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8話 気付かなかったけど文字書けました(;゚Д゚)

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俺が倒した豚ネズミは残念ながら美味しくなかったみたいだけど、二人は食べることができた。
これで一応食事の心配は減っただろう。ここらが砂漠で野菜がないのが問題だけど。
子供にはやはり健康的な食事をとってほしい。オッドアイのときはミルクだったけど、人間なんだから後は野菜さえあればなんとかなる。
…そりゃ本当に健康的生活を求めたら魚や米やパンも必要だけど、そんなん無理だよだって俺本だもん!
食事が終わり二人がうとうとしている。あれだ、体が弱ってると消化にも体力使うって聞くしこのまま寝かせた方がいいだろう。
そう思っていると懐かしい気配を感じ外に出る。


『あれ~トロイはどこだろ~?』
『ここだよここ!』
『えっ、変な本からトロイの声が聞こえる!』
『これが今の俺なんだって!』


上空に現れたサファイアの暢気な声を聞き脱力する。
この本が俺だと伝えると驚いている。そりゃゴーレムから本になるって意味不明だもんな。
一応脳ミソはあるのか何もない広場に着地したサファイアを見てホッとした。
こいつなら家を踏み潰して着地しそうって思ってたから。


『嘘だ~トロイはもっとでかかった!』
『死ぬと新しい体で生まれ変わるんだよ! ゴーレムの前は埴輪だったしその前は鳥、最初なんて草だぞ草!』
『うぅ~何言ってるか分かんない! あたいをバカにしてんのか!』
『お前らみんなバカだろ! 真珠もルビーもみんな』
『なっ、なんで二人の名前を知ってるんだー!?』


やはりバカなワイバーンには中々理解できないようで通じない。
こいつマジでどうしようと悩んでいると少女と少年が目を見開いて俺達を見ているのに気付いた。
いやそうだよね、いきなりワイバーン現れたらビビるよね!?
余計ややこしいことになったどうしよう!?


『とにかくお前は少し落ち着け! お前が暴れると周りに被害が出るから!』
『あたいは暴れてなんかないわよ! 失礼しちゃう!』
『迎えに来てくれたのは嬉しいけどこっちでも友達ができて…あぁ、もうどうしようかな』


プンプン怒ったサファイアに一応礼を言いつつ二人をどうするか悩む。
ここに置いてくのは無理だ。今にも死にそうなほど痩せ細り小汚ない格好からどう見ても生活できてないって分かるし、こんな廃れた町で食料も水もない子供だけの生活だ。
しかも周囲は砂漠。無理ゲーだろこんなの。
近くに二人の面倒をみてくれそうな人里があるかも分からない現状、このまま放置したら100%死ぬ。
でもなぁ、一緒に連れてくのもな…
仲間が沢山いるから安全性は高いし食料も森のみんなに聞けば困らないだろう。
でもどう考えても人間らしい生活はおくれそうにない。近くに人が住んでそうな場所なんてないし、それに数十年でまたあの鎧の巨人が来るかもしれないとこだ。
どうすればいいか悩む俺にサファイアの暢気な声が聞こえる。


『その馴れ馴れしいとこは間違いなくトロイね、うっそトロイちっちゃくなったの! アハハハハw』


不快な笑い声にイラつきながら二人を見る。
俺が用意した水で体を洗えばいいのにまだ汚れたままで髪色も肌の色も泥で汚れて分からない。
早く洗ってほしいけど、俺がまた用意してくれるか分からないから桶の水を大切に使ってくれてるんだろう。
言葉が喋れればまた用意するよって簡単に伝えられるのに。何とももどかしい。
もっと普通に人間として暮らさせてあげたいな。元々はこの町で普通に生活してたんだろうから。
何があったか分からないけどこんな暮らしをすることになっちゃったなんて…
魔物の襲撃か他者からの襲撃か、ここの住人が原因かもしれないし何も分からないけど、でも、子供がこんな苦労する理由にはならないし前と同じように生活させてあげたいって、そう思うから。


『せっかく来てくれたのに悪いんだけど、俺暫くは帰れそうにない』
『ハア!? 何言ってるの! あたいが迎えに来てあげたんだよ!』
『この二人はまだ子供なんだ。群れに返してあげたい』


迎えに来てくれたサファイアには申し訳ないけど俺の気持ちを伝える。
それに人間のこと伝えるには群れって説明した方が分かりやすいかなとそう伝える。
すると、
『それなら山に連れてけばいいじゃん。オッドみたいにみんなに面倒みさせれば?』
なんて言う。


『アホ! できるだけ群れで生活させた方がいいだろ! お前だって群れで生活してるから分かるだろ!』
『え~、じゃあとっとと群れに返せばいいじゃん』
『だからその群れを探さなきゃいけないんだって!』
『ええ~~!?』


サファイアの嫌そうな様子に溜め息が出る。でもほんと下手なとこに預けたらどんな目に合うか分からんのが人間だからな。
こんな異世界だし奴隷とかありそうで、下手したら売られちゃうかもしれない。そんなの絶対許せないし!
この子らに知り合いとかいないか聞けたら楽なんだけど…
『まぁだからもう帰ってていいぞ』と伝えると『やだ!それじゃ来た意味ないじゃん』と怒られた。


二人の元に飛んで行くと俺をチラチラ見ながら怯えた目でサファイアを見ている。
う~ん…
二人に俺とサファイアが仲良くしてる絵を見せる。ライトに「友達?」と震えた声で聞かれ大きく上下に動く。
少女に「噛まない?」と聞かれ思わず固まってしまった。…だって嘘つけないし。
二人はそんな俺を見て固まってしまった。いやだってほんとあいつら信用度低いし。俺をよく噛んでたのは真珠だけど、あいつらに仲間だって伝えても森のみんな食べようとするし安心できないんだよね。
オッドアイなら信用できるんだけど。いやむしろワイバーンで信用できるのはオッドアイだけ…
……さて、二人と色々話したいけど話す方法は何かないかな?
サファイアとやりとりしてるみたいにテレパシーできれば楽なんだけど、それか字でも書ければなぁ~
でも俺この世界の言葉分からないし。本でも読んで覚えるか? う~ん…
とにかく今はその汚れた体を綺麗にしてあげたい。こんな汚れてたらいつ病気を発症してもおかしくないし。
水をぶっかけてもいいんだけどそれじゃ驚かせちゃうし何か伝える方法は…
そうだ!
俺は桶の水で体を洗う二人の絵を描いて見せる。
少女は「え? 体を洗えって? この状況で?」と困惑している。
いや確かにこの状況で?ってなるの分かるけど。あいつがもっと来るの遅ければよかったんだけど。
俺は上下に動いて肯定してみせる。どんな状況だろうと不衛生な環境は危険だからね。
二人は困惑しつつも家に入りタオルを用意し体を拭きはじめた。よかった。
紳士な俺はちゃんと背中を向け見ないよう待機する。少年は同性だし見てもどうでもいいけど少女は高校生くらいだもんね、セクハラで訴えられたくないし…ってセクハラって何? この世界にそんなのある??
そんなどうでもいいことを考えてると「ん、綺麗になった」と後ろから声をかけられ振り向いて驚いた。
そこには水色の髪に紫の目の美少女と、白金の髪に青い目の美少年がいたから。
…何なのこれ、何でこんな世の不条理に触れた気持ちになるの??
なぜか分からないがガックリと肩を落としつつ二人の髪を火と風魔法で熱風を送り乾かす。


「ありがとう」
「ありがとう宙に浮く本!」


微笑んでお礼を言う二人にドキドキしてくる。いや、少年の方じゃなく少女の方な!
あ、あんな可愛い子に微笑まれたら惚れてまうやろ! 危険危険!
俺は誤魔化す意味もあって二人に子供用の絵本を読む俺の絵を描いてみせる。伝わるかな?


「本が読みたいの?」
(上下に動き肯定)
「本が本を読むの?」


本を読みたいと伝えると察してくれた少女に、本が本を読むのかと不思議そうに見る少年。別にいいだろ本が本読んでも!
少女が絵本を持ってきてくれたので念力でページを捲る。
それは昔話しの本だった。


とある王国に可愛らしいお姫様が生まれたんだけど、そのお姫様は予知能力があり様々なことを予言した。
地震、飢餓、スタンピード。どの予言もことごとく当たりみんなお姫様を崇め始めた。
そんなお姫様がある日、自分が16歳になる日に攫われると予言した。
王様は慌ててお姫様を守る騎士を募集した。
集められた者達は決闘して上位5名が護衛となった。しかしお姫様が16歳になったその日。
予言通りにお姫様は攫われてしまう。そんなお話し。


って読めるんですけどーー!?
普通に読めることに驚いたが普通に言葉が分かるんだからその可能性もあったな。全然思いつかなかったけど。
試しに文字を書いて二人に見せる。


「文字が読める?」
「読めるよ!」


普通に文字が読めた。おおーーーい! もっと早く書いときゃよかった!!
むしゃくしゃしながら文字を書き見せると少女が読み上げる。


「俺の名前はトロイだ、よろしく。…トロイね、私はルーチェ、よろしく」
「ボクはライトだよ! よろしくねトロイ!」


クールな姉のルーチェに満面の笑みのライト。うん、良い姉弟だな。
更に文字を書き質問する。なぜこの町が滅んだのか気になるがそれは置いておいて…


「頼れる人はいないか? …誰もいない。みんな殺されたか連れてかれた」
「ボク達隠れて暮らしてたから…知り合いなんて町の人しかいないよ」


二人が暗い表情で話してくれた内容で察してしまう。この町は隠れ里で、やはり人間に襲われたのか…
俺は更に質問する。「この町にこのままいたいか、俺と来るか、どこか人間の町に行くか」
中々子供相手に厳しいことを聞くが、選んでもらわないとどうにもできないからな。
ライトは「この町にいたい! だってお父さん達が帰って来るかもしれないし」と真剣な目で俺を見て言う。
しかしルーチェは厳しい表情だ。
…だよな。攫われた人が帰ってくるわけないもんな。


「私は、トロイに付いて行くべきだと思う」
「お姉ちゃん!?」
「お父さん達が生きてる保証なんてない。生きてても奴隷にされて戻ってこれない」
「そんな!」
「それにお父さんが言ってたでしょ。お父さんの両親が犯罪をして追放されてここに来たって。お母さんはここに来るまで純人だって迫害されてたって。だから私達を受け入れてくれる町はない」
「だったらここにいようよ! もしかしたら誰か帰って来るかもしれないでしょ!」
「誰も帰ってなんて来ない!!」


あり得ない希望に縋る弟にお姉ちゃんは厳しい表情で現実を叩きつける。
…うん、残念だけど俺も同意見だから。必死にお姉ちゃんの意見を否定する弟だけどハッキリと否定されてしまう。
しんと静まりかえる部屋、誰も一言も発しない場でライトの嗚咽だけが響いた。
……ってサファイア! ちょっと窓から覗くの止めて! 怖いから!!

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