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帝位・勇気を紡ぐ者

第6話 合流

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 翌日、再び勇者の少女の部屋へやってきたレオンハルト。

 コンコン。

「レオンハルトだ。入っていいか?」
「ど、どうぞ」

 辿々しい声が聞こえるが、とりあえず了解を得たということで、レオンハルトは部屋へ入る。すると、そこには昨日とは違い、髪を後ろで一纏めにした勇者の少女の姿があった。

 少女はなぜか視線を合わせてくれないが、特に問題もなく元気そうである。

「元気そうだな」
「は、はい。おかげさまで……あ、あの、昨日はお見苦しいところを……」
「何、気にすることはない。それより昨日の続きといこうか。今度はこちらから質問させてもらうぞ」
「う、うむ」

 身構える少女。恐怖からではなく、純粋な緊張のようだ。ベッドの上に座って布団をかけているが、その布団を強く握りしめていた。

 それにはレオンハルトも苦笑いを禁じ得ないでいるが、とりわけ指摘することでもない。

「では、まずは、名前を教えてもらおうか」
「え? あ! は、はい! 如月詩音だ。あ、こっちじゃあシオン・キサラギか」
「ふむ。シオンか。ではシオン、お前はなぜ教国兵に追われていたのだ? 勇者なのだろ?」
「……抜け出してきた」
「なぜ?」
「あの国にいてはいけないと思った……この世界には亜人もいると聞く。しかし、あの国の人間は口を開けば亜人蔑視この言葉ばかり。この世界ではどうかわからないが、前いた世界では人種差別はご法度だ。少なくとも私がいた国ではそうだ」
「なるほど。だが、残念な知らせがある。この世界では亜人を見下すものは多数派だ。教国でなくとも、亜人の立場は低い」
「そ、そんな……」
「だがまあ、うちの領ではそれは改善されていると思うぞ」
「ほ、ほんとか!?」
「ああ。自慢にはなるが、うちの領は大陸でもっとも多くの亜人が集まる地だ。俺も亜人の友人は多かったからな」
「そ、そうか、よかったぁ~」

 いちいちリアクションをとってくれるから、レオンハルトとしても話していて楽しい。だが、楽しい話ばかりをするわけにも行かない。

「では、次の質問だ。これからどうしたい? 旅に出るか?」
「う、うううう」

 シオンは難しい顔をして唸り始めた。そんな少女が面白くてついついからかってしまったレオンハルト。彼女が最も言って欲しい選択肢を敢えて言わなかったのだ。

「まあ、うちの領に残ってもいいぞ?」
「い、いいのか!?」

 シオンはわかりやすく顔に華を咲かせる。やはり彼女はわかりやすい、と思うレオンハルトも自然のつられるように笑ってしまう。

「ああ、だが、仕事はしてもらうぞ?」
「もちろんだ!」
「よし、交渉成立だな。仕事は後で割り当てよう。では最後の質問だ……」

 レオンハルトの真剣な視線に、息を呑むシオン。

「もし、元の世界に戻れるなら、戻りたいか?」
「……戻りたい」
「そうか……文献によると、勇者が元の世界に戻れた前例は一度もない。俺の方でも調べてみよう」
「う、うむ。感謝する」
「今はゆっくり休むといい。じゃあ」

 そう言って立ち去れるレオンハルト。帰り際に振り返ると、なぜか彼女は寂しそうな顔をしていたのが目に付く。扉は閉まり、レオンハルトの視線も切られる。だが、その顔だけは脳内に鮮明に刻まれいた。

(仕事と言っても、やらせることは特にないんだよな)


 ◆


 シオンがライネル領へやってきた、一週間が経過した。来たばかりの時はボロボロなシオンも、今はピンピンしている。そろそろ彼女にも仕事を与えるべきだと、レオンハルトが頭を悩ませた結果。

「相談役?」
「ああ、勇者としての知恵を貸して欲しい」
「それは構わんが……そんなものでいいのか?」
「ああ、シオンは俺たちのたちの知らない知識や情報を知っている。それを存分に活かしてほしい」
「なるほど……わかった。そういうことなら……」

 ということで、シオンの暫定的なポジションは決定した。より詳しい情報を得るべく、レオンハルトは幹部たちを集め、会議を行うことにした。

 会議に参加するのは、騎士団長のマルクス、文官筆頭のセバスチャンに加えて、オリービア、シリア、リンシアの5人である。

 サクッと自己紹介を済ませた後、レオンハルトはこう切り出す。

「では、現状の把握から始めよう。皇国内では現在内乱状態。レギウス第二皇子が第一皇子と第一皇女の勢力に宣戦布告。斥候の報告によると、レギウス皇子はすでに軍を招集し、遠征を開始した模様。それに対してクリストファー皇子は静観し、ケイシリア皇女の勢力は反発しているらしい」
「見事なまでの内乱ですね」
「ああ、国内がこの様子では、他国から攻め込まれたらひとたまりも無い。そこで、シオンに来てもらったわけだ。教国の内情が知りたい」
「私の出番というわけか……ゴッホン、私が教都を出た段階では、教国は政治的に安定してたように思える。先の戦の損害やら責任の所在やらを議論する余裕があるほどだからな。だが、辺境に差し掛かった時は、どうも雲行きが怪しいくなってきた」
「ほう? 怪しいとは?」
「偶然、私を追いかけて来た騎士たちの話を聞くことがあってな。私は耳がいいから、多少距離が離れていても声が聞こえるのだ。彼ら曰く、教皇庁内部で権力闘争が起こっているらしい。理由はわかないが、騎士たちは教皇猊下がご乱心だ、と言っていたな」
「なるほど。教国も一枚岩ではないということですか」

 文官のセバスチャンは、政治的な分析を行っていた。そこで、武官であるマルクスが質問をぶつける。

「軍事的には、どうですか?先の大戦でセベリス元帥が大ダメージを与えたそうですが?」
「軍事的に、か……すまない、軍事についての情報は、私のいた教都よりも聖都の方が出回っているから、詳しい話は何とも」
「そう、ですか。では、勇者についての情報を教えていただけますか?」
「マルクス。あまり勇者について聞いてやるな。教国に思い入れがなくとも、勇者とは同じ世界から来た仲間だ。あまり仲間を裏切らせるような真似はさせたくない」
「っは。申し訳ありません。配慮に欠けていました」

 レオンハルトがマルクスを窘める。しかし、当の本人はというと、

「あ、いや、別に私は気にしないぞ。確かに同じ世界から来たのは間違いないが、彼らとは反りも合わなかったし、仲間という意識はあまりない」
「そうなのか。俺の早とちりだったか。すまない。マルクスも」
「いえ、滅相もございません」
「ではシオン。勇者についての情報を聞かせてくれ」
「うむ。まずは勇者とは、からだな。レオンハルトは勇者についてどこまで知っているのだ?」
「異界の勇者。稀にこちらの世界に迷い込んでくる異世界人。我々にはないギフトという力を持ち、そのギフトは総じて強力なものである、というのが世間一般の認識だ。俺もそう思っている」
「それで大体だっている。ただし、迷い込んでくるのではなく、呼び出される場合もあるがな。あの国は、転生勇者と召喚勇者なんて呼び方をしているが。ギフトという力があるというのも正しい。ギフト以外にもこちらの世界の人間同様、魔法を扱うことができる。私の場合は、火と光のダブルだな」
「そのギフトというのを詳しく聞いてもいいか?」
「別に構わんぞ。私のギフトは、空間の強制切断だ。指定した座標に強制的に割れ目を生み出し、その座標に存在するものごと切断する。発動のトリガーは自分で指定できるが、私は納刀にしている。納刀の判定は、刀身の半分以上鞘から出た状態から、刀を鞘に収めることだ」

 ギフトの内容を詳しく聞いた一同は、そのあまりに破格な能力に絶句する。防御不能で不可視な一撃をいつでも放てるわけだ。

 そんな中でもいち早く、能力の分析を済ませたレオンハルトは、疑問を呈する。

「なるほど、知らなければ恐ろしい能力だな。そんなこと、俺たちに教えてよかったのか?」
「うむ! 私はレオンハルトを信頼しているからな!」
「信頼してくれるのは嬉しいが、もう少し人を疑うことを覚えた方がいいぞ?」
「う、うむ」

(そういえば、昔もこんな話をしたっけ?)

 レオンハルトの脳裏には、裏切った友人の顔を浮かぶ。
 目を閉じ、頭を横に振る。今更考えても仕方ない。それよりも、今は勇者の力を把握する方が先だ。

「シオン」
「なんだ?」
「なぜそんなトリガーにしたんだ? 自分で指定できるなら、もっと簡単なものでも良かったのではないか?」
「そんな便利なものではないのだ。簡単なトリガーにすればするほど、効果範囲は狭まるし、発動に時間も掛かる。納刀という動作にすると、瞬時発動でき、効果範囲は私から半径10m以内と言ったところか」
「なるほど、そういう能力だと分かれば、対応の仕方はいくらでもある、か」
「それはレオンハルト様だからだと思います。私は、魔法からの遠距離攻撃で削るぐらいのことしか思いつきませんよ」

騎士団長のマルクスは苦言を呈する。

「空間の切断ということは、魔法も切れるのではないか? シオン、そこのところどうなんだ?」
「切れるぞ。練習を重ねれば、複数のものを一回でる切ることもできる」
「……勇者、恐ろしいですね」
「でなければ、護国の三騎士に匹敵する戦力とまで言われないからな」

(護国の三騎士といえば……ん?)

「……」
「レオンハルト様?」
「どうしたの? レオ君?」
「ふふふ、はははははは」
「どうしちゃったの!? レオ君!」

 突然大笑いをし始めるレオンハルトを見て、一同は戸惑いを禁じ得ない。当のレオンハルトはいえば、

「噂をすればなんとやらだ……オルア、アリスを呼んできてくれ。屋敷の玄関にだ」
「え? わかった。でも、今アリスは……」
「問題ない。さて、大馬鹿ものを迎えに行くか。ついて来い」


 ◆

 一同、会議室を離れて、屋敷の玄関へと向かう。扉を開け、庭へ出た途端、レオンハルトは闘気を漲らせる。

「「「……(ごっく)」」」

 息を呑む一同。

 レオンハルトの視線には、黒いマントを纏った一団がいた。そのうちにいる1人の人物を目にした瞬間、

 陸跡魔闘術ーー歩跡・こがらし

 超速でその人物の元へと駆け寄るレオンハルト。

「お? お出迎えーー」
「ふんぬ!」
「ぐっはっ!」

 走ったままの勢いで、レオンハルトはその人物を殴りつける。

「い、痛いじゃないかぁ、レオくん」

 レオンハルトの一撃を受けで、吹き飛びもせず、ただ痛いの一言だけで済ませる。それだけで、この男の実力が伺える。

「しくじった大馬鹿ものにはこれぐらいが丁度いい。さて、言い訳はあるか? シュナイダー」

 そう。この男こそが、皇国皇帝暗殺の濡れ衣を着せられ、処刑されたはずの人物、麗剣のシュナイダーである。

「いたたたた、あはは、今回ばかりは、流石に言い訳しないよ」
「まあ、なにはともあれ」

 そう言って右手を差し出すレオンハルト。

「無事で何よりだ」

 その手を取るシュナイダー。

「あはは、レオくんの優しさが怖いよぅ。この後槍でも降るのかな?」
「降らせてやろうか?」
「怖い怖い」

 護国の三騎士、麗剣シュナイダー、合流。

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