♡してLv.Up【MR無責任種付おじさん】の加護を授かった僕は実家を追放されて無双する!戻ってこいと言われてももう遅い!

黒須

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第5話 日頃の恨み

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 僕は笑みを漏らす。

「丁度いい」

 実家を追放されてから今日まで、唯一優しくしてくれたノエルに少しだけ恩返しができる。


 今夜か明日の夜、ここから逃げるつもりでいた。こっそり行く予定だったが、堂々と逃げたところでLv100超えの僕を誰も追ってこれないだろう。ならば最後に一仕事してから行こう。

 僕はパイセンさん、いやパイセンの横へ歩み寄ると彼の肩を掴んだ。

「ああ?んだゼツぅ??」

「おい、パイセン、いい歳してダセーことするなよ。かっこ悪いぞッ 」

「あ゛あ゛あ゛!?んだとゴラぁ!?」

 パイセンは僕の胸ぐらを掴み、睨み付けてくる。額に青筋を浮かべ目は血走り凄みを利かせてくるが、コイツはレベル9だ。

 戦闘においてレベル1や2程度の差では大した違いはないが、10も違えば圧倒的な戦力差になることを僕は侯爵家で学び知っている。

 それに僕のステータス、インテリジェンスが教えてくれる。今の僕にとってコイツは羽虫程の力しかないと。

 僕はニヤリと笑いパイセンを挑発する。

「クソザコボケカスのパイセンさーん、イキれるのも今日までだぞ」

「ゼツ頭おかしくなっちまったのかッ!?殺されるぞッ!」
「そうだぞ、土下座して赦しを乞えば殺されらずに済む。早く謝っちまえぇ!」

 周りにいた奴隷達が忠告してくる。

 ふんっ、見当違いも甚だしい。
 今この場で、殺されそうになっているのは僕ではない。パイセンだ。

 毎日、毎日、毎日、何回も僕を殴って殴って殴り続けてきた。酷い罵声を浴びせ続けてきた。食事に泥を入れられたこともあったな。

 それでも僕は仕返しせずに、この地獄のような現場からこっそり消えるつもりでいた。
 けれど無加護のノエルに暴力で酷いことをするつもりなら、コイツに分からせてやる必要がある。

 暴力に支配される恐怖を、惨めさを!

「毎日過労で一人や二人死ぬ現場だぁ!てめぇ一人死んでも誰も気に留めねぇ。くくくく。謝ってももう遅えよ。俺はお前を殺すぜッ!」

「やってみろよ?ザーコ」

 パイセンは左手で僕の胸倉を掴んだまま右手を後ろに引いた。

「【HN武闘家】アクティブスキル〈鉄拳〉!!てめぇーの顔なんざぺしゃんこだぜッ!おらぁああああッ!!」

 薄っすら闘気を纏った右ストレートが僕の顔めがけ飛んで来る。アジリティで強化された動体視力の前ではスローモーションように見える。

 なかなか顔まで飛んでこないパイセンの鉄拳《パンチ》をのんびり眺めていると気付いた。パイセンの手が汚れいる。

 ちっ、手くらい洗えよ。 顔で受け止めて驚かせようと思ったが、やめた。僕は指一本でパイセンの鉄拳を受け止める。

「はぁ?????」

 パイセンは振り抜いたと思ったパンチを止められて、自分の拳と僕の顔を交互に見ながら間抜けな顔をしている。

 僕はパイセンの拳を掴んで瞬間的に腕を捻り肩の関節を外した。
 パイセンの右腕がだらんと垂れ下がる。

「え?え?え?え?はぁ?」

 余りの速さに何が起きたかわからないパイセン。
 次に僕の胸倉を掴んでいるパイセン左手を握る。

「いでぇぇえええええ!」

 パイセンは僕の握力に負けて手を離した。
 掴まれた手を引き離そうと必死に手や体、腰に力を入れているようだが全く動かない。レベルが上がる前の僕がスプーンを持ち上げる程度の力で、今の僕はパイセンの必死の抵抗を阻止している。

「パイセン、暴力で弱者を脅すのダサいからもう止めない?」

「あ゛あ゛ん!?これからてめーをさんざん脅して嬲って、最後にはぶっ殺してやんよぉお、んぎゃッ!!」

 僕は左手の指を一本折った。

「んなろぉおおおおおお!!」

 パイセンは回し蹴りを僕の足に打ち込むが痛くも痒くもない。

「んぎゃぁああああああ!!」

 生意気だからもう一本折った。

「おい、クソ雑魚。自分の立場をわきまえろよ。心を入れ替えるななら許してやるよ?どうする?」

「…………、い゛ッぎゃぁああああああ!!」

 悔しそうに睨み付けるだけで返事をしないからもう一本折った。

「お前、さっき毎日一人や二人死んでる現場だから僕一人死んでも誰も気に留めないって言ってたよな?んじゃ、お前死んでも問題ないよな?」

「ず……ず……ずみまぜんでしだ…………」

 勝てないと諦めたのか、パイセンは歯が砕けそうな程、歯を噛み締め、激しい怒りの形相で謝ってきた。

「もう弱い者いじめ、やめるな?」

「やりません……」

 僕はパイセンの手を放してやった。
 力が抜けたパイセンはその場にへたり込む。

「僕はこれから自分の好きなように生きる。 次にお前を見掛けた時、同じようなことをしていたら殺すからな?」

「…………」

 返事はなかった。

 僕もパイセンと同じことをやっている訳で、こんなことでパイセンが心を入れ替えたとは思えない。でもこれでノエルに酷いことはできないだろう。

 僕は振り返り、その場を歩いて離れる。
 騒ぎを聞き付けた野次馬がたくさん集まっていたが、誰も僕に話し掛けてこなかった。

 まぁ友達なんて一人もいなかったしな。





 商業キャラバンの喧騒から離れ一人になった僕は覚悟を決める。
 今から走り出して遠い遠い土地を目指す。

 そこで僕は――。

 そこで僕は何をしよう?
 何も考えていなかった。

 昨日のノエルの言葉が過ぎる。

 ――――僕は冒険者になろう。

 ノエル……、一緒に行きたいって言うかな?最後に聞くだけ聞いてみるか……。


 僕は昨日ノエルがいたテントへ向かって歩き出した。




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