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学園・出逢いは唐突に
第15話 夕陽と星空のもとに
しおりを挟むレオンハルトとオリービアはお忍びでデートをしていた。それの原因とも言えるシュナイダーは亜人の少女について揉めている時に、二人はちょうどレストランで注文を終わらせていたところだった。
(何やら殺気立ってるな。尾行の意味は一体……)
レオンハルトは無論シュナイダーとアリスの存在に気づいていた。とはいえここで言い出すのも憚られるので、ちょっかいを出してこない限り、放置すると決めていた。
「もう! レオ君、ちゃんと聞いてる?」
「ああ、すまん。考え事をしていた」
「だと思った。はぁ~、こういうとこも似てるなぁ」
「ん? 似てるとは?」
「なぁーんでもない。あ、料理きたみたいだよ」
そこで一旦話が終わる。二人とも運ばれる料理を食べながら、他愛もない談笑を続けていた。側から見れば、お似合いのカップルである。
シュナイダーに無理やりやらされていると言うことを二人ともすっかり忘れて、楽しんでいた。料理を食べ終え、二人とも席を立つ。そのまま会計を済ませた二人は店を出る。
「これからどこいこっか」
「特に決めてないな」
「じゃあこのまま散歩でもしよ。行きたいところがあったら行けばいいし」
「異議なし」
というわけで、二人は町中を散策した。特に目的もなく彷徨いながら、オリービアが興味をもった食べ物や、飲み物を片っ端から試していた。
そんな中、とあるアクセサリーショップの前を通りがかった時、オリービアの動きがピタっと止まる。
「ん? どうした?」
「い、いや、な、なんでもない! さあー、行こう。向こうの屋台から美味しそうな匂いがするなぁ~」
そう言いつつも、オリービアはチラチラと視線をアクセサリーショップへと向けていた。その視線の先には、見事なエメラルドカットが施された翡翠のネックレスがあった。
「……ああ、そうだな」
◆
食べて、遊んで、そうやって1日が過ぎ、時は夕刻を迎える。
突如、レオンハルトの足が止まり、とある店の前で立ち尽くす。
「レオ君?」
「杜若か」
「え?」
レオンハルトが立ち止まったのは、花屋。その店前に売り物として置かれてる杜若の花束を見つめていた。
「『幸せは必ず訪れる』か」
「……レオ君、花、詳しいんだね」
「いや、受け売りさ。杜若以外に花は知らん」
「そう……レオ君は、その、杜若のこと、どう思う?」
「オルア?」
そこでレオンハルトはオリービアの異変に気づく。さっきまでの楽しそうな表情が一転した、今にも泣き出しそうな表情をしていた。
「私はね、嫌い」
「……そうか……俺は、どうだろう……好き、かなぁ」
「……そう」
「俺にとっては、希望の象徴で、大切な人との思い出でもある」
「……私とは、真逆だね。無責任の象徴で、私の罪の記憶」
「それってどういうーー」
「すみません、この花束ください」
「はーい! どうぞ」
「おい」
オリービアはなんの躊躇いもなく、杜若の花束を購入した。
「嫌いじゃなかったのか?」
「うん。だからこそ、ね。これがあるから、私は強くあり続けようとする……ごめんね、レオンハルト君。今日は楽しかったよ。ありがとう……バイバイ」
「お、おい」
レオンハルトの制止も聞かずに、オリービアは離れていく。無理やり止めることは、できた。でも、できなかった。
夕陽が照らすオリービアの背を見送ること以外なに一つできなかった。
懐に手を伸ばし、縦長の箱を徐に取り出す。その中には、先ほどオリービアが見つめていた翡翠のアクセサリーが納められていた。
その箱へ視線を向けながら、レオンハルトは、
「……なにやってんだ、俺は」
と自嘲する。
そして、天を仰ぐ。
(杜若……クラウディア……ああ、そうだ。これが正解だ。離れる。それが一番だ。これ以上一緒にいたら……俺は……クラウディア、お前は背中を押してくれるだろう。でも、俺は今でもお前のことが……)
「すみません。杜若の花束を一つ」
◆
レオンハルトとオリービアの別れを陰でこそこそと覗いていた者たちがいた。シュナイダーとアリスである。
「どういうことだい? あれ?」
「私に聞かれても……あんな悲しそうなオリービア様、初めてみました」
「の割に冷静だね。レオくんを八つ裂きにする! とか言い出しそうなのに」
「私だって、あれはレオンハルト様のせいではないことぐらいはわかります……あの姿、痛ましいですね」
「おっかしいなぁ。僕の見立てでは二人は惹かれあっていたはずなのに。うまく行けばレオくんも人間の心を取り戻せると思ったんだけどなぁ」
「……まるでレオンハルト様には人間の心がないような言い方ですね」
「ないよ」
「え?」
「あの中に潜むのは人間のふりをした怪物。いや、人間になろうとしでいる怪物と言ったほうがいいかもね。アリスだって心当たりはあるはずだよ」
「……否定はできませんね」
アリスは、レオンハルトと対峙した時のことを思い出す。
あの時レオンハルトが漏らした「これしきで後悔するほど、余は人間然としてない」という言葉が脳内を過ぎる。あの時の威圧は今でも忘れられない。
それと同時に、アリスはとある疑問が湧き起こる。
「……なぜ、シュナくんがそれを知っているのですか?」
「……てへ」
「ま、まさた、み、みたのですか?」
「……うわああぁあぁあん」
「!? わ、忘れてください!」
「……お、おりびあしゃま~」
「ちょっと! 言わないでください!」
こっちのデートはうまくやれていたようだ。
◆
星が燦々と輝く夜。皇城の一室、そのバルコニーに置かれているロッキングチェアに揺らされながら、少女は本を読んでいた。いや、読んでいた、というのは語弊があるだろう。少女は読んでいるわけではない。
その分厚い本のとある1ページを開き、それを苦痛に満ちた表情で俯視していた。下唇を深く噛み、わずかに血が滲むほどである
その本のタイトルは『大統帝戦記』。ページの一行目に書かれたのはーークロイツァの焦土。
ーーごめんね
ーー私が、あんなこと言ったから
ーー苦しかったね
ーーよく頑張ったね
ーーその一言すら、かけられなかった
ーー1番大切な時にそばにいてあげられなかった
ーーごめんね
ーー私が、弱かったから
ーー口ではあなたの足手纏いにならない、そう言っておきながら
ーー自分だけ死んで楽になろうとした
ーーごめんね
ーー幸せは、必ずしも訪れない
ーーそう言ってあげられたら、どれほど
ーー無責任なことを言った
ーー全て私のせい
ーーなら、責任を取らないとだね
ーー私、苦しむよ
ーーこれであなたの苦しみが和らぐことはない
ーーそんなことは知ってる
ーーでも、せめて
ーー少しでもいいから、あなたと同じ思いを
そう言って少女は本を閉じた。
(アレク……そういえば、一昨日アレクとそっくりな少年にあったよ。無愛想で、不器用で、カッコつけたがりで、カッコ良くって、優しくって、強くって……私、今でもアレクのことを愛してるよ。約束だもんね。来世まで愛してるって……でも、ちょっとだけ、目移りしそうになっちゃった……ダメだよね、私……ここまでのことをしておいて、約束も守れないなんて……ごめんなさい)
少女はそう言って眠りに落ちた。そこにあったのは、ロッキングチェアで眠る少女と、月明かりの元でより輝きを増した杜若の姿だった。
◆
「シュナイダー先生」
「……オリービア皇女。ご機嫌よう。先日のーー」
「私を鍛えてください」
「……」
本気の眼差しを向けられ、シュナイダーは押し黙る。
「……本気、ですね?」
「はい」
「……いいでしょう。ビシバシ行きますので覚悟してください」
「はい!」
ーーーーーーーーーー
後書き
いかがだったでしょうか。これで二章終了となります。
作者的には、プロローグと最終話がいい対比になっていて、大変気に入っております。
さて、三章でやっと物語が本当の意味で動き出します。
愛、裏切り、死、戦、別れなどの要素がテーマとなっております。ぜひ楽しみにしてください!
また、本作品を面白いと思っていただけましたら、他の作品のチェックもよろしくお願いします! 新作『溟海の賢者』なんかは結構面白いと思いますよ(ボソ)
ではまた、次の章でお会いしましょう。
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