を抱きしめると、とくとく心臓が脈打つ音が聞こえる。ここまでしておいて『恋人にはならない』なんて馬鹿げているかもしれないけれど、高校時代に諦めた恋がここまできたのだから、ただのパートナーでも万々歳だ。

「改めて聞きたいんですけど……」
「なんですか?」
「星先生は、その…おれの体に触りたいと思ってくれてるってこと、ですよね?」

ストレートに聞かれると言葉に詰まる。高校時代の、子供の淡い恋だったので陽への感情はもしかしたら憧れに近かったのかもしれない。だから陽とすぐに性行為をしたいかと言われれば今はまだ分からないが、触れたいとは思うのだ。体の一部が自分と触れ合っていたいが、もちろん服の上からでも構わない。服の上から触れたい気持ちも、『彼の体に触りたい』うちの一つで合っているだろうか。

「触りたいけど、ふ、服の上からで大丈夫です……!」
「ん、わかりました。えっと、上半身とか脚くらいなら直に触っても大丈夫です。一応言っておくと、星先生に触られて嫌なところはない、から」

この人、いくらなんでも気を許しすぎじゃないか……!?
ただ、Playをする上でこういう線引きは大事なことなので、どこまでなら触っても大丈夫か言ってくれるのはありがたい。上半身と脚なら触れていいのかと思うと、意外と許してくれる範囲が広いことに驚いた。

「唇は……」
「え?」
「キスは、今まで通り、していいんですよね…?だってご褒美、キスですもんね?」

名目上は『陽へのご褒美』だが、正直彼とのキスはご褒美の域を超えている。それはほとんど恋人同士がするような甘いもので、軽いキスではないから正直どう思われているか分からないのだ。というかDomの自分がキスの継続を申し出るなんて、本当に自分はDomらしくないと自嘲した。

「おれへのご褒美、なにか聞きたいですか?」
「キス、じゃないんですか……?」
「ふふ。変わっちゃいました」

陽は枢の唇をふにふに弄んで、いたずらっ子のような笑みを浮かべる。Play中はあんなにとろけているのに、それ以外は主導権を握るような陽の勝気な笑みにどきっと心臓が大きく脈打った。そんな枢の鼻先を細い指がぴんっと弾いて、陽は自身の唇をぺろりと舐めた。

「舌を入れて、おれの中を味わうように……唾液をぐちゃぐちゃに掻き回すような枢のとろっとろのキスが、おれへのご褒美です」

――ダメだ。
俺はやっぱり、この人には勝てそうにない。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

朝日に捧ぐセレナーデ 〜天使なSubの育て方〜

沈丁花
BL
“拝啓 東弥  この手紙を東弥が見ているということは、僕はもうこの世にいないんだね。  突然の連絡を許してください。どうしても東弥にしか頼めないことがあって、こうして手紙にしました。…”  兄から届いた一通の手紙は、東弥をある青年と出会わせた。  互いに一緒にいたいと願うからこそすれ違った、甘く焦ったい恋物語。 ※強く握って、離さないでの続編になります。東弥が主人公です。 ※DomSubユニバース作品です

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

処理中です...