不死鳥の箱庭~無能だと追放されたが運命の不死鳥と契約して全てをやり直す~

鴉真似≪アマネ≫

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第一章 不死鳥契約

16話 閑話・ハリヴァスとアンブロシア

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 ――ハリヴァス家

 世界最強の剣術名家。
 御三家の中ではアンブロシア家に次ぐ歴史ある家門であり、第九位階の猛者を輩出し続けた名門中の名門。

 ハリヴァス家では、第九位階到達者は『天騎士』の称号が与えられるが、その数は驚異の21名。

 その数は御三家の中でもトップを誇り、あのアンブロシア家すらも凌ぐ。

 現在、アンブロシア家では鳳凰主という規格外を除けば、第九位階到達者は9名。その全てが血族である。

 これが少ないというわけではない。
 あの七大列強でさえ、第九位階到達者は精々数名。

 それらを踏まえると、ハリヴァスという存在は如何に特質すべきか分かるだろう。

 そんなハリヴァスの猛者を束ねるのが、ハリヴァス家現当主――ラファエル・ハリヴァス。

 現在暴れる九頭の大蛇『オロチ』の屍に腰かけ、その肉を豪快に食す男である。

「カァア!! 相変わらずうっめぇなおい! 酒が欲しくなるぜ」

 数年に一度現世に現れる猛毒の大蛇。その毒は、以前リオンが侵された鴆毒に勝るとも劣らない。
 当然その屍にも毒は残るが、ラファエルはそれを気にする様子はない。

 ――ラファエル・ハリヴァス

 アンブロシア家でいえば鳳凰主に相当する第九位階を突破した存在。超越者である。

 ドン!

 そんな男の背後に、轟音を立てながら着地する人物が一名。

 ハリヴァスでは珍しい刀という武器を腰に佩き、男にしては長い髪を後ろで一まとめにしている風流な男性。

 オロチの住処と化したこの地にためらいもなく踏み込めることからも、男が相当の実力者であることがわかる。

「親父殿。食べるならせめで毒ぐらい抜いてください。見てるこっちが冷や冷やする」
「馬鹿言え。んなことしてたら鮮度が落ちちまうだろうが」
「どうせ火を通すのに鮮度もクソもないだろうに……は?」

 そこまで言って、男は気づく。
 オロチの毒々しい色に気を取られているせいで気付かなかったが、ラファエルが口にしているそれは火など通っていないのだ。

「親父殿、それはいくら何でも……」
「んなことより何の用だ、ミヤビ? おめぇが態々オレに会いに来るたぁ」
「はぁ……ただの定例報告です。天騎士連中は魔獣のあれこれで忙しないので、やつがれにお鉢が回って来たわけです」

 そう言っているミヤビと呼ばれている男だが、彼も立派な第九位階。
 だが天騎士の称号を返上し、現在はハリヴァスの魔剣士団の団長を勤めている男である。

 ラファエルは徹底的な自由人であるため、本家をほったらかしにして危険な地を歩き渡っていることが多い。
 そのため、たかが定例報告でもそれ相応の実力者でなければラファエルを見つけることすらできない。

「ふーん。おめぇもどうだ?」
「……遠慮しておきます」

 差し出されるオロチの肉を遠慮し、ミヤビはすぐさま報告へと入る。

 そのほとんどが特筆に値しない瑣事だが、中には当主の意向を聞かねばならない案件もいくつか混じっていた。

「では、ヨヴ帝国の件は一旦様子見ということで」
「あぁ、近頃はヘル=ラボーネが騒がしい。あんまりヨヴには人手を割きたくねぇ」
「承知しました。報告は以上になりますが、一点だけ」
「ん、なんだぁ? 神妙な顔して」
「いえ、ただ……今年の仙桃の競りに負けてしまいまして」
「あぁ? おめぇの財力でか?」
「勿論本気で落とそうとしたわけではありません。ただ、やつがれの子が来年生まれる故、念のため確保に動きました」
「おぉ!! 初子ういごか!! そりゃ目出度ぇ!! 倅か?」
「いえ、女の子です」
「そりゃおめぇ……苦労するぜぇ」
「親父殿も昨年第三子を授かったそうですが、子育てはやはり大変ですか?」
「知らん。オレんとこは倅ばっかだからな。放っておいても勝手にデカくなりやがる」
「それは奥様が苦労されているからでは? たまには顔を出してやってください」
「わぁってる。この件が片付いたら一回帰る予定だ」
「それが宜しいかと」

 家族の話が出た途端、ラファエルは気まずそうに髪をかきあげる。
 
「んで? 話がそれちまったが、そのおめぇが仙桃の競りに負けたと?」
「はい。代理の者に60億ルーンを渡しましたが、生憎とそれ以上の額で落札されてしまいました」
「60億一括とな? そりゃ相当の金持ちだろ。そこそこ名が知れてるはずだ」
「それが……調べたところ、アンブロシア家の者だったようです」
「あぁ? アンブロシア家だぁ? あそこは不死鳥の血があるだろうが」
「用途までは不明ですが、どうやらアンブロシアの八男が入手したようです。仙桃以外にも、霊薬を買い漁っているとか」
「八男つったら、ヨーラン嬢の倅か? 名は確か……リオンだったか」

 顎の無精ひげを撫でながら、ラファエルは考える。

「わかった。覚えておこう。おめぇもあんまり心配すんな。来年の競りはオレが支援してやる。アンブロシア相手だろうが負けはねぇ」
「親父殿……いえ、お気持ちだけ頂戴いたします。親父殿が奥様に叱られるのを見たくないので」
「カッカッカ!! うちの嫁はそんな狭量じゃないわい!!」

 そう言って、ラファエルは立ち上がる。

「オレぁ帰るわ。懐かしい顔が見たくなった」
「お気をつけて」

 ドン!!

 ミヤビの言葉と同時に、ラファエルは大地を蹴り一瞬で空の彼方へと姿を消した。
 巨大なクレータだけを残して。


 ◆

 
 不死の家門・アンブロシア。
 不落の家門・ライフォス。
 不屈の家門・ハリヴァス。

 世界を支配する御三家であり、いずれも強大な権力を握っている。

 七大列強すらもその庇護を求めるほどの武力の極み。

 アンブロシアの影響力が強い列強は、計三つ。

 セルエイム花国。
 芸術と音楽の楽園であり、列強の中でも上位に数えられる資金力を誇る。しかし、軍事力は突出しておらず、故にアンブロシアの庇護を最も強く求めている。

 ルーテシア海運国。
 世界最強の海軍と広大な海路を所有しており、大陸を跨ぐ国土を有する唯一の国でもある。貴族たちは商人気質が強く、その資金力は七大列強の中でもトップを誇る。
 
 イフォーレ軍国。
 世界二位の陸軍を有する、大陸中部の雄。列強の中では武力も財力も中堅に当たるが、医療に関しては世界トップレベル。
 その理由はアンブロシアの三女――イネッサ・アンブロシアの影響が強く出ていた。

「イネッサ様!! お待ちください! 宜しいのですか?」
「何が?」
「ご当主様とウィルヘルム様にご挨拶もなく飛び出して」

 イネッサ・アンブロシア。
 アンブロシア家三女であり、まだ十代の若さにして第四位階に到達している才女である。
 2つ上にアンブロシア家六男・カールを兄に持ち、両者ともに第一夫人イザベラの子である。

 イネッサもイザベラの金髪を引き継いだが、僅かに緑かかっている。
 
「構わないわ。父様はあの白チビの扱いで手一杯だし、ウィルヘルムとはむしろ距離を取った方がいいわ」
「え?」

 時はリオンの契約の儀の直後。
 クロノスが退出した数分後である。

「まったく、やってくれたわね。あのガキ」
「リ、リオン様でございますか?」
「他に誰がいるのよ。まったく……ウィルヘルムに喧嘩を売るなんてどうかしてるわ。おかげでこっちの予定まで狂ったじゃない」

 鬱陶しそうに髪をかきあげ、転移門へと足を運ぶ。

「わたくしは先にイフォーレに向かうわ。貴女は一度ヨヴ帝国へ行きなさい」
「か、かしこまりました。ただ、近頃ハリヴァスの目が厳しく……」
「で?」

 イネッサの専属侍女が、身を震わす。
 
「それが、わたくしに何の関係があるの?」
「も、申し訳――」

 言葉の途中で、イネッサの専属侍女が膝をつき喉を抑える。

「がぁっ!! お、おゆるじ、ぐだざい……!!」
「いいこと? わたくしの嫌いなものは2つ。1つは仕事ができない愚図。2つは身の程を弁えない不逞者。貴女はどっちかしら?」

 イネッサは僅か第四位階だが、相手の侍女は最低でも第六位階。それでも、一方的ともいえる力の差があった。

 それが、不死鳥の力である。

「分かったら行きなさい」
「……は、はい!!」

 駆け出す侍女を見送り、イネッサはため息を溢す。

「はぁ、どうしてわたくしの周りはこうも……ッチ」

 苛立ちを抱えながらも、イネッサは足を止めることなく歩み続けた。

(ウィルヘルムはあのリオンってガキを潰そうとするわ。でも自分じゃあ手は出せない。だから、わたくしかカールを使うはず)

「カールの馬鹿なら喜んでウィルヘルムの走狗になるだろうし、わたくしにはウィルヘルムの接触はないと見ていいわね」

 その間に地盤を固めなければならない。
 そうイネッサは決心する。

「そういえば、あのガキの傍にいたのって……リーナ・アイヒベルク?」

 イネッサが一度眷族にと勧誘したアイヒベルクの才女。
 イネッサとは年齢が近いにも関わらず、既に第六位階に到達している。

 イネッサだけでなく、三男アルバートと六男カールの誘いも断っている生意気な女。
 
 そんな彼女が、リオンの傍に控えていた。

「ッチ、ムカつくわね。リーナも、あのリオンとかいうガキも」

 彼女の選択は暗に、リオンの方がイネッサより上だということを示していた。
 その事実に、イネッサはどうしようもなく怒りが込みあがる。

「全員……ぜーんいん、死んじゃえばいいのよ」

 そう言ったイネッサの瞳は、暗く濁っていたのだった。
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