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胎動・乱世の序章
第10話 接敵
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皇国の東には要所がある。中央へ進むには必ず通ると言ってもいい道である。その北と南には山脈が広がっており、行商や進軍には不便すぎる。
他に道はないということもないが、幅があまりに狭く、また道路も整備されていない。したがって、南北が山で挟まれているこの地は、軍事的にも行商的にも重要な地点となっている。
当然関所は設けられているが、いざ侵攻されたらひとたまりもない。何故なら、道幅があまりにも広すぎるのだ。そもそも道と呼んでいいかどうかも不明である。
その幅は約1km。関所など、大軍に攻められてはひとたまりもない。そもそも皇国兵は平原戦を好むため、教国との戦争はいつもこの地よりもさらに東の地で行われるのである。
しかし、今回は兵力差が明らか過ぎる。地形を利用せざるを得ないのだ。
現在、皇下直属騎士団員5000がこの地に集結している。この時点でまだ敵は国境を超えていないらしい。だがしかし、正式な書簡はすでにレオンハルトの元に届いた。
ーーーーー
チャンスは与えた。
勇者シオンの返還を幾度となく跳ね除けたのは貴様らだ。
その傲慢さのツケは払ってもらうぞ。
ーーーーー
だが、届いた内容の余のひどさにレオンハルトは思わず失笑する。
「宛先なし、署名なし。おまけに内容は傲慢そのもの。これで宣戦布告のつもりか? ギャグのつもりなら上出来だ。思わず笑ってしまったよ」
「「「「「……」」」」」
流石のレオンハルトもこれには多少イラついたらしい。いつもよりも饒舌だ。
「あの、兄上。私が言って、説得してくるというのはどうだろうか?」
「別にいいが、無駄だと思うぞ」
「なぜだ?」
「勇者が納得するかどうかは別にして、三国連合軍はそれで納得しないだろうからな」
そう。総大将が勇者だが、相手は三国連合軍。決して善意で勇者に協力しているわけではないのだ。
それぞれの国には思惑があって、それを実現するために勇者を利用しているに過ぎない。それに勇者たちが気付くことはないだろう。なんせ、こちらに召喚されるまではただの中学生なのだから。
「敵軍がこの地につくまであとどれぐらいかかる?」
「っは。敵軍の位置と進軍速度から、1ヶ月程度はかかるかと思われます」
「十分だな。国土建築院はいつ到着する」
「ガイアス殿から5日後には到着するとの連絡が」
「じゃあそれまでにできる作業を進めよう」
「「「「「っは!」」」」」」
そう言って騎士たちは、敵襲に備えて動き出したのだった。
◆
5日後、ガイアス率いる国土建築院が関所に到着する。しかし、そのあまりな光景に全員が口をあんぐりと開き、呆然と立ち尽くしていたのだ。
「なんじゃこれは」
「お? 着いたか」
兵士に混ざり作業をしていたレオンハルトは、ガイアスたちの到着を確認すると、すぐさま近づいてくる。
「着いたかじゃねーだろ。なんだこれは?」
「これからお前たちにも同じことをやってもらうぞ」
「は?」
ガイアスたちを加えたことで、さらに作業効率は上がっていったのだった。
◆
ガイアスたちが合流し、二週間が経過した。レオンハルトの命により、東の地にいる貴族も兵を派遣することとなっている。そして、東といえばバルフェウス公爵家。
その当主であるバルフェウス公爵が率いる一万五千もの貴族兵が、レオンハルトたちと合流する。
しかしーー
「なんだ、これは?」
ゴクリと唾を飲み込む音が、あちこちから聞こえる。その地に突如生まれた何かを見上げる一同。全員の視線がある一箇所、というより同じ角度に固定されていた。
「お? 着いたか?」
作業着を腰に巻き、上裸となったガイアスが近寄ってくる。滝のように流れる汗を拭くそぶりすら見せない。
「ガイアス殿、これは一体?」
「ああ、いい、いい、その反応はとっくに見た。とにかく作業に加われ」
「は?」
一万五千もの労働力を得て、仕事はさらに加速する。
◆
時は進み、勇者率いる三国連合軍が皇国の国境を超えてから1ヶ月ほど経過していた。その間、皇国兵どころか民間人すら一人も見かけていない。
通過した城や村はもぬけのからで、食料や財宝も大しておいていなかったのだ。そのせいで兵士たちにフラストレーションが溜まっていた。
だが、指揮官階級は呑気なものだった。
「いやあ、楽勝楽勝」
「油断しないでください。相手はあの皇国なのですよ」
「大丈夫大丈夫。その皇国さんは帝国の相手で手一杯だ。俺らに構ってる余裕なんてないだろうよ」
「火事場泥棒みたいな真似はあまり好きではありませんが」
「っけ、聖人ぶりやがって。本国からは奪えるだけ奪って来いって言われてるくせに」
「私個人の意思と国の意思別ですので」
そう会話を交わすのは、ヴィルジュ王国とフィアーノ共和国の大将。
ヴィルジュ王国の代表は、騎馬民族のような革鎧を身に纏った大男。鎧の上からでも膨れ上がった筋肉がよくわかる。口周りは濃い髭に覆われており、とても豪快そうな男である。
名はガリムという。
それに対し、フィアーノ共和国の代表は革鎧ではなく鉄の軽鎧を纏っていた。小柄というわけではないが、ガリムのそばに立つとどうしても小さく見える。腰に長剣が刺さっており、金髪碧眼のいかにもエリートそうな男である。
名はリューシスという。
現在二人は馬上にいる。器用に舌を噛まずに会話を続けていた。
「にしても楽勝すぎだろ。敵にここまで攻め込まれて、兵の一人も現れないとか。教国と同じ三大国だっていうから期待したのに」
「皇国を甘く見ないほうがいいですよ」
「甘く見る見ないの話ではない。この国は腰抜けだと言っているのだ」
「それを甘く見ているというのですよ……っと、そろそろ陽が沈みますね。総大将に野営の進言をせねば」
「野営のタイミングすら他人任せとは、勇者というのは呑気でいいな」
「それに関しては私も同感ですね。まあ、こっちの方が御し易いと本国も判断したのでしょう……いってきます」
「おう」
遠く離れた地にある両国。戦争することもないため、指揮官同士の関係は良好である。
そして、二人の会話に耳を傾けるだけで、一切会話には参加しなかった竜王国の代表。長い黒(・)髪(・)に目の下のクマが、陰気くさい雰囲気を醸し出している。
(馬鹿だなぁ。皇国がお前たち程度にどうこうされるはずないでしょ)
◆
「勇者様、そろそろ野営の時間です」
「ええ、もう? わたし達はまだ全然いけるけど。この世界の人間は脆弱だなぁ」
共和国代表リューシスの進言に対してそう返事をしたのはレイカである。勇者として馬上にいるレイカたちと、長距離を自分の足で進む兵士たちでは差があるのは当たり前だ。
「レイカ様。そうは言ったものの、日が沈んでゆくのを止める手立てはありません」
「夜にでも進軍すればいいんじゃない」
「無茶です。視界が不明瞭な上に、いつ敵に襲われてもおかしくない状態で進軍などと」
「でもでも、この1ヶ月間ずっとそんなこと言っているけど、一回も襲撃されなかったじゃん」
「今までなかったからとはいえ、これからないとは限りません。皇国の中枢に入れば入るほど、危険は増すのですよ」
「危険って何よ」
「敵襲であったり、魔獣の襲撃であったり。数えたらキリがありません」
「その程度が危険と呼べるの?」
「勇者様方にとっては大したことないかもしれませんが、ここでいたずらに兵を失うわけにはいきません」
「むう」
リューシスはそうやって気長にレイカを諭す。今までもあった展開だから、リューシスもイラつくことなく冷静に対処した。
しかし、今日は少しだけ違うよだ。
「リューシス殿。ご忠告感謝する。しかし、今日はこのまま進軍しようかと」
総大将ケイスケがそう言い放ったのだ。
「なぜですか?」
「今までもリューシス殿の助言通り野営を行ってきたが、少し進軍速度は遅れ気味だ。多少のリスクなら、許容すべきと判断した」
「遅れ気味? 今まで戦闘がなかった分、進軍はすこぶる順調ですが?」
「では戦闘がなかった分、兵士は精力旺盛ということにもなる。その分を進軍に回せば問題ないだろう」
『問題大有りだ』
そう飛び出そうな言葉を飲み込むリューシス。
そもそも、夜の進軍は昼と違い視界が悪い。それだけで兵士たちに多大なストレスを与える。さらに、日が暮れてしまうと、野営等の準備も難しくなってしまうのだ。
いくら戦闘がなかったとはいえ、1ヶ月もの間進軍し続けたのだ。疲労困憊とまではいかないが、元気というほどでもないだろう。
遠征の経験がない勇者たちが、早く終わらせようと焦っているのが目に見えている。特にレイカはすでに遠征に嫌気を差し始めたのだ。
だが、こうなったらケイスケは止まらないだろう。そう思い、リューシスは心中でため息をこぼすのだった。
「両サイドが山岳に囲われたこの地ならば、敵襲の心配もないだろう。違うか? リューシス殿」
「……ではせめて斥候を」
「ははは、こんな開けた道で斥候などいらないさ。リューシス殿は慎重だな」
今すぐこのバカを殴りつけたい。そう拳を握るリューシス。
これで大将に名乗り出るとは、自信過剰にもほどがある。斥候の役割は別に奇襲防止だけではない。あらかじめ敵戦力と相互間の距離を確認するとこで自分達に有利な地形を選ぶことができるのだ。
それを訳のわからない理由で否定されては、流石のリューシスも従う訳にはいかない。日が暮れるタイミングを見計らって、リューシスは前方へ斥候を放ったのだ。
◆
三国連合軍の進軍は深夜まで続いた。
「おい、あのバカ勇者。いつまで進む気だ。流石にそろそろやべえぞ」
「ええ、私もそう思ってさっきから何度も話しているのですが、もう少し、もう少しと、なかなか聞いてくれません」
「兵に疲れが溜まってきてる。昼の進軍に支障が出かねない。これじゃあ本末転倒だぞ」
「そうですね……私が放った斥候、遅いですね。いくら夜だからといって、流石に一人ぐらいはーー」
リューシスの言葉はそこで止まる。
なぜならーー
天より無数の、魔法の矢が降り注いだのだ。
「て、敵襲、敵襲だあああああ!」
ドン!
敵襲を伝える叫び声のすぐ後に、魔法の矢が地を打つ音がしばらく続くのだった。
他に道はないということもないが、幅があまりに狭く、また道路も整備されていない。したがって、南北が山で挟まれているこの地は、軍事的にも行商的にも重要な地点となっている。
当然関所は設けられているが、いざ侵攻されたらひとたまりもない。何故なら、道幅があまりにも広すぎるのだ。そもそも道と呼んでいいかどうかも不明である。
その幅は約1km。関所など、大軍に攻められてはひとたまりもない。そもそも皇国兵は平原戦を好むため、教国との戦争はいつもこの地よりもさらに東の地で行われるのである。
しかし、今回は兵力差が明らか過ぎる。地形を利用せざるを得ないのだ。
現在、皇下直属騎士団員5000がこの地に集結している。この時点でまだ敵は国境を超えていないらしい。だがしかし、正式な書簡はすでにレオンハルトの元に届いた。
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チャンスは与えた。
勇者シオンの返還を幾度となく跳ね除けたのは貴様らだ。
その傲慢さのツケは払ってもらうぞ。
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だが、届いた内容の余のひどさにレオンハルトは思わず失笑する。
「宛先なし、署名なし。おまけに内容は傲慢そのもの。これで宣戦布告のつもりか? ギャグのつもりなら上出来だ。思わず笑ってしまったよ」
「「「「「……」」」」」
流石のレオンハルトもこれには多少イラついたらしい。いつもよりも饒舌だ。
「あの、兄上。私が言って、説得してくるというのはどうだろうか?」
「別にいいが、無駄だと思うぞ」
「なぜだ?」
「勇者が納得するかどうかは別にして、三国連合軍はそれで納得しないだろうからな」
そう。総大将が勇者だが、相手は三国連合軍。決して善意で勇者に協力しているわけではないのだ。
それぞれの国には思惑があって、それを実現するために勇者を利用しているに過ぎない。それに勇者たちが気付くことはないだろう。なんせ、こちらに召喚されるまではただの中学生なのだから。
「敵軍がこの地につくまであとどれぐらいかかる?」
「っは。敵軍の位置と進軍速度から、1ヶ月程度はかかるかと思われます」
「十分だな。国土建築院はいつ到着する」
「ガイアス殿から5日後には到着するとの連絡が」
「じゃあそれまでにできる作業を進めよう」
「「「「「っは!」」」」」」
そう言って騎士たちは、敵襲に備えて動き出したのだった。
◆
5日後、ガイアス率いる国土建築院が関所に到着する。しかし、そのあまりな光景に全員が口をあんぐりと開き、呆然と立ち尽くしていたのだ。
「なんじゃこれは」
「お? 着いたか」
兵士に混ざり作業をしていたレオンハルトは、ガイアスたちの到着を確認すると、すぐさま近づいてくる。
「着いたかじゃねーだろ。なんだこれは?」
「これからお前たちにも同じことをやってもらうぞ」
「は?」
ガイアスたちを加えたことで、さらに作業効率は上がっていったのだった。
◆
ガイアスたちが合流し、二週間が経過した。レオンハルトの命により、東の地にいる貴族も兵を派遣することとなっている。そして、東といえばバルフェウス公爵家。
その当主であるバルフェウス公爵が率いる一万五千もの貴族兵が、レオンハルトたちと合流する。
しかしーー
「なんだ、これは?」
ゴクリと唾を飲み込む音が、あちこちから聞こえる。その地に突如生まれた何かを見上げる一同。全員の視線がある一箇所、というより同じ角度に固定されていた。
「お? 着いたか?」
作業着を腰に巻き、上裸となったガイアスが近寄ってくる。滝のように流れる汗を拭くそぶりすら見せない。
「ガイアス殿、これは一体?」
「ああ、いい、いい、その反応はとっくに見た。とにかく作業に加われ」
「は?」
一万五千もの労働力を得て、仕事はさらに加速する。
◆
時は進み、勇者率いる三国連合軍が皇国の国境を超えてから1ヶ月ほど経過していた。その間、皇国兵どころか民間人すら一人も見かけていない。
通過した城や村はもぬけのからで、食料や財宝も大しておいていなかったのだ。そのせいで兵士たちにフラストレーションが溜まっていた。
だが、指揮官階級は呑気なものだった。
「いやあ、楽勝楽勝」
「油断しないでください。相手はあの皇国なのですよ」
「大丈夫大丈夫。その皇国さんは帝国の相手で手一杯だ。俺らに構ってる余裕なんてないだろうよ」
「火事場泥棒みたいな真似はあまり好きではありませんが」
「っけ、聖人ぶりやがって。本国からは奪えるだけ奪って来いって言われてるくせに」
「私個人の意思と国の意思別ですので」
そう会話を交わすのは、ヴィルジュ王国とフィアーノ共和国の大将。
ヴィルジュ王国の代表は、騎馬民族のような革鎧を身に纏った大男。鎧の上からでも膨れ上がった筋肉がよくわかる。口周りは濃い髭に覆われており、とても豪快そうな男である。
名はガリムという。
それに対し、フィアーノ共和国の代表は革鎧ではなく鉄の軽鎧を纏っていた。小柄というわけではないが、ガリムのそばに立つとどうしても小さく見える。腰に長剣が刺さっており、金髪碧眼のいかにもエリートそうな男である。
名はリューシスという。
現在二人は馬上にいる。器用に舌を噛まずに会話を続けていた。
「にしても楽勝すぎだろ。敵にここまで攻め込まれて、兵の一人も現れないとか。教国と同じ三大国だっていうから期待したのに」
「皇国を甘く見ないほうがいいですよ」
「甘く見る見ないの話ではない。この国は腰抜けだと言っているのだ」
「それを甘く見ているというのですよ……っと、そろそろ陽が沈みますね。総大将に野営の進言をせねば」
「野営のタイミングすら他人任せとは、勇者というのは呑気でいいな」
「それに関しては私も同感ですね。まあ、こっちの方が御し易いと本国も判断したのでしょう……いってきます」
「おう」
遠く離れた地にある両国。戦争することもないため、指揮官同士の関係は良好である。
そして、二人の会話に耳を傾けるだけで、一切会話には参加しなかった竜王国の代表。長い黒(・)髪(・)に目の下のクマが、陰気くさい雰囲気を醸し出している。
(馬鹿だなぁ。皇国がお前たち程度にどうこうされるはずないでしょ)
◆
「勇者様、そろそろ野営の時間です」
「ええ、もう? わたし達はまだ全然いけるけど。この世界の人間は脆弱だなぁ」
共和国代表リューシスの進言に対してそう返事をしたのはレイカである。勇者として馬上にいるレイカたちと、長距離を自分の足で進む兵士たちでは差があるのは当たり前だ。
「レイカ様。そうは言ったものの、日が沈んでゆくのを止める手立てはありません」
「夜にでも進軍すればいいんじゃない」
「無茶です。視界が不明瞭な上に、いつ敵に襲われてもおかしくない状態で進軍などと」
「でもでも、この1ヶ月間ずっとそんなこと言っているけど、一回も襲撃されなかったじゃん」
「今までなかったからとはいえ、これからないとは限りません。皇国の中枢に入れば入るほど、危険は増すのですよ」
「危険って何よ」
「敵襲であったり、魔獣の襲撃であったり。数えたらキリがありません」
「その程度が危険と呼べるの?」
「勇者様方にとっては大したことないかもしれませんが、ここでいたずらに兵を失うわけにはいきません」
「むう」
リューシスはそうやって気長にレイカを諭す。今までもあった展開だから、リューシスもイラつくことなく冷静に対処した。
しかし、今日は少しだけ違うよだ。
「リューシス殿。ご忠告感謝する。しかし、今日はこのまま進軍しようかと」
総大将ケイスケがそう言い放ったのだ。
「なぜですか?」
「今までもリューシス殿の助言通り野営を行ってきたが、少し進軍速度は遅れ気味だ。多少のリスクなら、許容すべきと判断した」
「遅れ気味? 今まで戦闘がなかった分、進軍はすこぶる順調ですが?」
「では戦闘がなかった分、兵士は精力旺盛ということにもなる。その分を進軍に回せば問題ないだろう」
『問題大有りだ』
そう飛び出そうな言葉を飲み込むリューシス。
そもそも、夜の進軍は昼と違い視界が悪い。それだけで兵士たちに多大なストレスを与える。さらに、日が暮れてしまうと、野営等の準備も難しくなってしまうのだ。
いくら戦闘がなかったとはいえ、1ヶ月もの間進軍し続けたのだ。疲労困憊とまではいかないが、元気というほどでもないだろう。
遠征の経験がない勇者たちが、早く終わらせようと焦っているのが目に見えている。特にレイカはすでに遠征に嫌気を差し始めたのだ。
だが、こうなったらケイスケは止まらないだろう。そう思い、リューシスは心中でため息をこぼすのだった。
「両サイドが山岳に囲われたこの地ならば、敵襲の心配もないだろう。違うか? リューシス殿」
「……ではせめて斥候を」
「ははは、こんな開けた道で斥候などいらないさ。リューシス殿は慎重だな」
今すぐこのバカを殴りつけたい。そう拳を握るリューシス。
これで大将に名乗り出るとは、自信過剰にもほどがある。斥候の役割は別に奇襲防止だけではない。あらかじめ敵戦力と相互間の距離を確認するとこで自分達に有利な地形を選ぶことができるのだ。
それを訳のわからない理由で否定されては、流石のリューシスも従う訳にはいかない。日が暮れるタイミングを見計らって、リューシスは前方へ斥候を放ったのだ。
◆
三国連合軍の進軍は深夜まで続いた。
「おい、あのバカ勇者。いつまで進む気だ。流石にそろそろやべえぞ」
「ええ、私もそう思ってさっきから何度も話しているのですが、もう少し、もう少しと、なかなか聞いてくれません」
「兵に疲れが溜まってきてる。昼の進軍に支障が出かねない。これじゃあ本末転倒だぞ」
「そうですね……私が放った斥候、遅いですね。いくら夜だからといって、流石に一人ぐらいはーー」
リューシスの言葉はそこで止まる。
なぜならーー
天より無数の、魔法の矢が降り注いだのだ。
「て、敵襲、敵襲だあああああ!」
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敵襲を伝える叫び声のすぐ後に、魔法の矢が地を打つ音がしばらく続くのだった。
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