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第34話〈渇きの砦〉

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 ダンジョンの入口で臙脂えんじ色の髪に尖った耳でタンクトップを着た少女に怒鳴られた。

「遅いぞ!もう昼過ぎだ!こっちは朝から待ってたんだぞ! てめーら、やる気あんのかッ!」

「「ファ、ファニーさん?」」

 バイブ武具店の店主ファニー・キャロンだ。僕とノエルは声を揃えて驚く。

「すみません、朝は少しのんびりしていて……」

 僕がそう答えると、頭の後ろで両手を組んだティッシュが口を尖らせて言う。

「ノエル、イカ臭いニャン。アッチ鼻がいいからすぐにわかったニャンよ。 朝からお盛んニャン……」

「うぅ~だって……、垂れてきちゃうから」

 ノエルは股を手で押さえ、太腿をもじもじさせて恥ずかしそうにしている。それから僕の耳元で、自分のお腹のヘソの下辺りを手で擦りながら囁く。

「最近、ずっと入ってる感じがするよ」

 ふむ、さっきまでずっとやってたからなぁ。

「アッチ、耳もいいから聞えたニャン!!」

「ん? お前ら何の話をしている!?」

 ファニーさんは意味がわかっていないようだ。

「それで、どうしたんですか?」

「ゼツ、お前に頼みがある……」

 ファニーさんは神妙に言った。

 用件は勇者が無茶したら助けてやって欲しいとのことだった。

 ファニーさんの話しやティッシュの話しを聞いて僕はパンティー姫が勇者だと知った。

 銀髪で色白、手足なんかも細い華奢な少女が【SR勇者】とは……、一回だけやらせてくれないかな。
 頼んだら不敬罪にるよな……。

 まぁ、そういうことならリンダナ侯爵家騎士団長のアナルがここスクワードにいたのも納得できる。
 おそらく王家かアターシャの家の依頼でリンダナ侯爵家はアナルを派遣した。リンダナ領では彼女が一番強かったから白羽の矢が立ったのだろう。

「奴等が21層のボスへ挑戦するようなら、全員半殺しにしてでも止めてくれ」

 それは流石に無理だ。僕がお尋ね者になる。

「21層のボスですか?」

「ああ、……オリハルコンゴーレムだ」

 そうか……、そうだよ。勇者バイブ・ビッグベニスは〈渇きの砦〉でS級モンスター、オリハルコンゴーレムを倒して、聖剣を作ったんだ。

 勇者とその仲間が装備した、オリハルコンで作られた伝説の最強武器は3つ。
〈聖剣ポルチオクラッシュ〉
雷槍らいそうデンマー〉
〈狂剣スーヤツ〉
 現在、それらは神器と呼ばれ王宮で大切に保管されている。パーティーメンバーのエルダードワーフが作った武器なんだよな。
 刀匠は確か……、
【HR魔導錬金術師】ファニー・キャロン
 ……あっ。

 僕はファニーさんを見て固唾を呑んだ。

「ふん、あいつはバイブに似ている。頼んだぞ、ゼツ」

「わかりました。パンティーは古い知り合いなので、そういう場面になったら説得してみます」

 僕達は伝説の鍛冶師ファニーさんに見送られダンジョンに入っていった。





 僕達はモンスターと戦わずダンジョンの奥へ進む。

「私、もっと洞窟みたいなのを想像していたんだけど、ダンジョンの中って凄く広いのね……」

 ノエルがキョロキョロしながら言う。

「各層が円形のホールみたいになっていて天井も高いところは200メートルくらいあるらしいよ」

 この〈渇きの砦〉は各層の一周が約30キロ前後の円形ドーム型ダンジョンだ。
 足場は岩で良くないが、1層と2層は道ができていて比較的移動し易い。
 下の階層へ続く階段や道の場所は、4層まではギルドにマップがあったから、位置を把握している。下層へ続く道は各層に3、4か所あるようだ。

「200メートルもあるのね……、天井が高いところは遠くて見えないわ。 壁や天井の岩が光っているのは宝石なの?」

「あれは星光石せいこうせきだよ。星の光の様に見えるから、そういう名前らしい。ダンジョンの中だけで光る不思議な石で、地上に出すと光らなくなるから価値はないんだ」

 この星光石のおかげでダンジョンの中はある程度視界が通る。ランプや松明は必要ない。

「ゼツ君ってほんとに物知りね。本で字も教えてくれたし……」

「僕は勉強ばかりしていたからね……」

「ねぇゼツ、どうしてモンスターと戦わないニャン?本当に強いニャンか?アッチ心配ニャン」

 他の冒険者は戦っているのに、モンスターが出現しても無視して進んでいたから、ティッシュは疑問に思ったようだ。

「効率が悪いからだよ。5層からは戦うからそれまではこの調子で行こう」

「5層のモンスターって滅茶苦茶強いニャン!」

 涙目になるティッシュ。彼女はレベル5だからそう思うのはしょうがない。

 ダンジョンの1層から4層ではD級以下のモンスターばかりで倒しても経験値は少ないし”銀”しかドロップしない。
 5層からはC級モンスターが増えてくるから”金”をドロップする。低層で時間を掛けて戦う理由はないだろう。

 今度はノエルが質問をする。

「ゼツ君、モンスターはどうしてダンジョンの入口から街へ出て行かないの?」

「それはモンスターが〈常闇とこやみ〉から生まれ、生れた〈常闇〉の側から離れないからだよ」

「ごめん……、よくわからない」

 ノエルは恥ずかしそうに微笑む。

「岩の陰や亀裂、木の根の下なんかは永く日の光が当たらないだろ? そういう場所に〈常闇〉とう闇の空間ができるんだ。モンスターはそこから生まれるんだよ」

「なるほど……、あれ?街中に〈常闇〉はできないの?」

「〈常闇〉ができる地域とそうでない地域があって、長い歴史の中で街というのは〈常闇〉ができない場所につくられるからかな。 因みにダンジョンの中は〈常闇〉がたくさんあるからモンスターが多いんだ」

 ノエルは「そういうことだったのね」と唸る。

「それに、このダンジョンの入口には結界が張ってある」

「それ、アッチも知ってるニャン。つかこの街の冒険者なら誰でも知ってるニャンね」

「ああ、だろうな。勇者ビッグベニスのパーティーメンバー、【HR結界魔術師】 エフ・フロントホックが〈渇きの砦〉の入口にモンスターだけを通さない結界を張って、それが今も機能しているんだ」



 キャー!

 そんな話しをしていると遠くから悲鳴が聞こえた。

 僕は背中に背負った大きな荷物を下ろし、二階建て家屋くらいある巨大な岩の上に飛び乗った。
 続いてノエルも小さな岩を足蹴に2歩で登ってくる。

「二人とも身体能力おかしいニャン!」

 ティッシュは岩に手を掛けながらよじ登ってきた。

「やッ!やめろッ! やめてくれーッ!」

 男性の叫びが聞こえ、その方向を睨むと40メートルくらい先でコボルド十数体が男女二人組の冒険者を襲っていた。

 ダンジョンの中は薄暗くて良く見えないが、男はコボルド数体に体を押さえ付けられていようだ。女は服をむしり取られている。

「いやッ!やめてぇーーッ!」

 女冒険者が悲鳴を上げた。





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