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学園・出逢いは唐突に
第8話 決着
しおりを挟むレオンハルトが12才の時。すでに領地経営は軌道に乗り、レオンハルトは内政メインで動き出していた。しかし、その日、彼は国境での帝国との小競り合いに参加していた。
理由は特にない。あるとすれば、それは勘だ。
帝国と皇国の国境線では度々小競り合いが起こるが、いずれも大きな戦争に繋がっていない。だから、領主であるレオンハルトは本来出陣する必要はないのだが、レオンハルト曰く、
「見せしめは必要だ。武の象徴もな」
自分が参加することで帝国側に見せつけているのだ。それの甲斐もあってか、レオンハルトは辺境や帝国側では割と有名である。
戦場を駆ける黒曜の戮者
そう呼ばれるほど、恐れられていた。本人はものすごく不本意だが、これも武の象徴であることは間違いないのだから、よしとしたのだ。
閑話休題。
レオンハルトとはこの日戦場に来ていた。いつも通り戦場を駆け抜けるが、
「こ、黒曜だああぁぁ!」
「黒曜が出たぞ!!」
「て、撤退!」
「……」
これはこれでどうなのだ、とレオンハルトは思う。まあこれも自分が求めたものなのだから仕方ない。
(とはいえ、人を天災見たいに言わないでもらいたいものだ)
深くため息をつきながら、レオンハルトは引き返そうとする、そんな時だった。
脇目も振らず、レオンハルト目掛けて駆けてくる2騎の騎馬。青みがかった銀髪をした二人組である。
1人は歴戦の傭兵と言った風貌の老人であり、身の丈以上の大剣を携えていた。もう1人は、レオンハルトと同い年と思われる少女であり、同じく大剣を武器としていた。
「リンシア! 向こうから回り込め!」
「……了解」
どうやら2人の目的はレオンハルトのようだ。老人の方が激しい攻撃でレオンハルトを引きつけ、その間に少女の方がレオンハルトの隙を狙う。
見事な連携であるが、それよりも驚くべきことは
(戦跡・焔が効いてない?……なるほど、魔纏ぐらいはできるか)
魔纏とは、レオンハルトが用いている身体中に魔力を巡らせる技法のこと。どうやらこの2人も魔力回路を開いているようだ。
武器破壊ができないようでは、地道に削るしかない。激しい攻防を3人は繰り広げる。
「ここまでとは! 若いのにやりおる!」
「……強い」
一進一退の攻防の中、二人から攻められているレオンハルトは思わず隙を見せてしまう。
そこを逃さず、リンシアはすかさず切り込む。下から振り上げられる大剣は、まっすぐレオンハルトの首を目掛けていた。
しかし、それでやられるレオンハルトではない。なんとか上体を後ろへと倒し、間一髪で攻撃をかわす。あまりの勢いだったので、常人ならそれで落馬してもおかしくないが、レオンハルトは踏みとどまる。
「今ので仕留めきれんとは……」
「……残念……次は、やる」
「いや、潮時じゃ。騎士たちが来ておる」
「……無念」
ライネル領の騎士たちが近づいていることで、老人とリンシアは撤退する。老人とリンシアが撤退したすぐ後に、マルクスがやってくる。
「レオンハルト様!? お怪我を!?」
「ん?」
そこで初めて、レオンハルトは気づく。自らの鎖骨から左頬にかけて、切り裂かれていたことに。
わずかな傷だ。命に関わるような傷では断じてないのだが、レオンハルトにとっては初の負傷である。
「くっくっく、面白い、面白なぁ」
魔法で治せる程度の傷だが、レオンハルトはあえて魔法ではなく自然治癒を待った。そして、その傷跡は今もレオンハルトの体に残っている。
◆
レオンハルトに打ちのめされたクラスメイトが次々と目を覚ましていく。保健の先生の治癒魔法のおかげであるが。
そして、最後にやられたエルサとバースも目を覚ます。そんな2人にディールとフレデリックが話しかける。
「よう、お二人さん。無事か?」
「僕たちもついさっき目を覚ましたんだ」
「無事……だと思うわ。痛むところも特にないし」
「オレもだぜ……まあ、心はズタボロだけどな」
エルサもバースも見るからに元気がなかった。しかし、それは肉体的な原因ではなく、精神によるものだった。
「そうね……まさか、あの人があんなに強いなんて……私、裏口入学とか言っちゃって……どうしよう……」
「うっ……そういえばそうだったな。エルサはすぐ噂を鵜呑みにするんだから」
「何よ! あんただって言ってたじゃない!」
「な、なんのことかわからないなー」
言ってるそばで、また喧嘩をはじめようとした2人だが、
「悪いけど2人とも。もっと心を折る光景がそこに広がってるよ」
「ああ、おれのハートはもうバッキバッキだ」
フレデリックとディールが指差す先には、レオンハルトとリンシアの姿があった。あったのだが、
「何よ、あれ」
「戦ってるのか?」
「ああ、レオンハルトとリンシアがな」
「どうやらレオンハルトくんは僕たちの時は手加減してくれてたみたいだよ。と言っても殺さない程度に、だけど」
「嘘!? あれで本気じゃないの?」
「とても信じられんが……今のあれを見たら、信じざるをえないな」
振るう刃一つ一つが爆風を巻き起こし、ぶつかりあう度に模擬試合用の武器とは思えない轟音が鳴り響く。訓練場の床なんてとうに跡形もなく吹き飛んでいた。
今の訓練場は、どこかの岩石地帯の様子を呈していた。
「すごいねぇ。2人とも」
「シュナイダー先生?」
「いやぁ~。本当にすごいねぇ。すごい、すごい……あれじゃあ、僕でも勝てるかどうか」
「「「え?」」」
そうは言ったものの、シュナイダーの顔は自身に溢れていた。勝ち筋はすでに思い浮かんでいるのだろう。
一方、フレデリックたちにとっては衝撃の発言だった。
護国の三騎士が勝てないと思うほどの相手。それがレオンハルトとリンシアなのだと、4人ともまだ認識できていない。
「あっ、そろそろ決着かな?」
荒れ狂う暴風雨のような戦闘に終止符が打たれとうとしていた。生徒たちには全くわからないが、シュナイダーにはちゃんと見えていた。
嵐がやんだかのように、視界が次第に晴れていく。
そこから現れたのは、折れた槍と首元に大剣を突きつけられたーー
リンシアの姿だった。
「俺の勝ち、だな」
「……完敗……言い訳の、しようがない」
勝者は、レオンハルトだった。
「……まさか、わざと武器を折って、囮にするとは」
「別にわざとじゃないさ。そろそろ折れそうだなーと思ったから、どうせなら囮にでもって思っただけだ」
「……すごい」
「リンシアの方こそ、俺の武器を折るとは、やるな」
「……でも、負けたら、無意味」
「模擬戦だろ? なら無意味じゃないさ。次に活かせれば、だがな」
「……また、やってくれる?」
「ああ、もちろんだ」
「……約束?」
「……ああ、約束だ」
戦いを終えた二人だが、その顔は清々しいものだった。
そんな二人を眺めていたのは、クラスメイトたち。皆呆然としており、目の前で何が行われたのかが理解できなかった。
生徒たちが呆けているのを無視して、陽気な声が訓練場内に響き渡る。
「結果発表~! 第一回1年A組親睦会、勝者! B~チーム! パチパチパチ。優勝したB~チームには~、僕からの称賛を贈ろう! コングラチュレーション!」
親指を立て、レオンハルトの方に向けるシュナイダー。その顔はすでに元通りに戻っていた。
「……そういえば、そんな設定だったな」
「そうそう! てなわけで本日の授業はここまで! はい、解散! あっミネルヴァ先生、訓練場直しといて~」
「え、えええぇぇ!? この惨状を!? どうやって?」
「そこはほらぁ、気合とか?」
「出来るわけないでしょがぁ!!」
生徒たちが呆けているのを無視して、訓練場内にミネルヴァの絶叫が響き渡る。
「あはは、冗談だよ冗談。僕からのささやかなユウモアさ。訓練場の修理だったね。ほい」
そう言ってシュナイダーはポン、と手を叩く。次の瞬間、空間が歪む。
誰もが示し合わせたかのように、瞬きをする。その瞬きを終えて、訓練場に目をやるとーー全てが元通りに戻っていた。
「そんじゃー僕も仕事があるからねー。ココら辺で失礼するよ」
目の前の信じられない事象を前に、ぐうの音もでない生徒たちとミネルヴァ。それでもお構いなしに訓練場の外へ向かった歩き出す。
外に出ようとする瞬間、シュナイダーは突然おもむろに振り向く。そこで、レオンハルトとシュナイダーの視線が交わる。
(ありがとね、おかげで全てが上手くいったよ)
(なるほど、してやられたか)
その一瞬で、二人はアイコンタクトを交わす。何かいったわけでもないのに、二人とも互いの意図を理解する。
(あいつ、俺を利用したな。生徒たちの固定観念を壊すために俺を使った。ショック療法というわけか。思いの他生徒思いというか、教育熱心なんだな)
シュナイダーはただのふざけた人ではないということを、レオンハルトは知る。そして、シュナイダーに対する認識を上方修正するのだった。
ーーーーーーー
あとがき
戦場を駆ける黒曜の戮者
なんとダサい異名。一体誰が付けたのか……そのうち登場します
応援ありがとうございます!
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