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動乱・生きる理由

第13話 運命か、因縁か

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 今から千年前。大陸が一つになる前の物語。

 身分も、財産も、記憶も、何もない少年が、ある少女と出会い、大陸をおさめるまでの物語。

「ねー、君ー。名前なんて言うの?」
「……アレクサンダリア」

 街の隅っこで、二人は出会った。スラム街の一角である。いかにも貴族のお嬢様のような少女と、ドブネズミのように汚れたどこにでもいそうなスラム街の少年。

「アレクサンダリア……うーん、長い! アレクって呼ぶね。わたしクラウディア。よろしくね」
「……クラウディア」

 それは偶然か、必然か。



「私ね、おうちが嫌い」
「……」
「偉くもないのに偉そうにしてる男に、人の苦しみをまるで理解できない女、そんな人たちに育てられた子供。ぜーんぶ、大っ嫌い!」
「……」
「だから、こうしてよく抜け出すの。悪い子でしょ」
「……」
「ねー、なんとか言ってよ。独り言みたいになっちゃったじゃん」
「……逃げれば、いいだろ」
「それがそうもいかないのよ。貴族って面倒だよね。でも、まあ、いいこともあるけどさ」
「……」
「アレクと出会えたんだから」
「っ! ……」
「一人に、しないでね。アレク」

 アレクサンダリアにとってその笑顔は、眩しすぎたのかもしれない。まるで太陽のようだった。

 その太陽の日に毒されすぎたのかもしれない。地の底にいたの少年は、浴びるべきではない日差しをあびて、ひずんでしまった。



「ねー、アレク。これからどこにいくの?」
「……遠いところ」
「そっかあー。じゃあ、もうおうちに帰れないね」
「……ああ」

 盗み出した小型の馬車に、小型の馬。どう考えても、逃げ切れるはずがない。それでも、やってしまったのはきっと、あの太陽のせい。



「このクソガキが!! 手こずらせやがって」
「ぐふ」

 大男たちに囲まれる二人。その中心で、少年は暴行を受けていた。

「やめて! 全部わたしが悪いの! わたし帰るから! だから! アレクにひどいことしないでえ!」

 少女の嘆願は、少年の心を抉る。

「おいおい、お嬢ちゃんよ。あんた一つ勘違いしてるぜ」
「え?」
「俺らの任務はな、あんたを連れ帰ることじゃない。抹殺なんだわ」

 男の言葉は、少年の心に怒りを灯す。

「いやあぁあ!」

 少女の絶叫は、少年の心に陰を落とす。

「わ、わたしはいいから、は、早く逃げて。アレク、巻き込んじゃって、ごめんね」

 少女の涙は、少年の心を黒く染め上げた。

 気づいた時には、全てが終わっていた。少年の頭は、少女の胸の奥に収まっていた。まるで子供をあやかすように、少女は優しい眼差しを向ける。

 あたり一面は血の海。潰れた肉片ばかりが、血の海を漂う。
 原型を留めている死体は、一つもない。

 誰がこの惨状を作ったのかは、言うまでもないだろう。

 少年の頭を撫でる少女の手は震えていた。

 それでもーー

「ありがとう、そして、ごめんなさい」




 少女は成長し、少年も成長した。その歪みは、もうどうしようもないほど、大きく膨れ上がっていた。

 少年は、王になることを決意した。全ては、少女を守るためだ。

 王となり、強い国を作り上げれば、全てを守れると思っていた。少年と少女の故郷の国は、真っ先に滅ぼされた。
 
 当然の報いだ。そう思った。

 少女の両親の最後の言葉ーー

「この悪魔めが! あの時! あの時しっかり殺していれば!! そもそも生まれて来なければーー」

「ああ、神よ。なぜ私に悪魔を授けたのでしょうか。あの悪魔を、今すぐにでもくびき殺したいーー」

 少女にとっての呪いとなった。

 自分が生きていれば、周りが不幸に、そう思った。

 自分が生きていれば、少年も不幸に、そう思ってしまった。




 少女は死んだ夜、少年は全てを焼いた。

ーー俺は太陽、が欲しかった。俺を照らしてくれた、あの太陽に憧れた。憧れたばかりに、失ってしまったのだろう。見てくれよ、クラウディア。今の俺の太陽は、こんなにも黒ずんでいるじゃないかーー

 大統帝アレクサンダリアは大陸最強となった。

 全てを焼き尽くす炎ーー煉獄の炎を手に入れて。




 時は進み、大陸統一が果たされて500年が経過した。

 なんの偶然か、一人の墓泥棒がとある墳墓にたどり着いた。大統帝アレクサンダリア一世が眠っていると噂の墳墓だ。

 なんの偶然か、その墓泥棒は500年もの間に発見されなかった、アレクサンダリア一世の遺体を発見した。

 なんの偶然か、その墓泥はアレクサンダリア一世の血を引くものだった。

 ーー煉獄の炎は、継承されてしまった。

 これが、ルドマリア帝国の誕生秘話である。

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