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第23話〈グラビティ〉
しおりを挟む――ドンッ!!
アナルは僕を睨み付けながら、テーブルを強く叩いた。
山積みになった金銀の粒が崩れ、何個か下に落ちたのを受付嬢が慌てて拾う。
「一度の冒険?嘘をおっしゃい!一度の冒険でこんなに大量の金銀を得られる訳がないでしょう!?どこからか盗んできたのでしょう?そうに決まっています!」
「キレると我を忘れるところは相変わらずだな。お前も騎士ならわかるはずだ。これだけ大金が盗まれれば街は大騒ぎになる。そんな事件はないだろう?」
仮に別の街で盗みが起きたとしても、ビッグベニス王国では伝書バトによる通信網が確率しているからすぐに情報は届く。
「くっ……、それならなにか別の方法で……、とにかくモンスターを倒して、これを稼ぎ出したなど、常識的にありえない…………」
アナルは金銀の山を見詰めながらブツブツとひとり言を言っている。
アナルとは反対の席に座ったノエルが僕の耳元で囁いた。
「ゼツ君、この人達私が追い払うよ」
「できるのか?」
「たぶん……。見ててね。
アクティブスキル〈グラビティLv1〉」
ノエルのアクティブスキルが発動し、テーブルの下に落ちた大豆サイズの金の粒が宙に浮いた。受付嬢が拾い忘れたやつだ。
その粒はゆっくり浮遊し、人目を搔い潜りアナルのヘソ辺りから、彼女のズボンの中に入って行く。
ノエル、何をするつもりだ?
「ゼツ君はアナルさんにアクティブスキル〈感度操作〉を最大で付与してくれない?」
「わかった。
アクティブスキル〈感度操作3倍〉」
僕は口の中で呟いた。
アクティブスキル〈皮かぶり〉によって表面上は【R奇術師】になっているが、元のスキルは問題なく使用できる。
アナルの股関辺りで『ブブブブブ』と小さな振動音が鳴り始めた。
「えっ!……んあっ……んっほっ!」
奇声と同時に体がビクリと跳ねるアナル。
「どうした?」
「んっ……んんっ、んんんんんんんっ!」
アナルは口元を両手で抑えた。顔は真っ赤で涙目になっている。
反対の席でノエルが囁く。
「よし、当たってる。ここから一気に!
アクティブスキル〈グラビティLv4〉ッ!」
「んんんんんんん!!!」
アナルの股間から聞こえる『ブブブブブブブブブブ』という規則的で小刻みに何かが振動する音が大きくなった。
あ、そう言えば、感度操作は5倍まで習得していたんだった。ノエルに「最大で」と言われたし、……かけ直すか。
僕は誰にも聞こえない声で呟く。
「アクティブスキル〈感度操作5倍〉ッッッ!!!」
「んっほぉおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」
アナルの体が奇声と共にビクビクと小刻みに跳ねた。
そして――。チョロチョロチョロっと尿を漏らしてしまった。ズボンから染み出した液体は椅子から床へ零れ落ちる。
「おい!どうしたんだよ? 大丈夫か?」
アナルはガバッと立ち上がると、僕の呼びかけを無視して股間を押さながら無言でトイレに行ってしまった。
ノエルのアクティブスキル〈グラビティ〉は物体の重力と運動を操作できる魔法だ。 さっきの金の粒が小刻みに振動していたように思えたが、あのアナルを黙らせお漏らしさせるなんて……、いったい何をしたんだ!?
彼女はピンクの髪をかき上げ、「ふぅー」と息をつく。ノエル・ローター……、彼女は僕が思っているよりもずっと逞しい女性なのかもしれない。
一連の騒動中、ギルドのカウンターに帰っていた受付嬢が、男性のギルド職員を連れて俺達の席に戻ってきた。男性職員は平べったい木箱を持っている。
「くっさッ! はぁ?なんですかこれ? 誰か溢したんですか? えっ?てかこれ、くっさッ! ちょっと勘弁してくださいよ。 私掃除しませんからね。 自分達で片付けてください。 つか、くっさッ!
それはそうと、こんな大金ここでは換金できないです。 鑑定したり、重さを測りますので」
受付嬢が話している最中、一緒に来た男性職員は平べったい木箱に金と銀を乗せていた。白金は汚れや傷が付かないよう布に包まれ木箱に乗せられる。
「応接室に持って行きますので一緒に来てください」
「あっ、これもお願いします!」
宙に浮いた金の粒が受付嬢の手に落ちる。
さっきアナルのズボンに入っていたヤツだ。
ノエルに放り投げられたと勘違いした受付嬢が慌ててそれを握りしめる。
「んんん?これ濡れてますね?まぁいいか」
僕はアレプニヒトを見詰めると彼も視線に気付き僕を見る。
「では、これで失礼します」
「アナル様の件、明らかに貴殿等の仕業でしたが、私の口がそれを明かすことはないでしょう」
黙ってますよってことか……。
アレプニヒトは僕に微笑みかける。
「私達はあと数日でこの街を立ちます。どうか安心して冒険を続けてください。
私はゼツさんが羨まし。こんなにも可憐で美しい女性と旅ができるのだから……。ノエルさん、先程の無礼、申し訳ありませんでした」
アレプニヒトはノエルに頭を下げた。
「それとこれは私が片付けておきますので、どうぞ行ってください」
「わかりました。よろしくお願いします」
僕も頭を下げた。
常識的な御仁だ。この男もアナルにうんざりしていたのだろうか……。
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