不死鳥の箱庭~無能だと追放されたが運命の不死鳥と契約して全てをやり直す~

鴉真似≪アマネ≫

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第一章 不死鳥契約

10話 しっ咤

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 仙桃の回復力を身に取り込んだリオンだが、直後衰弱のあまり倒れ込んでしまった。

 1週間も水と食事を断っていたのだから仕方ない。

 そして2日を経て、リオンが目を覚ますとーー

「「リオン坊ちゃま?」」

 当然怒られた。

 ロルフからも当然叱られたが、それ以上にアイリスとリーナの怒りがすさまじいものだった。

 目覚めたばかりということで二人とも抑えてはいるが、その怒りはひしひしとリオンに伝わる。

 詰め寄る二人の気迫に、リオンが珍しく冷や汗をかく。

「……ごめんなさい」

 二人に謝罪するリオン。

 そのしゅんとした様子は、まるで親にいたずらがばれた子供のよう。

「っく」

 その姿にアイリスはクリティカルヒットを喰らったかのようによろめく。しかし、ここで甘い顔を見せてはいけないと思い、何とか持ち直す。

 リーナのほうも思うところがあるようで、厳しい表情を浮かべる。

「リオン坊ちゃま。なぜ、あんな無茶を?」
「はぁ……正直に言うと、私はあの程度を無茶だとは思ってない。実際、あれを生まれたて赤んぼにやらせる一族もいるぐらいだ」
「しかし、一歩間違えれば命を落とすところでした。坊ちゃまほどのお方が、どうして……こうも焦っておられるのですか?」

 ーー焦り

 初めて会った時にからずっと、リオンは何かに追われているようだった。

 常により早く。
 常に先を見据えた。
 まるで未来を知っているかのように。

「…………」

 リーナの問いに、リオンはしばし沈黙する。
 
(さて、どうしたものか……)

 二人を信用していないわけではない。
 しかし、ジファとの契約はリオンを縛り付ける。

 ジファが契約者に与える力はーー運命の先読み。
 世界の運命するひっくり返すほどの強力な能力。
 ジファとの契約者はこの世でただ一人、運命の波に抗う存在となる。
 ただ一人でなければならないのだ。

「それは、まだ言えない。二人はいずれ知ることになるだろうが、それまでは私の行動に目を瞑ってほしい。頼む」

 頭を下げるリオン。

「そ、そんな! 坊ちゃま、頭を上げてくださいです!!」
「坊ちゃま!! アンブロシアの血族が軽々しく頭を下げてはなりません。どうか」

 リオンの行動に、アイリスとリーナはすかさず止めに入る。

「はぁ……承知致しました、リオン坊ちゃま。きっと坊ちゃまには私たちでは悟り知れない何かをお持ちでしょう。これ以上は、お聞きしません。ですが!! 何かあった際は必ずご相談ください……無力では居たくない私のわがままですが、どうか」
「わかった。約束しよう」
「ありがとう、ございます」

 リーナは納得したように一礼し、一歩下がる。
 次は君の番だと言わんばかりにアイリスに視線を向ける。

「坊ちゃま……私は、坊ちゃまが何者であろうと、気にしませんです。特別じゃなくても、他より優れていなくても、アンブロシアじゃなくたって関係ない、です。坊ちゃまが健やかに元気に育っていただければ、それで十分。なので、どうかご自愛くださいです。アイリスは、ずっとそばにおります」
「あぁ、わかってる。お前にはいつも助けられてばかりだ」
「うぅ、坊ちゃま……!!」

 ただ一人、未来を知ることができる。
 それは凄まじい力であると同時に、どうしようも無く孤独で、疎外感をもたらすものだ。
 破滅の未来は一人の背には重たすぎる。
 時には狂ってしまいそうになるかもしれない。

 しかし、少なくとも自分を信じてついてきてくれる人は2人いる。
 それは、リオンにとってかけがえのない支えとなるだろう。

「それはそうと、今回の件はしっかりヨーラン様に報告させていただきますです」
「え?」
「そうですね。奥様もきっと心配されていますので」
「ち、ちょっと二人とも? 私もこの通り反省しているわけで、この件は母上に内緒というわけにはーー」
「いけません」

 珍しく駄々をこねるリオンを、リーナは一言で切り捨てる。
 どうやらまだ怒りが収まっていないらしい。

「あ、アイリス? なんとかならないか? 母上は怒ると怖いのだ」

 つぶらな瞳でアイリスを見つめ、同情を誘うリオン。
 その仕草は、アイリスに効果抜群である。

 しかしーー
 
「う、坊ちゃま……ごめんなさいです!! 実はもうヨーラン様に報告してましたです!!」
「…………は?」
 
 翌日、リオンがヨーランにこっ酷く叱られたのは、言うまでもない。


 ◆
 
 リオンが4歳の誕生日を迎え、雛教育も終盤に差し掛かる。

 本来三年にも及ぶ厳しい教育だが、リオンは一年足らずでそれを終える。

 残されるのは、作法の実技のみ。
 これも、そう遠くないうちにクリアするだろう。

 これでいよいよ、本来の修行に集中できる。
 
 魔力運用学初級もいよいよ大詰め。
 
 相手を突き刺す魔力――『剣気』
 身体を強化する魔力――『オーラ』
 体外で操作する魔力――『マナ』

 魔力操作における三本柱を、リオンは全て習得していた。
 僅か一年で魔力運用学初級を終えようとしていることに、リーナは大いに驚いたが、今更だろう。

 魔力運用に関しては、引き続き中級へ進み、各運用における練度を上昇させる。

 それとは別に、各魔力運用の専門講義も用意させれているが――

「オーラの習熟を最優先とする。次点に剣気。最後にマナだな」
「承知いたしました。そのように課程を組ませていただきます」
「契約の儀までに最低でもオーラと剣気は中級になっておきたい。よろしく頼む」
「……かしこまりました」

 ――魔力運用学

 元はアンブロシア家が定めた魔力学習における一連の流れだが、今では世界中で用いられている基準である。

 まず、大本となる『魔力運用学』。『魔力運用学』には初級、中級、上級、最上級の四段階に分けられる。
 その派生クラスである『オーラ運用学』、『剣気運用学』、『マナ運用学』も同様に四段階からなる。
 『魔力運用学初級』を習得した者だけが、派生クラスの初級へ取り組みことができる。

 現在、派生クラスにおいて一つでも上級を習得した者は、強者として世界に認知される。
 当然、アンブロシア家に仕える人間は全員上級以上である。

 アイリスは『剣気最上級』、『オーラ上級』。
 リーナは『剣気上級』、『オーラ上級』、『マナ上級』。
 二人共、強者の中でもさらに一握りの強者である。

 無論、上には上がいるわけだが。閑話休題。

 僅か8歳の段階で、二クラスの中級を習得しようとするリオンは間違いなく異質。
 しかし、リオンならできるのではないかと、リーナは思う。

 雛教育がひと段落ついてことで、リオンの成長はさらに加速する。

 ◆

 4歳の年。
 
 魔力運用学中級と同時に、オーラ運用学初級を始めたリオン。
 
 専門性が上がり少しは苦戦を強いられるかと思われたが、リオンは僅か2ヶ月でオーラ運用学初級をマスター。
 これには流石のリーナも呆れかえるほかなかった。
 何度目かも分からない驚愕だが、リオンとしては少々手こずったように感じたらしい。

「魔力の少なさが課題だな」
「魔力が少ない、です? 坊ちゃまの御歳でこれ程の魔力を持つ人間は世界中を探してもそうはおりません、です」
「歳の割に、だろ? 『オーラ運用学中級』が始まればすぐにばてる。やはり、を使うしかないな」
「霊薬です? あまりお勧めしませんです……」

 ――霊薬
 
 大量の魔力を含む物の全般を指す。取り込むことで無理やり魔力の総量を引き上げることができ、場合によっては位階を突破させることもできる。
 
 以前リオンが使用した仙桃も、最上級霊薬の一種である。

 だが、それには相応のリスクがともなく。
 無理に異なる魔力を体に取り込むことで、体内の魔力回路が損傷する可能性がある。
 また、容量の上限を無理やり突破させる性質上、多大な苦痛を伴う。

 一歩間違えれば廃人まっしぐら。

 だが――
 
「何のためにこの体を手に入れたと思う?」

 ニヤリと頬を歪ませるリオン。
 
 今のリオンはハリヴァス式の初期段階にいる。
 初期段階と言えど、その力は絶大。多少の致命傷はもはや重傷とさえ言えないほどの体となっている。

「金ならいくらでもあるんだ。霊薬を買い揃えてくれ」
「はぁ……かしこまりましたです。坊ちゃまがお望みとあらば……はぁ」

 アイリスは乗り気ではないが、それでもリオンは立ち止まる訳にはいかない。




 
 
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