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第1章
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しおりを挟むダメだ、どうしよう、ダメだ。
陽から触られている足が溶けてしまいそうなくらい熱くて、火傷しそうだった。先ほどまでとろんとしていた瞳が挑発的に見上げていて、陽が小さく息を吐くと空気が甘ったるくなったのを感じる。部屋の中の温度が上がって、息を吐き出すのを忘れて吸うばかりで何だか呼吸が苦しくなってきた。
頭の中では酔った勢いで手を出すなんてダメだ、絶対に後悔する。
まだ理性を保っている自分はそう思っているけれど、自分の本能が陽に触れたいと訴えているのだ。Subだから命令されたいのだと言う陽の要望通りに命令して、ちゃんと実行できたら頭を撫でて、甘やかして、キスをしてあげたい。
今までちゃんとしたパートナーがいなかったので、そんな考えが頭の中に渦巻くのは初めても同然だった。陽がSubだと分かった瞬間、頭の中は乱暴な欲望と思考に支配され、やっぱり自分の中には『Subを支配したい』という感情が眠っていたのだなと少し怖くなる。
本当に『欲しい』Subを目の前にすると、自分の理性なんて驚くほど脆く、すぐになくなってしまうのだなと実感した。
「教えてよ、星先生。どんなパートナーを望んでるんですか?」
「俺、は……パートナーがいたら、あ、甘やかしたいんです、」
「へぇ。星先生っぽいですね」
「とけちゃうくらい、とろとろに、甘やかしてあげたくて……」
もし陽がSubだったら。神様の間違いで陽がDomではなくSubだったらしてあげたいこと、と妄想していたことがある。まず軽いコマンドから初めて、枢は怖くないDomだと認識してもらう。それから膝に座ってもらい、柔らかそうな彼の髪を撫でて、小さくキスをする。
ただ、そんな妄想だったのに。
「……ふふ、可愛い。じゃあ試しにおれにやってみません?」
「え、な、なんでですか?」
「おねがい、一回だけ。おれも随分パートナー不足で、ストレスがすごいんです。おれを助けると思って……お願いします、ほしせんせい」
ごくり。何度目か分からない唾を飲み込む。
初めて聞く陽の甘えた声に、とろっとした顔が完全にこちらを誘っているのが分かって、一度奥歯をぐっと噛みしめた。
あぁ、朝霧先生って、人を誘う時にこんな顔をするんだな。
そう思ったら何だか自分の中からどぷどぷと欲望が溢れてくる感覚に襲われた。他の人にもこういう顔をして誘ったことがあるのかな、過去にパートナーがいた経験は?誰にでもこんなことをするのかな?俺だけじゃ、ないのかな……。
そう考えると、何だかもう、ダメだった。
「……〈Kneel 〉」
枢の口から、自然とコマンドが出た。
驚くほど自然に出たコマンドに枢自身が戸惑っていると、ソファに座っていた陽が床に下り、枢の足の間にぺたりと座り込む。世界一かっこよくて、かつては学園のアイドルで今は生徒からも人気絶大の、あの朝霧陽が。枢のコマンドに反応して恍惚の笑みを浮かべているのだから、枢は自分の中の大事な何かがぷつりと切れるのを感じた。
「〈Come〉」
「ん……」
「……〈Sit〉」
枢の膝の上に座るよう指示すると、陽はぺろりと唇を舐める。そして枢の肩に手を置いて、膝の上にゆっくりと腰を下ろした。それと同時に感じるむちっとした感触に枢の顔はみるみるうちに熱を持ってくる。陽はわざとなのか、すりっと腰を動かして膝の上に座りなおした。
「星先生……」
「な、なん、なんですか……」
「おれ、ちゃんとできましたよね?」
褒めて?
そう言って妖艶に微笑む陽の顔を最後に、枢の意識は途絶えた。
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