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第19話 ノエルの出自
しおりを挟む部屋はシングルサイズのベットが一つ置かれただけの簡素なつくりで、もう一つ並べてベットを置けない程狭い。明かりも蝋燭が一つだけで薄暗い。
明日の予定はさっき夕食をとりながら話し合ったからあとはやるだけだ。僕は早くやりたくてうずうずしている。
僕達は服を脱ぎ水で濡らした手拭いで体を拭いた。そして下着姿のままベットに横になる。
先にベットに入ったノエルは僕に華奢な背中を向けて横になった。
裸を見られるのが恥ずかしいのだろうか?体を拭くときも胸なんかを隠しながら拭いていたし。
後からベットに入った僕はそんな彼女を後ろから抱きしめる。触れているところがお互い体温で温かい。
僕に抱かれたノエルは呟く。
「私なんかの為にたくさんお金使わせちゃってごめんね」
彼女はいつも遠慮がちだ。街に入る時だって「通行税がかかるなら私だけ町の外で待ってようか」なんて言っていた。それじゃ、やれないじゃないか……。
「金のことは気にしなくていいよ。僕が払いたくて払っているんだし」
「どうして……、私にやさしくしてれるの?」
「それは……、ノエルが僕と似ていたから」
「似ていた?」
「うん」
僕は侯爵家で裕福な暮らしをして12歳まで過ごした。それが実家を追放され、騎士団長のアナルに奴隷商人に売られ、まともな食事も支給されない土木現場で辛い力仕事を休みなく5年間もやらされ続けた。
絶望的な状況に追い打ちをかけるように僕のレベルはずっと0のままで悔しい思いをしてきた。
そんな僕にノエルの境遇は似ているように感じた。
「そっか……、ゼツ君は、私のこと、か、可愛いとか、その、好きって思っているのかもって……」
「ノエルは凄く可愛いと思うよ」
「じゃ、じゃあ好きなの?」
「好きだと思う。こうして抱きしめていると安心する」
ノエルのピンク色の長い髪と大きな蒼い瞳は幻想的で、あどけなさを残す頬に反して、華奢なのに出るとこが出た体は可憐で美しい。それにいつも朗らかににこにこしていて一緒にいると癒やされる。
僕はノエルに好意を持っている。
「私もゼツ君が大好き……、うんん。愛してる」
「そっか……」
ノエルの声はかすれているが、体には力が入り時折ビクリと体を震わせる。
僕は押さえ付けるように後ろから強くノエルを抱きしめた。 髪に鼻を押し当てると彼女の香りが鼻を抜けて安心した。
僕の想いは『愛している』ではない。
僕が女性を愛することはないと思う。これは育った環境にせいなのかもしれない。
父上には正妻の母上の他に妾が6人いたし、使用人や町人にも手を出していた。
貴族とは、一人の女性を愛するのではなく妾を何人も抱えて優秀な子孫を残すものであると教わって育った。
まぁ僕はもう貴族ではないけれど……。
ノエルは囁く。
「もう少し、こうしていたい……」
「うん……」
まだやれないのか……早くやらせてくれないかな……。そうだ、前から気になっていたことを聞いてみよう。
「ノエルは奴隷になる前は何をしていたの? 君の髪の色はとても珍しい。ローターの民ってアイツは言っていたけど……」
「えっとね。私が生まれた国は東倭国の南にある小さな島国で、琉琉魔王国って国なんだけど……。大昔にルルっていう魔王がつくった国なんだ」
東倭国はこの大陸の最東端の更に先にある島国だ。黒い髪に黒い瞳が特徴的な民族で工芸に長けている国でもある。
しかし琉琉魔王国というのは聞いたことがない。東倭国の南にある小さな島国か……。ここからだとかなり遠いな。
「小さな島だから人口が増えると食べ物が減って、だからお父さんとお母さんは島を出て仕事を探して、ビッグベニス王国で冒険者になったのよ」
「じゃぁノエルの両親は冒険者だったのか……」
「うん、そうだよ。……でもあの日、ギルドの仕事で商団の護衛をしているところを野盗に襲われて、お父さんとお母さんは殺されて、私は捕まって奴隷商人に売られたの」
「そうだったのか……。災難だったな」
ノエルは両親の仕事を見ていたから将来は冒険者になりたかったのか。
野盗に襲われて命を落とすなんてことは、さほど珍しくない。リンダナ侯爵領でも年に何件も報告があった。それにモンスターもそこらじゅうにいるから人が簡単に死ぬ。
「でも悪いことばかりじゃないよ。……こうしてゼツ君と出会えた。えへへへへ」
ノエルの体を抱きしめている僕の腕を彼女はギュッと抱き寄せると恥ずかしそうに笑う。
それから少し沈黙して、彼女はクルリと振り返り顔を合わせると目を閉じ顎を上げて僕に唇を差し出した。
「ちゅっ……んっ、んっ……しよっか?」
「うん……ちゅっ…」
今日はいつもとは違いノエルは僕を激しく求め、僕もそんなノエルを求めた。
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