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21 開業準備
しおりを挟む正月は爺ちゃんの家で過ごした。
そして1月6日、俺達は新居、魔女の家に引っ越した。
家具、家電は全て運び終えていたしトイレットペーパーや洗剤等の生活必需品も買い置きしておいたので、持って行く物は俺のPCや綾のおもちゃ、皆の着替えくらいだった。
1月中旬、綾を車で保育園に送った後、俺はこれから養鶏を始める農地を背に、三脚に設置したカメラに向かって笑顔で語りかける。
「お久しぶりです。23歳養鶏農家の桜沢です。最近忙しくて動画の更新が遅れていました。無事農地も借りられて、鶏舎を建てる建築素材も集まったので、いよいよ本日から本格的に養鶏業の準備に取り掛かろうと思います。
では先ず、これを見てください」
そう言って俺はカメラを持ち上げ、今は何もない農地を映す。山間にできた盆地で全部で1町歩(面積約100m×100m)ある。草刈りされているから藪にはなっていないが土地には枯れ草が広がっている。
「ここにこれから鶏舎を建てます。120㎡くらいの鶏舎をコンクリートで基礎を打って鉄骨で建てるとだいたい600万円くらいかかるそうです。
また、コンクリートで基礎を造ると建築物になる場合があるので、農地転用ができなかったり、できても固定資産税が跳ね上がります。立てる前に役場に相談しましょう。僕が建てる鶏舎は建築物にはならないので農地で運営できます」
次にカメラを足元に向ける。そこには鶏舎で使う建築素材が積んである。
「鶏舎は足場用の単管パイプとビニールハウス用の透明ビニール、それから防鳥ネット、防獣ネットで造ります。これで66㎡の鶏舎4棟と作業スペース30㎡、合わせて294㎡の鶏舎を建てます」
カメラを部材一つ一つに向ける。
「この単管パイプは6mで90本あります。カメラを通して見ると綺麗ですけど、所々錆びてて、中古品です。全部で17万で買いました。ネットで探すと結構売ってます。
こっちのビニールハウス用透明ビニールシートは15mかける7mを4枚買いました。10万くらいでした。
屋根はビニールなんですけど、こっちのトタン」
透明のプラスチックでできた波々板が積んである。倉庫等の屋根に使われる素材だ。
「このトタンは屋根ではなく防獣対策で使います。他にも防鳥ネットと金網の防獣ネット、金網の方は結構高くて8万くらいしました。
あとコンパネや木材とか電線、ステレス針金、ビス等々で全部でただいたい50万円くらいでした。
それと畑の方にコンクリートブロックが300個くらい積んであるんですけど、……ネットで探して中古品を無料でもらいました。
294㎡の立派な鶏舎を建てようとすると、たぶん1200万は超えると思うんですけど、それを材料費50万円プラス僕の手作りで建てるのでかなり安く済ませます。
基本的に自分のお金は使わず、補助金だけで運営する予定です。
まぁ卵がどれくらい売れるかわからないですし、素人なので失敗することを前提にやっていこうと思います。失敗を積み重ねて経験を積んで、黒字転換出来たらその時は設備にお金を使う予定です。早くそうなりたいですけど。
今日は鶏舎を作る土地の枯れ草を片付ける作業をしていきます」
俺はカメラとトンボ型のレーキを持って畑へ移動する。遠藤さんの納屋に丁度いいのがあったから使わせてもらった。
そこからは俺が一人で畑の枯れ草を除去する作業映像が続く。ここは後で早送りで編集する。
◇
暫く作業してると家からマーイが歩いて来た。グレーのダウンにチノパン、髪はポニーテールにしている。
「リョウ、お昼食べる?」
腕時計を見るともう12時だった。
「うん」
「魚焼いた、一緒に食べよ。午後はマーイも手伝うね♪」
「ああ、助かるよ」
午前中マーイは洗濯や掃除をやってくれていた。料理は元々それなりに作れたみたいで、更に婆ちゃんに習って最近は普通になんでも作れる。もはや俺より上手い。
俺とマーイは手を繋いで歩く。最近二人で歩くときは手を繋ぐようになった。なんでそうなったのか、俺もよくわからない。自然とそうなったのだ。しかも恋人繋ぎ。
家に入ろうとしてスマホが鳴った。保育園だ。俺は電話を取る。
「もしもし桜沢です」
『ああ、桜沢さん、お忙しいところすみません。花咲保育園の芹川です』
綾の担任だ。
「いえ、大丈夫ですよ。何かありましたか?」
『それが……、綾ちゃんがお友達の頭を叩いて、強くじゃないんですけど。それでお友達が泣いちゃったので、ダメだよって叱ったら、綾ちゃん全然動かなくなっちゃって、お昼も食べてくれなくて……、お家でもよくあるんですか?』
綾は少し変わった子供で叱ると全く動かなくなる。それに絶対に泣かない。転んで手足を擦り剝いても手で口をギュッと強く抑え声を出さないのだ。
これもたぶん優香の虐待が影響しているのだと思う。
「そうですね……叱るとかなり長い時間動かなくなることがあります。お友達は大丈夫ですか?」
『お友達は全然大丈夫ですよ。綾ちゃんの玩具を無理矢理取ったみたいで、だから綾ちゃんが全部悪いわけではないんですけど、ぶったりするのはダメだよって教えなきゃいけないので……』
「そうでしたか……、あ、あの、良かったらこれからお迎えに行ってもいいですか?」
『全然構いませんよ。お家の人がいた方が安心すると思いますし……』
「それじゃ、今から向かいます」
俺は電話を切るとマーイに。
「これから綾を迎えに行ってくるよ」
「わかった。……綾、ご飯食べる?」
「食べる。用意しといてくれないか?」
「うん 任せて♪」
マーイは微笑んだ。
◇
保育園は車で10分くらい。保育園に着くと帰りの支度は終わっていて綾を受け取るだけだった。
俺は芹川さんと少し話してからお別れした。芹川さんは俺と同じ歳、気さくな人で親切にしてくれる。
俺は駐車場まで綾を両手で抱っこしながら歩く。
「綾たん、お友達のこと叩いたらダメだよ」
と優しく言ったら、俺の肩に顔を押し当て首に回した手をギュッとしてきた。
「綾たん、わかってるよね。 よし、今日はパパのお仕事一緒にやる?」
そう言うと綾はコクリと頷く。
「パパ、綾たんに手伝ってもらえると助かるなぁ~」
「……」
「マーイもいるから3人でパパのお仕事やろっか?楽しいよぉ~」
「おちごと……やいたい」
「うんうん♪」
「パパ……」
「ん?」
「ほいくえん いかない」
「行きたくないの?」
「うん」
「……わかった。いいよ、行かなくて。大丈夫だからね。暫く保育園はお休みにしよっ。一緒にパパのお仕事やろう」
「うん」
抱っこされた綾は俺の肩に顔を強く擦り付ける。
ちょっと甘いかもしれないが、今は慣らし保育だし、無理に行かせる必要はない。保育園が嫌いになったらもっと良くないからな。
この日は3人でお昼を食べて、綾はお昼寝、それから3人で枯れ草の撤去をやった。
綾は草を一本取って、草を集めてる場所に置く。また一本取って置きに行く作業を黙々と繰り返していた。夢中になってやっていたから楽しんでいたと思う。
そして翌朝、保育園に行くか聞いたら「行く」と言ったので連れて行った。
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