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動乱・生きる理由

第2話 決闘

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「納得できません!」
「そんなこと言われてもなぁ。決めるのはA組の担任だからな」
「だからと言って、なぜよりにもよってあいつなんですか!?」

 皇立学院高等部の職員室にて、真紅の髪を伸ばした少女が、白髪の老人に詰め寄る。

 赤髪の少女は、ティルミス侯爵家の令嬢、カーティアである。そして、詰め寄られた老人は高等部の教頭である。

 普通は生徒がこのように教師に詰め寄るのはあってはいけないことだが、教頭が教頭でいられるのはティルミス家の援助によるものが大きい。だから教頭も強く出られない。

 さて、今二人はなんの話をしているかというと、無論レオンハルトが1年生代表に選ばれたことについてである。

「あの噂は本当だったんですか? あいつが麗剣のシュナイダーのお気に入りっていうのは」
「さ、さあ、それはわしからはなんともいえんが……」
「ではなんなんですか!? まさか、あいつが猛者だらけのA組のトーナメントを勝ち上がったなんて言いませんよね」
「い、いや、今年はトーナメントをしなかったと聞いておる。なんでも、する必要がない、とかでーー」
「する必要はないでしょうね! だって、してしまったらお気に入りのレオンハルトを代表に選べないんだから」
「……」
「どうにかしてください!」
「……では、こうするのはどうだろうか?」




 校内掲示板、というものがある。そこには様々な掲示物が張り出されている。例えば、休み明けに行われる武闘大会の出場者の名簿など。

 そんな掲示板には、珍しく人集りができていた。その中心にあるのは一つの掲示。

「はめられた……」

 その掲示を見たレオンハルトは大きくため息をこぼす。

 その掲示にはこう書かれていた。


ーーーーー

 武闘大会出場枠争奪戦

 此度行われる第93回武闘大会について連絡します。

 誠に遺憾ながら、今年度の武闘大会代表選手選定において、不正が行われたとの通報が複数の学生から寄せられました。

 これは本学の教育理念に著しく反するため、対策措置を取らせていただきます。

 以下のルールのもと、公平にかつ公正に出場枠を再分配を行います。

一つ・出場枠は1年2つ、2年2つ、3年4つ所持している。

一つ・それぞれの出場枠取得者を『仮出場者』とする。

一つ・同学年であれば、誰であっても『仮出場者』に決闘を申し込むことが可能。

一つ・決闘は、『臨時決闘局』にて申し込みを行う。

一つ・『仮出場者』は決闘を拒否することを禁ずる。

一つ・『仮出場者』に勝利した者が、次の『仮出場者』となる。

一つ・決闘を申し込むのは一人一回まで。

一つ・いかなる理由があっても、決闘を取り下げることはできない。

一つ・決闘を申し込んだ相手が敗北した場合は、申し込みが無効となり、再度申請することが可能。

一つ・期日は本知らせの通達日より開始とし、武闘大会1週間前に終了とする。

ーーーーー


「あいつ、こうなるとわかってたな……全く、面倒なことになりそうだ……だが、まあ」

 そういって、首に手をかけたレオンハルトが目を向けたのは2年の出場者の名簿。その一行目にーー

 ーー2年代表 オリービア・ラインクール

 と書かれていた。

「わざと負けるのは、なしだな」


 ◆


「オスカーも決闘を申し込めばいいじゃん!」
「そうだよ、オスカくんならきっと勝てるよ」

 カーティアともう一人、銀色の髪を肩で切り揃えて美少女、レスティナが、赤髪の青年、オスカーに語りかける。

 二人とも、オスカーに武闘大会に出場して欲しそうにしているが、オスカーはそれほど乗り気ではなかった。

「いや、俺はいいよ。あいつとは関わりたくないし」
「なんで!? 筆記ならともかく、実技ならオスカーは間違いなくオスカーが学園最強でしょ! 試験だって、騎士だった教官に勝ってるわけだし、出場したら優勝間違いなしよ!」
「私、オスカーくんのかっこいいところがみたいなー」
「いや、でも」

 武闘大会など興味がないと言わんばかりのオスカーにカーティアも堪忍袋を切らした。

「そんなんならいいよ! 私が出るし!」
「お、おい、待ってよティア」
「あわわわ」

 レオンハルトへの挑戦者が一人、決まる瞬間だった。


 ◆

 「臨時決闘局」というものが設立された。

 この決闘局は、武闘大会出場枠をかけた決闘を成立させるために作られたものである。

 決闘を挑む側はここに果たし状を届け、決闘を挑む側はここで果たし状を受け取ることとなる。果たし状は目に見える形で置かれている。

 つまり、誰が一番決闘を挑まれているかが、一目瞭然である。


ーーーーー
5人 三年 クリシア 

3人 三年 ブリツィオ・ハース 

0人 三年 ライゼン・フーゼリア

6人 三年 ガリウス

0人 二年 オリービア・ラインクール

11人 二年 アイセリア 

5人 一年 リンシア 

71人 一年 レオンハルト・ライネル
ーーーーー

 圧倒的である。もっとも、この圧倒的はレオンハルトは嬉しくないだろう。

「これも日頃の行いか……」
「……馬鹿な人たち」

 レオンハルトと同じく、果たし状を受け取りに来たリンシアがそう呟く。なんと71人のうちには、E組の生徒の名まであった。

 一年生は計100数名しかおらず、そのうちA組の生徒を除けば約80名。そのうち71人がレオンハルトに決闘をふっかけたのだった。

「仕方ない。さっさと終わらせるか」


 ◆

 決闘の場となる訓練場の中央に、レオンハルトとその対戦相手、そして審判が立っていた。その訓練場の縁側には大勢の生徒が見受けらる。その中に、オスカーやカーティアの姿もあった。

 現在、レオンハルトの対戦相手はこめかみに青筋を浮かばせながら、レオンハルトを睨んでいた。そして、審判は大層慌てふためいていた。

 その原因はーー

「ちょっと君! どういうことだい? 1時間の間に12人もの決闘を入れるなんて!?」
「ああ、1人5分で終わるとして12人でちょうど1時間だろ?」
「はあ!? いやいや、決闘だよ! 5分って、君」
「もういいよ、審判の人。どうせ12人目までいかない。俺がここで勝って終わらせるから」

 レオンハルトの対戦相手はそう言い放つ。

「……まあ、君がそれでいいなら……」

 審判はさらに何か言おうとした素振りを見せたが、やがて諦める。

 それを見たレオンハルトとその対戦相手はお互い武器を構える。といっても、レオンハルトの対戦相手は構えというより、武器をたてているだけだが。

「よう、レオンハルト。ようやくお前をぼこせる日が来て、俺は嬉しいよ」
「……」
「せいぜい地面とキスする準備でもするんだな」
「……」
「何か言ったらどうだ!? この腰抜けが!」
「……誰だ? お前」
「なっ、お前!? 俺を忘れたのか!?」

 対戦相手の顔がみるみる赤く染まっている。その赤みは恥ずかしさからか、屈辱からか、はたまた怒りからか。
 おそらくその全てだろう。

「俺はケインズだ! 昔、お前にこき使われてたあのケインズだ! あの頃は公爵家の権力で逆らえなかったが、今は違う。公爵家から追い出されたお前など恐るるに足らん! 俺はお前を倒して、前に進む!」
「……ああ」
(ああ、そういえば昔、すり寄ってきた小物がいたな。甘い汁を啜るだけ吸って、決闘に負けた瞬間手のひらを返したあの。しかも、こいつ偉そうなことを言ってるが、確かE組だった気が……)

「準備はいいか? そろそろ始めるぞ」

 二人の会話を見かねた審判が助け舟を出す。

「ああ問題ない」
「いつでもいいぜ」
「では、よーい、はじめっ!」

 先に動いたのは、もちろんレオンハルト。反射神経の差は伊達じゃない。

 レオンハルトは魔力による身体強化するしていないが、それでも相手生徒はまるで反応できていなかった。そのまま走り寄るレオンハルト。

(これは……ひどいな。武器を使ったらうっかり殺しかねん)

 そう思ったレオンハルトは、進んだ勢いで中段で蹴りを放つ。レオンハルト膝が、ちょうど相手の腹部へと食い込み、一瞬後に、ケインズは面白いぐらい吹き飛んでいった。

「ぐっふっ」

 訓練場の壁にぶつかり、やっと停止する。そして、訓練場内の空気も止まる。中々合図を出してくれない審判にレオンハルトは話しかける。

「あのー、もう戦えないと思うが、どうだろうか?」
「……っあ! し、勝者、れ、レオンハルト!」

 動揺は抜けきっていないが、なんとか判定を下す審判。そして、審判の判定から約1分経過したのち、傍観の生徒たちが我に帰り、動揺が広がる。

「お、おい! 何が起こった?」
「……蹴り飛ばした? ように見えた」
「そうなのか!?」
「おいおい、なんであの野郎が勝ってんだよ! 裏口入学だろうが!」
「俺が知るかよ。なんか姑息な手でも使ったんでしょ」
「ありえるぅ。裏口入学するぐらいだし、薬物とかやっててもおかしくない」
「でも、審判が勝利判定してたし。学園の審判ってそういうのを検知する魔導具があるんでしょ?」
「おい、聞いてねーぞ俺は! 楽勝で勝てるって聞いたから決闘申し込んだのに! これなら女の方にしときゃよかった」

 動揺は収まる気配がないが、レオンハルトも、収まるまで待つつもりもない。着々と決闘をこなしていき、戦った全ての相手が、同じ中段蹴りに吹き飛ばされ、敗北したのだった。

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