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胎動・乱世の序章
第12話 攻城戦
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第一夜の奇襲から2日が経過し、ようやく三国連軍に動きがあった。
「動きますね」
「ああ」
現在レオンハルトがいるのは、砦の中央にある大門の上。
横幅が1kmなのだ。門一つでは足りないだろうが、レオンハルトはあえてそうしている。戦を優位に進めるためには門は少ない方がいい判断だが、実は別の理由もあったりする。
おかげで、今レオンハルトの目の前には十五万の大軍が勢揃いしているわけだが。
三国連軍先頭の兵が盾を構えながらこちらへ進んでくる。それに合わせて、後続の軍も全体を前へと進ませる。普通の攻城戦だ。
敵が射程に入ったのを確認すると、レオンハルトは号令を下す。
「撃てぇええ!」
第一夜に続いて、両軍は二度目の接触を果たすのだった。
◆
「くそ、なんでこんなに手こずってるんだ」
ボソッと呟くようにケイスケがそういう。大将初心者のケイスケなら、こういう状態になるだろうと踏んだリューシスは、あえて現場指揮から離れ、ケイスケのそばに控えていた。
「戦とはそういうものですので。あれほどの砦ともなれば、一日二日では落ちませんよ」
「っち。レイカ、あの砦、吹き飛ばせるか?」
「うーん、できるとは思うけど、かなりの準備期間が必要だよ?」
「どれぐらい必要だ?」
「あの規模の砦を破壊するとなると、二週間、いや三週間はかかると思う」
「念の為、今からその準備を進めてくれ」
「お待ちを。まさかレイカ様の大魔法で敵ごと吹き飛ばすおつもりで?」
「念の為って言っただろ? 三週間以上かかったらやらせるつもりだ」
「おやめください! 未だに敵の総大将が判明していないのですよ!? ここまで秘匿されるなら相当の大物。死なせてしまっては後の交渉に支障が出ます!」
「交渉も何も、シオンさえ返してくれればそれでいい。レイカの魔法を受ければ、敵もすぐ降参するに違いない」
(こっちはよくないんだよ! すぐ降参されても、徹底抗戦されても、得られる利益が減るだけ。人質を取った上で、取れる土地を抑えておかないと、戦争の経費すら賄えない。くそ、面倒な)
心の中でとはいえ、リューシスは思わず口が悪くなる。アホは御しやすいとは言ったものの、このまで固執したアホとなればただただ面倒なだけ。
(三週間以内で落とす。それしかない)
本来タイムリミットのないこの戦に、自らタイムリミットを設置してしまった。レオンハルトを相手に焦りを見せることの愚かさを、彼らはまだ知らない。
◆
ごくごく一般的な攻城戦。それを左右するのは兵の精強さや士気、そして城壁の高さにある。
弓兵が矢を撃ち合って互いを牽制する。もちろん高所の方が有利である。だからこそ、少ない兵力でも持ち堪えられるのだ。
破城槌のようなもので扉を破ることも試されたが、すぐに無理だと判断した。この関所の門はなんと完全な鉄製。厚さはわからないが、やってみた手応えとしてはまるで開く気配を感じさせない。
どれほど打ち付けてもびくともしない門を前にして、三国連軍は早々に諦めて砦の内側からの開門に方向転換した。
そして、この攻城戦は次のステージに突入する。
「梯子をかけられました!」
「石を落とせ! 登らせるな!」
砦の上ではある程度の石が蓄えられている。登ってくる敵への対策としては、すこぶる有効な手段だ。もちろんすぐに尽きるものだが、ないよりはマシだろう。
そしてその石が尽きると、すぐさま敵が登ってくる。
「来たぞ! っぐっは」
「弓兵は下がれ! 歩兵を前に出せ。直属騎士団の方々に続け!」
城壁の上まで登られてしまうと、そこからは白兵戦だ。登ってくる敵を囲うように歩兵が詰め寄り、次々と突き落としていく。
奥深く入ってくるものがいれば、突き落とすのではなく斬り伏せる。
そんな風に戦いは進んでいくが、そこからは膠着状態だ。一進一退の攻防を繰り広げられていく。登ってきたところで敵兵は微塵も進めないが、だからと言って登るのをやめるわけにはいかない。
延々と兵が送り込まれるだけ。そのはずだった。
「ん?」
「どうなさいましたか?」
「あの一団はなんだ……」
レオンハルトの視線の先にあるのは黒いマントと、黒い軍帽のようなものを被った一団。数はそれほど多くなく、せいぜい300人程度。
矢の雨の中を縫うように、素早く城壁へと近づくその一団は、レオンハルトの目に留まる。そして、その真っ黒な一団が手に持っている筒のような物を構えると、次の瞬間ーー
パン!
パンパンパンパンパン!
「!!な!?」
軽い破裂音と共に、城壁の上の兵士が倒れていく。その頭部からは血が流れ、死んでいることがわかる。皇下直属騎士団でも、それは同じ。死は、平等に訪れたのだ。
「「「「「……」」」」」
絶句。さっきまで共に戦った仲間がいつの間にか死体となっていた。その言い知れぬ恐怖は、すぐさま兵士たちの心に入り込んでいった。
恐怖は伝染するもの。かつてのレオンハルトがやったことと同じようなことが、今起きようとしてる。
「伏せろ! あの黒い集団の射線上に立つな!」
しかし、そんな状況下でもレオンハルトは冷静に状況を分析していた。明らかにおかしいのはあの集団。そして、彼らが持っている武器にある。
レオンハルトの号令とともに、兵士たちは地に伏す。とは言ったものの、城壁の上には敵兵もいる。伏せてしまっては戦えない。
なるべく狙われないように、低姿勢での戦いする兵士たち。先程まで優勢だったが、一気に苦戦を強いられるようになってしまった。
すぐさま対策を取るべく、レオンハルトは周りと連絡を取り合う。
「シオン、あの武器はなんだ? 明らかに教国が持ち込んだ物だろ?」
「……あれはおそらく銃だ。私がいた頃はまだ開発されていないと聞いたが」
「どういう武器だ?」
「弾丸という小さな塊を、爆発の推進力で押し出す。目視できないほど早く、おまけに威力も高い。人を殺すために特化した道具だ」
「なるほど……恐ろしい武器だな」
そう言ってレオンハルトは顎に手をかけて思索する。
教国が使用しているのは火縄銃のような武器で、再装填に時間がかかるし、連射もできない。現代の銃火器と比べると劣ってしまうが、それでも十分に脅威的な兵器だ。
「マルクス、被害状況は?」
「騎士団の死者は10名以上出てしまいました。それ以外にも負傷者多数です」
「厄介だな。だが、騎士団員なら対処できるのではないか?」
「っは。不意打ちでなければ、目視して避けることは可能です。実際避けた騎士もいるようです」
この世界の戦士たちは魔獣という危険な生物と戦うために、自らの肉体を磨き続けてきた。その中でも、魔力操作を覚えた直属騎士団の騎士なら銃弾を見て避けることも不可能じゃないだろう。
「じゅ、銃を避ける。そんなことができるのか?」
現代的な常識があるシオンにとっては受け入れられ難い事実だろう。しかし、そう言っている彼女は、弾丸など目を瞑っていても両断できるほどの実力者。
この世界に来てから初めて見るの銃火器に感覚を狂わされているのだろう。
「ならば、騎士たちを中心に戦線を立て直せ。銃とやらの特性も周知せよ」
「かしこまりましーー」
ドン!
ドンドンドン!
マルクスが返事をする前に、城壁は凄まじい轟音に包まれることなる。そして、それと同時にレオンハルトたちの足場である城壁が揺れる。
「今度は何だ?」
「レオンハルト様! あれをご覧ください!」
マルクスが指差す先。そこにあるのは、両サイドに車輪のついた大きな筒。その筒から煙を立ち昇っており、この轟音を生み出した張本人で間違いないだろう。
その黒い筒が10台。
そしてその兵器を見たシオンが、声を震わせながら呟く。
「た、大砲まで用意しているのか」
一昔前の設計だが、その黒い筒は大砲で間違いない。
「あれはちょっと、まずいかもな」
「動きますね」
「ああ」
現在レオンハルトがいるのは、砦の中央にある大門の上。
横幅が1kmなのだ。門一つでは足りないだろうが、レオンハルトはあえてそうしている。戦を優位に進めるためには門は少ない方がいい判断だが、実は別の理由もあったりする。
おかげで、今レオンハルトの目の前には十五万の大軍が勢揃いしているわけだが。
三国連軍先頭の兵が盾を構えながらこちらへ進んでくる。それに合わせて、後続の軍も全体を前へと進ませる。普通の攻城戦だ。
敵が射程に入ったのを確認すると、レオンハルトは号令を下す。
「撃てぇええ!」
第一夜に続いて、両軍は二度目の接触を果たすのだった。
◆
「くそ、なんでこんなに手こずってるんだ」
ボソッと呟くようにケイスケがそういう。大将初心者のケイスケなら、こういう状態になるだろうと踏んだリューシスは、あえて現場指揮から離れ、ケイスケのそばに控えていた。
「戦とはそういうものですので。あれほどの砦ともなれば、一日二日では落ちませんよ」
「っち。レイカ、あの砦、吹き飛ばせるか?」
「うーん、できるとは思うけど、かなりの準備期間が必要だよ?」
「どれぐらい必要だ?」
「あの規模の砦を破壊するとなると、二週間、いや三週間はかかると思う」
「念の為、今からその準備を進めてくれ」
「お待ちを。まさかレイカ様の大魔法で敵ごと吹き飛ばすおつもりで?」
「念の為って言っただろ? 三週間以上かかったらやらせるつもりだ」
「おやめください! 未だに敵の総大将が判明していないのですよ!? ここまで秘匿されるなら相当の大物。死なせてしまっては後の交渉に支障が出ます!」
「交渉も何も、シオンさえ返してくれればそれでいい。レイカの魔法を受ければ、敵もすぐ降参するに違いない」
(こっちはよくないんだよ! すぐ降参されても、徹底抗戦されても、得られる利益が減るだけ。人質を取った上で、取れる土地を抑えておかないと、戦争の経費すら賄えない。くそ、面倒な)
心の中でとはいえ、リューシスは思わず口が悪くなる。アホは御しやすいとは言ったものの、このまで固執したアホとなればただただ面倒なだけ。
(三週間以内で落とす。それしかない)
本来タイムリミットのないこの戦に、自らタイムリミットを設置してしまった。レオンハルトを相手に焦りを見せることの愚かさを、彼らはまだ知らない。
◆
ごくごく一般的な攻城戦。それを左右するのは兵の精強さや士気、そして城壁の高さにある。
弓兵が矢を撃ち合って互いを牽制する。もちろん高所の方が有利である。だからこそ、少ない兵力でも持ち堪えられるのだ。
破城槌のようなもので扉を破ることも試されたが、すぐに無理だと判断した。この関所の門はなんと完全な鉄製。厚さはわからないが、やってみた手応えとしてはまるで開く気配を感じさせない。
どれほど打ち付けてもびくともしない門を前にして、三国連軍は早々に諦めて砦の内側からの開門に方向転換した。
そして、この攻城戦は次のステージに突入する。
「梯子をかけられました!」
「石を落とせ! 登らせるな!」
砦の上ではある程度の石が蓄えられている。登ってくる敵への対策としては、すこぶる有効な手段だ。もちろんすぐに尽きるものだが、ないよりはマシだろう。
そしてその石が尽きると、すぐさま敵が登ってくる。
「来たぞ! っぐっは」
「弓兵は下がれ! 歩兵を前に出せ。直属騎士団の方々に続け!」
城壁の上まで登られてしまうと、そこからは白兵戦だ。登ってくる敵を囲うように歩兵が詰め寄り、次々と突き落としていく。
奥深く入ってくるものがいれば、突き落とすのではなく斬り伏せる。
そんな風に戦いは進んでいくが、そこからは膠着状態だ。一進一退の攻防を繰り広げられていく。登ってきたところで敵兵は微塵も進めないが、だからと言って登るのをやめるわけにはいかない。
延々と兵が送り込まれるだけ。そのはずだった。
「ん?」
「どうなさいましたか?」
「あの一団はなんだ……」
レオンハルトの視線の先にあるのは黒いマントと、黒い軍帽のようなものを被った一団。数はそれほど多くなく、せいぜい300人程度。
矢の雨の中を縫うように、素早く城壁へと近づくその一団は、レオンハルトの目に留まる。そして、その真っ黒な一団が手に持っている筒のような物を構えると、次の瞬間ーー
パン!
パンパンパンパンパン!
「!!な!?」
軽い破裂音と共に、城壁の上の兵士が倒れていく。その頭部からは血が流れ、死んでいることがわかる。皇下直属騎士団でも、それは同じ。死は、平等に訪れたのだ。
「「「「「……」」」」」
絶句。さっきまで共に戦った仲間がいつの間にか死体となっていた。その言い知れぬ恐怖は、すぐさま兵士たちの心に入り込んでいった。
恐怖は伝染するもの。かつてのレオンハルトがやったことと同じようなことが、今起きようとしてる。
「伏せろ! あの黒い集団の射線上に立つな!」
しかし、そんな状況下でもレオンハルトは冷静に状況を分析していた。明らかにおかしいのはあの集団。そして、彼らが持っている武器にある。
レオンハルトの号令とともに、兵士たちは地に伏す。とは言ったものの、城壁の上には敵兵もいる。伏せてしまっては戦えない。
なるべく狙われないように、低姿勢での戦いする兵士たち。先程まで優勢だったが、一気に苦戦を強いられるようになってしまった。
すぐさま対策を取るべく、レオンハルトは周りと連絡を取り合う。
「シオン、あの武器はなんだ? 明らかに教国が持ち込んだ物だろ?」
「……あれはおそらく銃だ。私がいた頃はまだ開発されていないと聞いたが」
「どういう武器だ?」
「弾丸という小さな塊を、爆発の推進力で押し出す。目視できないほど早く、おまけに威力も高い。人を殺すために特化した道具だ」
「なるほど……恐ろしい武器だな」
そう言ってレオンハルトは顎に手をかけて思索する。
教国が使用しているのは火縄銃のような武器で、再装填に時間がかかるし、連射もできない。現代の銃火器と比べると劣ってしまうが、それでも十分に脅威的な兵器だ。
「マルクス、被害状況は?」
「騎士団の死者は10名以上出てしまいました。それ以外にも負傷者多数です」
「厄介だな。だが、騎士団員なら対処できるのではないか?」
「っは。不意打ちでなければ、目視して避けることは可能です。実際避けた騎士もいるようです」
この世界の戦士たちは魔獣という危険な生物と戦うために、自らの肉体を磨き続けてきた。その中でも、魔力操作を覚えた直属騎士団の騎士なら銃弾を見て避けることも不可能じゃないだろう。
「じゅ、銃を避ける。そんなことができるのか?」
現代的な常識があるシオンにとっては受け入れられ難い事実だろう。しかし、そう言っている彼女は、弾丸など目を瞑っていても両断できるほどの実力者。
この世界に来てから初めて見るの銃火器に感覚を狂わされているのだろう。
「ならば、騎士たちを中心に戦線を立て直せ。銃とやらの特性も周知せよ」
「かしこまりましーー」
ドン!
ドンドンドン!
マルクスが返事をする前に、城壁は凄まじい轟音に包まれることなる。そして、それと同時にレオンハルトたちの足場である城壁が揺れる。
「今度は何だ?」
「レオンハルト様! あれをご覧ください!」
マルクスが指差す先。そこにあるのは、両サイドに車輪のついた大きな筒。その筒から煙を立ち昇っており、この轟音を生み出した張本人で間違いないだろう。
その黒い筒が10台。
そしてその兵器を見たシオンが、声を震わせながら呟く。
「た、大砲まで用意しているのか」
一昔前の設計だが、その黒い筒は大砲で間違いない。
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