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第36話〈勝負の選択〉
しおりを挟むダンジョン2日目。
僕達は5層へ降りる洞窟の途中で一晩野営し、現在5層の入口に立っている。
「ティッシュ、昨日話した通りやってみてくれ」
「わかったニャン。イメージが大切ニャンね……」
悪戯な笑みを浮かべていたティッシュの表情が真剣になる。
彼女は1メートル程の木の棒を地面に立てて倒れないように棒の先端を人差し指で押さえた。そして――。
「アクティブスキル〈勝負の選択〉!」
地面に立てた木の棒が金色に光輝きティッシュは棒を放す。
地面に倒れた棒はカランッと音を立てて転がり、金色の光が消えた。
僕達は棒が倒れた方向を見詰める。
「探索しながら注意深く進もう」
僕がそう言うとノエルとティッシュはコクリと頷いた。
5層から先はギルドにマップがない。
近年では4層すら使われていのだから当然だ。
1層ごとに一周30キロのドーム型の広いマップで、下層へ降りる道は3、4箇所。
人が作った道があるのは2層まで。3層からは家よりも大きな岩の密集地帯を飛び越えたり迂回しながら進まなければならない。
4層まで降りれば日帰りで帰ってこれなくなるはずだ。モンスターの多いダンジョンで野営するのはかなり危険で、そこまでして4層で狩りをしようとは誰も思わないのだろう。
つまり、5層からは広大なダンジョンの中で3、4箇所しかない下層へ降りる道を自力で探さなければならない。
しかもその道は岩陰や洞穴で注視しながら探さなければ見落としてしまう外見。やっと下層へ降りれそうな穴を発見して中に入ったら行き止まりなんて可能性もある。
羅針盤を見ながらティッシュが示した方向へ200メートルくらい進むと大きな岩と岩が重なり、その隙間に人が一人通れる程の穴が空いた場所に出た。
「如何にもって感じだわ」
とノエルが言う。
「モンスターの巣の可能性もある。先に僕が入って探索してくるね」
僕はストレングスやインテリジェンスが異常に高い。それらには防御力を高める効果があり、モンスターに不意打ちをくらっても殆どダメージを受けない。仮に怪我をしてもパッシブスキル〈ゼツリン〉ですぐに回復してしまう。故に僕は危険地帯の斥候に向いている。
洞窟の中に入るとそこら中から大きな岩が張り出してはいるが、穴は下へ続いていた。僕は途中まで進み6層へ降りるルートだと確信した。
当初、僕とノエル、二人でこのダンジョンに挑戦する予定だった。
僕のプランではノエルをどこか安全な場所で待機させておいて、一人でダンジョンの中を走り回り、このような抜け道を探すつもりでいた。僕は寝る必要がないから一日中探せばその階層の抜け道を見付けられるとふんでいたのだ。
それが5層へ下りて僅か20分で、6層へ下りる抜け道を見つけてしまった。 僕とノエルだけだったら、下手をすれば一日かかったと思う。
6層へ降りれることを確認した僕は二人の待つ5層へ戻った。
僕が洞窟から出ると二人の顔が明るくなった。
「ティッシュ、お手柄だ。6層へ降りる抜け道だったよ」
僕が笑顔で報告するとノエルは喜びティッシュに抱き付く。
「ティッシュ、凄い!」
「ニャ!! アッチのスキル、初めて冒険で役に立ったニャン!w」
ティッシュは笑顔になり、口元を手で押さえて嬉しそうにした。
◇
6層へ下りながら僕達は話す。
「5層ではモンスターと遭遇しなかったね」とノエル。
「そうだね。これもティッシュのスキルの副産物なのかもしれないな」と僕。
「ギルドの受付で言ってたニャンけど、二人はレベル40なんでしょ?6層のモンスターと戦えるの?」と不安そうにティッシュ。
「あぁ、えっと、ノエルはレベル40だけど……」自分のレベルを言っていいものか迷いながら僕。
「ゼツ君はレベル296だよ」真顔でノエル。
「絶対、嘘ッ!もう騙されないニャン!」
「まぁ戦えばわかるよ」言っちゃったならしょうがないと僕。
「ティッシュはレベルいくつなの?」
ノエルが尋ねた。
ティッシュは少し沈黙してから口を開く。
「5……ニャン」
ギルドでパーティー登録するときにティッシュが用紙に書いていたのを僕は見ていたから知っていた。
「アッチの加護は戦闘向きじゃにゃいから、パーティーに誘われないニャン。 それに冒険者のパーティーは経験値の取り合いニャン。役に立てないとラストアタックさせてもらえないから全然経験値稼げないニャンよ」
少し落ち込んだ様子でティッシュは言う。
そんな話をしながら進んていると出口が見えてきた。
ゴッゴッゴッゴッゴッゴッ!
ゴッゴッゴッゴッゴッゴッ!
ゴッゴッゴッゴッゴッゴッ!
外からは岩が擦れる大きな音が幾つも鳴っている。僕達は洞窟の出口から顔を覗かせて外を見た。
すると体長10m、太さは1.5m程はある、岩でできた巨大ミミズの群れがいた。
実際に見るとかなりでかい。もの凄い迫力だ!
「B級モンスター、ロックワーム」
僕は呟く。
ノエルの隣りではティッシュがガクガクと震えている。
「あんなの剣で叩いても掠り傷すら付けられないニャン。動きは遅そうだから逃げるニャンよ」
ノエルは震えるティッシュの肩を抱く。
「あれは私も勝てないけど……」
それから彼女は僕を見詰めた。
僕はなんの気負いもなく平然と言う。
「問題ないよ。全部狩ろう」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【モンスターのクラス、ドロップ金属、討伐目安】
SS級 神話級モンスター
S級 伝説級モンスター
A級〈金、白金、その他レア金属〉
レベル100――3人~10人
B級〈金、その他レア金属〉
レベル70――2人~5人
C級〈金〉 レベル50――2人~5人
D級〈銀〉 レベル30――2人~5人
E級〈銀〉 レベル20――2人~5人
F級〈銀〉 レベル10――1人~2人
G級〈銀〉 レベル10以下
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