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第4章
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しおりを挟む陽の全部を知りたい。暴きたい。枢だけだと言わせて、溺れさせたい。
そんな凶暴な感情が渦巻いているけれど、実際にはどうしたらいいのかやり方が分からない、ただの初恋拗らせ男だ。でも今は確実に枢にチャンスが巡ってきて、このチャンスを何としても自分のものにしなければならない。
「ご褒美ほしい?」
「うん……ちゃんと言えたでしょ?」
「ふは。言えただけでそんなに威張るSubもなかなかいないと思うけど…」
「星せんせがいじわる言う……」
「んー、でも俺にいじわるされるの、期待してるんでしょ?」
「そんないじわるなこと言うんだ? ……サブドロップするかも」
「えっ」
「Domがひどいから、枢のこと、拒否するかも」
「待って待って、分かったごめんなさい。〈Good Boy〉、ご褒美あげるから……!」
顔を傾けて、陽の柔らかい唇を奪う。触れるだけのキスを数回すると彼は自ら口を開けるようになるので、その隙間からぬるりと舌を差し込んだ。陽が望むままに舌を絡めてお互いの唾液を送り合いながら、枢は彼の耳をふにふに弄ぶ。こうすると陽はくすぐったさに身をよじりながらも、耳は彼にとって性感帯なのか、とろとろにとろけてしまうのだ。
「んぅ、ん……」
「ヒナ、〈Come〉」
ご褒美のキスでとろけてしまった陽を膝に乗せ「〈Kiss〉」と促すと、枢の首に腕を回す陽が恥ずかしそうな顔をしながらも近づいてくる。調子に乗って腰から下にかけて触っていると、陽に顔を掴まれて口付けられた。
「ふ、は……」
先程までは受け身の陽だったが、キスのコマンドを出すとあっという間に主導権を奪われる。薄々気付いていたのだけれど、陽はキスが上手い。初めてご褒美のキスをした時は初心そうな感じがしたが、もしかしたらあれは演技だったのかもしれないと疑うほど。そりゃあ、それなりに経験があるのは当然だろうなと思う自分と、一体今まで何人にこうしてきたらこんなに上手くなるのだろうという、モヤモヤした感情がひしめき合っている。
というか、恋人同士のように甘くて激しいキスを繰り返しているのに、これで付き合わずにセフレと同じ関係だなんて、意味が分からない。まぁ、ご褒美はキスと言うくらい陽はぶっ飛んでいるので、この関係に名前がつかないのも彼らしいと言えば彼らしいのだけれど。
「……キス、上手ですね」
「ほんと?上手だった?」
「うん。〈Good Boy〉」
頭を優しく撫でてやると、陽は嬉しそうにふわりと笑う。そんな顔にたまらなくなって唇の端に口付けると、彼は顔を赤くして俯いた。主導権を握るDomのような一面を見せたかと思えば、不意打ちに弱く照れてしまうだなんて、相手を狂わせる計算でもしかしたら人格が入れ替わっているのかもしれない。
「……枢は、キスとか撫でるだけで満足なの?」
「え?」
「さっきも言ったけど、本当に性欲に直結してないんだね…」
「……いや、だから。俺だって人並みに性欲はありますって」
「じゃあ、してあげようか?」
「へ……」
「意外とおれにでも興奮できるんだね」
そう言いながら陽は枢の上で腰を動かす。彼が腰を動かすと、ずくりとした重い疼きに驚いて、思わず身を引いてしまった。正直、今までパートナーがいたことはおろか、体を重ねたこともないのだ。
陽はDomから過激な要求をされるSubが多いと言っていたが、それはSubも同じらしいと聞いたことがある。DomもSubも嗜好は人それぞれで、枢のように甘やかしたいと思うだけのDomもいれば、Domに激しくいじめられたいというSubも存在する。激しいお仕置きをしたり、いじめたり、いじめられたいという欲求には応えられないなと、枢は常々思ってきた。
自分の中でもそういうのが苦手なのか、したくないなら仕方ないよなと思っていたのに。陽に対して感じるこの凶暴な気持ちは何なのだろう。彼になら、そういうことをしたい、と思うような――
「……生理現象なので、気にしないで下さい」
「でも、辛くないですか?おれが――」
「やめてくださいッ!」
思ったよりも大きな声が出て、自分でも驚いた。まさか怒鳴られると思っていなかった陽も目を丸くしていて驚いていて、そんな顔を見た枢はハッと我に返る。
「す、すみません……」
あぁ、バカだな、自分は!
きっと今が最大のチャンスだっただろうに、自分の性欲よりも陽を大切にしたいとういう感情が勝ってしまった。そんなことをさせるためにパートナーになりたいわけではないと、枢の中には別の感情があるのだ。
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