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第27話 ファニー・キャロン
しおりを挟む〈加護の儀〉を受ける前は僕も勇者に憧れたものだ。いや、僕だけじゃないだろう。
各地に残る勇者の英雄譚。
何処何処でこんなに凄いA級モンスターを倒したとか、さらに凄いS級モンスターを倒したなんて伝説や御伽噺、吟遊詩人の唄が世界中に蔓延っている。
〈加護の儀〉を受ける前の子供なら、もしかしたら自分が………、なんて妄想は誰でもするはずだ。しかし、たいていがレアリティ【N】や【NH】の加護を授かり、まぁこんなものかと腑に落ちる。
この王国だって170年前に勇者ビッグベニスが建国した。そしてここスクワードは勇者ビッグベニス縁の地。彼の勇者はこの地にあるダンジョン〈渇きの砦〉で仲間達と共に何年もレベル上げをした。そうした彼の行動でこの地に人が集まり街ができた。
そして勇者は『最高の仲間』を意味する言葉――、『スクワード』とこの街に名前を付けた。
勇者バイブ・ビッグベニス、彼はここスクワードで、最高の仲間達と共に数々の冒険をしたのだろう……。
僕が想いに浸っていると――、
「おい!ボウズ!お前の加護はなんだ? その若さで、このレベルはありえない! 勇者でもこんなに強くならないぞ!」
どうする。加護を明かすべきか……。
この人はエルダードワーフ。今後の武具調達を考慮するなら絶対に関係を築いておきたい。だけど加護を知ったら僕を嫌うかもしれない……。かと言って嘘を付くにも、この高いレベルを誤魔化すことはできない。
「大丈夫だよ。ゼツ君の加護はかっこいい。だから絶対に大丈夫」
ノエルは真摯に僕を見詰めている。そんなノエルを見て決心した。
「僕はボウズではなくて、ゼツ・リンダナと言います。この子はノエル・ローターです。それで……」
今まで加護をバカにされ続けたせいで加護名を口にすることを体が拒む。
でも、唯一この加護を褒めてくれるノエルに、自信がなくてかっこ悪い姿は見せたくない。
僕は一度深呼吸して。
「僕の加護は【MR無責任種付おじさん】です!」
少女の眼が点になった。
「へ? いやいや、嘘を付くな!だいたい【MR】なんてレアリティ存在しないだろ!」
「ほ、本当ですよ!」
「ならステータス光を見せてみろ!」
「ステータス光は他人に見せるものではない。それが常識だと思いますが……」
「ふんっ!アタイは口が固い!それに誰がお前のステータスなんぞ知りたがるか!調子に乗るな!」
「いや、貴女が凄く知りたがってるじゃないですか……」
「むむむっ!もういい、帰れ!見せてくれないならお前達に武器は売らん!」
店主は頬を膨らませそっぽを向いてしまった。見た目も相まって思い通りにならず駄々をこねる子供のようだ。中身は大人だと思っていたがそうではないらしい。
エルダードワーフが住む島国は鎖国を行っていて外国と貿易をしないどころか、入国すらできない。
市場にエルダードワーフが製作した武器が出回ることはまずない。だがもし出回ったらこの金貨20枚のダマスカス鋼のナイフでも白金貨1枚はくだらないだろう。何故ならこういった特定の産地でしか作れない品は商会や商人の間を渡り歩くだけで、値が馬鹿みたいに釣り上がるからだ。
確かにこの子の言う通り、僕のステータスを知りたがる人なんてめったにいない。
良い武具を安く手に入れる為だ。背に腹は代えられない。
「ああもう!わかりましたよ。ほら、これです。嘘じゃないでしょう?」
僕はステータス光を顕現させ少女に見せる。
■■■■■■■■■■■■■■
【MR無責任種付おじさん】
Lv 201
⑤HP 16047
⑤MP 16047
⑤ストロングス 16047
⑤アジリティ 16047
⑤インテリジェンス 16047
〈アクティブスキル〉
*********
〈パッシブスキル〉
*********
■■■■■■■■■■■■■■
少女は僕のステータス光を覗き込んだ。
「ほえええ!本当だよ……。つか、成長率全部⑤っておかしくない?勇者でも④とか③もあるのに……」
加護をバカにされると思ったけど、そんなことはなさそうだ。と言うかこの人、勇者のステータスを知っているのか?どこで見たんだ?
「勇者のステータス光を見たことがあるんですか?」
「まぁな……。ボウズ、歳は?」
少女は僕のステータス光に釘付けになりながら話す。
「僕の名前はゼツです。17歳ですよ」
「えっ、17っ!くそガキじゃないか!?」
「そういう貴女は何歳なんですか?」
「ふんっ!女性に歳を聞くなんて失礼な奴だ!教えてやらん!」
そうか、一応女性だった。まぁ別に興味ないし教えてくれなくてもいいけど……。
「なんて嘘だ、教えてやる!」
って、教えてくれるのか!
「聞いて驚け!アタイは198歳だ!」
「「ええっ!?」」
僕とノエルが同時に驚く。
198歳!長寿の種族だとは聞いていたが、そこまでとは。
「見た目はこんなに可愛いのに……」
ノエルが可愛いと褒めると「そうだろう、そうだろう」とまた平な胸を張り、鼻の下を指で擦りながら口元を緩ませる少女。いや、女性?
「これで貴女の武具を売ってもらえますか?」
「ファニー・キャロン……、アタイの名だ」
「ファニーさん、それでどうなんですか?」
「売ってやる! それとアダマンタイトかミスリルの武器が欲しいと言っていたな? ダンジョン〈渇きの砦〉の20層にいるミスリルゴーレムを倒せば、ミスリルをドロップする。アタイが取りに行ってもいいが、最近戦うのが億劫でな。ボウズ、あっ、いやゼツ!お前のステータスなら倒せるはずだ。ミスリルを取って来たら、それで武器を作ってやるよ!」
ミスリルの武器が手に入る!
使うのはノエルだが、これからA級やS級のモンスターにとどめを刺す為には必要な装備だ。
ただ、ミスリルゴーレムはA級モンスターの中でもS級に近いと言われている。本当に僕に倒せるのだろうか?
◇
装備一式をこのバイブ武具店で揃えることにした僕達はファニーさんに色々話を聞きながら購入する品を選んだ。
ファニーさんは十数年前まで東倭国で刀鍛冶の修行をなんと100年もしていたそうだ。この店にある品は東倭国で学んだ技術で作られている。
僕には〈ガンシャ〉と暴力的なステータスがあるから武器は買わない予定だったが、失敗作だからと刀という東倭国由来の剣を貰った。無償で貰ったのに通常の鋼の剣よりも遥かに良い代物だ。腰に締めた革ベルトの脇に掛けて装備する。
因みにベルトと鞘は有料だった。
ノエルに装備させる防具は強靭な皮膚を持つラーテルイタチの黒皮をなめして作られた軽鎧、胸部は金属板になっていて、【HR魔導錬金術師】のアクティブスキル〈特殊効果魔法-対魔Lv10〉が付与されている。〈対魔〉にはモンスターが纏う黒い瘴気魔素や魔法ダメージを軽減する効果がある。それと、同じ皮の籠手と膝当ても購入した。防具は全部で金貨2枚。
ノエルの武器は先程のダマスカス鋼のナイフ〈特殊効果魔法-斬鉄Lv14〉付与、刃渡り約40センチ。
金貨20枚で購入した。腰に巻いた革ベルトに掛けて装備する。
それと――、僕はファニーさんにノエルの武器を相談をする。
「彼女の〈グラビティ〉は物を自由に飛ばせるスキルで、ナイフを飛ばして攻撃したいのですが柄の短い手のひらサイズのナイフってありますか?」
「投げて使うのか……、ふむ、それならクナイだな」
「クナイ?」
「ああ、今は無いから作ってやるよ。一振でいいのか?」
「ノエル、同時に何本扱えそうだ?」
「うんと、4本はいけると思う」
「そうか……手のひらサイズだとアタイの特殊効果魔法はLv8までが限度だ。だが特殊効果魔法は重ね掛けできる。〈斬鉄Lv8〉と〈真空Lv8〉を付与してやるよ」
「〈真空〉はどのような効果があるのですか?」
「空気抵抗を取り払い剣速を上昇させる。投げて使うなら効果的だ」
確かにそうだな。速度が上がれば与えるダメージも増す。
「4振でいくらになりますか?」
「金貨20枚だ。腰か太腿にベルトで装備するだろうから、ベルトはおまけしてやるよ」
そうすると、全部でだいたい金貨42枚か……もともとミスリルかアダマンタイト制の武具を購入する積りで白金貨1枚を予定していたら、安く済んだな。
金貨120枚で白金貨1枚である。
「わかりました。それでお願いします」
「よし、なら3日後の夕方取りに来い。クナイ作成とお嬢ちゃんの防具の調整をしておく」
「よろしくお願いします」
僕とノエルはファニーさんに頭を下げて店を出た。
隣を歩くノエルが。
「今日はいっぱいお金使ったね。殆ど私の装備でなんだか申し訳ないわ」
「いや、妥当だと思う。モンスターの攻撃一発で簡単に死ぬこともあるからな」
「私……頑張るね」
「安全優先で無理しない程度にな。今日はもう遅いから明日冒険に必要な小物や回復薬を買いに行こう」
「うん!」
ノエルは僕の腕に自分の腕を絡める。
僕達は今夜も♡羅♡部♡捕♡亭♡に泊まることにした。
ダンジョンに潜るのは4日後か……。
普通の冒険者とは違い僕のレベリングは街でやる。ノエルも頑張ると言っているし、僕も3日間頑張ってレベル上げをしよう。
今のレベルでS級に近いミスリルゴーレム討伐は少し不安だ。
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