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第33話 ティッシュ加わる

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 ティッシュと一緒に後詰ごずめでギルドから出て行こうしていた、大きな荷物を背負ったポーターの男達が一連のやり取りを見て助言してきた。

「ティッシュさん、栄光ある勇者様のパーティーを抜けるなんてもったいないよ」
「そうだぞ。これからダンジョンで大成果を上げられるというのに。こんなチャンスは滅多に無い」
「しかも彼等……、木プレートの冒険者ですよ。アナル様に謝りましょうよ」

 このパーティーは全部で40人程で荷物持ち専属ポーターだけで10人くらいいるようだ。

「ほんとニャン。お客、木プレートニャン。アッチは鉄プレートだからアッチより下ニャンねぇ。にひひひ。でも……、アッチのパッシブスキル〈勝負の勘〉がこの人に付いて行った方が良いって教えてくれるニャン。アッチどんなにあり得ない状況でも、自分の”勘”には逆らわないようにしてるニャンよ」

 確かにあり得ない選択だ。勇者パーティーと木プレート冒険者パーティー、どっちに入りたいか聞かれたら、普通なら誰もが勇者を選ぶ。

 しかし、彼女が【HNギャンブラー】ならこれから行くダンジョンでかなり役立つ。

「アナル、ダンジョンに行くなら彼女が抜けると困るんじゃないのか?彼女の加護は重宝する。うちのパーティーに入ってくれるなら入れたいが……」

「いえ、問題ありませんよ。こちらには空間探知に長けた加護持ちが2名おりますから。そちらの方はその2名が戦死した場合の保険で雇いました」

 アナルは抜けたいなら抜ければ、といった様子だ。ティッシュのことを重要視していないのだろう。

「う~~~ん、でもぉ~、アッチ、金貨5枚持ってないニャン。どうしよう……チラッ、チラッ」

 ティッシュは僕の腕に抱き着き胸を押し当てて、困り顔でチラチラ見てくる。

「ねぇ、ゼツ君。お金、払ってあげようよ。冒険から帰ってきた後で、今回の報酬から引けばいいんじゃない?」

 横からノエルがニコニコしながら朗らかに言った。
 金貨5枚は大金だが、今回の冒険で金貨1000枚くらいは余裕で稼げるとノエルに言ってあるからな。

 確かにそうだな……払ってやるか。
 さらにノエルが――、

「ティッシュさんから色々聞きたいし、二人の関係とか……ね?」

 あれ?よく見たら、ニコニコしているけど、僕の腕に抱き付くティッシュと僕を見ている目が笑っていない……!

「ティッシュ、僕はゼツだ。金に関してはこの子が言った条件でいいか?」

「私はノエルです」

 ノエルは笑顔で首を傾げた。やはり目が笑っていないように見えるが……気のせいだろう。

「それでいいニャン!ゼツ、ノエル、宜しくね♪」

 ティッシュは笑顔で答える。


 僕はアナルに金貨5枚を手渡した。
 金を受け取りながらアナルが僕の耳元で囁いく。

「5年前、リンダナ侯爵閣下は坊ちゃんが賊に襲われ死亡したとおおやけに発表されました。ですから、あたくしの一存で内密に貴方を奴隷商に売ったのです。これからどうされるかは坊ちゃんにお任せします。クスクス」

 アナルは金を受け取るとすぐに身を翻し、足を止めたポーター達を纏める。

「遅れるわけにはいきません。さぁ皆様、行きますよ」

 アナルの号令でポーター達はぞろぞろとギルドから出て行った。

 アナル……、どういう意味だ?
 父上は僕が死亡したと発表した。つまり僕を始末しようとしていたってことか?
 なら何故お前は内密に僕を奴隷商に売った?





 これからダンジョンへ向かう為、僕達は冒険者ギルドで登録を済ませる。
 ダンジョン〈渇きの砦〉は街中にあり、この冒険者ギルドから徒歩2、3分で入り口へ行ける。

 僕は約150キロある自分の体の3倍は大きなリュックを背負っている。ダンジョン探索は長くて20日を想定していたからその分の食料や消耗品、キャンプ道具が入っているのだ。

 しかし【HNギャンブラー】の加護を持つティッシュが加わったことで日数は大幅に短縮される筈だ。


「「はぁああああ? に、20層ッ(ニャンッ)!?」」

 そう大声を上げたのは僕達の受付をした陰湿なギルド嬢とティッシュ。

 20層へ行くと聞かされた受付嬢は早口で捲し立てる。

「昨日大金を換金したからって調子に乗りすぎですよ。これだから素人は。ダンジョンは階層を進むごとにモンスターが強くなるんです。レベル40の冒険者だって、3層からはC級モンスターがちらほら出現するから、それより先に行かないのに、つか4層に行く冒険者なんてここ何年もいなんですよ。そんなことも知らないんですか?はぁー、たく勝手に死ぬのは自由ですから止めないですけど、まぁどうせ行けないだろうし………………。って話し聞いてます?」

 早口過ぎて半分くらいしか聞き取れなかった。

「安全には十分気を付けます」

「まぁ、精々気を付けてください」

 呆れた顔で手をヒラヒラさせる受付嬢に一礼して僕達はダンジョンへ向かった。


 ギルドから出てダンジョンへ向い街中を歩く。先頭を歩く僕の後ろを女子二人が並んで歩きついてくる。
 僕が背負う大きなリュックの後で二人は何か話しているようだ。

「20層なんて絶対に無理ニャン……アッチやっぱり抜けようかなぁ」

「ゼツ君がいるから大丈夫だよ。ねぇところでティッシュぅ、ゼツ君とはどんな知り合いなのぉ?ふふふっ」

「えっと……一昨日……」

「一昨日?、ふふふ、続けてぇ」

「あわわわ、お、一昨日ちょっと助けられただけニャン!」

「ふーん、夜、狩りに出掛けたときかなぁ……流石ゼツ君だね!」

 荷物と街の騒音が邪魔で何を話しているか聞き取れないけど、楽しそうで何よりだ。

 するとティッシュが僕の横に駆け寄って僕の耳元で。

「あのノエルって子、笑ってるけど目が怖いニャン!ゼツが店に来たことは秘密にして欲しいニャン!」

「普通に話せばいいじゃないか?」

「アッチ殺されるニャン!〈勝負の勘〉が言ってるニャンよ!嘘は苦手だけど命のほうが大切ニャン!とにかく宜しくニャンね!」

 ティッシュが後ろに戻ると。

「何、話してたの?ふふふっ」

「お、同じパーティーだから、よ、宜しくって、そ、それだけニャン」

「そっか、私も宜しくね、ティッシュ」

 こうして僕達はダンジョン〈渇きの砦〉の入口に到着した。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 パーティーメンバー紹介。

【ゼツ・リンダナ 17歳】

〈服装〉
 焦茶のズボンとベスト、白いYシャツ。パコウシの皮でできた茶色いブーツ(ノエルとお揃い)木プレートのネックレス(ノエルとお揃い)

〈武器〉
 腰に革ベルトで”刀”を装備。バイブ武具店でもらった。


【ノエル・ローター 15歳】

〈服装〉
 マラシルクの白いブラウス、グレーのミニスカート、黒のニーハイソックス、グレーベレー帽。パコウシのブーツ。合計金貨27枚

〈防具〉
 ラーテルイタチの黒皮をなめして作られた軽鎧、胸の部分は金属。革製の籠手と膝当て。バイブ武具店で購入、金貨2枚。

〈武器〉
 ダマスカス鋼のナイフ〈斬鉄Lv14付与〉を革ベルトで腰に装備。バイブ武具店で購入、金貨20枚。
 ”クナイ4本”〈斬鉄Lv8付与〉〈真空Lv8付与〉太腿に革ベルトで固定、両足に2本ずつ装備。スカートの下に隠れている為、抜くときにパンツが見えそうになるのがポイント。バイブ武具店で購入、金貨20枚。


【ティッシュ・ポケット 17歳】

〈見た目、服装、防具、武器〉
 ショートパンツに引き締まり括れたウエストとヘソを出した長袖のシャツの上から軽装の皮鎧を着ている。褐色肌と猫耳、猫尻尾が特徴的。武器は短剣を腰に装備している。

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