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第54話 世界がヤバい!
しおりを挟む【魔神アエロリット視点】時間を戻して
ペルシヤ王国、首都バビロニア。そこにある世界最古のダンジョン〈バビロンの塔〉の最上階にて。
無数の蛇が絡み付き、黒いゴスロリドレスを着た紫色の長い髪の少女は丸い水晶を覗きながらクツクツと笑う。
その目は閉じられているが彼女には水晶に映るものが見えている。
「主め、女を5人も侍らせおって、隅に置けぬわ。クツクツ。 おお、なんと!女の胸で顔を挟みおった。クツクツ、面白いのう」
コン コン
アエロリットが夢中になって水晶を覗いていると扉をノックする音が鳴った。
「入れ」
「失礼します」
部屋に入ってきたのは青いドレスを着た黒髪ロングで赤い瞳の美少女。――彼女は【SR魔王】の加護を持つ者である。
「何用じゃ?」
「はっ!〈渇きの砦〉21層の常闇は消えたのですが、オリハルコンゴーレムの魔力反応が増大しております――、アエロリット様のアクティブスキル〈魔眼―千里眼〉で覗いていただけないでしょうか?」
「ふむ。妾のMPは底をついておるが一瞬なら見えよう。どれ、覗いてみるかのう」
「お願いします」
アエロリットは小さく頷くと。片目をゆっくり開けた。その瞳の中では青や緑に神秘的に輝くオーロラのような帯が風で揺れるカーテンの如く揺らめいている。
「アクティブスキル〈魔眼―千里眼〉」
瞳の中の光が消え、瞳は漆黒の闇になった。
「なんじゃ、これは……、む!此奴は……」
そこまで言ってアエロリットは目を閉じる。
「ど、どうでしたか?」
「不味いのう。サラマンダーが居ったわ」
「ではその蛇が……ッ?」
「うむ、龍神――、龍ヶ崎流花の仕業じゃな。おそらく妾の魔力が転送されておる」
サラマンダーとはアエロリットに絡み付いている蛇のことである。龍神の眷属で魔力を吸い別の場所へ転送することができる。アエロリットはこのサラマンダーせいで圧倒的な魔力を存分に使うことができない。
また、実態のない精霊のような存在で物理的に倒すこともできない。
「奴め、妾が龍脈を弄って常闇を消したことに感付きおったか……」
モンスターが発生する常闇は龍脈の上にある。【LR魔神】は世界で唯一、龍脈を操作できるスキルを持っている。
「ど、どうしましょう? こんな巨大な魔力を持ったモンスターがスクワードに放たれれば街は壊滅、多くの死者が出ます」
「如何にも、それは望むものではい。妾はMP切れ故、動けぬ。空間転移で飛んでゼツと共にオリハルコンゴーレムを止めてくれぬか?」
「わ、わかりました」
その後、魔王はアエロリットから細かな指示を受けると部屋を後にした。
◇
【魔王視点】
バビロニアの大統領官邸に入ると軍部の者に軍服を用意させた。
私はドレスしか持っていないから、戦闘になるなら軍服を着て――、ついでに男装しておいた方がいいだろう。
あのゼツという男、女と見れば見境がない。
私は軍服に着替え終えると、
「アクティブスキル〈空間転移〉」
スクワードのダンジョン〈渇きの砦〉にいるゼツ・リンダナの元へ飛んだ。
【ゼツ視点】
僕と女性陣5人が温泉で戯れていると――、黒い軍服を着た黒髪で赤い瞳の少女が唐突に現れた。
この温泉の入り口から入ってきたわけではない。いきなりそこに出現したのだ。
「こんな所に人がいるはず、ありませんねぇ。何者ですか?」
温泉の隅で休んでいたアナルが低い声で言った。鋭い目付き、アナルは薄っすら闘気を纏い臨戦態勢に入っている。
それもその筈だ。突然現れたこの女、レベル250を超えている。
僕も注意深く視線を向ける。
よく見ると男か?帽子の中に髪をしまっているようで、片側の耳際の髪は鎖骨の下まで伸ばしているが、それ以外、髪型はわからない。
体形は女性のように見えるが……。
「わた……、ボ、ボクはク、……クリトだ。魔神アエロリット様の眷属である」
ボク?どうやら男のようだ。
アエロリット、……ノエルに〈加護の儀〉を施した少女だな。
ノエルの隣に座っていた僕は少年を睨みながら立ち上がった。
「用件を聞こう」
真剣な顔をしていた少年が、立ち上がった僕の下半身を見ると頬を真っ赤に染めて、恥ずかしそうに手で顔を覆う。
「ま、先ずは、ふ、服を着てくれないか?頼む。 は、話しはそれからだ!」
◇
服を着た僕達は7人で話すことになった。
「数日前、アエロリット様が21層の〈常闇を消すため、龍脈を操作された。そして先程、〈常闇〉が消えたのだが、……問題は21層のオリハルコンゴーレムが魔力を吸って肥大化したことにある」
そう語るのは軍服を着た、黒髪で赤い瞳の華奢な少年、クリトである。
パンティーが小さく手を挙げた。
「わからないことだらけです」
パンティーの疑問に僕が補足する。
「アエロリットはノエルに〈加護の儀〉を施した少女だよ」
「では、ゼツ様やノエルの知り合いなのですか?」
「会ったのは一度だけだが……」
人の思考が読める不思議な少女だった。
「僕も聞きたい。アエロリットは何故〈常闇〉を消したんだ? それにオリハルコンゴーレムが肥大化すると何故、問題がある?」
僕達は話し合った結果、オリハルコンゴーレムには挑戦せず、温泉に入ったら来た道を帰る積りでいた。
「わた……ボクは貴殿に協力をしてもらわなければならない立場。故に正直に答えよう。〈常闇〉を消した理由はノエル様のレベルアップの為だ」
「私の?」
ノエルは不思議そうな顔で首をコテっと横に倒た。
「ああ、オリハルコンゴーレムが地上に現れれば、ゼツ・リンダナがそれを無力化しノエル様がとどめを刺す。そうなればレベルアップしたノエル様の加護は進化し、ゼツ・リンダナのレベルが上がるとアエロリット様は予想をされた。
仮に貴殿が戦わない場合、わた……ボクがオリハルコンゴーレムに対処する予定だった」
「21層のオリハルコンゴーレムがどうやって地上に現れるニャン?」
「ん?ああ、21層には巨大な〈転移魔方陣〉がある。その魔方陣の中に入るとスクワードの中心に転移できるわけだが――」
「ちょ、ちょっと待ってくださいな!」
アターシャが話を遮った。
〈転移魔方陣〉とは古代遺跡等で発見される代物だ。世界でも僅か数か所しか存在しない。
「何故、そんなものがダンジョンの地下にあるのですか?」
「貴殿らが知らないのも無理はないか……、そもそも世界に点在するダインジョンとは【SSRエンペラーデーモン】が作り出したものだ。
数千年前の人魔対戦において、ダンジョンで生まれた強力なモンスターを地上に転送し、【SR魔王】がそれらを率いて人と戦う。それが本来のダインジョンの役割なのだ」
「坊ちゃん、この話しが本当であれば不味いですねぇ」
「ああ、つまりS級モンスターのオリハルコンゴーレムがスクワード中心に転送されるということか……」
モンスターは自身が生まれた〈常闇〉から離れない習性がある。
しかし、その〈常闇〉が消えれば、徘徊を始め、いずれ〈転移魔方陣〉に到達する。
クリトは真剣な顔で口を開く。
「〈転移魔方陣〉には魔物を呼び寄せる効果がある。今もオリハルコンゴーレムはそこへ向かっている筈だ……」
「「「「「 ……ッ! 」」」」」
僕達はその話を聞いて沈黙した。
「そこで、最初の話しに戻るのだが、肥大化したオリハルコンゴーレムはSS級モンスターに分類される。もう、わた……ボク一人の力では止めることができない。
ゼツ・リンダナよ、力を貸してくれないか?このままではスクワードは滅びる。いや、スクワードだけじゃないな。現状あれを止められる者はいない、”世界がヤバい”のだ」
SS級モンスター、つまり〈神話級モンスター〉だ!
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