不死鳥の箱庭~無能だと追放されたが運命の不死鳥と契約して全てをやり直す~

鴉真似≪アマネ≫

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第一章 不死鳥契約

14話 運命の不死鳥

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 リオンは、夢うつつの狭間を彷徨っていた。
 否、第一運命線の夢を見ていたのだ。
 
 燃え盛る天空。
 凍り付いた大地。
 荒れ狂う溟海。
 響き渡るは狼の遠吠え。
 巨人の足音に大地が震撼する。
 
 太陽は地に落ち、夜が猖獗を極めた世界。
 夜明けの存在しない世界。
 五つの終焉がまき散らした災厄は、どこまでも人々を苦しめる世界。

 そんな世界の夢を、リオンは見ていた。

 ◆

「っは!?」

 悪夢を見ていた気がした。
 だがそれが何かを思い出せない。
 これが夢枕の常かもしれない。

「……はぁ、はぁ、はぁ」

 リオンは自身の体へ目を向けると、寝汗でびっしょり濡れていた。
 それにより体温が奪われ、わずかに肌寒いと感じる。

「終わった、のか?」

 契約の最後には意識が朦朧もうろうとしていたリオンは、事の成り行きを知らない。
 自身がどこにいるのかも、わからずにいた。

 だがそれでも、変化はあった。

『リオン坊ちゃま!! お目覚めです!?』
「っ!?」

 突然脳内にアイリスの声が響き、その姿がうっすらと視界に映る。
 しかし、声にはもやがかかり、姿もまるで幻のようである。

「なんだ、これは?」

 リオンが戸惑い始めた直後。

「リオン坊ちゃま!! お目覚めです!?」

 扉が開かれ、アイリスが入室する。
 すると、先ほど見えた幻影と重なるようにアイリスが駆け付ける。

「…………」
「坊ちゃま。ご無事です!? 私のこと、わかりますです?」
「…………」
「坊ちゃまっ」
「あ、いや。すまない。少し考え事をしていた。おはよう、アイリス」
「リオン坊ちゃま……!!」

 リオンの返事に感涙を流すアイリス。
 だが、リオンはそれどころではなかった。

(これが、不死鳥の……ジファの力なのか?)

 ――少しだけ、

 理を外れたその力に、リオンは絶句した。
 その事実を飲み込むのに、リオンはしばし時間を要した。


 ◆

 契約の儀から三日後。

 リオンの体調は万全とまではいかないが、動き回っても問題ないほど回復していた。

 リオンが気絶していた間に起こったことの顛末を、リーナから聞かされる。

「つまり、現在私は禁書庫第五層まで立ち入ることができると」
「はい。私もその場にいたわけではありませんが、眷属騎士の従姉妹がそう言っておりました」
僥倖ぎょうこうではあるが……っふ、ウィルヘルムが妬みそうだ」

 出る杭は打たれるというが、出ていなくとも打ちのめすのがウィルヘルムという男である。
 あの場で煽ってしまった以上、どこかで敵対するのは間違いない。

「…………」
「そう心配そうにするな。序列第一位を目指す以上、いずれは乗り越えるべき敵だ。それに、どうせあいつはまで私に手が出せない」

 契約後のアンブロシアには2年の余裕が与えられている。
 その間で自身を高めるなり、配下を揃えるなり、眷属を増やすなりする時間が与えられている。

「本家からの支援もまだ残っている。良い牽制になるだろう」

 そして何より、リオンが残した最後の本家の支援。
 その一般的な使い方は――『指定した相手からの手出しを10年禁ずる』。

 その支援は当然といえるだろう。
 幼鳳宮を出たばかりの雛鳥と序列上位の間は、天と地ほどの差がある。
 序列上位が本気になれば、下位の不死鳥などすぐにでも潰れてしまう。

 それでは公平な争いとは言い難いため、このような支援制度が設けられている。

 もちろん、リオンはその使い方をするつもりはないが、それはある種の保険となる。
 ウィルヘルムは自身が指名されないよう立ち回るだろうし、直接な手出しは制限される。
 そうなれば、どうしても手段が回りくどくなる。

「時間は短いが、やれるだけのことはやるさ」
「ほう、序列一位とな? では私もいずれはお前に喰われるわけか」
「「っ!?」」

 音もなく背後に現れた女性が、リオンの肩を叩く。

「……姉上。あまり脅かさないでください」
「ははは、まだまだ修練が足りんな。リオン」

 アンブロシア家序列第一位。
 イリア・アンブロシアである。

「精進します」
「うむ。そうしたまえ」
「ところで姉上。ここは私の宮殿なんですが……」

 暗に不法侵入を咎めるリオン。

 現在、二人がいるのはリオンに与えられた新しい宮殿――珀永宮。
 太古の昔に建てられた不朽の殿堂。
 ベースは純白でありながら、ところどころが琥珀で彩られたシンプルな宮殿。
 不死宮のような豪華さはないが、不壊・不朽を誇る悠久の宮殿である。

 その性質を、リオンはいたく気に入っている。

 本来、雛鳥の宮殿は本人の要望に合わせるように新しく建造されることになっている。
 それぞれの不死鳥の力に合わせる必要があるからだ。
 しかし、リオンはクロノスの指示で珀永宮に住まうこととなった。
 その分、宮殿建造の予算が浮いたわけだが。

「細かいことをいうな。せっかく良いものを持ってきてやったというのに冷たいぞ」
「別に細かくは……それはそうと、良いもの、ですか?」
「あぁ、契約祝いといったところか。ほれ」

 その言葉とともに、イリアは手に持っていた袋を乱雑に空中に放り投げる。
 その贈り物をリーナが慌ててリーナがキャッチする。

「開けてみても?」
「勿論だ」

 許可も得たことところで、リオンはイリアのプレゼントを開ける。

 厳重に放送され、何重にも封印がかけられた箱。
 外装は漆黒そのものであり、リーナさえ持つのがやっとの程の重量である。

 その封印を解き、箱を開けると――

「「っ!?」」

 すさまじい熱気がリオンとリーナの顔を打つ。

「っ!! これは……」
「ハハハハハ、びっくりしたか?」

 箱の中身は――脈動する灼熱の心臓である。

「これは、九尾の心臓、ですか?」
「うむ……その通りだが、ずばり言い当てられるとつまらないぞ」

 ――九尾

 伝承では尾が九本ある不滅の狐。

 数年前、尾が七本の狐がセルエイム花国で暴れた際に、討伐に赴いたのがイリアである。
 その際、セルエイム花国は甚大の損失を被ったという。
 都市一つが壊滅し、討伐に向かった軍の一個師団が半壊したそう。

 不死鳥や竜種と同様、異なる世界より召喚される霊獣である。
 
「こんな貴重なものを、よろしいのですか?」
「弟の晴れ舞台だ。遠慮はいらん」
「ありがたく頂戴いたします。この礼はいつか必ず」

 表では平静を保っているリオンだが、その実は歓喜していた。

(九尾の心臓……!! まさかここで手に入るとは。これなら、ハリヴァス式のさらに先を――)

 九尾の心臓ともなれば使い方は無限にある。
 それこそ、霊薬として使えば、すぐにでも第四位階が見えるだろう。

 だがそれ以上の使い方、リオンは知っていた。

(こうなったら是非とも欲しい。父上の、焔の不死鳥フォティアの炎……!!)

「ありがとうございます、姉上。礼というわけではありませんが……イレーネ山脈をご存じですか?」

 礼ではないといいつつも、リオンは感謝の意を込めてイリアにある情報を提供するのだった。

 ◆

 薄暗い部屋の中で、男は古びた王座に腰を掛けていた。
 何の変哲もない王座、とは言い難い。
 その肘掛けは幼いで、背もたれはで飾られており、足元にはが群がっていた。

『やはり君は、また僕の邪魔をするのかい』

 おぞましい王座に腰を掛けるその男は、おもむろに口を開く。
 
『黙ってないで何か言いなよ。聞こえてるんでしょ?』

 すると、何もない虚空より言葉が響く。

『我にその天命を与えたのはお前だろ。今更後悔したとでも』
『まあ、そうだけどさ……それは違うと思うな。だよ?』
『それもまた、天命の内だ』
『はぁ……まあ、過ぎたことをウダウダ言ってもしょうがないか』

 男は手を振り、声をかき消す。

『これで負けたら言い訳できないよ』

 鋭い目つきとは裏腹に、男はニヤリと頬を歪ませた。
 


 
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