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動乱・生きる理由

第7話 リベンジマッチ

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「これより、第93回武闘大会二回戦第一試合を行う。両者、構え……よーい、はじめっ!!」

 審判の合図二人が同時に動く。槍と大剣がぶつかりあう。

 陸跡魔闘術ーー戦跡・ほむら

 流石に一度で武器破壊できるほど、リンシアの魔纏は甘くない。すかさず二撃目を放つリンシア。上段から振り下ろされてる大剣を、レオンハルトは槍を回転させることで受け流す。

 それと同時に、レオンハルトは自分の除く半径10メートル以内のものに重力魔法をかける。

「っぐ!」

 一気に苦しそうな表情を見せるリンシア。それもそのはず。その重力は、舞台が陥没するほどのものだった。

 リンシアが動けぬのを見てレオンハルトは、槍の石突を突き出す。それをリンシアは大剣の腹で受け、そのまま吹き飛ばされる、と言うより、レオンハルトの攻撃を利用して、重力魔法から逃れた。

(咄嗟の判断が早い。戦闘センスの塊だな、全く)

 自分のことを棚にあげて、レオンハルトはそんなことを考える。一旦距離をとらざるをえなかった二人。ともに武器を構えながら、互いの隙を伺う。

「……さすが、魔法も、一流」
「リンシアは魔法が苦手だったな」
「……剣の方が、好き」

 短い言葉を交わした二人は、再び動き出す。

 陸跡魔闘術ーー歩跡・こがらし

 自身の体重を軽くし、歩跡・凩を発動したレオンハルトはまさしく風の如く。一気にリンシアの後方気回り込み、背後をとる。

 槍を上段に構え、突進とともに振り下ろす。

 それをリンシアはーー

 ーー振り向くことなく、大剣で受けた。

「……ふぅ、危ない」

(勘で防ぎやがった! 化け物め)

 これまた自分のことを棚に上げる発言をするレオンハルト。

 レオンハルトの攻撃を防いだリンシアは、すかさず回し蹴りをレオンハルトに放つ。それを受け流すことができず、レオンハルトは吹き飛ばされてしまう。

 ガードはしっかりとったため、ダメージはない。なんとか空中で体制を立て直し、着地するレオンハルト。
 しかし、リンシアはすでに目の前にまで来ていた。

 着地した瞬間での攻撃だったため、レオンハルトでも対処しきれない。もろに攻撃を受けてしまう。魔力を纏っているとはいえ、少なくないダメージである。

 そのまま、地面を転がるレオンハルト。場外ギリギリでなんとか止まる。

「いてて」

 しかし、顔をあげた先には、またもやリンシアがいた。今度は上段に構えたリンシアの大剣は、しっかりとレオンハルトを捉えていた。

(やば!)

 レオンハルトは持ち前の勘でなんとか攻撃を回避し、転がりながらも飛び上がり、リンシアから距離をとる。

(今のはやばかったな。やられるかと思ったぞ)
(……むう。今ので仕留めたかった)

 再び沈黙の時が流れる。

 それでも、攻めの流れはリンシアにある。よって、先に動いたのはもちろん、リンシアである。

 大剣を横に構えながら突進する、かと思われたが、気づいた時にはリンシアはレオンハルトの目の前だった。

(っ!? これは、縮地。なるほど、俺の動きを見て、練習してきたか)

 だが、まだ練習が甘いのか、間合いが微妙である。レオンハルトが一歩下がるだけで、かわせてしまえるほどに。もちろんレオンハルトは、一歩下がるが、

「……剣の方が、好き」
「ん?」
「……でも、魔法が苦手とは、言ってない!」
「!!」

 リンシアの大剣の先から、水が勢いよく噴き出る。中には、細かい氷も混ざっており、研磨剤としての役割を果たしていた。

 リンシアが原理を理解しているかどう怪しいが、こっちの方が威力が出ると、持ち前の感性でそう感じ取った。レオンハルトの言う通り凄まじい戦闘センスである。

 もともと、リンシアは魔法が苦手だったのは間違いない。しかし、レオンハルトとの再戦に向けて、苦手分野を補ってきたのは言うまでもないことだろう。

 全てを切り裂く水の刃は、地面を削りながら、レオンハルトに迫る。わずかに足りない間合いを埋めるには十分すぎるほどである。直撃すれば、レオンハルトでも戦闘不能に陥ること間違いなし。

 タイミングを見計らって放たれた初見殺し。避けることは、まず不可能。

(……見事!!)

 レオンハルトは、迫り来る水の刃を前に、目を瞑る。

 諦めたのだろうか。否ーー

 陸跡魔闘術りくせきまとうじゅつーー禦跡ぼうせきよろい

 レオンハルトが目を開くと同時に、全身の魔力が吹き荒れる。かと思われたが、噴き出た魔力はしっかりと身に纏わりつき、凄まじい速さで流れていた。

 まるで身に鎧を纏っているかのような出立ち。

 その魔力の鎧に触れたリンシアの水の刃は、無惨に消え去ってしまう。


ーーーーー

 陸跡魔闘術ーー禦跡・鎧

 全身を流れる魔力を、体外に放出し、それを制御することで魔力の鎧を纏う技。

 放出された魔力は、体内を流れる時となんら変わらない形で巡らせる。いや、むしろ体内にいる時よりもはるかに早いスピードで流れていた。

 これにより、レオンハルトよりも魔力制御が劣る相手の魔法を完全に無効化できる。

 かつて、アレクサンダリア1世はとある戦場で、とある大魔法使いと対峙していた。その魔法使いは、世界でも数少ない、極大魔法の境地に至ったものである。

 その地は戦場でありながら、アレクサンダリア1世とその魔法使いしかいなかったという。

 それもそのはず。極大魔法に巻き込まれてしまうからだ。

 その魔法使いはアレクサンダリア1世に目掛けて極大魔法を放つ。さすがのアレクサンダリア1世も死を覚悟した。しかし、最後の足掻きとして、身に纏う魔力を広げ、魔法が身に届くことを防ごうとした。そして、実際防ぎ切った。

 これは、大魔法使いの魔法制御力が劣っていたと言うわけではない。単純に、自らの魔力との距離に原因があった。アレクサンダリア1世は身の回りを守るだけでいいのに対して、大魔法使いは遠距離から魔法を放っている。

 それで魔法制御力でアレクサンダリア1世を上回るのは不可能だろう。

 極大魔法すら防ぐ禦跡・鎧。

 つまり、アレクサンダリア1世を、身から離れた魔法で傷つけることは不可能である。

ーーーーー

「……え?」

 大剣を振り切ったリンシアは、首元に突きつけられた槍を見て呆然とする。必殺の一撃だったはずが、まるで届くことなく、まるで泡沫のように霧散してしまった。

「……今の、なに?」

「なに、旧時代の遺物さ」

「……すごい。私の、負け」

「し、勝者、レオンハルト!!」

 先の試合と同じく歓声は起こらなかった。理由も、先ほどと同じである。とはいえ、観客たちは試合の途中から声をあげることなく、常に静寂なままだったが。

「だ、誰か! 土魔法の使い手を集めてくれ! 舞台の修繕を行う!」

 静寂な空気を破ったのは、先ほどから慌てていた審判である。まさか舞台が壊されるとは思わず、急いで修繕の手配をしていた。

 そして観客たちの意識も徐々に戻る。

「おい! 今の見たかよ!!」
「見た! いや、見てないけど!」
「どっちだよ。まあ、俺も途中から目で追うのが精一杯だったからな」
「嘘つけ! 見えてなかっただろうが」
「すごい! すごい戦いだったわ!」
「ええ! 何も見えなかったけど、すごいってだけはわかる!」

 わけのわからない会話を続ける観客をよそに、レオンハルトはリンシアと話していた。

「にしても、さすがだな。肝が冷えたぞ」
「……でも、また、負けた。レオの方がすごい」

 そういって悔しそうな表情を見せるリンシア。それを見て苦笑いするレオンハルト。再びシュナイダーの言葉が耳元にチラつく。

(悔しい、か。確かに、俺にこんな顔はできんな)

「そんなことはない。お前は過去の自分を乗り越えて成長を遂げたんだ。さっきも言ったが、あれは過去の遺物だ。成長も何もない……そう、ただの、過去の亡霊でしかない」

 最後の一言は小声だったため、リンシアの耳に入ることはなかった。

「……また、稽古、やろう?」
「ああ、もちろん」

 リンシアはスッキリしないものの、しっかり先を見据えていた。この悔しさをバネにどこまで行けるのか、レオンハルトは期待せずにはいられなかった。


 ◆


 その後、オリービアも危なげなく勝ち上がり、いよいよ決勝の時。

 しかし、集う観客に熱気は感じられない。それもそのはず。

「レオンハルト・ライネルの棄権により、オリービア・ラインクールの不戦勝とする!!」

 武闘大会は、オリービアの不戦勝で幕を閉じた。



ーーーーー
あとがき

 作者の一言:始まった……

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