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第3章
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しおりを挟む先日、1年生の星枢にノートを拾ってあげてから、彼を目で追うようになった。
友達はいないのかいつも一人で行動して、部活にも入っていないようなので放課後はさっさと家に帰っている。あの様子じゃ恋人もいないのだろう。
まさしくストーカーのような行動を取っているのだけれど、自然と目に入ってくるのだから仕方がない。自分のSubとしての本能なのか、なぜか枢が気になって仕方がないのだ。別にタイプというわけでもないし、そもそも陽は誰かと付き合ったことすらない。だから自分がどんな人を好きなのか知らない、というのが正しいのだが、自分と正反対そうな大人しい男子生徒に目も意識も奪われてしまうなんて初めての経験で、どうしたらいいのか分からない。
枢のノートを拾ってあげた時、周りにいた友人たちから「あんな陰キャの相手しなくていいのに」と言われたから、なんとなく誰にも話せないまま陽は彼を目で追っている。
3年生と1年生では棟も違うし、クラスも違うので体育祭などで被ることもない。合同授業なんてあるわけもないので、枢と接点を作るのは難しかった。
「……ていうか、なんで接点がほしいんだろ…」
今のところ、ダイナミクスの診断をしてから2年が経とうとしているが自分の中に『命令されたい』という欲求は今のところ湧いてこない。抑制剤を飲んでいる影響もあるだろうけど、自分のダイナミスクが分かったからと言って、すぐ欲求が出てくるわけでもないらしい。
だから一度も陽はPlayをしたいと思ったことがないのだけれど、Domかもしれない枢に惹かれている。彼ならSubの自分を受け入れてくれるのではないか――?そんなことを考えた。
なぜなら枢はあの日以来、熱い視線を送ってくれているのだ。陽が枢を無意識に目で追っているように、彼もまた陽を見つめているのが分かった。枢も自分と同じように『何かを感じている』と思ったのだ。ただ、枢の視線に気づいて目を合わせようとすると逸らされる。あれ?もしかしたら勘違い?と思うことが何回もあるので、多分勘違いではないのだけれど。
「人に好かれるには、どうしたらいいのかな……」
「は?陽が?」
「なに?」
「いや、いま…人に好かれるにはどうしたらいいんだろうって言っただろ?」
「え、声に出てた?」
「思いっきり」
やば、色々考えすぎていつの間にか声に出てた。
気をつけないと危ないなと思いつつ、ここが学校ではなく真白の家で助かった。課題の最中だった真白が怪訝な顔をしていたけれど、信用している幼馴染には少しくらい話してみてもいいかもしれない。
「話しかけてみたい人がいるんだけど、どうしたらいいのか分からなくて…」
「珍しい。コミュ力お化けの朝霧陽が?」
「コミュ力高いわけじゃないし……」
「ああ、お前の周りには自然と人がやってくるからな。なんだよ、好きな人でもできた?全然振り向いてくれないとか?」
「振り向いてくれない……のかも?」
「へえ!面白いじゃん。陽に近づいてこない人なんて」
これは自慢じゃないのだが、友達は多い方だし告白されることも多い。今は恋愛に興味がなくて告白は全て怖っているのだ。だから好意がある人の視線や態度は分かる自信があるけれど、枢の視線だけは読み取りにくい。
なんせ、他の人は陽と視線を合わせたいから逸らさないのに、枢は目が合いそうになると逸らすのだ。だからもしかしたら、ノートを拾った時に周りが言っていた『陰キャの相手なんてしなくてもいいのに』という言葉が聞こえていて、それを恨まれているだけかもしれない。
そう考えると、下手に話しかけることもできないのである。
「でも気になってるなら早めに接点持たないと、俺たち卒業しちゃうぞ」
もうすぐ高校最後の冬がやってくる。
そして彼は、ダイナミクスの診断の時期。
それが確定してから話しかけても遅くはないかな――
きっと彼はDomだろうし、自分がSubだと言えばパートナーになれるチャンスはあるかもしれない。
そう思っていたのだけれど、冬休みが明けてから枢はとことん陽を避けているようだった。移動教室の時は3年生が使わない廊下や階段を使っているようだし、陽を視界に入れないようにしているのが分かって、ショックを受けた。
そして気が付いたのは、もしかしたら自分は、枢に一目惚れをしていたかもしれないということ。
彼から意識されなくなって、陽はぽっかりと胸に穴が開いたまま、高校を卒業してしまったのだ。
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