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帝位・勇気を紡ぐ者

SIDE 西方連合

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 西方連合。大陸西側に位置する小国たちの連合である。

 元々はバラバラな小国たちだが、西側の海に面していることで、海路を利用して貿易を盛んに行なっていた。その財力は大国にも負けないと言われている。。

 しかし、それゆえ大国の餌食にされやすい。特に皇国と帝国という二大国家に近い国にとっては、たまったものではない。海ぞえの国家を侵略するためには、自分たちの領土を通過せざるを得ないからだ。

 そして、海沿いの国家も防波堤となる国が踏み躙られるのは都合が悪い。そのことから発起したのが、西方連合である。

 小国たちでも、大国から身を守るべく団結すれば、争うことぐらいできる。幸い三大国同士でいがみ合っているため、自分たちに矛先が向くこともない。

 こうして、小国たちはひそひそと生き延びてきたのだ。

 しかし、その平和が長かった故に、大国の恐ろしさを忘れつつあるのもの事実。

「三国大戦の影響で帝国と皇国はともに大ダメージを受けた! 攻めるなら絶好のチャンスです」
「そうだそうだ! 我らを見下してきた奴らを見返すには絶好のチャンスだ」

 現在、そういきり立っているのは西方連合の行政機関たる評議会の議員たちである。各国から毎年数名から十数名ほど選出され、計200名が所属している下院。

 そして、主要12国家から一人ずつ代表が選出され、上院を成す。

 基本的に国家の方針は上院が議決し、それに対して下院が賛同する形で決定する。下院の過半数が賛同すれば提案は通り、逆に反対であれば提案は否決される。

 しかし、上院に議員を送り込める国家は下院でも相当の権力を有する。従って、下院が上院の決定を否決することはほぼあり得ない。その他の小国を納得させるために作られた見掛け倒しの政策である。

 そして現在、絶賛会議中である。会議室の中央には巨大な丸いテーブルが置かれており、そこに12人の男女が座っていた。上院議員たちである。

 彼らを囲うように、下院議員たちの席が用意されていた。上院議員たちから離れるほど、席は高くなっていくため、円の外回りに座っている議員たちも、中央の様子がよくわかる。

 先ほど大国を攻め落とせというのは下院議員たちの声である。しかし、本来であれば彼らに声を出す権利はない。大国同士が互いを弱め合ってくれたことで興奮しているのだろう。

 だが、それで上院議員たちは黙っているはずもなく。

「静粛に」
「黙れ」
「うるさいですよ」

 3人の上院議員が同時に言葉を発する。それによって場は迅速に冷えていく。下院議員たちも自分たちの過ちに気づいたのだろう。すぐに口を閉じ、下を向いて冷や汗を流す。上院議員の不興を買ったと。

「ごっほん! では、ここに第31回臨時議会の開会を宣言します」

 議長風の男がそう言って会議を開始する。ビシッと西洋の礼服のようなものを着こなし、光り輝く銀髪をオールバックにした若い男である。常に目を細めており、何を考えているのか読めない様子。

「まずは議題をはっきりさせましょう。皇国、帝国の内乱においての、我が連合の方針を決定したい。大国が乱れているうちに攻め入るか、それとも静観を貫き通すか、はたまた別の選択肢を取るか、ですね」
「その別の選択肢ってのはなんだよ?」

 先ほど下院議員に「黙れ」と言った男性の上院議員がそんなことを言い出す。小麦色に焼けた肌に、無造作に伸ばした金髪、鎧でも纏っているかのような筋肉。

 身に礼服こそまとっているものの、それを大雑把に着崩し、胸元まで目せるような豪快さを見せている。

「内乱に介入し、我々の傀儡を作り上げる、とか」
「っは、さすがは商人。やることが汚い」
「良いアイディアだと思いますよ。少なくとも静観を貫くよりかは」

 豪腕の男に対し、穏やかそうな表情を浮かべた女性が返事をする。こちらの女性は男性たちと違い、礼服ではなくドレスで会議に参加している。

 その艶のある藍色の髪とよく似合う深海を思わせるドレスを身に纏い、上品そうに目の前の紅茶をすする。口元にある小さな黒子がさらに彼女の魅力を引き立てている。

「せっかく皇国も帝国も乱れているのですから、取れるものはぶん取っておきましょう」

 しかし、その見た目の華やかさに反し発言は過激である。

「それを議論するための臨時会議です。さあ、存分に語りましょう」

 こうして、西方連合の臨時会議が幕を開けた。

 ◆

「会議の結果、賛成11、反対1ということで帝位争いへの介入が決定しました」

 拍手が巻き起こる。下院議員たちの多くも、大国への干渉を望んでいたため手に汗握っていたのだ。そして今、11対1で帝位争いへの参加が決定した。

 大差。そう言っていいほどの差である。皆、大国に対しては鬱憤が溜まっていたのだろう。攻めれるうちに攻めないと、次のチャンスがいつ来るかがわからない。

 そしてただ一人、最後まで反対を貫いた上院議員。和装に身を包み、金髪の髪を靡かせた女性である。ただし、彼女はここにいる議員たちとは違う特徴がある。

「ほな、うちらは降りさせてもらうで」

 そう言って、女性は立ち上がる。なんの迷いもなくその場を立ち去る。

「おい、まだ会議が終わってねーだろが。座れ」
「なんでうちがあんたの指図を受けなあかんの?」

 先ほどの小麦肌の男が女性を引き止める。それに対して、女性はなんの悪びれもなく言い返す。

 上院議員同士のトラブル。当然下院議員たちは慌てるが、それ以外にも嫌悪の感情が見え隠れしていた。流石にこのままではまずいと、議長を兼ねる男が止めに入る。

「カエデさん。コミュニティにはそれなりのルールがあります。所属している以上、それを守ってもらわないといけませんよ」
「そのコミュニティを、今抜けると言うたけど?」
「……なんだと? 正気ですか?」
「うちからしたら、あんたらの方がよっぽど正気やない」
「どういうことですか?」
「さて、どうないなことやろうな。うちはここいらでお暇させてもらうでー。ほなさいなら」

 引き止めも虚しく、女性は颯爽と立ち去る。それを見届けることしたできなかった議長風の男は舌打ちをし、

「っち、亜人風情が」

 小さく呟かれたその声は、しかしながら静かな会議室ではよく聞こえた。そう、立ち去った金髪の女性の耳には狐のような耳が生えていたのだ。


 ◆

 この世界では亜人よりも人間の方が圧倒的に数が多い。しかし亜人が存在しないわけではないし、当然コミュニティーも存在する。

 その最大のコミュニティーが獣王国ヴィルヘイユ。獣王国とは言いつつも、エルフやヴァンパイア、ドワーフなど、さまざまな亜人が暮らしている。

 獣王国と呼ばれる所以は、王族が常に獣人であるというだけである。

 人間ならば不満も生じるだろうが、亜人のコミュニティーではその感情は少ない。別に自分たちの暮らしさえ保障されれば、誰が王だろうと構わない。そういうスタンスである。

 亜人には明確な得意分野があるため、それぞれの分野で力を振るえば、国としてバラバラになることもない。

 そして現在の獣王国の女王は、金狐族のカエデである

「陛下、よろしかったのですか? 西方連合を抜けて」

 二人いる従者のうちの一人がそう尋ねる。

「ええよ。だって、もう群れるメリットもあらへんし。せやろ? リーシャ」

 そう言ってカエデはもう一人の従者の方に話しかける。

 その従者は、一見すると金髪をした人間の男性にように見える。しかし、その実態は高度な幻術がかけられたエルフの女性である。

 なぜそのような擬態をしているかというと、彼女にはとある任務が課せられたのだ。

「はい。間違いなく、皇国の皇帝となるのはレオンハルト・ライネルでございます。武勇をとっても、智略をとっても一級品。おまけに部下に三騎士まで抱え込んでいます。負けることはまずあり得ません。そして、かのものはーー」
「うちら側、ちゅうわけか」
「はい。レオンハルト・ライネルは皇国でも親亜人派で有名です」
「そんな人間がおったとは、会うてみたいなぁ」
「陛下なら、機会もございましょう」

 なぜこの従者が皇国の内情にここまで詳しいのか。なぜこの従者は人間の姿に変装しているのか。それは、かつて彼女はと呼ばれた皇国の切り札だったからである。

「時代が、変わるで」

 ◆

 結局、皇国も帝国も予想以上に早く内乱が収まったせいで、西方連合は介入する機会を失ってしまったのである。




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