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第二章 龍姫と運命の御子
1話 次なる目標
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ハリヴァス式。
御三家の一つ・ハリヴァス家を最強の剣術名家たらしめる修練法。
それがもたらす効果とはーー
あらゆる攻撃を弾く『金剛体』。
あらゆる毒を防ぐ『超免疫』。
溶岩を浴びても火傷一つ負わない『熱耐性』。
極寒の地を身一つ走破する『寒冷耐性』。
致命傷を物ともしない『再生力』。
これらを得るのは大きく3つの関門が存在する。
第一の関門は仙丹を飲み、破壊と回復の合間から「超免疫」と「再生力」を掬い上げるもの。
実に3日間にわたる苦痛の嵐だが、直系の多くは幼い頃にそれを経験したため記憶には残っていない。
そんな彼らは、口を揃えてこう言う。
ーー第二関門こそ、鬼門である。
◆
リオンの不死鳥契約から2週間が経過した頃。
魔力も万全に回復したリオンは、庭で剣を振るっていた。
剣を右上高く振り上げ、斜めに切り下す。
ーー北斗剣辰第一星・天枢
そのまま剣を返し、左一文字のひと薙ぎを放つ。
ーー北斗剣辰第二星・天璇
剣が空中で円を描くように一周し、魔力の障壁を形成する。
ーー北斗剣辰第三星・天璣
第一運命線で習得していたハリヴァスの剣技を今、リオンは試していた。
「お見事です! 坊ちゃま!!」
修行を終えると、専属侍女のアイリスはすかさずタオルを差し出す。
そんな二人を傍で観察していた濡羽色の髪をした赤目の女性ーーリーナは顎に手を当て、思索する。
「……リオン坊ちゃま。今のは、ハリヴァスの『北斗』ですか?」
リーナの質問に、リオンは無言で彼女へ視線を送る。
ジファとの契約上、答えとなることは言えない。だから察しろ、という視線である。
それに眷族のリーナが気づけないはずもない。
「なるほど。かつての世界では、坊ちゃまはハリヴァスにいたのですね……なんと、規格外の力」
例え他人の秘伝や秘密であっても、それが進むべき未来に存在するものであれば知ることができる。
そのアドバンテージは、想像を絶するものだ。
「というわけだ。剣については二人から学ぶことは特にない。すまないな、アイリス」
「とんでもないです!! アイリスは坊ちゃまが成長される姿を目の当たりにできて、感動感激幸福です!」
「アイリス嬢ではありませんが、私も同感です。剣を学ぶ時間を他に費やせますので」
モノクルを軽く上げ、資料を取り出すリーナ。
「目下の急務は、騎士団の設立及び眷族の勧誘かと思われます。リオン坊ちゃまがウィルヘルム様と敵対された以上、早急に戦力を揃えるべきだと進言いたします」
「まあ、妥当か。妥当ではあるが……その二つは後回しだ」
「承知いたしました。では再度草案を練り直してまいります」
「……理由を聞かないのか?」
「坊ちゃまがそう判断された以上、私如きが意見すべきではないかと」
それは、未来を知るリオンへの信頼。だが、同時に盲信でもある。
「私はイエスマンを傍に置いたつもりはないぞ、リーナ。アイリスがあれな以上、私に意見できるのはお前しかいない」
「坊ちゃま、言い方にトゲがありますですぅ」
「各々の役割があるってことだ。いいな、リーナ?」
少し眉をひそめたリオンは、リーナを見つめ言い放つ。
そんなリオンを見て、リーナはどこか満足そうにうなづく。
「さすがです、坊ちゃま」
「私を試したのか? っふ、生意気なやつめ」
「申し訳ありません。出過ぎた真似を」
「いや、それでいい。今後とも変わってくれるなよ」
汗を拭き終えたリオンはタオルをアイリスに手渡しながら、言葉を続ける。
「話を戻そう。目下の最優先課題だが――私も含めたこの場にいる全員のレベルアップだ」
「私たち含めて、ですか? 騎士団結成以上の急務とは思えませんが……それに、個人の戦力を必要とするなら、尚更新たな眷属を勧誘すべきのでは?」
「それは一時凌ぎに過ぎない。私にとっての最優先事項は、より先の未来へ繋ぐ為の伏筆を残すことだ」
一度言葉を区切り、リオンはさらに続ける。
「調べた限り、分家の中でリーナ以上に優秀な人材はいない。であれば、あえて声をかける必要はない」
「しかし、専門性の高い能力を持つ者もおります。私の同期にも、武具製作や領地運営に精通している分、その他の成績がふるわない者がいました」
「だが、彼らは血族とは契約していない。いや、できない。違うか?」
「それは……」
「アンブロシアでは一芸に秀でただけの者は軽視される。ありとあらゆるスキルを揃えてこそ、アンブロシアに仕えるに相応しい。無論、私はそんなつもりない。そんなつもりはないが……」
「何かご懸念が?」
「私が動いたせいで、ウィルヘルムを刺激しかねない。あいつはああ見えて僻みっ子だからな。禁書庫の件で目立ってしまった以上、私が欲した人材を横取りされかねない」
それが、ハリヴァスの魔剣士としてウィルヘルムを何度か見たリオンが下した評価である。
「今は時期尚早だ。下手に動いたせいで、要らぬ火種となるかもしれん」
「そう、ですか……眷族の件は承知しました。ですが、騎士団はどうなさいますか? 二年前に契約されたディアーク様はすでにご自身の騎士団を持っておられます。何より、ウィルヘルム様に対抗するためには、騎士団の存在は不可欠です」
ーーアンブロシアの騎士団
アンブロシアの血族は、それぞれの騎士団を有していた。
有事の際に動かす私兵のような存在。彼らには血族の薄めた血液が与えられ、僅かな束縛と引き換えにアンブロシアの力が行使できる。
騎士団を含めた疑似戦争のような序列戦もあるため、血族にとって強力な騎士団は不可欠である。
「これも、理由はさっきとさほど変わらん。家内から人を集めるのは不可能だ」
「有名な騎士や冒険者に声をかけるという手段もございます。こちらは家内にこだわる必要はないかと」
「もちろんそれも考えた。すでに目をつけてる相手もいるが……生憎奴はまだ無名だ。そのうち傭兵団を結成するだろうが、今は探し出すことすら難しい」
後半は半ば独り言のように、曖昧な言葉を零すリオンリオン。
これによって、一部ではあるがジファの制約をかいくぐることができる。
「それに、現状騎士団の結成はそれほど急ぎというわけではない。敵を見誤るな」
「と、おっしゃいますと?」
「ウィルヘルムに対抗するという意味では、付け焼刃の騎士団など役には立たん。ならば居ない方がずっと動きやすい。他の兄弟にしてもそうだ。契約の儀のあれを見て、私を目障りに思っても、脅威だと思うものは少ないだろう」
契約の儀では、リオンは小さな翼しか得られなかった。
それは、矮小な不死鳥と契約した証ともいえる。
リカードのような目ざといものは何か気付いているかもしれないが、ほとんどの血族はリオンを軽視している。
その現状を、生かさない手はない。
「ウィルヘルム本人が動けない以上、誰かをけしかけるしかない。その手先は――イネッサとカールのどちらかだろう」
アンブロシア家三女・序列第七位。
イネッサ・アンブロシア。
アンブロシア家六男・序列第八位。
カール・アンブロシア。
「イネッサは喜んで敵を増やすタイプではないから、来るなら十中八九カールだろう。となると、見据えるべき敵は――カール・アンブロシアだ」
序列ではリオンの一つ上。だが、その差は数字以上に開いている。
相手は十年以上前に幼鳳宮を出た生粋のアンブロシア。
眷族の数は十を超え、自身の騎士団も所有している。
だが――
「序列は向こうの方が上だが、負ける気はしない。奴の眷族の中で最強は第六位階の侍女。対するこちらは、アイリスに加えリーナもいる」
「ですが、リオン坊ちゃま。戦力差はあまりにも大きい。不甲斐ない限りですが、私たちだけでは……」
「総力戦になると決まったわけではない。序列戦の形式は下の者に選択権が与えられるからな」
序列戦の形式は大きく二つに分けられる。
ーー血闘か戦争か。
血闘は、眷族を含めた一対一の決闘。勝者がその場に残る、いわゆる勝ち抜き戦である。
一方戦争は、眷族・騎士団込みの乱戦。ルール一切なしの純粋な殺し合い。
「簡単な話、血闘でリーナがカール含め全員倒せば私たちの勝ちだ」
「……理解しました。私とアイリス嬢のレベルアップが急務なのはそのためですね」
「まあそういうことだ。無論理由は他にもあるが……」
(カールのような小物は正直どうでもいい。だが、ヨヴ帝国のあれは気がかりだ。裏にいるのは確かーー)
第一運命線の記憶を掘り起こしつつ、目の前の二人に意識を向ける。
「ひとまず二人には第七位階を目指してもらう」
「はい。勿論、そのつもりでーー」
「猶予は一年。それまでに至れ」
「「っ!?」」
「その間、私はこの体を仕上げつつ、第四位階に挑戦する」
アイリス、リーナともに第六位階に到達して久しい。
しかし、それでも第七位階の壁すら見えずにいた。
それほどまでに位階の壁は遠く、才能のない者を絶望させてきた。
それでも、才能溢れる二人はいずれ到達できると信じていた。
しかしそれは数年、或いは十年先のことだと思っていた。
「坊ちゃま。一年、でございますか? それはいくら何でも……」
「無茶か? だが私は二人ならできると思っている」
「「…………」」
与えられた試練の厳しさ。
リオンが寄せてくれている信頼。
それを裏切りかねない自身の不甲斐なさ。
それらの事象がアイリスとリーナの脳内を支配し、言葉を詰まらせる。
そんな二人を見たリオンは一言。
「っふ。もたもたしていると、あっという間に私が追い抜てしまうぞ?」
「「っ!?」」
「一つアドバイスをするなら、ジファの力をうまく使え。私が言えるのはそこまでだ」
そういって、リオンは外套を手に取り、歩き出す。
「ぼ、坊ちゃま? どちらへ行かれるのです?」
「頃合いだからな。父上に会いに行く」
にやりと頬を歪ませ、リオンは言い放つ。
「折角いい着火剤が手に入ったんだ。体を仕上げよう」
ハリヴァス式を先へ進めるためにリオンは当主リカード、否、焔の不死鳥フォティアを訪ねるのであった。
御三家の一つ・ハリヴァス家を最強の剣術名家たらしめる修練法。
それがもたらす効果とはーー
あらゆる攻撃を弾く『金剛体』。
あらゆる毒を防ぐ『超免疫』。
溶岩を浴びても火傷一つ負わない『熱耐性』。
極寒の地を身一つ走破する『寒冷耐性』。
致命傷を物ともしない『再生力』。
これらを得るのは大きく3つの関門が存在する。
第一の関門は仙丹を飲み、破壊と回復の合間から「超免疫」と「再生力」を掬い上げるもの。
実に3日間にわたる苦痛の嵐だが、直系の多くは幼い頃にそれを経験したため記憶には残っていない。
そんな彼らは、口を揃えてこう言う。
ーー第二関門こそ、鬼門である。
◆
リオンの不死鳥契約から2週間が経過した頃。
魔力も万全に回復したリオンは、庭で剣を振るっていた。
剣を右上高く振り上げ、斜めに切り下す。
ーー北斗剣辰第一星・天枢
そのまま剣を返し、左一文字のひと薙ぎを放つ。
ーー北斗剣辰第二星・天璇
剣が空中で円を描くように一周し、魔力の障壁を形成する。
ーー北斗剣辰第三星・天璣
第一運命線で習得していたハリヴァスの剣技を今、リオンは試していた。
「お見事です! 坊ちゃま!!」
修行を終えると、専属侍女のアイリスはすかさずタオルを差し出す。
そんな二人を傍で観察していた濡羽色の髪をした赤目の女性ーーリーナは顎に手を当て、思索する。
「……リオン坊ちゃま。今のは、ハリヴァスの『北斗』ですか?」
リーナの質問に、リオンは無言で彼女へ視線を送る。
ジファとの契約上、答えとなることは言えない。だから察しろ、という視線である。
それに眷族のリーナが気づけないはずもない。
「なるほど。かつての世界では、坊ちゃまはハリヴァスにいたのですね……なんと、規格外の力」
例え他人の秘伝や秘密であっても、それが進むべき未来に存在するものであれば知ることができる。
そのアドバンテージは、想像を絶するものだ。
「というわけだ。剣については二人から学ぶことは特にない。すまないな、アイリス」
「とんでもないです!! アイリスは坊ちゃまが成長される姿を目の当たりにできて、感動感激幸福です!」
「アイリス嬢ではありませんが、私も同感です。剣を学ぶ時間を他に費やせますので」
モノクルを軽く上げ、資料を取り出すリーナ。
「目下の急務は、騎士団の設立及び眷族の勧誘かと思われます。リオン坊ちゃまがウィルヘルム様と敵対された以上、早急に戦力を揃えるべきだと進言いたします」
「まあ、妥当か。妥当ではあるが……その二つは後回しだ」
「承知いたしました。では再度草案を練り直してまいります」
「……理由を聞かないのか?」
「坊ちゃまがそう判断された以上、私如きが意見すべきではないかと」
それは、未来を知るリオンへの信頼。だが、同時に盲信でもある。
「私はイエスマンを傍に置いたつもりはないぞ、リーナ。アイリスがあれな以上、私に意見できるのはお前しかいない」
「坊ちゃま、言い方にトゲがありますですぅ」
「各々の役割があるってことだ。いいな、リーナ?」
少し眉をひそめたリオンは、リーナを見つめ言い放つ。
そんなリオンを見て、リーナはどこか満足そうにうなづく。
「さすがです、坊ちゃま」
「私を試したのか? っふ、生意気なやつめ」
「申し訳ありません。出過ぎた真似を」
「いや、それでいい。今後とも変わってくれるなよ」
汗を拭き終えたリオンはタオルをアイリスに手渡しながら、言葉を続ける。
「話を戻そう。目下の最優先課題だが――私も含めたこの場にいる全員のレベルアップだ」
「私たち含めて、ですか? 騎士団結成以上の急務とは思えませんが……それに、個人の戦力を必要とするなら、尚更新たな眷属を勧誘すべきのでは?」
「それは一時凌ぎに過ぎない。私にとっての最優先事項は、より先の未来へ繋ぐ為の伏筆を残すことだ」
一度言葉を区切り、リオンはさらに続ける。
「調べた限り、分家の中でリーナ以上に優秀な人材はいない。であれば、あえて声をかける必要はない」
「しかし、専門性の高い能力を持つ者もおります。私の同期にも、武具製作や領地運営に精通している分、その他の成績がふるわない者がいました」
「だが、彼らは血族とは契約していない。いや、できない。違うか?」
「それは……」
「アンブロシアでは一芸に秀でただけの者は軽視される。ありとあらゆるスキルを揃えてこそ、アンブロシアに仕えるに相応しい。無論、私はそんなつもりない。そんなつもりはないが……」
「何かご懸念が?」
「私が動いたせいで、ウィルヘルムを刺激しかねない。あいつはああ見えて僻みっ子だからな。禁書庫の件で目立ってしまった以上、私が欲した人材を横取りされかねない」
それが、ハリヴァスの魔剣士としてウィルヘルムを何度か見たリオンが下した評価である。
「今は時期尚早だ。下手に動いたせいで、要らぬ火種となるかもしれん」
「そう、ですか……眷族の件は承知しました。ですが、騎士団はどうなさいますか? 二年前に契約されたディアーク様はすでにご自身の騎士団を持っておられます。何より、ウィルヘルム様に対抗するためには、騎士団の存在は不可欠です」
ーーアンブロシアの騎士団
アンブロシアの血族は、それぞれの騎士団を有していた。
有事の際に動かす私兵のような存在。彼らには血族の薄めた血液が与えられ、僅かな束縛と引き換えにアンブロシアの力が行使できる。
騎士団を含めた疑似戦争のような序列戦もあるため、血族にとって強力な騎士団は不可欠である。
「これも、理由はさっきとさほど変わらん。家内から人を集めるのは不可能だ」
「有名な騎士や冒険者に声をかけるという手段もございます。こちらは家内にこだわる必要はないかと」
「もちろんそれも考えた。すでに目をつけてる相手もいるが……生憎奴はまだ無名だ。そのうち傭兵団を結成するだろうが、今は探し出すことすら難しい」
後半は半ば独り言のように、曖昧な言葉を零すリオンリオン。
これによって、一部ではあるがジファの制約をかいくぐることができる。
「それに、現状騎士団の結成はそれほど急ぎというわけではない。敵を見誤るな」
「と、おっしゃいますと?」
「ウィルヘルムに対抗するという意味では、付け焼刃の騎士団など役には立たん。ならば居ない方がずっと動きやすい。他の兄弟にしてもそうだ。契約の儀のあれを見て、私を目障りに思っても、脅威だと思うものは少ないだろう」
契約の儀では、リオンは小さな翼しか得られなかった。
それは、矮小な不死鳥と契約した証ともいえる。
リカードのような目ざといものは何か気付いているかもしれないが、ほとんどの血族はリオンを軽視している。
その現状を、生かさない手はない。
「ウィルヘルム本人が動けない以上、誰かをけしかけるしかない。その手先は――イネッサとカールのどちらかだろう」
アンブロシア家三女・序列第七位。
イネッサ・アンブロシア。
アンブロシア家六男・序列第八位。
カール・アンブロシア。
「イネッサは喜んで敵を増やすタイプではないから、来るなら十中八九カールだろう。となると、見据えるべき敵は――カール・アンブロシアだ」
序列ではリオンの一つ上。だが、その差は数字以上に開いている。
相手は十年以上前に幼鳳宮を出た生粋のアンブロシア。
眷族の数は十を超え、自身の騎士団も所有している。
だが――
「序列は向こうの方が上だが、負ける気はしない。奴の眷族の中で最強は第六位階の侍女。対するこちらは、アイリスに加えリーナもいる」
「ですが、リオン坊ちゃま。戦力差はあまりにも大きい。不甲斐ない限りですが、私たちだけでは……」
「総力戦になると決まったわけではない。序列戦の形式は下の者に選択権が与えられるからな」
序列戦の形式は大きく二つに分けられる。
ーー血闘か戦争か。
血闘は、眷族を含めた一対一の決闘。勝者がその場に残る、いわゆる勝ち抜き戦である。
一方戦争は、眷族・騎士団込みの乱戦。ルール一切なしの純粋な殺し合い。
「簡単な話、血闘でリーナがカール含め全員倒せば私たちの勝ちだ」
「……理解しました。私とアイリス嬢のレベルアップが急務なのはそのためですね」
「まあそういうことだ。無論理由は他にもあるが……」
(カールのような小物は正直どうでもいい。だが、ヨヴ帝国のあれは気がかりだ。裏にいるのは確かーー)
第一運命線の記憶を掘り起こしつつ、目の前の二人に意識を向ける。
「ひとまず二人には第七位階を目指してもらう」
「はい。勿論、そのつもりでーー」
「猶予は一年。それまでに至れ」
「「っ!?」」
「その間、私はこの体を仕上げつつ、第四位階に挑戦する」
アイリス、リーナともに第六位階に到達して久しい。
しかし、それでも第七位階の壁すら見えずにいた。
それほどまでに位階の壁は遠く、才能のない者を絶望させてきた。
それでも、才能溢れる二人はいずれ到達できると信じていた。
しかしそれは数年、或いは十年先のことだと思っていた。
「坊ちゃま。一年、でございますか? それはいくら何でも……」
「無茶か? だが私は二人ならできると思っている」
「「…………」」
与えられた試練の厳しさ。
リオンが寄せてくれている信頼。
それを裏切りかねない自身の不甲斐なさ。
それらの事象がアイリスとリーナの脳内を支配し、言葉を詰まらせる。
そんな二人を見たリオンは一言。
「っふ。もたもたしていると、あっという間に私が追い抜てしまうぞ?」
「「っ!?」」
「一つアドバイスをするなら、ジファの力をうまく使え。私が言えるのはそこまでだ」
そういって、リオンは外套を手に取り、歩き出す。
「ぼ、坊ちゃま? どちらへ行かれるのです?」
「頃合いだからな。父上に会いに行く」
にやりと頬を歪ませ、リオンは言い放つ。
「折角いい着火剤が手に入ったんだ。体を仕上げよう」
ハリヴァス式を先へ進めるためにリオンは当主リカード、否、焔の不死鳥フォティアを訪ねるのであった。
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