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第4章
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しおりを挟む陽と『お試し期間』を始めてから、少し疑問に思っていることがある。
「お試し期間が終わって、もし正式にパートナー契約をした時の話なんですけど」
「うん?」
今日は早いもので、お試し期間(と言っても、いつまでなのか分からない)2回目のPlayの日。仕事で疲れたから先にシャワーを浴びさせて、と言った陽が濡れた髪の毛を豪快にガシガシ拭いている時、今しかないと思って枢は話しかけた。
「あの、その時って……俺と朝霧先生は、その…自動的に恋人同士になる、ってことですか?」
「あー、うーん、どうでしょう?」
「どうでしょう、ですか…」
「いや、悪い意味じゃないですよ?星先生のことが恋人として不満とか、そういうことじゃなくて。恋人兼プレイパートナーって、負担になる可能性もあるなと思うんです」
「負担……」
陽の言葉に若干ショックを受けている自分がいる。
はっきりと『星先生と恋人は無理』と言われたわけではないのに、遠回しにそう言われている気がしたのだ。パートナー契約をしたDomとSubはそのまま恋人関係として結ばれることも多いと聞いたから、陽としてはどう思っているのかを知りたかったのだが、それゆえに少々傷を負った。そりゃそうだ、これは好きな人から遠回しに無理だと言われたようなものなのだから。
「おれの考え方が面倒くさいだけかもしれないんですけど、恋人としてもパートナーとしても満足させることを考えるのって、人によっては負担じゃないかなって……」
「なるほど」
「まぁ、星先生もそんなに難しく考えなくていいですよ。すっごくストレートだけど、セフレみたく思ってくれればいいし」
「セ……ッ」
それもそれで、何だかなぁと思うのだ。確かにお互いの欲求を満足させるための『Play』をしているのだから、セフレと同じだと言われれば、そうなのだが――
でも枢は陽に特別な感情を抱いている。それはもうずっと前からで、パートナーになるかもしれないから好き、というわけではない。自分が陽を大事にしたいという、特別な感情なのだ。
「でも星先生って、Domの欲求と性欲が直結してない珍しいタイプですよね」
「……はい?」
「んー、結構、Domの命令って過激なことが多いと思うんです。極端なことを言うと"舐めろ"とか"見せろ"とか……まぁ、Subでも性欲を一緒に満たしてほしいっていう人は多いだろうけど」
だからもしかして、と言いながら頭を拭いているタオルの隙間から陽と目が合ってどきりとした。
「星先生の欲求は"甘やかしたい"だから、性欲に直結してない代わりに、恋人関係を望んでるとかそういうことですか?それとも、セフレみたいな関係は不誠実だからとか、そういう可愛くて優しいこと考えてるとか?」
「俺だって人並みに性欲はありますよ……って、そうじゃなくて!どちらかと言えば、後者の方が正しいかもしれません」
「やっぱり優しいDomですねぇ、星先生は。見たまんまです」
「それ、バカにしてます?」
「いえ?でもそういう考え方、これまで大変だったんじゃないですか?」
「え?」
「本気になられて別れにくいとかありそうじゃないですか」
「……そんなことないですよ。パートナーがいた経験なんてないですし」
「……へぇ?じゃあずっと抑制剤で抑えてたってことですか?」
「ですね」
自分はそうだけれど、陽はどうか分からない。
陽は高校を卒業してからもモテモテだっただろうし、もし周りの人に陽がSubだとバレても引く手あまただっただろう。
陽がSubだと分かってから、枢は彼の過去が気になって仕方がなかった。過去にどんな人とパートナーだったのかなとか、恋人同士だったのかな、どんなPlayをしていたのか、一番長かった人はどんな人なのか、パートナーとは体を重ねたことがあるのかな、など。
陽の過去を考えるともやもやしてしまって、別の意味で眠れなくなったのだ。こちらはこんなに過去が気になっているのに、陽は枢の過去にさほど興味も示していない。色恋沙汰について、彼は結構淡白なほうなのだろうか。
それすらも分からないほど、自分は陽のことを何も知らない。
だからこそ気になるのかもしれないけれど。
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