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第42話 立派なテント
しおりを挟むアターシャがスキルを発動させると、瀕死のポーターが倒れている場所に天から光が差し込み男はキラキラと輝く。
薄暗いダンジョンの中で光に照らされたそこは歌劇ステージの壇上ようだ。
次に光の柱の中を天使の残影がゆくっり舞い降り、男に覆い被さるように吸い込まれて、消えっていった。
なんて神秘的で幻想的な光景だろう……。これが【HR大聖女】の〈リバイバル〉!
アターシャの祖先であり、勇者ビッグベニスのパーティーメンバー、〈癒しの女神〉の二つ名を持つ聖女カナリも、このスキルで多くの仲間を救ったという。
伝説のヒーラー、
【HR大聖女】カナリ・ヤリマン、か。
こんなところで御伽噺の回復魔法を見れるとはな……。
光が消えると男は上半身を起こし、手を握ったり開いたりしている。
「どこも痛くない。夢でも見てるのか……」
「ここも元気になってるニャン!」
男を看病していたティッシュが元気な声を上げた。
男の股間には立派なテントができている。なるほど、そこも元気になるのか。
「ちょっ!ティ、ティッシュさん!恥ずかしいですよ!」
男は頬を赤らめ、顔をくしゃくしゃにして両手で股間を隠した。
気持ちはわかる。晒しを巻いておくと目立ないんだよなぁ。
「ゼ、ゼちゅさまぁ、言われた通りやりまひたぁ、だからりゃ、早く私にぃ~んほっ!」
さてどうしたものか……。このまま、スキルを解くとアターシャの攻撃がまた始まる。〈わからせ〉発動中の記憶も残っているから、攻撃は更に苛烈になるだろう。
このスキルを発動中、僕もメスを征服する強いオスになるから気分が荒ぶって落ち着かない。【HR】の加護持ちなら、このまま一回だけやりたいが指名手配されるな。
冷静になれ。
取れる選択肢は一つだ――。
僕は顔の半分を隠していた右手を下げ、ポーズを解除した。〈わからせ〉が終わる。
アターシャもアヘ顔とがに股が解かれ、地面にへたり込んだ。
「ゼツ様ぁ!約束でしたわよっ!早く!早くしてくださいなッ!」
アターシャはメス顔で僕に縋り付いてくる。
〈わからせ〉は精神にメスを刻み込むスキルだ。スキルは解除したが、まだ完全にメス化が解けていないのだろう。
「ノエル、ティッシュ行こうッ!もうここに用はないッ!」
僕が取れる選択肢は一つ。この場から早急に立ち去ることだ。
地面に崩れ落ち「そんなぁ~」と僕に手を伸ばすアターシャを無視して、荷物を担ごうとした瞬間、誰かに肩を掴まれ悪寒が走った。
僕が振り向くと、そこには口をニタ~とさせ不気味に笑う目つきの悪い女、アナルがいた。
「坊っちゃ~ん。駄目ですよ~。逃げたりしたら。ほら、アターシャ様に謝らないと。クスクス。でないと、リンダナ家が罪を負いますよぉ」
「僕は既にリンダナ家から絶縁された身だ。僕が何をしようが、実家が罪に問われることはないだろう」
「クスクス、それがそうでもないのですよぉ。坊っちゃんはご存知でないと思いますが、侯爵閣下はヤリマン公の絶縁の承認をもらっておりません」
「なっ!絶縁証明書がないってことか?」
「ええ、そうですよ。クスクス」
僕の元実家、リンダナ侯爵家を管轄、管理しているのはアターシャの実家、ヤリマン公爵家だ。
リンダナ侯爵家が家族の絶縁や逆に養子縁組をする場合、ヤリマン公の署名が必要になる。
「確かに、今まで僕が知り得た情報を統合すると、父上が手続きをしている方が不自然だ」
「ですから、坊っちゃんが罪を償わないと、リンダナ家のみならず、家臣、重臣、各地を収める名主、それにお前の弟や妹にも迷惑をかけますねぇ。良いんですかそんな酷いことして?クスクス」
僕のパッシブスキル〈無責任〉が別に構わないと言っているが――、僕の勝手な行動で世話になった人達や弟達に迷惑をかけるのは気分が悪い。
「しかし、謝っても許してもらえないだろう?」
「あたくしも一緒に頭を下げますから。ほら、坊っちゃん、一緒にアターシャ様のところに行きましょう」
◇
アターシャの前で僕とアナルは胸に手を当て、片膝を付き平伏す。
「アターシャ様、先程のご無礼、申し訳ありませんでした。人命がかかっておりました故、少々乱暴に出てしまいました」
メス化が解けたアターシャは腕を組み顎を上げてゴミ虫を見下すような目で僕を見ている。
「私の股間を持ち上げたこと、メス豚呼ばわりしたこと、一生忘れませんわ。ダンジョンから帰ったらお父様に頼んで貴方の家を潰します!」
ほらな!これ絶対に許してくれないよ!
まぁ子供同士のいざこざでヤリマン公がそこまでするとは思えないが、娘を溺愛していると噂に名高い御仁だ。ただでは済まないと考えておいた方がいいだろう。
「アターシャ様、そこで提案なのですが、此度のダンジョン攻略、このゼツ・リンダナ卿を雇ってみてはいかがでしょう? 我らのパーティーに貢献してもらい、その度合いによって今回の件、水に流す」
「なっ!何を勝手なことを……、あっ、そういうことか!お前、僕を嵌めやがったな!?」
「ほら坊っちゃん、頭を下げて。クスクス」
この勇者パーティーはレベルが低い。一番レベルが高いアナルが75前後、パンティーは70くらいだな。それ以外は30から40といったところだ。
つまりアナルは、今回の僕の過失を利用し、贖罪として僕を働かせ金や経験値を稼ごうとしている。
「いくらアナル様の頼みでもそれはお受けできませんわ。それにこの方、役に立ちますの?」
「先のロックワームの大群、こちらの御方が倒しました」
「嘘おっしゃい!あれはどう考えても神の御業、我らが主ラブヘブンズ様がお救いになったのですわ」
「ならばご覧に入れて差し上げましょう」
アナルは薄い笑みを浮かべ僕を見詰める。
「坊っちゃん、先程の攻撃、再現できますか?」
僕もアナルを見詰め返した。
「お前は僕を信じるのか?」
「ギルドで坊っちゃんが金、銀を出した時、よく考えたら坊っちゃんは嘘を付けない間抜けだったと思い返しましてねぇ。クスクス。ですから先程の攻撃、坊っちゃんがやったと言うのなら、あたくしは信じますよ」
僕らのやり取りを見ていたアターシャが、
「ふんっ! 一度だけチャンスをあげます。できると言うのならやってみなさいな。どうせ、できる筈がありませんわ」
面倒くさいことになってきなたな……。こいつ等を助けただけなのに。
そうか……〈ガンシャ〉で特大の攻撃を見せて、ロックワームから助けたことを証明する。それを口実に今回の件は許してもらう。その恩で僕を雇う件は断ればいい……。
他人にスキルを見せるのは不本意だが、もう会うことはないだろうし仕方無い。
「わかりました。やらせていただきます」
僕は神妙に頷いた。
こいつ等に見せてやろう。ロックワームが一撃で消滅する僕の〈種強化〉を――。
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