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動乱・生きる理由
第16話 混沌
しおりを挟む空よりも遥か上空。その上空よりも、さらに、さらに上に白い空間が広がっていた。
二人の少年?少女?がそのにはいた。性別はわからないが、二人は全く同じ顔をしていた。
「あ~あ、死んじゃったね」
「死んじゃった~」
「君のお気に入りだっけ? その子」
「そうそう。珍しい子だったからね」
「まあ、確かに。記憶を消しきれない子は今までもいたけど、意識まで消せないのはあの子で二人目だからね」
「今度ここにきたら、ちゃんと消せるかな?」
「さあね。わかんない。僕たちは、ただ役目をはたすだけだからね」
「ねー」
「僕たちは」
「私たちは」
「「ただ見守るだけ」」
「「全ては、輪廻の赴くままに」」
◆
混沌に満ち溢れた戦場。そこへ、ある一行がやってきていた。ライネル領兵たちだ。
先頭を行くのは、シリア。その背中には、レオンハルトの遺体が背負われてた。誰もが、信じられないような表情を浮かべていた。
そんな彼らを、取り囲むのは味方であるはずの兵。
「どういう、ことですか?」
「お前たちには叛逆の容疑がかかっている。身柄を拘束させてもらおうぞ」
「叛逆?」
心ここにあらず、と言う感じのシリア。それでも、この軍の副長としての役割はしっかり果たそうとしている。
「ああ、そうだ。お前たちは帝国と通じーー」
ボワー。
その瞬間、火の海が割れた。
「進めええええ!!」
その向こう側から現れたのは、帝国軍だった。
「ば、馬鹿な!?」
ライネル領兵を取り囲んだ兵士たちも、流石にこれは予想外だっただろう。
火を纏った地獄の兵士とはまさにこのこと。
「進めえ、敵を討ち滅ぼせ!!」
こうして、帝国軍と皇国軍の乱戦が始まった。
◆
帝国軍が現れた理由は至極単純。
「皇帝陛下!?」
帝国軍本陣に帰ったへガンドウルム。未だにうまく煉獄を扱えず、回復が進まない。レオンハルトとの戦闘がトラウマになっているようだ。
「く、クソがっ!」
「へガンドウルム陛下!!」
「……こ、殺せ」
「はい?」
「レオンハルト・ライネルを今すぐ殺せええ!!」
そう怒鳴り散らすへガンドウルム。敗北を初めて経験した子供のようだ。
「彼なら、もう死んでると思うよ」
そうフレデリックは答えるが、
「ならばその首を余の元持ってこい!!」
「しかし、この炎ではーー」
「突っ切れ」
「え?」
「突っ切れえ!! なんとしてもレオンハルトの首を持ってこい!」
「し、しかしーー」
口答えした兵士の首は吹き飛んだ。へガンドウルムの一撃によって。瀕死といえど、大陸最強だった男だ。やはり強い。
「さっさと行かんか!このグズどもがああ!!」
「「「は、はっ!!」」」
結局恐怖には勝てなかった。
「やれやれだ」
そうため息をこぼすフレデリックだった。
◆
三万の兵が突撃を仕掛け、炎の海を抜たせたのはわずか2万。1万もの兵士が、煉獄の炎に焼かれた。
それでもーー
「なんとしても、レオンハルト・ライネルの首を持ち帰る!! 行くぞお」
「「「おおお!!」」」
恐怖の方が勝った。
しかし、その帝国軍の言葉に反応したのは、シリアだ。
「レオンハルト様の、首?」
アメジストの瞳に、影が落ちる。
「ふざけるのも大概にしてください。これ以上私から何を奪うと言うのですか……全軍撤退! ライネル領に帰還する。なんとしても、レオンハルト様を領に送り届けます!」
「「「おおう!!」」」
ただの遺体でも、命をはって守る価値がある、そう皆が思ったのだろう。
◆
帝国軍と皇国軍の乱戦。夥しい数の死体がそこら中に転がっていた。帝国、皇国側の死者はともに万を超えていた。帝国は煉獄の炎に、皇国は同士討ちで、ともに甚大の被害を受けた。
そして、それは教国がわとて同じ。総大将と副将が行方不明。背後からの奇襲で、軍は半壊。残りのものも逃げ惑うばかり。
より多くのものを逃すために、神聖騎士団が殿を務め、そして全滅した。
それを成し遂げた男は、無論元帥のセベリスである。
「なんだってんだ? なんで味方同士で殺し合ってる?」
その答えを持ち合わせるものは、いなかった。代わりに、一通の伝令が舞い込んできた。
その伝令を受けたセベリスは、
「んな!? ば、かな」
驚愕していた。
◆
ライネル領を目掛けて、撤退を図るシリアたち。しかし、その道中は帝国兵に襲われることが多々あった。
そして今もーー
「そいつの首を渡してください」
「断る!」
満身創痍のライネル領兵。それを取り囲むは五千の帝国兵。
「ただの死体ですよ。渡してくれれば、君たちは見逃そう」
「断る!」
「なぜそこまでするのですか? 理解に苦しみます」
「そっちこそ、ただの死体と言う割には随分と必死じゃありませんか」
シリアの言葉に、敵兵士が苦虫を潰したような顔をする。
「皇帝陛下が、ご乱心だ。そいつの首さえられば、きっとも元の皇帝陛下に戻ります! だから、その首をわたせ!!」
「断る!」
「かかれ!!」
命令に従い、一斉にライネル領兵におそいかかる帝国兵たち。
「ただの死体とは……」
「言ってくれるじゃねーか」
「何も知らないくせに」
「ふざけるなよ」
「俺は、妻と子供を救われたんだ。流行病で倒れた妻と子を、あのお方は私財を投じて治してくださった。たとえ遺体でも、ちゃんと領に返さにゃならんのだ!!」
「獣と罵られた私を、あのお方は拾ってくださった。生きる意味を、見出してくれた。ならば、この命! 燃え尽きるまで、あのお方のものだ! かかってこい帝国の犬ども! 豚の餌にしてくれる!」
「僕ら亜人の唯一の生きる場所を与えられたんだ。僕らの帰る場所はいつだってレオンハルト様のそばにある。もう、これ以上奪われてたまるかあ!!」
領兵の心は一つになった瞬間だった。
そして、皆の体に金色の光が灯す。
ーーーーー
これはとある最強の男へのインタビューである。
Q:極大魔法とはなんですか?
A:しらいないよ。学者に聞いて。
Q:極大魔法を使う時はどう言う気分ですか?
A:全能感。この一言に尽きるね。なんたって、極大魔法だからね。天地を操る魔法と言い変えてもいい。自然は我が手中にある。それりゃ全能感に包まれるっしょ。まあ、それが罠なんだけどね。
Q:罠?
A:そりゃ罠でしょ。戦場で余裕ぶっこいてたら一瞬で死ぬからね。
Q:どうやったら極大魔法を使えるのですか?
A:知らないよ、そんなの。でもまあ、ただ一つ言えるのは。
Q:一つ言えるのは?
A:降ってくるんだよ。詠唱が、霊言が。全く知らない言葉が脳裏の浮かんで、それを唱えると魔法が発動する。理由は人それぞれ。小便が漏れそうになって発現した人もいるぐらいだからねぇ。
ーーーーー
ライネル領兵の新しい武器には、藍金の刻印が施されていた。その効能は、魔力の増幅、そして、魔力の共鳴。
本来、極大魔法を放つだけの技量も魔力もない1000人の兵士だが、1000人分の魔力が集まり、奇跡的に共鳴を果たした。
「「「我が身は剣なり 敵を切るさく刃なり」」」
巨大な金色の剣が虚空から突如現れた。
「「「我が身は盾なり 主を守る砦なり」」」
巨大な金色の盾が虚空から突如現れた。
「「「我が忠誠は不変にして 悠久なり」」」
空間が裂け、2本の手ががそれぞれ剣と盾を握る。
「「「永久の騎士よ 我が身元に参られよ」」」」
その両手から騎士が形作られる。上半身は人間、下半身は馬の騎士である。
『熾天騎士』
その霊言と共に、騎士が雄叫びをあげた。自身の誕生を祝うかのように。
『グアアアアアアアああぁ』
その騎士の体のうちには、ライネル領の兵士を全て含んでいた。それほど巨大な、金色のオーラを靡かせた騎士が佇んでいた。
「ば、馬鹿な!?」
「ありえない」
「う、うわあああ」
熾天騎士の蹂躙が開始した。
帝国兵の攻撃は全て金の盾で防ぐ、否、全ての攻撃は金の盾に向かって吸収されていく。
襲いかかる帝国兵を金の剣で切り裂く、否、切り裂いた先には常に敵がいる。
「な、なんで! ちゃんと頭を狙ったのに!」
「うわあああ! それはさっき避けただろうが!」
「む、無理だ。もう終わりだ」
そうやって、熾天騎士は蹂躙を続ける。
一刻と立たぬうちに、帝国兵たちは蹴散らされた。
金色の騎士は、そのままライネル領に向けて駆け出しだ。
そう思われたのだった。
「極大魔法『幻想一刀』」
「「「!!」」」
一つの刃が金色の騎士を襲う。咄嗟に盾で防ぐが、刃は盾をすり抜け、騎士の体をもすりく抜けた。
何も起こらない。そう思った途端、金色の騎士は崩れた。地に伏した1000人の兵士。無事なのはシリア、リンシアだけである。
「心配すんな。ただの魔力切れだ」
「……どうして、なぜあなたがここにいる……セベリス元帥!」
苦虫を噛み潰したような顔をした皇国元帥が、そこにいた。
「勅命だ。レオンハルト・ライネルの首を持ち帰れと」
「「なあ!?」
どうやら、ただでは終わらないらしい。
ーーーーーー
あとがき
状況が複雑になってきましたので、少し整理します
レオンハルト → 死亡?
ライネル領兵 → 帰還を目指す
皇国軍 → 分裂
帝国軍 → レオンハルトの首
セベリス元帥 → レオンハルトの首?
教国軍 → 半壊(神聖騎士団全滅)
まさに混沌!
応援ありがとうございます!
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