夜明けの使者【コミカライズ企画進行中!】

社菘

文字の大きさ
上 下
12 / 70
第2章

しおりを挟む




初めて感じる陽の柔らかい粘膜、口内の温度、甘い唾液、重い吐息。

「ぅ、ふぁ……っ」

陽の言う『ご褒美のキス』はただのバードキスのような、唇同士を合わせるだけの可愛らしいものだったかもしれない。でも枢は、頭を撫でながら彼の口内を撫でてあげると、どんな可愛い反応をするのだろうかと見たくなってしまったのだ。

唾液をたっぷり含んだ舌を絡めると、くちゅくちゅと水音が静かな室内に大きく響く。特に陽の部屋は意外と殺風景だからなのか、やけに音が反響して大きく聞こえるのかもしれない。

片手で陽の頭を撫で、片手は彼の細い腰を強く引き寄せていた。最初は肩に置いていた陽の手は次第に枢のシャツを掴んでいて、与えられる『ご褒美』の大きさに耐えているようだった。その証拠に彼の頬は上気して、合わせている唇の隙間からは熱くて甘い吐息、そして瞳はとろとろに蕩けきっていた。

「……っは、ご褒美はキスとか、言うからですよ…」

さすがの陽も、まさかここまでされると思わなかっただろう。先に煽るような喧嘩を売ってきたのはそっちだから、と言うように唾液で濡れた枢の唇をぐいっと拭うと「ありがとう、枢……」と呟かれた低い声に、なんだか腹の底がずくりと重くなる。

あ、ヤバイ。
このままだと……。

「かなめ、おれ…うれしい……きもちよかったし、すごくしあわせ…」

とろとろの顔でふわりと笑う陽を見て、衝動的に彼を抱きしめた。

正直『ご褒美はキスをして』と言われたからって、あんなキスをするつもりはなかったのだ。労わるように陽の背中を撫でると彼は枢にすり寄ってくる。

そんな陽の体温に安心して彼を抱きしめたままベッドに寝転がって目を瞑れば、今にも眠れそうな気がした。

「……枢も、満足した?」
「はい……」
「Playのあとは、一緒に寝ましょうか」
「ん……」
「星先生がよく眠れるおまじないです」

まだお試し1日目だが、陽と相性がよすぎるのかもしれない。たったこれだけのPlayでも満たされて、なおかつ陽と肌が触れ合っていると安心する。

どうしてこんなにも安心するのか分からない。陽と長年パートナーだったような安定感さえあり、ちゃんとPlayをしたあとに同じベッドで眠るのは初めてなのに、疲れ切ってしまった枢を労わるように髪の毛を梳いてくれる陽の指が心地よい。

思えば高校生でダイナミクスの診断をされて以降、ちゃんとしたパートナーを作らずに薬で抑えてきた枢。陽とパートナーになれないなら、どんな人とPlayをしたって満たされないし、意味がない。

だから自分はこれから一生一人で生きていくのだと思っていた。そういう覚悟をしていたのだ。

寝不足になっても、体調が悪くても、不眠症になっても特定のパートナーを作らなかったのは、陽を諦められなかったから。

「ひな……」
「ん?」
「〈Good Boyいいこだね〉…ありがとう……」
「ありがとう、って…」
「あなたがいないと、おれは……」

こんなに満たされるPlayも、よく眠れる感覚も、初めて知った。

だから――

「Subにありがとうって言うDomなんて、初めて会ったなぁ…」

いつもいつも目の下にクマを作り、昼休みの職員室では船を漕いでいる年下の英語教師。すこぶるかっこいいのに彼は恋人はおろか、パートナーもいなかったらしい。

Play不足でほとんど不眠症になっている枢は先ほどの軽いPlayに満足して、気絶するように眠ってしまった。そんな彼の鼻先をつついてみても、起きる気配はない。うっすらと浮かぶ目元のクマをなぞって、陽は固く閉じられている瞼にキスを落とした。

「おやすみ、枢。いい夢を」

枢の太い腕にがっちりとホールドされている体は寝返りを打つことも難しい。どこにも逃げないのにと苦笑しながら、陽は枢にすり寄って目を閉じた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・話の流れが遅い ・作者が話の進行悩み過ぎてる

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

処理中です...