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2 少女の力
しおりを挟むローブを纏った少女は軽快に渓流の岩を飛び跳ねながらこちらの岸へ渡ってきた。
裸で湯に浸かる俺の目の前まで来ると彼女は笑顔で鈴の音ような透き通った声を出す。
「ンセンオニリブカッミ ルレイハニロッフオ イイニョシッイ!?」
「え?……あっ?……えっと、何処の国の人ですか?」
これ何語だ?聞いたことない言葉だ。それに日の光を浴びて艶やかに輝く透き通った桜色の髪。眉とまつ毛もピンク色。染めたような色じゃない。
肌は雪のように白いけど、土で汚れている。そして熊から剥ぎ取ってきましたと言わんばかりの毛皮ローブ。何者だろう?
俺があたふたしていると少女は服を脱ぎだした。どんどん脱いでいく。
え?え?え? やっ、まぁここ混浴だけども――、ちょっ、えええええええええッ!?
途中から彼女を見るのをやめた。HENTAIだと思われる。
全裸になった彼女は温泉に入った。入浴スペースは狭い為、俺の隣、1mくらい離れた場所に並んで座っている。
この子、外国人だろうし、海外にはヌーディストビーチもある。肌を晒すのに抵抗がない国の人なのかもしれない。
呑気に湯で顔をゴシゴシ洗っているぞ。
それにしてもローブの下に変わった服を着ていた。ファンタジーアニメ出てくるような冒険者っぽい紫色の服。皮をなめして作られた軽鎧。刃渡り20cm程のナイフを腰に差していた。
そして首にはネズミと思われる骸骨をトップにしたネックレス。
いや何者ですか?
「イイチモキュ テクカタッアぁ~」
彼女は気持ち良さそうに湯の中で体を伸ばす。ピンク色のまつ毛と真っ青な瞳でできた目を細める。
んー、ほんとに聞いたことのない言葉だ……、あ、そうだ!
俺は頭上の岩に置いてあったスマホを取り、世界の国旗一覧を表示。それを隣に座る彼女に見せた。
「あなたの国はどこですか?私はジャパン」
そう言いながら日の丸国旗を指差す。国が分かれば通訳アプリで多少会話できる筈だ。
彼女はスマホモニターを見ながらきょとん顔で首をコテッと倒す。つか体が近い。
顔は今まで見たどの女性よりも美しい。妖精でも見ているようだ。なんてファンタスティック!
滅茶苦茶可愛いけど……、大丈夫!俺の好みではない。
身長は150センチ程、スレンダーだが胸はCくらいか……、大丈夫!俺は身長が高くて胸のでかい女が好きだ。
歳はどう見ても10代だよな……。
「イゴスムティア クッジマルミュテメジハ ……イナジウツシュナハ」
女の子はニコニコしながらスマホを眺めた後、俺の顔をみて困り顔をした。
うーんダメだ。どうしたものか……。外国人なら在留カードがあるのか……。いや、この子バッグを持っていない。持ち物はナイフだけだった。
すると少女はスマホ画面に表示された国旗を指差し笑う。
「ルテニニキシ ベナノチウ ふふふっ」
彼女が指した国旗、どこの国だ?スマホで調べてみた。すると検索に〈ヘソマニア〉というアフリカ大陸の国が引っかかる。確かに引き締まったウエストには綺麗なヘソがある……。
え?いや?この子アフリカ人なの?どう見ても北欧系の顔してるけど……。
ヘソマニアの情報を見ていると反対岸のさっきの少女が出てきた茂みが、またガサガサと揺れた。
俺は茂みを注視する。すると茂みの隙間の奥に茶色い毛皮が見えた。
この子仲間か?と思ったら茂みからバカでかいヒグマが出てきた。
ヒグマは地面の匂いを嗅ぎながら、ゆっくりこちらに向かって歩いてくる。そして川原の岸まで来て、顔を上げ俺達を見て動きを止めた。
距離は15mくらいだろうか、かなり近い。こっちをじっと見ている。
これヤバくないか?どうする?逃げると追いかけてくるんだよな?
そうだ!熊除けスプレーがある。熊が嫌いな臭いを噴射するスプレーで、逃げていくって説明書に書いてあったぞ。
俺はヒグマから目を離さず、ゆっくり頭上の岩の上に置いてあったバッグを取る。
熊は動かない。こっちをじっと見ている。
俺も熊を見ながらバッグからゆっくりスプレー缶を取り出す。そして噴射レバーを押す。
プシュ
少しだけガスが出た。思っていたよりも弱い。もっと強く押してみるか。
プシュ~~~
さっきと変わらない。熊も逃げないし。俺はゆっくり熊から目を離しスプレー缶を見た。
「これ虫除けスプレーじゃねーか!やばっ」
声で熊を刺激したようで、ヤツは川に入ってゆっくりこちらに近付いてくる。川は浅く膝くらいの深さ。
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい。
どんどんこっちに来るぞ。バッグの中身を見るが熊除けスプレーは入っていない。間違えて虫除けスプレーを持って来てしまったようだ。
ワンチャン走って逃げるか?いや、そのの方がヤツを刺激して危ない。本能的にそう思った。
詰んだ。くっそ、こんなところで死ぬのか……。
あれ?でも死んでもよくない?俺にはもうなにもない。別に死んだって……。
吹っ切れたら隣にいる女の子だけは守りたいと思った。
俺は虫除けスプレーを握り締め、ゆっくり立ち上がった。そして彼女の前に立って両手を広げる。
「俺がヤツを引き付ける。君は逃げろ」
その行動が熊を刺激したのか歩くスピードが速くなった。
足は震えながらも俺はヤツを睨み付ける。
「ウラハイッオ?」
後ろにいた小女が俺の脇の下から顔を出して言った。
「早く逃げてくれ!何とかするからッ!」
そう叫ぶと同時に熊がこちらに向かって走り出す。
くっそ!俺は虫除けスプレーを熊に向けて噴射レバーを押した。
「アイァフガギ!」
ドゴゴゴォォオオオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!
家くらいの大きさの物凄い炎がスプレー缶から噴き出した。
いや違う!いつの間にか俺の前にいる少女が両手を熊に向かって翳し、炎は彼女の手から出ている。
「ブォオオオオオオ!ブォオオオオオオ!ブォオオオオオオ!」
全身に火が付き燃えるヒグマは雄叫びを上げ、川の中を転がり、一目散に下流へ逃げて行った。
こ、この子……すっっっげぇえええええ!
あの炎どうやって出したの!?手品師なのか?
ヘソマニア人ヤバいッ!?
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