桜舞養鶏のマジカルエッグ~愛する妻を寝取られ仕事も失った男が魔女っ娘と田舎で養鶏農家を始める物語~

黒須

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16 保育園の面談

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 12月初旬――。

 早いもので綾を引き取ってから1か月が経った。

 当初は「ママ、ママ」と言うとがあったが2週間も経つと「マーイ」「バーバ」と言うようになり、マーイと婆ちゃんに懐いてくれた。
 
 夜は俺、綾、マーイの順で川の字なって寝る。綾は寝る前にマーイに抱っこをせがむ。マーイもそれが嬉しいようで体をくっ付ける。すると綾は安心して眠ってくれる。

 綾が寝たのを確認して俺は布団から起き上がった。

「今日もまだ少しやることあるから、先に寝ててね」

「うん……、リョウ、頑張る。マーイ、アヤ、寝るね」

「ああ」

 俺は隣の部屋に移動して机に座りPCを開いた。

 来年から養鶏農家開業に向けて動いている俺は12月に入っても忙しく、週3、4で伊達養鶏園へ勉強に行きながら、空いた日は色々な平飼い養鶏農家さんにアポを取り、現地にお邪魔して話しを聞きながら勉強させてもらっていた。

 夜は皆が寝た後、PCで鶏舎(鶏小屋)の図面や畑の間取りを描き必要な材料を割り出したり、種蒔き予定の作物栽培に必要な知識を学んでいた。

 鶏舎けいしゃは業者を使わず自分で建てる積りだ。

 養鶏農家さんから話しを聞くと鶏舎建築は業者に頼むとだいたい300万から1000万くらいかかるらしく、自分で建てれば100万円以下で抑えられる。

 商売を初めても成功するとは限らない。寧ろ失敗する可能性の方が高いと俺は思っている。
 数年後に金銭的に後悔するのは嫌だから、貯金約8000万円は使わずに国の補助金や助成金だけでやり繰りする積もりでいる。
 YouTube的にもその方が視聴者さんの参考になると思っている。資金が豊富にあって農業初められる人なんて少ないだろうからな。

 鶏舎の図面は何枚も書いた。鶏が快適に過ごせる空間。実際に養鶏業が始まったてから、より手間を掛けず効率良く毎日作業着できる仕組みを取り入れた間取り、建設費用をできるだけ安く抑える材料選び等、考えることは多い。

 勉強先の平飼い養鶏農家さんで良いと思った点や様々なアイディアを取り入れる。逆に非効率だと思った部分は改善案を考え取り入れた。

 その他に、鶏の餌の種類と配合、安い餌業者探しや具体的な売上と経費を考慮した事業計画等、やればやる程、やる事ができた。

 毎日深夜2時位まで机に向かい、そんな作業をコツコツとやった。
 ただ、雇われていた頃とは違い、自分で考えて自分の好きなようにできるのが楽しくて、全然苦ではなかったし毎日が楽しくてしょうがなかった。

 それと、並行して進めていた家購入手続きが終わり俺と綾はあの魔女の家に住民票を移した。綾の保育園の申請も終わらせた。





 数日後の午前中、おの魔女の家から車で10分程の場所にある保育園にやってきた。
 花咲保育園――、来年から綾が通う保育園だ。11月に綾を養子縁組してすぐにここの市役所の子育て課に保育園の申請を出した。田舎は地域にもよるが都内とは違い保育園も幼稚園も結構空いている。うちは片親ということもあり申請を出したらすぐに通った。
 入園が決まり一度顔を出すように言われて今日に至る。
 マーイは魔女の家で待ってもらっている。

 俺と綾は担当の芹川先生と面談。先生は俺と同じ歳でフワフワした優しそうな雰囲気の人だ。

「1年半検診は受けられましたか?」

「はい。健康面は問題ないです」

 綾は健康診断の1年検診と1年半検診を受けていなかったのでこの前受けさせた。離婚するまでは俺がそういうのは調べて綾を病院に連れて行ってたんだけど、引き継いだ優香はやっていなかった。

「お喋りとかはどうですか?今日は静かですが、普段は結構話されますか?」

「言われたことは理解できるんですけど、お喋りは少し苦手で……」

「そうですか、お喋りは自然と覚えていくので大丈夫ですよ。トイレは紙オムツですか?」

「パンツオムツを穿かせています。ただ、したくなったら「しっこ」と言って自分でトイレへ行って、子供用おまるに用を足すので、オムツは汚れないですね」

「へぇ~偉いですねぇ」

「はい……、たまに「しっこ」とフェイクを入れてうんちをすることもあるんですけどね……。あと、おねしょをしないのが滅茶苦茶偉いです」

「ええー!おねしょしないんですか!?1歳半なのに偉い!」

「えっと、先生には一応話しておこうと思うんですけど……」

 俺は綾をチラっと見てから。

「そっちの玩具で綾を遊ばせてもいいですか?」

「え?今ですか?……はい、全然構いませんよ」

「綾、おいで」

 俺は立ち上がり隣に座る綾を抱っこした。少し離れた積み木とか絵本が置いてある場所に綾を置く。

「パパ、先生とお話してくるから、綾はちょっとここで遊んでてね。玩具使っていいって」

「うん」

 俺は席に戻ると綾を横目に、あの子に聞こえないように声を出す。

「綾は俺のことを父親だと思っていますが……実は本当の父親ではないんです。昔一緒になった女性の子供で彼女が育てられないから養子縁組して引き取ったんですよ」

「ああ、そうだったんですか」

「一緒に住み始めてまだ1ヶ月で……ですから、おねしょの件は一緒に住んでからはしていないって話で……」

「なるほどですね……。そのお母様は一緒に住んでいないんですか?」

「えっと……母親は自分じゃ育てられないからと綾を俺に託して……。だから一緒に住んでいないですし、連絡も取っていないので今は何をしているのかわからないです」

「お母さんいないと寂しですよね……」

「はい……そうだと思います」

 綾はマーイと婆ちゃんに良く懐いてくれているが、でもやはり母親がいないのは可哀想だな。

「桜沢さん、綾ちゃんのと気に掛けてる感じはしてましたし、ちゃんと可愛がってあげば大丈夫ですよ」

「それはもう可愛がってますよ。目に入れても痛くないと言うか……。俺が本当の父親になって絶対に立派に育てたいって思ってます」

「くすくす、安心しました」

 今は家族総出で綾を可愛がっている。俺やマーイはもちろんだし、爺ちゃん婆ちゃんは張り切って玩具や服をたくさん買ってくれる。断ってるのに出かける度に買ってくるから、嬉しいけどちょっと困る。

「事情はわかりましたので、次は持ち物の説明をしますね」

 それから必要な物が書かれたプリントを頂いて説明を受けた。
 昼寝布団、上履き、紐付きお手拭きタオル、巾着袋、クレヨン等々を買って『さくらざわ あや』と名前を書くそうだ。ベイビーショップで一通り揃うらしいので早速買いに行こう。

 今後の日程も説明を受けた。
 居候のマーイを頼るのは良くないと思い、来年の1月からお願いしたのだが、最初は慣らし保育で様子を見ながら通うことになるそうだ。

 一通り説明を受けた俺は保育園を出る。俺は綾を抱っこしながら車へ歩く。

「綾たん、保育園行きたい?」

「うん」

「お友達、いっぱいいるから楽しいよ」

「おともらち、いうのぉ?」

「うん。たくさんいるよ~。保育園楽しみだね」

「うん!」

 綾の学年は3人しかいないらしいから、たくさんとは言えないけど……それに子供同士だと協調性がないから友達になれるのかな?年小くらいになればある程度分別が付きそうだけど。

 綾は普通の子供と違うところがいくつかある。俺が感じたのは以下の点だ――。
・大人の言う事を素直に聞く。
・少しでも注意されると固まって動かなくなる。
・泣かない。
・笑わない。

 お腹をコチョコチョすれば普通の子供ならキャッキャと笑うと思うのだが、綾の場合、露骨に嫌がる。上目遣いで怯えた顔を向けてくる。
 綾を引き取る時に体に無数の傷があったし、これは優香の虐待が原因だろう。

 それ以外は普通の子と変わらない。寧ろお利口で良い子だ。でもまだ1歳半、もっと泣いたり我儘でいいと思う。たくさん優しくて時間が解決するのを待つしかないか。

 当初、世界一嫌いな女の娘である綾を俺は愛せるか不安だった。だが、引き取って1ヶ月経った今、俺は綾が大好きだし絶対に大切に育てたいと思っている。
 俺は生涯独身でいる積りだが、昔から子供は欲しかった。だから引き取って本当に良かったと思っている。
 だがしかし、養鶏という新しい目標ができて不倫で裏切られたことはもうどうでもいいし何とも思っていないが、綾を大切に想えば想うほど、綾を虐待した優香を許せない感情が強くなる。
 この怒りも時間が解決してくれるのだろうか……。





 面談の後、マーイと合流して新居に必要な物を買いに大型家具店へ行った。細かい物はその日に運んで、大きい物は後日配送してくれることになった。

 離婚する前、埼玉の新築で使っていた家具や家電が爺ちゃんの家の納屋にあるから、それは今度運び込む。







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