不死鳥の箱庭~無能だと追放されたが運命の不死鳥と契約して全てをやり直す~

鴉真似≪アマネ≫

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第二章 龍姫と運命の御子

プロローグ シャーロット・フォルティーナ

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 不屈の家門・ハリヴァス家。
 アンブロシア家とライフォス家と共に御三家の一つに数えられる世界屈指の名門。
 接近戦において敵なし。
 金剛にも勝る肉体。
 世界最高峰の剣術。
 万毒不侵の耐性。
 
 ――ハリヴァスの正面には立つな。

 ハリヴァスと正面からぶつかるのは無謀とさえ言われている。
 あのアンブロシア家とて、ハリヴァスとの正面衝突は望まない。

 そんなハリヴァスの武は3つの騎士団に支えられている。
 
 第九位階到達者のみで構成される世界最強の武力集団――天騎士団。
 竜を乗りこなし、天空戦地上戦ともに無双を誇る――龍騎士団。
 魔法と剣を巧みに操り、あらゆる任務をこなす――魔剣士団。

 天騎士団が最強なのは言うまでもないが、残りの2つの騎士団も大国の軍などよりもはるかに強い。
 その強さは、一個大隊で七大列強クラスの一個師団を壊滅させられるほど。

 そんな魔剣士団の末席に、元アンブロシア家八男・リオンが身を寄せていた。

「おい! リオン!! あまり飛ばしすぎるな!!」
「クソだめだ聞いちゃいねぇ。おいてめぇら、フォローに回るぞ」
「「「うっす」」」

 元アンブロシア家の血族でありながら契約に失敗し路頭に彷徨い、コソ泥の真似事を繰り返して食い繋いできた男。

 そして彼は愚かにも、ハリヴァス家当主ラファエル・ハリヴァスの懐にも手を伸ばした。

 しかしーー

 ーー端金だ。欲しけりゃくれてやる。だがおめぇ、そりゃ死路だぜ。

 ーーあぁ? まだガキじゃねぇか。倅と大して変わんねぇ歳か。

 ーー来い。飯食わせてやる。ガキが腹を空かせてんのは気分が悪い。

 ーー男がそんな痩せこけてどうすんだ。いざってなったら大事なもん取りこぼすぞ。

 紆余曲折あり、リオンはラファエルの養子として貰われることとなった。
 その後、魔剣士団団長に剣才をみそめられ、見習いとして数年間過ごした。第七位階に達したと同時に正式に入団し、数々の任務をこなしてきた。

 だが、荒んだ生活と周囲からの悪意に晒され続けたリオンは、他者の善意を素直に受け入れられずにいた。

 誰とも群れず。
 誰にも従わず。
 誰でも容赦なく噛み付く。
 孤高というにはあまりにも乱暴で、不用心で、分別がなっていなかった。

 ついた名がーーハリヴァスの狂犬。

 そんなリオンだが、その中でもライフォスとの戦の際はとりわけ独断先行が目立つという。

 ーー北斗剣辰第一星・天枢

 ハリヴァスを最強たらしめる剣術ーー北斗剣辰を繰り出し、ライフォスの魔導士達に襲いかかるリオン。

「ガハッ」
「クソが……来やがったぞ!! ハリヴァスの狂犬だ!! 」
「堕々羅隊を前に出せ!! 諸共で構わん!! 撃ち殺せ!!」

 だが、ライフォスの魔導士たちはすぐに手慣れた動きでリオンに対応する。

「っく!! クソどもが!!」

 堕々羅隊と呼ばれた仮面をかぶった集団を前に出し、魔導士たちはすぐさま後退。
 まるで自己犠牲を厭わない堕々羅隊の足止めにより、リオンと魔導士たちの距離は離れるばかり。

 そんなこんなでリオンが手こずっていると、魔法は完成する。

「「「極大共鳴魔法・炎式・灼陽絢爛」」」

 何十人もの魔導士が魔力を集結させ、互いの魔力の波長が重なり合い、徐々に増幅されている。
 初めはただの小さな火の玉だったそれは、徐々に力を増し、やがて巨大な太陽なりリオンに降り注ぐ。

「ッチ」

 
 ーー北斗剣辰第三星・天璣

 剣がリオンの正面で円軌道を描くように一周し、宙に魔力を刻み込む。
 北斗剣辰における防御の技。

 しかし、この頃のリオンはただの第七位階の魔剣士。
 この程度の技で何十人もの魔導士の攻撃を防げるはずもない。

 リオン本人も、ある程度のダメージを覚悟したうえで突破することを考えていた。

 しかしーー

 ドン!!

 轟音とともに砂塵が舞い上がる。
 しかし、リオンは無傷である。

 砂煙が晴れると、リオンの前には巨大な物影が。

「危なかったね、リオン。貸し一つ、な?」
「ッチ、別に頼んでねぇよ」

 空より舞い降りしは、琥珀の竜王ーーアーンバル。
 名前の通りの琥珀色の鱗を纏い、金色の瞳で人間を俯瞰する誇り高き竜の頂点。

 そんな竜王の背に跨るのがーーシャーロット・フォルティーナ。
 龍騎士団の見習いでありながら、竜王と契約したハリヴァスの期待の新星。

 リオンとは異なる意味で有名な人物である。

「ったく。余計な真似しやがって」
「はっはぁん。そういう態度とっちゃうんだ。ふぅん、へぇー」
「んだよ」
「別ぅに? ただ、素直に『ありがとう』と『ごめんなさい』が言えないリオンの将来を、お姉さんは心配で心配で。このままじゃあお嫁さんを捕まえられないよ?」
「やかましい。たかが一歳差で年上風を吹かせんな」
「一歳差でも、お姉さんはお姉さんなのだよ少年。しっかり敬いたまえ」
「お姉さん? ババァの間違いだろ」
「アハハ、ハハハ、はっはっは…………やっちゃえ、アーンバル!! この不埒者に天誅をっ!!」
「うぉ!? 何しやがる」
「死ねぇええ!!!」

 竜王アーンバルをけしかけ、ライフォスの魔導士などをよそにおっぱじめるリオンとシャーロット。
 そんな二人がやいやいとしているうちに、後方の魔剣士たちは追いつき始めている。

 そして先頭に立つリオンが所属する部隊の隊長を務める男が、リオンの脳天に拳骨を落とす。

「いってぇ!!」 
「馬鹿が。今回の任務は『殲滅』じゃなくて『撃退』だ。深追いしてどうする」

 頭頂部をさすりながら口を尖らせ不満げな顔を見せるリオン。
 そんなリオンを、シャーロットは指さしながらニヤけ顔で煽る。

「やーい。怒られてやんの。ざまぁ~」
「まあまあ、隊長。結果的に無事だったことだし、あまり怒ってやるな」
「そうそう。飛び出さねぇリオンなんざ、菜食主義のライオンぐらい味気ねぇだろ? 要はスパイスだよ、スパイス」
「もはや風物詩まであるな」
「それはやめてください。心臓に悪いので」
「はっはっは、オマエは肝っ玉が小さすぎるんだよ」

 次々と追いついく魔剣士団の隊士たちが、輪を成し笑い合う。
 その中心で、リオンはどこかバツが悪そうに、しかし居心地は悪くなさそうに目を伏せた。
 
 

 ◆

「おいおい、あそこに縮こまってるのってリオン・アンブロシアか?」
「元アンブロシアな。そこんとこ間違えちゃ、アンブロシアにも失礼ってもんだ。そりゃ第六位階の魔法使いに負けるような愚図がアンブロシアの血族なわけねぇわな」
「おっと、んなことがあったのか? そりゃいつもの狂犬ぶりもなりを潜めるわけだ。恥ずかちぃでちゅね」
「いつも威張り散らかしてるくせに、このざまかよ。人間、落ちるのは一瞬だな」
「おいおい、落ちるも何も、あいつは初めから地の底だろ」
「なんであんな奴をラファエル様は……」
 
 そうリオンを嘲るのは、龍騎士団に所属する新人たち。リオンの同期であるが、あまりリオンを快く思っていない。
 元アンブロシアでありながら、ライファエルの養子としてもらわれた彼は、下手な分家よりも優遇されているといえる。

 元からハリヴァスに使えている彼らからしたら当然面白くない。

 水に落ちた犬を打つ。
 彼らが弱っているリオンを痛めつれるのは、世の常なのかもしれない。

 その日、リオンは年下の魔導士に敗北を喫し、任務に失敗したという。
 一般的に、魔導士と剣士の戦闘は剣士に分があるため、その敗北はリオンに相当な衝撃を与えていた。
 周囲の誰よりも、リオンは自身の不甲斐なさに憤慨していたのだ。

「だっせぇ。格下に負けた挙句、のうのうと逃げ帰ってきたのか。おれなら死ねるね」
「くっくっく、違いねぇ」
「じゃあ死ねぇ!! ボケども」

 リオンが言い返せないのをいいことに口撃を重ねる新人たち。
 しかしそこへ、赤から金へとグラデーションする髪を持つ少女が乱入する。

「おいてめぇ、シャーロット!! 何しやがる!?」
「なんでリオン・アンブロシアを庇うんだよ!! お前らいつもいがみ合ってんだろ?」
「はあ? 庇ってねぇし!! あんな馬鹿。ただ……気に入らない。いつもコソコソとしてるくせにこういう時だけいい気になる腰抜け諸君がね!」
「テメェこのアマ!! 黙って聞いてりゃいい気になりやがって!!」
「放っておけ。こいつはリオン・アンブロシアにほの字なんだ。旦那が悪く言われて切れちまったんだろ?」
「よそ者同士。仲良く傷のなめあいってか? 気色わりぃ」 
「……よぉし。全員まとめて掛かってこい。ぶっ殺す!」

 青筋を立てながら、シャーロットは背負っている野太刀に手をかける。

「やるよ、アーンバル」

 途端、虚空を切り裂くように一文字の傷が宙に浮かび上がる。
 その奥から、金色の瞳が現世をのぞき込む。

「おい、竜王を呼び出すのはちげぇだろ!?」
「ッチ、クソが……お前ら行くぞ。しらけちまった」

 さすがにここでシャーロットとことを構えるのを嫌ったのか、龍騎士団の新人たちはすぐさま退散する。
 そんな彼らの背中を見送ると、シャーロットは鼻で笑う。
 
「っふ。腑抜け共が」

 そして刀を鞘に納め、リオンの傍まで足を進め、そのまま腰を下ろし胡坐をかく。

「……んだよ」
「別ぅに? ちょうど疲れたから小休止~」
「……よそ行けよ」
「やだね! にしし」
「はぁ……好きにしやがれ」

 取り合うだけ無駄と判断したリオンは再びうつむく。
 その傍で、シャーロットはただ黙って座っていた。時折体を揺らし、その場に似つかわしくない鼻歌を鳴らしていた。

 数分が経過すると、沈黙に耐えかねたシャーロットから言葉が飛び出ある。

「ねぇ、リオン?」
「…………」
「負けたのぉ? 魔導士に? えぇ? 年下で? 位階も格下の魔導士に? ぷぷ」
「お前……言ってることとやってること滅茶苦茶だぞ」
「ワタシはいいんだよワタシは。だって、リオンをいじめていいのはワタシだけなんだから」
「意味が分からん。どういう理論だそれ?」
「じゃあ優しくしてやろうか? 頭なでなでして、肩でも貸してやればいいの? 全く、甘えん坊だなぁ、リオン君は」
「きめぇ……いった」

 無言でリオンの脳天に拳骨を落とすシャーロット。

「それでいいのよ、それで。全く世話が焼ける」

 いつの間にかリオンの正面に移動し、うつむくリオンの顔をしたからのぞき込むシャーロット。
 その真っすぐな視線に、リオンは思わずフリーズする。

「ところでリオン?」
「……なんだ?」
「お腹すいたぁ!! なんか作って~」
「は?」
「よく考えたら任務帰りでまだなんも食べれてない!! お腹すいて死ぬぅ!! むりぃ」
「なんで俺がーー」
「夕飯はラムチョップを希望しますであります!」
「聞けって」

 いつも通り渋々ではあるが、シャーロットの晩御飯に一品を添えるリオンだった。
 彼女の元気に当てられ、いつの間にか落ち込んでいた理由すら忘れてしまった。

 
 ◆

 雷鳴轟く豪雨の夜。
 降りしきる天空の雫は、赤い血潮を洗い流す。
 辺りには無数の屍が。そのいずれも、ハリヴァスの家紋を背負っていた。

 立っているのはただ二人。

 銀髪青眼の青年。
 仮面をかぶった女性。

 青年の剣は女性の胸元を貫き、今にも血液があふれ出し、雨と混ざり合う。
 雨に打たれながら、ひび割れた女性の仮面は徐々に剥がれ落ちる。

 ピカッと煌めく雷光に照らされたのそ横顔は、生気も意思も感じられない人形のよう。
 だが――

 地面を打つ雨音。轟く雷音。風に揺れる葉擦れの音。
 大自然が奏でる無情の音楽の数々は重なり、青年の悲鳴と絶叫をかき消す。

 

――――――――
後書き

 ここ数日投稿できず申し訳ありません!!
 最近はリアルの方が忙しくなかなか執筆の時間が取れずにいます!
 今後は毎日更新ではなく不定期更新になるかもしれませんので、よろしければお見逃しのないよう「お気に入り登録」をよろしくお願いします。(書き続ける気持ちはあります!!)
 読者の皆様にはご迷惑をおかけします!

 
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