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第25話 ショッピング
しおりを挟む途中、露店で朝食のホットドックを買い、店頭の長椅子に二人並んで座って食べる。
「考えたんだけど、お金は全部ゼツ君のものして」
「ん?どうして?」
「んとね、私、お金や物が欲しいとはあまり思わないの。でも一つだけお願いがあって……」
「どんなことだ?」
「ママのお金は、いつかゼツ君が払って欲しいの」
金貨60枚か……、あの金ならそのうち払うつもりだった。
パッシブスキル〈無責任〉が支払いを拒否しないか心配したが、自分からやりたいと思うことには拒否反応を示さないようだ。
「私って奴隷でしょ。ゼツ君が私を買ってくれたら、全部、ゼツ君の物になるような気がして……。でもそれが嬉しくて……」
「もう奴隷じゃないだろ?」
「私、ゼツ君の奴隷になりたいのかも……、変だよね。えへへへへ」
下を向いて話していたノエルは顔を上げると、僕を見て恥ずかしそうに笑った。
ノエルを僕の所有物にできる、か。
「ギルドでノエルがアレプニヒトに手を握られたとき僕は胸が痛くなった。この気持ちが何なのかはわからないけど、ノエルを独占できるならそうしたいと思う」
「…………」
ノエルは僕に寄りかかり、頭を僕の肩に乗せる。それから――。
「心はもう……君の奴隷だよ。だから、体も奴隷にしてね」
◇
ギルドで教えてもらった場所に行くと武器屋や服屋、アイテムショップが所狭しと建ち並ぶ街並みが広がっていた。
僕達は色々な店に入り見て回るが、どの店も陳列されている品は安くて仕立ての悪い物ばかりで買う気になれなかった。
そうやって回っていると二階建ての大きな店があったから中に入ってみる。
ここは一階は武具、二階には衣服やブーツなんかが売られているようだ。
一階の武具売り場には青銅製や鉄製の武具しか置いてなくて、買う気になれなかった。せめて鋼製でないとすぐに壊れてしまう。
おばちゃんから貰った鋼のナイフももうボロボロで、次の武器は高額だがアダマンタイトか更に値は張るが軽くて丈夫なミスリルの武器が欲しい。
僕はこの店で武具を買うのは諦めて、二階の衣服売り場へ移動した。
「いらっしゃいませぇ。どんなお品をお探しデェース?」
女性店員に声を掛けられた。
「戦闘でも着れる丈夫な衣服を探しています」
「ああぁ!ボーケンシャァーのぉ方デェースねぇ!んんー?」
片言で話す店員さんは僕とノエルの首に下げられた『木プレート』を見て頷く。
「それぇでしたら、こちらデェース!」
付いて行くと中古の服が山積みになっている売り場を案内された。
置いてある服は今着ているものよりボロい。
「こちらの品は、銀貨7枚から10枚が相場デェースねぇ」
服がそれくらいの値段で買えるなら、かなり安い。安いのだが、欲しいのは丈夫で壊れにくい服だ。この店も安い品しか扱っていないのだろうか?
「あの、すみません。この店で一番高い服を見たいのですが?」
そう言うと店員さんは驚いた表情をしたあと「ああ、なるほど」と勝手に納得する。
「モチベーションアップ、デスねぇ! いつか俺もっ、こんな服をっ!みたいな。わかりマース! ご案内しマース」
何か勘違いをしているようだが、取り敢えず後を付いて行った。
◇
そこにある服は一着一着が木の衣装ケースに納められていた。
店員さんが薄ぺっらい木箱を開けると、女性用のフリルが付いた白いブラウスが出てきた。僕はそれを見て呟く。
「これマラカイコのマラシルクだな」
「おおぉー!よくご存じデェースねぇ!」
マラシルクは魔法繊維で、チェーンメイルよりも丈夫だとされている。ワイルドボアに噛まれても歯が生地を貫通することはない。
貴族は普段当たり前のように身に着けている服だが、高額だから一般人にはなかなか手が出せない服だろう。
「これは女性物で……、なんと!気になるお値段はぁー!トゥルルルルルル!金貨6枚と銀貨20枚デェース! って全然驚かないデスねぇ?」
「試着してもいいですか?」
「はぁ? ダメ決まってるじゃないデスかぁ! 汚したらどうするんデスかぁ?」
「でも買うのに試着しないと、合うかどうかわからないですよね?」
「だ か らぁー!そういうのは銀プレート以上の冒険者になってからでぇ、お願いしマース!」
「銀プレート以上の冒険者にならないと買えないのですか?」
「だってこれ、金貨6枚と銀貨20枚デスよぉ??」
「金ならありますよ。見てください」
僕はバッグから金貨の入った革袋を取り出し、台に置くと袋の入口を開ける。
「木プレートくせに、そんな大金持ってるわけないじゃないデェースかぁ~?」
店員さんは革袋の中身を覗き込む。
「うっそぉーん!!」
店員さんのやる気ない顔が、驚き顔へ変化するさまが面白かったのか、ノエルが横でクスクスと笑っている。
そこからは話が早かった。店主の親父も出て来て、ノエルの採寸をして服を選んだ。
買ったのはマラシルクの白いブラウス、グレーのスカート、黒のニーハイソックス、それからマラシルクのベレー帽。これは全部ノエルの服で、僕は仕立ての良い綿のズボンとシャツとベストを買った。 それと、丈夫なパコウシの皮で作られたブーツも二人分購入。
会計は全部で金貨30枚。
◇
店を出て、横を歩くノエルが心配そうに僕の顔を覗き込む。
「私の服だけで、金貨27枚も使ってよかったの?」
「全然問題ないよ。マラシルクは青銅の鎧よりも防御力が高いのに軽い生地だから動きやすい。ノエルの戦闘スタイルに合うと思う。帽子だって兜をかぶるわけにはいかないら必要だし。それに……、試着した君の姿は綺麗だった」
僕はストレングスとインテリジェンスが異常に高いから防具を必要としない。そこそこ破れにく服であれば何でも良かった。
「ゼツ君……、ありがとう……」
ノエルは僕の腕に自分の腕を絡める。
そう言えばノエルは下着も買っていたな。
あの女店員が「こんなにエッチなら、あの人イチコロデェース」って言ってるのが聞こえたけど……、どんなのを買ったのか教えてくれなかった。
まぁそれはどうでもいいか。
【貨幣の設定】
◇貨幣の設定◇
鉄銭10枚→銅貨1枚
銅貨60枚→銀貨1枚
銀貨30枚→金貨1枚
金貨120枚→白金貨1枚
日本円に換算した場合。
※あくまでもイメージです。
鉄銭1枚→10円
銅貨1枚→100円
銀貨1枚→6,000円
金貨1枚→180,000円
白金貨1枚→21,600,000円
ノエルの買値
金貨60枚→10,800,000円
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