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学園・出逢いは唐突に
第13話 激突
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オリービアとアリスがシュナイダーの言を飲み込む間に、レオンハルトとシュナイダーは話を進める。
「ルールはどうする? なんでもありというわけにもいかんだろ?」
「だねぇ。訓練場どころか学園が吹き飛んじゃうし……殺しはなし、武器は訓練用のもの、魔法は最小限にってところかな」
「その最小限というのは?」
「自分の体内、または武器に留められる魔法と、非攻撃性の魔法ってことでどう?」
「……属性魔法の使い手なら圧倒的に不利だな」
「どうせ僕たちは属性魔法じゃないんだからいいでしょ」
属性魔法は魔力を燃料に様々な現象を引き起こすもの。
その現象というのはすべからく体外への放出系である。つまり、属性魔法は魔力を顕現させなければ殆ど無能に等しい。
だが、レオンハルトの重力魔法やアリスの双換魔法は別に体外へ放出せずとも使うことが可能。むしろ、放出しない方が本来の使い方なのかもしれないほどだ。
「それに非攻撃性の魔法ってなんーー」
「そんじゃー始めよっか」
「聞けよ」
「ちょ、ちょっと待って!」
今にでも戦い始めようとする二人にまったをかけたのは、いち早く我に返ったオリービアだった。
「どうなさいましたか? オリービア皇女殿下。今更止めろと言われても、それは聞けませんよ」
「……わかってるよ、それぐらい……でも、せめて保健の先生ぐらいは呼ばせて」
「それなら構いませんよ。その間に、僕らは楽しんでるので」
「……もう! ……なるべく早く戻ってくるから、無理しないでねレオ君! 絶対だよ! 絶対絶対」
「わかった」
「絶対わかってない! もう!」
そう言ってオリービアは保健室の方へ走って行った。それに気付いたアリスも、あたふたしながらもついて行った。
「さて、今度こそ始めよう、っとその前に、罰ゲームを決めよう」
「罰ゲーム? なぜそんなものがーー」
「だってつまんないじゃん? 罰ゲームを決めないと。なんかあった方がやる気が出るでしょ?」
「……自分で吹っかけといてつまんないとか……俺は別にいいが、何にする」
「負けた方が勝った方のいうことをなんでも1つ聞くってのはどう?」
「ああ、それで構わん」
「おや? やけにあっさりだね」
「負けるつもりなどないからな」
「あはは、自信家だね」
今度こそ、とばかりに双方とも距離をとり、構える。レオンハルトは訓練用の槍を、シュナイダーは訓練用の長剣を構えていた。
特に合図があったわけでもなく、二人同時に動き出す。先に仕掛けるのはレオンハルト。体に重力魔法をかけ、体重を軽くする。そして、
陸跡魔闘術ーー歩跡・凩
重力魔法と歩跡・凩の合わせ技。
前見せた時とは段違いのスピードでレオンハルトは突進する。槍の穂先でシュナイダーへむけて一つ突き。
今まさに、シュナイダーへ届こうとした瞬間、シュナイダーの姿が掻き消える。レオンハルトですら、認識することはできなかった。
次にシュナイダーを認識した時には、すでに背後に回り込まれたていた。突きを放ったレオンハルトへ向けて、今度はシュナイダーが神速の突きを放つ。
陸跡魔闘術ーー動跡・轟
動跡・轟を発動し、レオンハルトは危なげなく避ける。
(速い? 俺が認識できないぐらいに? いや、これは……)
(速いねぇ、前よりもずっと。何かタネがありそうだね)
一瞬の思考と共に、両者再び動き出す。今度仕掛けたのはシュナイダー。レオンハルトと遜色ないほどのスピードで間合いをつめる。
だがーー
陸跡魔闘術ーー動跡・轟
間合いを詰めきられる前に、動跡・轟で仕掛ける。
今度を避けるためではなく、攻撃のため。動跡・轟の勢いのまま、石突きを突き出す。
それを予測したかのように、シュナイダーは半身でよけ、そのまま上段から剣を振り下ろす。
それをレオンハルトは槍を縦回転させることで、穂先で受けると同時に、
陸跡魔闘術ーー戦跡・焔
戦跡・焔で武器破壊を狙う。
しかし、さすがはシュナイダーというべきか。しっかりと魔力で武器を守っていた。
一撃では武器を破壊できなかったが、シュナイダーに異変を感じさせるには十分だった。
(ん? これは……魔力が押し込まれる? ……なるほど、武器狙いか。やりおる)
これは、撃ち合うのは得策ではないな、とシュナイダーは思い、素早く引いて距離をとる。
(長物相手に距離を取らざるをえないとか……厄介だね)
厄介と言いながらもシュナイダーの口元には笑みが浮かんでいた。それは、レオンハルトも同じ。
二人は再び構えをとり、そして硬直する。互いの隙を伺っているが、隙などあるはずもない。沈黙だけがその場に流れる。そう思っていた。
「っ!!」
そう思っていたが、レオンハルトの前に突如現れるシュナイダー。
レオンハルトは動跡・轟を発動する余裕すらなく、上半身を後ろへ倒す。その直後にシュナイダーの横なぎが通り過ぎる。
すかさず追撃を仕掛けようとするシュナイダーだが、足元がぐらつく。
よく見ると、地面がレオンハルトを中心に陥没していた。このままでは巻き込まれると思い、仕方なく追撃を断念する。
レオンハルトは咄嗟に自身の足元に重力魔法を全力でかけ、大地をしずめたのだ。
後ろへ向かって倒れたかと思われたレオンハルトだが、そのままの勢いでバク転し、体勢を整える。
二人とも距離をとり、仕切り直す。
冷静に見えている二人だが、内心では焦っていた。
(やはりあの高速移動は魔法か。だが、なんの魔法かわからん。空間系か? その場合は瞬間移動だが、ありえない。何もない場所への移動は魔力消費が大きすぎる。連発は不可能だ。となれば時間系か? 時止め? その場合も魔力消費がネックだ。わからん)
(武器破壊。スピードアップ。超速移動。おまけに大地の陥没かぁ。芸が多くって飽きないねぇ。これが当てはまる魔法って何かな? 武器破壊だけは系統が違うから、レオ君のオリジナル技でしょうけど。時の魔法かな? 自身の時間加速とか? でもそれじゃー地面が沈んだ理由がないんだよね)
一向に攻めきれない、そう二人は思っていた。
(仕方ない。魔力消費が半端ないが、あれをやるか)
レオンハルトは覚悟を決める。ここで攻め切れなかったら、負ける。
陸跡魔闘術ーー威跡・覇
「行くぞ」
「っ!!」
レオンハルトが放つ威圧感にシュナイダーは思わず顔が強張る。すぐさま構えを取るが、その一瞬の硬直が隙を生む。
陸跡魔闘術ーー動跡・轟
動跡・轟で間合いを一瞬で詰めるレオンハルト。そして槍を前方へと突き出す。避けることが叶わず、シュナイダーは受けざるを得なかった。
陸跡魔闘術ーー戦跡・焔
完璧に決まった一撃に重力魔法まで乗せた。シュナイダーの練習用の長剣が軋み声を上げる。そして突きの勢いを殺し切れず後方へと吹き飛ばされる。
体勢を整える前に追撃を仕掛けるレオンハルトだが、やはりというべきかシュナイダーの姿はすでになかった。
(想定どおり、あそこか!)
陸跡魔闘術ーー動跡「連」・霆
「っく!」
レオンハルトが再び動跡・轟を発動させ、シュナイダーを追い詰める。まるでシュナイダーが現れる場所がわかったかのように。
実際レオンハルトはわかっていた。
その原因は、先に放った威跡・覇にある。
空気中に存在する魔力を微弱ながらも支配することで、魔力の流れを読むことができる。
普段なら索敵ぐらいにしか役に立たない副次効果だが、シュナイダーの魔法が読めない今ではその索敵も大いに役に立つ。
レオンハルトがシュナイダーに接近するが、シュナイダーの姿は再び消える。それを逃すことなく、レオンハルトは動跡「連」・霆を使う。
この技はごくシンプル。動跡・轟を連続で使用するだけ。
動跡・轟はその速さゆえに勢いづいたら止まらない傾向がある。その物理法則を魔力で無理やり解消することで、連続発動を可能とする。魔力消費は段違いだが。
場所を転々とするシュナイダーに、レオンハルトは動跡「連」・霆で食らいつき、徐々に追い詰めていくが、やはり魔力消費が馬鹿にならなかった。
(思ったよりも粘るな。見た感じ転移の類の魔法だろうが、それにしては多用しすぎじゃないか? 魔力が持つはずがない)
これ以上粘られたはレオンハルトの方が危ない、そうレオンハルトは判断するが、シュナイダーの方も焦っていた。
(くっ! 強烈! このままじゃ魔力が持たないね。仕方ない)
次の転移を行い、シュナイダーは賭けに出る。
動跡・轟の弱点の一つとして、どうしても直線的になりやすい。何度も受けているうちに、シュナイダーはそう判断した。
転移先で剣を刺突の姿勢で構え、レオンハルトが現れるのを待つ。
シュナイダーの予想通り、レオンハルトは雷顔負けの速さで突きを放つ。それに対してシュナイダーも剣を突き出す。
しかし、リーチが長いのはレオンハルトの方。レオンハルトの槍の穂先がシュナイダーの横腹をえぐる。
常人なら戦闘不能の重症だが、シュナイダーは曲がりなりにも護国の三騎士。これで倒れるどころかさらに一歩前へ進む。
そして、突きの勢いのままーー剣を離した。
(なっ!?)
さすがのレオンハルトもその行動には驚く。腹を抉られながらを突きを放ってきたかと思えば、今度はそれを投げるなど、常識外れもいいところ。
これには対処し切れずシュナイダーの剣はレオンハルトの左肩に深く刺さる。
だが、全体のダメージ量で言えばシュナイダーの方が多いはず。加えて武器まで失っては、戦えるはずがない。
そうレオンハルトは思っていた。
しかし、シュナイダーの顔には笑顔が浮かんでいた。剣を突き出した右手のもとに無理やり左手を引き寄せ、そのまま両掌を合わせた。
ーーパチン
乾いた拍手がその場を響く。そして、レオンハルトの体は思わず揺れる。
それもそのはず。
何せ、レオンハルトの足場はーーいつの間にかなくなっていたのだから。
代わりに現れたのは見慣れたクレーター。動跡・轟の発動によって生まれるクレーターだ。
しかし、レオンハルトは動跡・轟を使っていない。
ならこのクレーターは一体?
(そうか! ここは、アリスが最初に俺に双換魔法を仕掛けた場所か! となれば、こいつの魔法はーー)
と、そこで思考が途切れる。
体勢を立て直すことを優先したレオンハルトだが、その隙をシュナイダーが見逃すはずもない。
シュナイダーはレオンハルトの槍へと手を伸ばし、膝を立て、槍をーー折った。
折れた槍をそのまま逆手に持ち、レオンハルトへと突き出す。
対して、レオンハルトも槍を諦め、左肩に突き刺さっている剣を無理やり引き抜く。その剣でシュナイダーの攻撃を受ける。
しかし、攻撃を受けたレオンハルトの剣はーーそのまま砕けてしまった。
(っ!! ああ、なるほど。自業自得か)
戦跡・焔で敵の武器破壊を狙ったことがここにきて裏目に出てしまった。
シュナイダーの槍が、レオンハルトへ届こうとする。
しかし、これで諦めるレオンハルトではない。
「っは!?」
突き出したシュナイダーの槍は、レオンハルトに届く前にーー自壊した。
レオンハルトはありったけの魔力を使い、周囲に超重力をかけたのだ。
その範囲は、精々直径数十センチ程度だが、もともとボロボロになっていた槍を崩すには十分だった。
武器を失った両者は一旦距離を取る。
「はぁ、これは……引き分けかーー」
「いや、俺の負けだ」
レオンハルトのあっさりな敗北宣言。
それにより、皇国最強を争う戦いは、シュナイダーの勝利で幕を閉じた。
ーーーーー
あとがき
シュナイダーの勝利!
想定内? 想定外? 是非感想をください。
「ルールはどうする? なんでもありというわけにもいかんだろ?」
「だねぇ。訓練場どころか学園が吹き飛んじゃうし……殺しはなし、武器は訓練用のもの、魔法は最小限にってところかな」
「その最小限というのは?」
「自分の体内、または武器に留められる魔法と、非攻撃性の魔法ってことでどう?」
「……属性魔法の使い手なら圧倒的に不利だな」
「どうせ僕たちは属性魔法じゃないんだからいいでしょ」
属性魔法は魔力を燃料に様々な現象を引き起こすもの。
その現象というのはすべからく体外への放出系である。つまり、属性魔法は魔力を顕現させなければ殆ど無能に等しい。
だが、レオンハルトの重力魔法やアリスの双換魔法は別に体外へ放出せずとも使うことが可能。むしろ、放出しない方が本来の使い方なのかもしれないほどだ。
「それに非攻撃性の魔法ってなんーー」
「そんじゃー始めよっか」
「聞けよ」
「ちょ、ちょっと待って!」
今にでも戦い始めようとする二人にまったをかけたのは、いち早く我に返ったオリービアだった。
「どうなさいましたか? オリービア皇女殿下。今更止めろと言われても、それは聞けませんよ」
「……わかってるよ、それぐらい……でも、せめて保健の先生ぐらいは呼ばせて」
「それなら構いませんよ。その間に、僕らは楽しんでるので」
「……もう! ……なるべく早く戻ってくるから、無理しないでねレオ君! 絶対だよ! 絶対絶対」
「わかった」
「絶対わかってない! もう!」
そう言ってオリービアは保健室の方へ走って行った。それに気付いたアリスも、あたふたしながらもついて行った。
「さて、今度こそ始めよう、っとその前に、罰ゲームを決めよう」
「罰ゲーム? なぜそんなものがーー」
「だってつまんないじゃん? 罰ゲームを決めないと。なんかあった方がやる気が出るでしょ?」
「……自分で吹っかけといてつまんないとか……俺は別にいいが、何にする」
「負けた方が勝った方のいうことをなんでも1つ聞くってのはどう?」
「ああ、それで構わん」
「おや? やけにあっさりだね」
「負けるつもりなどないからな」
「あはは、自信家だね」
今度こそ、とばかりに双方とも距離をとり、構える。レオンハルトは訓練用の槍を、シュナイダーは訓練用の長剣を構えていた。
特に合図があったわけでもなく、二人同時に動き出す。先に仕掛けるのはレオンハルト。体に重力魔法をかけ、体重を軽くする。そして、
陸跡魔闘術ーー歩跡・凩
重力魔法と歩跡・凩の合わせ技。
前見せた時とは段違いのスピードでレオンハルトは突進する。槍の穂先でシュナイダーへむけて一つ突き。
今まさに、シュナイダーへ届こうとした瞬間、シュナイダーの姿が掻き消える。レオンハルトですら、認識することはできなかった。
次にシュナイダーを認識した時には、すでに背後に回り込まれたていた。突きを放ったレオンハルトへ向けて、今度はシュナイダーが神速の突きを放つ。
陸跡魔闘術ーー動跡・轟
動跡・轟を発動し、レオンハルトは危なげなく避ける。
(速い? 俺が認識できないぐらいに? いや、これは……)
(速いねぇ、前よりもずっと。何かタネがありそうだね)
一瞬の思考と共に、両者再び動き出す。今度仕掛けたのはシュナイダー。レオンハルトと遜色ないほどのスピードで間合いをつめる。
だがーー
陸跡魔闘術ーー動跡・轟
間合いを詰めきられる前に、動跡・轟で仕掛ける。
今度を避けるためではなく、攻撃のため。動跡・轟の勢いのまま、石突きを突き出す。
それを予測したかのように、シュナイダーは半身でよけ、そのまま上段から剣を振り下ろす。
それをレオンハルトは槍を縦回転させることで、穂先で受けると同時に、
陸跡魔闘術ーー戦跡・焔
戦跡・焔で武器破壊を狙う。
しかし、さすがはシュナイダーというべきか。しっかりと魔力で武器を守っていた。
一撃では武器を破壊できなかったが、シュナイダーに異変を感じさせるには十分だった。
(ん? これは……魔力が押し込まれる? ……なるほど、武器狙いか。やりおる)
これは、撃ち合うのは得策ではないな、とシュナイダーは思い、素早く引いて距離をとる。
(長物相手に距離を取らざるをえないとか……厄介だね)
厄介と言いながらもシュナイダーの口元には笑みが浮かんでいた。それは、レオンハルトも同じ。
二人は再び構えをとり、そして硬直する。互いの隙を伺っているが、隙などあるはずもない。沈黙だけがその場に流れる。そう思っていた。
「っ!!」
そう思っていたが、レオンハルトの前に突如現れるシュナイダー。
レオンハルトは動跡・轟を発動する余裕すらなく、上半身を後ろへ倒す。その直後にシュナイダーの横なぎが通り過ぎる。
すかさず追撃を仕掛けようとするシュナイダーだが、足元がぐらつく。
よく見ると、地面がレオンハルトを中心に陥没していた。このままでは巻き込まれると思い、仕方なく追撃を断念する。
レオンハルトは咄嗟に自身の足元に重力魔法を全力でかけ、大地をしずめたのだ。
後ろへ向かって倒れたかと思われたレオンハルトだが、そのままの勢いでバク転し、体勢を整える。
二人とも距離をとり、仕切り直す。
冷静に見えている二人だが、内心では焦っていた。
(やはりあの高速移動は魔法か。だが、なんの魔法かわからん。空間系か? その場合は瞬間移動だが、ありえない。何もない場所への移動は魔力消費が大きすぎる。連発は不可能だ。となれば時間系か? 時止め? その場合も魔力消費がネックだ。わからん)
(武器破壊。スピードアップ。超速移動。おまけに大地の陥没かぁ。芸が多くって飽きないねぇ。これが当てはまる魔法って何かな? 武器破壊だけは系統が違うから、レオ君のオリジナル技でしょうけど。時の魔法かな? 自身の時間加速とか? でもそれじゃー地面が沈んだ理由がないんだよね)
一向に攻めきれない、そう二人は思っていた。
(仕方ない。魔力消費が半端ないが、あれをやるか)
レオンハルトは覚悟を決める。ここで攻め切れなかったら、負ける。
陸跡魔闘術ーー威跡・覇
「行くぞ」
「っ!!」
レオンハルトが放つ威圧感にシュナイダーは思わず顔が強張る。すぐさま構えを取るが、その一瞬の硬直が隙を生む。
陸跡魔闘術ーー動跡・轟
動跡・轟で間合いを一瞬で詰めるレオンハルト。そして槍を前方へと突き出す。避けることが叶わず、シュナイダーは受けざるを得なかった。
陸跡魔闘術ーー戦跡・焔
完璧に決まった一撃に重力魔法まで乗せた。シュナイダーの練習用の長剣が軋み声を上げる。そして突きの勢いを殺し切れず後方へと吹き飛ばされる。
体勢を整える前に追撃を仕掛けるレオンハルトだが、やはりというべきかシュナイダーの姿はすでになかった。
(想定どおり、あそこか!)
陸跡魔闘術ーー動跡「連」・霆
「っく!」
レオンハルトが再び動跡・轟を発動させ、シュナイダーを追い詰める。まるでシュナイダーが現れる場所がわかったかのように。
実際レオンハルトはわかっていた。
その原因は、先に放った威跡・覇にある。
空気中に存在する魔力を微弱ながらも支配することで、魔力の流れを読むことができる。
普段なら索敵ぐらいにしか役に立たない副次効果だが、シュナイダーの魔法が読めない今ではその索敵も大いに役に立つ。
レオンハルトがシュナイダーに接近するが、シュナイダーの姿は再び消える。それを逃すことなく、レオンハルトは動跡「連」・霆を使う。
この技はごくシンプル。動跡・轟を連続で使用するだけ。
動跡・轟はその速さゆえに勢いづいたら止まらない傾向がある。その物理法則を魔力で無理やり解消することで、連続発動を可能とする。魔力消費は段違いだが。
場所を転々とするシュナイダーに、レオンハルトは動跡「連」・霆で食らいつき、徐々に追い詰めていくが、やはり魔力消費が馬鹿にならなかった。
(思ったよりも粘るな。見た感じ転移の類の魔法だろうが、それにしては多用しすぎじゃないか? 魔力が持つはずがない)
これ以上粘られたはレオンハルトの方が危ない、そうレオンハルトは判断するが、シュナイダーの方も焦っていた。
(くっ! 強烈! このままじゃ魔力が持たないね。仕方ない)
次の転移を行い、シュナイダーは賭けに出る。
動跡・轟の弱点の一つとして、どうしても直線的になりやすい。何度も受けているうちに、シュナイダーはそう判断した。
転移先で剣を刺突の姿勢で構え、レオンハルトが現れるのを待つ。
シュナイダーの予想通り、レオンハルトは雷顔負けの速さで突きを放つ。それに対してシュナイダーも剣を突き出す。
しかし、リーチが長いのはレオンハルトの方。レオンハルトの槍の穂先がシュナイダーの横腹をえぐる。
常人なら戦闘不能の重症だが、シュナイダーは曲がりなりにも護国の三騎士。これで倒れるどころかさらに一歩前へ進む。
そして、突きの勢いのままーー剣を離した。
(なっ!?)
さすがのレオンハルトもその行動には驚く。腹を抉られながらを突きを放ってきたかと思えば、今度はそれを投げるなど、常識外れもいいところ。
これには対処し切れずシュナイダーの剣はレオンハルトの左肩に深く刺さる。
だが、全体のダメージ量で言えばシュナイダーの方が多いはず。加えて武器まで失っては、戦えるはずがない。
そうレオンハルトは思っていた。
しかし、シュナイダーの顔には笑顔が浮かんでいた。剣を突き出した右手のもとに無理やり左手を引き寄せ、そのまま両掌を合わせた。
ーーパチン
乾いた拍手がその場を響く。そして、レオンハルトの体は思わず揺れる。
それもそのはず。
何せ、レオンハルトの足場はーーいつの間にかなくなっていたのだから。
代わりに現れたのは見慣れたクレーター。動跡・轟の発動によって生まれるクレーターだ。
しかし、レオンハルトは動跡・轟を使っていない。
ならこのクレーターは一体?
(そうか! ここは、アリスが最初に俺に双換魔法を仕掛けた場所か! となれば、こいつの魔法はーー)
と、そこで思考が途切れる。
体勢を立て直すことを優先したレオンハルトだが、その隙をシュナイダーが見逃すはずもない。
シュナイダーはレオンハルトの槍へと手を伸ばし、膝を立て、槍をーー折った。
折れた槍をそのまま逆手に持ち、レオンハルトへと突き出す。
対して、レオンハルトも槍を諦め、左肩に突き刺さっている剣を無理やり引き抜く。その剣でシュナイダーの攻撃を受ける。
しかし、攻撃を受けたレオンハルトの剣はーーそのまま砕けてしまった。
(っ!! ああ、なるほど。自業自得か)
戦跡・焔で敵の武器破壊を狙ったことがここにきて裏目に出てしまった。
シュナイダーの槍が、レオンハルトへ届こうとする。
しかし、これで諦めるレオンハルトではない。
「っは!?」
突き出したシュナイダーの槍は、レオンハルトに届く前にーー自壊した。
レオンハルトはありったけの魔力を使い、周囲に超重力をかけたのだ。
その範囲は、精々直径数十センチ程度だが、もともとボロボロになっていた槍を崩すには十分だった。
武器を失った両者は一旦距離を取る。
「はぁ、これは……引き分けかーー」
「いや、俺の負けだ」
レオンハルトのあっさりな敗北宣言。
それにより、皇国最強を争う戦いは、シュナイダーの勝利で幕を閉じた。
ーーーーー
あとがき
シュナイダーの勝利!
想定内? 想定外? 是非感想をください。
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