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第6話 テントの中で

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【ノエル視点】


 ゼツ君かっこ良かったなぁー。それに優しかった。
 奴隷って言ってたけど雰囲気や物腰は高貴な感じで……。

 こんな高いお店で女を買えるんだから、実はお金持ちの貴族様だったりして?それはないか……。

 奴隷でもレベルが高いと給金が多いのかな? ゼツ君のステータス凄かった。

 文字が読めないから加護はわからなかったけど、レベルが102なのはわかった。
 レベル30あれば凄く強いって聞いたことがある。そういう人は年を取った人が殆どで……。
 でもゼツ君は17歳。
 凄いなぁー。凄いよゼツ君、……ゼツ君。また君に会いたいな。

 ゼツ君みたいな人と一緒に冒険者になって、心躍る楽しい冒険の旅ができたらどんなに幸せなのだろう。


 ……でも私は、一生このままなんだよね。レベルはずっと0、毎日作り笑いで嫌な男の相手して……年を取る。

 そう思ったら自然と涙が頬を伝った。

 あれ……涙が、止まらない。

「えっぐ……うっ、うっ……、うぅぅ」

 諦めていた筈なのに……。
 一生娼婦をするって……。
 冒険者にはなれないって……。
 誰も好きにならないって……。

 だけど、私、なんの為に生まれたんだろう?



【ゼツ視点】


 ノエルのテントの前に立つと中から泣き声が聞こえた。

「ノエル?」

 僕がテント開けると昨日と同じ黒のネグリジェ姿のノエルが一人で泣いていた。

「え?あれ?ゼツ君?どうして?……夢?」

「誰かに酷いことされたのか?」

「うんん、違うの、たまに一人で泣いちゃうことがあって……。それよりゼツ君こそどうしてここにいるの?」

 ノエルのあどけない蒼い瞳と頬が涙で濡れて妖しく美しい。

「僕はここから逃げて、どこか遠い街で冒険者を始めることにしたよ。それで……ノエルも連れて行こうと思って声を掛けに来た。よかったら僕と一緒に逃げないか?」

「――――ッ!? うっ……えっぐ、えっぐ」

 ノエルはまた泣き出してしまった。
 いったい何があったんだろう?

「ノエル?」

「いぎたきたい……うっぅう。私も……一緒に行きたい」

「ああ、なら一緒に行こう!」

 僕はクッションに座り泣いていたノエルに手を差し伸べた。

 彼女はその手を掴み、僕は強く引く。
 勢いよく立ち上がったノエルは僕と抱き合った。

 ノエルの体は華奢で僕の腕が簡単に彼女の腰に回ってしまう。

 僕達は至近距離で見詰め合う。

「ただ暫くは野宿になるけど、大丈夫か?」

「うん、平気。今から行くの?」

「今から出発する」

「それに私、早く走れないけど、足手まといになるよね?」

 瞳を涙で濡らし申し訳なそうに眉を潜める彼女に僕は笑顔で答えた。

「大丈夫だよ。ノエルが〈加護の儀〉を受けてレベルが上がるまで、僕が君をおぶって移動する。僕のステータスなら余裕でできる」

「……ありがとう。ありがとうゼツ君。私もできることは何でもするね!」

 僕は微笑み、ノエルも笑った。
 こうして僕達は一緒に旅立つことになった。


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