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24 マーイ空を飛ぶ

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 あれから二人きりになるとキスをすようになった。この前のような濃厚なのはしていないが、目が合ってなんとなくお互いに引き寄せられる感じだったり、マーイから求めてくることもある。
 ただ、マーイが俺のことを好きなのかは不明で、興味本位でしているのでは?と思うときもある。

 風呂ではマーイの裸を直視できなくなった。前は綺麗だなぁくらいで何とも思わなかったのに、最近はドキドキしてヤバい。夜も綾が真ん中で寝るから過度な接触がなくて助かっている。綾がいなければ俺はマーイを襲っている。





 2月に入って最初の土曜日。

 今日は3人で顔がパンでできたヒーローのミュージアムパークに来ている。
 俺達3人はお揃いのワインレッドに近い赤のニット帽をかぶっている。

 マーイと綾は手を繋ぎ楽しそうに歩く。俺はそれを撮影する。
 抱っこ大好き綾たんも今日は鼻息を荒らげて自らずんずん歩いていく(よちよち歩き)
 
 マーイは皆で子供を育てる村出身だからか、綾のことを自分の娘や妹のように可愛がってくれる。

「迷子になるといけないから3人で手を繋ごうか」

 俺とマーイは綾を挟んで3人で手を繋いだ。

 その後、ヒーローショーを見て、着ぐるみの人にハグされた綾たんは大興奮でキャッキャ、キャッキャと喜ぶ。横浜まで遠かったけど連れてきて良かった。

 ミュージアムは綾たん専用機ベビーカーに綾を乗せて一通り回った。

 マーイもこのアニメ好きみたいで、綾と二人で楽しそうにしている。アニメの台詞が子供でも理解できる言葉で構成されているから、マーイも見易いのだろう。





 一通り見終わって俺達は帰り際、土産屋さんに寄った。綾は骨の人が好きでその縫いぐるみやコップを購入する。

 レジは出入り口の近くにあって会計をする為、俺はマーイに綾を託す。

「マーイお願い」

 で、レジで並んでお金を払い店外に出ると目の前にマーイがいた。
 空を見上げていたマーイは俺が来ると空を指差す。

「リョウ、あれなぁーに?」

「ん?あの光る、明るいの?」

「うん」

「あれは太陽だよ」

「タイヨウ……太陽……そっか、マーイの住むのところ、太陽二つある」

「え?」

「ん?リョウ、アヤは?」

 俺はマーイの周りを見る。綾がいない。さっき「マーイお願い」って、綾の手を放して……、ちゃんとマーイに渡さなかった。

「ヤバい。たぶん近くにいると思うけど……、綾こわくても泣かないから……は、早く探そう」

「マーイお店の中、見る」

「ああ」

 くっそ、何やってんだ俺は1歳9ヶ月の子供から目を離して。ダメだ、いないぞ。どこにいったんだ?
 今日は土曜日で混雑している。綾は小さいから大人の陰にいたら見えない。

「リョウ!綾いない」

 マーイが戻ってきた。

「俺も見つけられない。人が多いな……。帽子が目立つから空から見下ろせればすぐに見付かるんだけど……」

「マーイ、探す……」

 そう言うとマーイはたまたま通りかかったゴミ回収の清掃員さんに――。

「これ、借りる」

 清掃員さんからほうきを半ば強引に受け取る。
 何をする積りだと思ったのも束の間――。箒の跨ったマーイは叫ぶ。

「ベトウユッフッ!」

 箒の穂先に柴電が走り、マーイの周りに風が巻き起こる。
 箒に跨ったマーイはゆっくり宙に浮いた。

 今日は土曜日でパークは人でごった返している。それらが皆、マーイに注目する。
 マーイはゆっくり上昇を続け三階の窓を超える高さで静止した。

 俺の頭に先程のマーイの言葉が蘇る――「マーイの住むのところ、太陽二つある」。
 この前キスをしたときにマーイは言っていた。彼女が住んでいたところは、夏は暑い夜が2日、燃える昼が1日。冬は氷る夜が1日、冷たい昼が2日。……そうか、太陽が二つあるからそうなるんだ。

 太陽が二つある星……、それは地球ではない。
 そして俺が今見ている光景は……魔法。つまり君は異世界から来た魔女ッ――。

 そう考えると、全ての謎が解ける。出会った頃、君は何を見ても驚いていた。俺はそれを記憶喪失だと決め付けていたが、君の考えや行動はしっかりしていて、そこが腑に落ちなかった。
 裸を見られるのだってそうだ。君は猫に育てられたと言っていた。なら、裸を見られて恥ずかしいという常識が欠如していてもおかしくはない。じゃぁキスも?好きという感情はなく、ただの興味本位……。

 その時、周りの奴等が空を飛ぶマーイをスマホで撮影しているのに気付く。

 ヤバいぞ。こんなのSNSにアップされたら何が起こるかわからない。テレビニュースになる可能性もある。政府や謎の組織に狙われたりとか……。とにかくヤバい。


「リョウ! 綾いた!あそこ!」

 空からマーイが俺に向かって叫ぶ。綾の赤のニット帽は目立つから発見できたようだ。
 俺の周りにいた奴らが皆俺に注目している。

「勝手に撮らないでください!」

 そう言って俺はマーイが指差した方向へ人を躱しながら足早に歩き出す。

 少し進むと綾がいた。不安そうな顔で周りをキョロキョロ見回している。

「綾ッ!」

 俺は綾を抱き上げ、ギュッと抱き締めた。

「パパ……あ゛っあああああああああ……パパぁああああ……」

 綾が大声で泣いた。この子を引き取ってから泣くのは初めてだ。

「綾、一人にしてごめん。もう大丈夫だから。パパいるからな。もう大丈夫だよ」

 大泣きする綾を抱っこしていると空からマーイが降りてきた。

「綾、良かった」

「マーイ帽子」

 俺はマーイのニット帽を引っ張り目の下まで下げる。俺もニット帽を深くかぶる。マーイが「見えない」と言っているのを尻目に俺は周りでスマホカメラを向ている奴らに言う。

「撮影しないでくださいッ!肖像権侵害ですよ!この子はマジシャンで今のはイリュージョンです!SNSにアップされていたら警察に被害届出しますからね!!そこ撮らないでって言ってますよ!肖像権侵害ですよ!画像や動画は消してください。SNSには絶対にアップしないでください!本当に被害届出しますからね! マーイ行こう」

 綾を片手で抱っこし、マーイの手を引いて俺は歩き出す。

「リョウ、これ、返す」

 あ、箒は返さないと……。ってことで清掃員のおじさんにお礼を言って箒を返し、ベビーカーとお土産を回収して、俺達はパークを後にした。





 その夜、空を飛ぶマーイの動画がニュースで放送された。



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