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第11話 魔神アエロリット

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 空に浮いた少女は、何処から飛んできたわけでもなく、唐突にそこに出現した。


 年齢は12歳くらいだろうか?
 紫色のウェーブ掛かった長い髪、幼ない頬はあどけなく、両目は閉じられ瞳の色はわからない。口元に薄い笑みを貼り付けている。
 
 黒い日傘をさし、黒いゴスロリドレスを着た少女の体には無数の蛇が絡み付いている。

 見た目は幼いのに途轍もなく邪悪なオーラを感じる。

 僕のインテリジェンスが警告を発している。危険だと。

 この少女の強さは底が見えない。例えるならアリと象、それが僕とこの少女の実力差だ。
 そして絡みついている蛇、こいつ等も一匹一匹が背筋が凍る程に強く、僕の力ではこの蛇の足元にも及ばない。

「クツクツクツ、よもやよもや。まことに5千年周期で生まれおったわ」

 僕達の頭上で、宙に浮いた少女はこちらに顔を向けクツクツと笑い、楽しそうに呟た。

「ゼツ君の知り合い?」

「いや、違うよ」

 スキルで浮いているのか?
 僕は無視して進むわけにもいかず彼女に話し掛けた。

「何か用ですか?」

「ふむ、ゼツ・リンダナ、17歳、レベル102、レベルが上がったのは一昨日、か。……わらわが探せぬわけよのう」

 僕の情報!何故知っている?何者だ!?

「何者かと?」

「っ!?……心を読めるのか?」

「当然じゃ。……ふむ、お主にとって妾が何者かと言うのであれば、妾はお主の母であり娘であり妻であるな。クツクツクツクツ」

 意味がわからない。僕の家族にこんな得体の知れない者はいなかった。

「今はわからなくて良い。お主、奴等とまだ接触していないようじゃな。クツクツああ~、愉快愉快、ならば話は早い。
 アクティブスキル〈神の隠蔽〉!」

 僕の体が黒い光に包まれ、その光はすぐに四散した。

「な、何をしたッ!?」

「なぁーに、裏切り者に見付からぬようお主を隠したまでじゃ。害はない」

「裏切り者?」

「龍神と人神じゃ」

 りゅうじん?じんしん?誰だそれ?

「奴らは盟約を破り、妾の力の殆どを封じおった。……じゃが」

 少女はニヤリと笑い、次の瞬間――、その場から消えると同時に僕の目の前に現れた。

 彼女の手が僕の頬を撫でる。

「妾が最初に見付けた。主よ、早よ強くなって妾に子をつくってくりゃれ」

 小さな顔、真っ白い肌、紫色の長いまつ毛、目は閉じられ瞳の色は分からないが、この世のものとは思えない、浮き世離れした美少女。

「僕がお前を妊娠させるってことか?」

「無論。お主にしかできんことじゃっ。お主の〈種強化Lv250〉ならそれができる」

 〈種強化Lv250〉だと!?バカな、あり得ない!

 パッシブスキル〈種強化〉はレベルが10上がるごとに1上昇する。
 つまりレベル2500で〈種強化Lv250〉を発動できる計算になる。

 このビッグベニス王国で語り継がれる伝承にレベル300の【SR勇者】が登場する。だがそれはあくまでも伝説で、そこまで高レベルになる人間など存在しない。
 
 それがレベル2500って……。

「そんなことが可能なのか?」

「可能よな。じゃが人の命は短い。5年前、お主の誕生に合わせて妾の眷属をつくった。 妾はMPを封じられ大魔法を使うことができぬ故、その眷属に力を与えお主のレベル上げを手伝ってやろう」

「力?」

「クツクツ大呪魔法だいじゅまほうEDじゃっ」

 なんだよそれ?意味がわからない。

「ふむ、ところで後ろの女、お前ローターの民じゃな?そのピンクの髪、元は妾の眷属の証よ」

「ピンクのローター?」

「ゼツ君、私の名前はノエル・ローターって言うの」

「ふむ。お前無加護じゃな。……ああ~これはこれは、運が向いてきたわ。それになかなかの潜在能力を秘めておる。これならば……、クツクツ。どれ、お前に加護を授けてやろう」

 少女はノエルに手を伸ばし詠唱を始めた。
 僕はノエルを背負っていることもあり、少女の圧倒的な実力を前に動くことができない。

 ――この詠唱、〈加護の儀〉だ!

 僕におぶられていたノエルの体が光に包まれる。
 詠唱が終わると少女は僕らから離れ、スッと空へ浮かんだ。

 ノエルの光が収まると、少女に目をやりながら僕はノエルを地面に降ろす。

「ノエル、大丈夫か?」

「……うん、……私、加護を授かった。私の加護は【HNレッサーデーモン】!」

「都合が良いでな。人の身で成れる至高の加護にしておいたぞ。クツクツ、感謝するがよい」

 僕は侯爵家にいた頃、ありとあらゆる種類の加護を学んだ。しかし【HNレッサーデーモン】、聞いたことがない加護だ。

「そろそろMPが限界じゃな。残念じゃがもう行く。お主よ。強くなったら龍神を殺してくりゃれ」

 この子は何を言っているんだ?それに本当に何者なんだよ?

「そうじゃな、名を名乗っておらなんだ。妾に名をくれた父に名乗るのも不思議な感覚じゃが……」

 少女は切ない表情で微笑んだ。

「 アエロリット。 妾は魔神アエロリットじゃ。 主よ。妾は主の女じゃ、困ったことがあれば妾の名を念じよ。

 ではまた会おう……ゼツ」


 そう言い残し、少女はその場からスッと消えた。



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