不死鳥の箱庭~無能だと追放されたが運命の不死鳥と契約して全てをやり直す~

鴉真似≪アマネ≫

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第一章 不死鳥契約

6話 序列第九位

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「では僭越ながら、このロルフ・アイヒベルクがリオン様、ディアーク様の序列戦立会人を務めさせていただきます」

 ロルフ、アイリス、リーナ、ジゼルの四名の立会いのもと、序列戦の幕は開けた。

「序列戦のルールは家憲に定められたものに準じます。両者、前へ」

 真剣を持った両者が、一歩前ずつに出る。

「家門の誓いを」

 ロルフがそう促すことで、二人は誓いを口にする。

死を想えメメントモリ
「メ、死を想えメメントモリ

 ーー死を想えメメントモリ

 不死の家門こそ、忘れてはならない死の恐怖。そして、序列下位者の挑戦の意味もある。

 アンブロシア家では絶対を表す誓いだ。

 その証拠に、二人の体から赤い半透明な糸が浮かび上がり、互いに絡み合い。契約を破った際に、それ相応の罰が下されるだろう。

 これで、契約完了。

「ではこれよりリオン様、ディアーク様の決闘を行います。用意ーー始め!!」

 先に動き出したのはリオン。真っ先に重たい真剣を捨て、距離を詰める。

「っく、来るな!!」

 リオンの突然の動きに焦ったディアークは、無理やり剣を振り回す。しかし、訓練も積んでいない5歳の子供の剣筋がまともなはずもなく、むしろ自身が剣に振り回されていた。

 その隙を逃さず、リオンはディアークのみぞおちに一撃を叩き込む。

 決して速いスピードではない、パワーもない。しかし、生まれて初めて殴られたディアークは動転し、一歩後ずさる。

 カキン!

「っいった」

 手に持っていた剣すら落とし、尻餅をつく。

 逆にリオンは一歩前へ踏み出し、オーラの雛型を顕現させる。力もスピードもないリオンだが、オーラを纏えばそれ相応の一撃をくれだせる。

 遠心力を利用したリオンの右フックは、ディアークの左頬を捉える。

 トン!

 オーラを纏ったリオンの拳がディアークを吹き飛ばす。

「ディアーク坊ちゃま!?」

 ジゼルが思わず飛び出そうになるが、アイリスとリーナはそれを阻止。歯がゆい思いをしながらも、ジゼルはただ黙ってみているほかなかった。

「っうぅ……っひぃ!」

 起き上がる前に、リオンはディアークが落とした剣を拾いあげ、ディアークの顔の横の突き立てる。

 ディアークは思わず情けない悲鳴を上げ、リオンはその口を塞ぐようにディアーク顔を鷲掴みにする。

「っうぅ!?」
「恐怖で支配するのは二流などといわれているが、結局のところ人を縛り付けるにはそれが一番手っ取り早い。そう思いませんか、兄上」
「っんう……」
「喧嘩を売る相手はちゃんと選べ。アンブロシアで生き残りたいなら、付く相手を間違えないことだ」
「…………」
「一つ賢くなりましたね、兄上」

 リオンの言葉に込められた僅かな魔力が、ディアークの脳を揺らす。
 過度な緊張と拳の衝撃も加わり、ディアーク白目を剥いて意識を失う。

 リオンが手を離すと、ディアークは泡を吹きながら倒れる。

「そこまで!! 此度の決闘、リオン様の勝利!」

 ディアークが戦闘不能となることを確認し、ロルフがそう宣言する。

 この宣言により、序列戦におけるリオンの勝利が確定した。

「ディアーク坊ちゃま!!」

 ジゼルはすぐさま気絶するディアークの下へ駆け出し、残されるはアイリスとリーナのみ。

「アイリス殿、今のは……」
「言霊、ですかね。微弱ですが」
「……底が知れないの一言ですね」
「全く持って同感です」

 改めて己の主人となる人物のとんでもなさを実感した二人は、ただ顔を遠い目をするほかなかった。

 一方、リオンの方も立会人のロルフと諸々の手続きを済ませていた。

「ロルフ先生。父上への報告は構わないが、その他は父上の指示に従うように」
「勿論でございます。ところで、リオン坊ちゃまの方はこの件をどう収めるおつもりですか?」

 ロルフの問いに、リオンは僅かに眼光を鋭くする。

 本来であればロルフはこのようなことを尋ねない。尋ねたところで、眷族にできることはないもないからだ。

 長年アンブロシア家に仕えてきたからこそ、ロルフは誰よりも分をわきまえている。

 にもかかわらず、血族の考えを尋ねるということは、これはロルフの意志ではない可能性が高い。

(父上が私に? だとしたら、こちらの望む結果にあわせてくれるということか?)

「収めるも何も、私は序列戦を受け入れてもらうことであの件を不問にした。これ以上私から掘り返すことはない」
「ですが、爆発の件は本家でも問題となっています。じきに眷族騎士が来られるかと」
「爆発は私が魔法の練習で暴発させたことにするつもりだ。報告が遅れたのは、私がしっ責を恐れて隠していたとでも言っておけ」
「はい? しかし、それでは坊ちゃまが……」
「しばらくの謹慎を言い渡されるだろうが、むしろ好都合だ。勉強に集中するさ」

 それ以外にも商会への指示など、一人で居たほうが都合がいいことが山ほどある。

「あーあと、私の方から序列戦について言いふらすつもりはない。兄上側にも隠すように要求するつもりだ」
「……ご兄弟に知られなくない、ということでしょうか?」

 ここで言う兄弟はもちろん、ディアークのことではない。その他の血族のことだ。

 しかし、それを明言することは許されない。

「ロルフ・アイヒベルク」
「失言でした。お忘れください」

 そう言って、ロルフは一歩下がり口をつむぐ。

 倒れるディアークとそれを運ぶジゼルを横目に、リオンは考える。

(序列が上がれば予算も上がる。大人げないが、私はここで立ち止まるわけにはいなかい。悪く思うなよ、兄上)

 こうして、リオン・アンブロシアはアンブロシア家血族序列九位の座を手に入れた。

 
 ◆

 序列戦を終えた日の夜。舞台は幼鳳宮から当主の宮殿ーー灼炎宮に移る。

 その規模は幼鳳宮の比ではない。黒と灰色がベースの建材は高い防火性を誇り、当主の焔をも耐えていた。

 庭園には花の代わりに真っ赤に燃え盛った植物が植えられており、仕える騎士も皆炎を纏っている。

 この莫大な熱の塊によって熱された空気は高く天へと昇り、雲を突く抜ける。それゆえか、この炎の宮殿に雨が降ることはなく、曇天であろうと灼炎宮だけには光が降り注ぐ。

 そんな炎王の宮殿に、眷族ロルフ・アイヒベルクが登城する。

「ロルフ・アイヒベルク、御身の前に」
「過分な礼は要らん。幼鳳宮の件を報告せよ」
「っは」

 そこは当主の執務室。書斎までもが炎に包まれているが、不思議と紙も書物も燃えることはない。

 その中でも、金色に燃える椅子に腰かけている黒髪蒼目の男がひときわ目を引く。

 精悍な顔立ちと屈強な体格。一睨みするだけで人を殺せそうな瞳。身に纏うアーティファクトだけで宮殿一つ買えるほど。

 その男こそが、アンブロシア家当主リカード・アンブロシアである。

 そして、リカードの前で跪くロルフ。現在、部屋の中には二人のみ。リオンの命令を守るための、ロルフの計らいである。

 リオンの部屋で起こった爆発。ディアークとの序列戦やその結果。それらを嘘偽りなく報告する。

 それを聞き終えたリカードはペンを置き、椅子に体重を預ける。そして、ニヤリと笑う。

「クックック、見事な手際だな。さすがはあれの子だ」
「如何なさいますか?」
「……はぁ、もう少し余韻に浸らせてもよかろう」
「承知いたしました」

 せっかちなロルフを黙らせ、リカードは天を仰ぐ。

(イリアで最後かと思ったが、またもや怪物を生んだか。全く、とんでもない)

 一方そんなリカードを見て、ロルフも驚きを隠せずにいた。

(リカード様が、息子のことでここまでお喜びになるとは……第一夫人には申し訳ありませんが、やはりヨーラン様は特別のようですな)

 両者共に一息ついたところで、リカードの方から声をかける。

「ロルフ、ディアークの今の予算は?」
「およそ18億ルーンでございます」
「リオンは?」
「10億ぴったりでございます」
「少ないな。桁を一つ増やしてやれ。金はオレの金庫から出そう」
「っ!? よろしいので?」
「あぁ、いいものを見せてもらった褒美だ。あいつの望み通りにしてやろう」

 リオンの望み。つまり、兄弟には知られたくないという望みだ。

 アンブロシア家では大した金ではないが、家門から100億の予算が出れば調べる者をいるだろう。だから、リカードは私有財産から出すことにした。

「幼鳳宮を出るまではオレが匿ってやろう」

 逆に言えば、幼鳳宮を出たら肩入れしない。
 温室育ちの雛鳥には、アンブロシアを継ぐ資格はないのだ。

 
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