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転生・蘇る大帝

第13話 内外の評価

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 皇都を離れる前に、レオンハルトはとある場所にきていた。というより、呼ばれてやってきていた。

(久しぶりの我が家か。いや、もう我が家ではないか)

 シュヴァルツァー公爵邸である。

 父であるシュヴァルツァー公爵がわざわざ使者を遣わしてまで、レオンハルトに会いたがっていた。理由は様々だろうが、名目は久々に家族で集まらないか、というものだった。

 門番に案内され、シュヴァルツァー公爵の執務室へやってくる。すれ違う使用人は皆、侮蔑と恐れの視線をレオンハルトに向けており、門番もまた同様である。

(この感覚も久々だな)

「失礼します」

 そう言ってレオンハルトは執務室へ足を踏み入れる。

 中で待ち構えていたのは、父であるラインハルト以外もいた。

 金髪碧眼のいかにもという格好の貴婦人と、金髪碧眼の少年、そして少女がいた。

 三人とも顔つきからも血縁であることがわかる。母のクラリス、弟のテオハルト、妹のティーナ。ただし、レオンハルトとの血が繋がっていない。

 正室であるレオンハルトの実母は既に亡くなっており、その後娶られたクラリスが今正妻の座に収まっている。その子がテオハルト、そしてティーナ。

 そして、レオンハルトが廃嫡された後、嫡男となったのがテオハルトである。

「お久しぶりです、父上。それとも、シュヴァルツァー公の方がよろしいですか?」
「……父上でかまわん」
「では父上。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「用などない。ただ顔が見たくなっただけだ」
「父上! こんなやつの顔なんて見る必要はありません! この公爵家の面汚しめが、どの面さげてこのシュヴァルツァー家の門をくぐるか!」
「兄様のいう通りですわ。こんな汚らわしい汚物など、さっさと処分するに限りますわ。使用人を呼びましょう。とびきりの粗大ゴミの処分を」
「あらあら、テオちゃんもティーちゃんも落ち着いて。でも、まあ言葉遣いはさておき、内容は間違っていませんわね。あなた、どうしてこの子まで呼んだのよ。せっかく家族水いらずだったのに」
「……」

 三人の暴言にさすがのラインハルトも絶句。

 レオンハルトは昔から嫌われていたことを知っていたが、ここまでとは思わなかったのだろう。

 レオンハルトが嫡男としての立場を失ったことで三人も遠慮がなくなってきた。やりたい放題である。レオンハルトは曲がりなりにも子爵。公爵家の人間とはいえど、当主でもない人間がここまで罵倒していいはずがない。

 しかし、レオンハルトが子爵を叙されたことはまだ三人に知らされていなかった。知らされたところで態度が変わっていたかどうかは定かではないが。

 そして、家族に暴言を吐かれた当人といえば、ただただ苦笑いをするしかなかった。

「相変わらずだな、テオよ」
「兄貴面をするなあ! 貴様のような者が兄だったことがおれの人生の最大の汚点だ! それになんだその態度は! 今のおれは次期シュヴァルツァー公爵だぞ! 気安く話しかけるな!」
「これはこれは、大変失礼いたしました、テオハルト公子。ご無礼、お許しください」
「っふ。貴様に尊厳というものはないのか」
「尊厳は食べられませんので」
「……興が冷めた。部屋に戻る」
「あ! お待ちください、兄様!」
「あらあら」

 そう言って三人は当主に断りもなく部屋を出てしまった。残されたのは、未だ呆然としたラインハルトと、苦笑いしていたレオンハルトのみとなっていた。

「……すまん。まさかあれほどまでとは」
「父上が謝ることではありません。悪いのは俺ですから」
「……お前は変わったのだな」
「ええ、まあ。以前よりは多少進歩しましたよ」
「それがもっと早かったら助かったのだがなぁ」
「テオは優秀だったはずですが?」
「ああ、優秀だ。昔のお前とは比べ物にならんほどにな。だが嫡男になったことで、天狗になっているようだ」
「ああ、なるほど。通りで」
「……」

 会話が終わってしまい、2人の間に沈黙が流れる。非常に気まずい。

「レオンハルトよ、ライネル領でうまくやってるか」
「そこそこですね、戦争を除けば」
「その戦争の話を聞かせてくれんか。どうもまだ信じなれんのでな。あ、いや、お前を疑うわけではなくだな」
「わかってますよ」

 しばらく、父子の時間を2人きりで楽しんだのだった。


 ◆

 場面は再び皇城へ戻り、いかにもという感じの会議室に、5人の男が集まっていた。そのうち2人は言わずもがなで、皇帝と宰相である。

 残りの三人は騎士のような風貌であり、佇まいだけで、ただものでは無いことが伺える。

 それもそのはず。この三人こそが、皇国最高戦力の一角、護国の三騎士である。

 1人は金髪碧眼で、これでもかというぐらいのイケメンっぷり。鎧も白銀の地に金色の装飾が施され、派手なことこの上ない。
 謁見の間にもいた近衛騎士団長のアークである。若くして近衛騎士団長になっただけのことはあり、剣の腕は三騎士1と言われている。

 2人目は赤い髪を短く刈りそろえた大男である。体格は大きいが、筋肥大しているわけではない。その目つきの悪ささえなければ、モテ男として認定されていてもおかしくない。
 皇国軍元帥のセベリスである。歳は30代半ばだろうか。若いというほどではないが、この歳元帥まで上り詰めたことを考えると大したものである。

 そして、最後の1人は銀色の髪とアメジストのような紫色の瞳。アークとは違うタイプのイケメンである。アークは生真面目で規律に厳しい雰囲気だとすれば、この人はおちゃらけな雰囲気である。その甘いマスクに騙された女性は数知れず、といった感じを醸し出しているが、本人はそれに気づいていない。
 皇国軍第一師団師団長のシュナイダーである。この中で1番の若輩であり、なんと驚異の18歳である。

 皇帝がこの三人を集めたのは無論、先の帝国との戦についてである。

「さて、アークよ。そなたから見て、レオンハルトはどれほどのものか」
「そうですね。まだまだ荒削りではありますがが、良い武人なのではないでしょうか。彼の年齢を考えれば、十分すぎるほどです」
「へぇ。あのアークが他人を褒めるたぁ、そんなに凄かったのか? そいつ」
「同年代最強といえるのはないでしょうか。少なくとも、並の騎士よりはよっぽど強い」
「そりゃいいねぇ! 第一師団にスカウトしようかなぁ」
「残念ながらそれは不可能です。彼はすでにライネル領の領主となったのですから」
「おいおいマジか! 10歳そこらのガキが領主だぁ?」
「なーんだぁ。ちょっと残念」
「これこれ、三人とも、陛下の前ですぞ」
「いや、良い。余としても、聞いておきたい話だからな」
「左様でございますか」

 三人の雑談のようか会話を皇帝はしっかりと聞いていた。これもレオンハルトを知るいい機会だと思ったからだ。
 
 当代の皇帝は武勇に優れているわけではない。だからこそ、こういう場で国の武力の頂点に話を漏らさず聞いていた。

「それで、陛下。オレらを集めたのはなんのために?」
「そんなこともわからないの? 元帥様はお子ちゃまだねぇ」
「ふざけろ、オレだってこんぐらいはわかる。確認だよ確認。お前こそ、上司の意ぐらい汲めんのか?」

 バチバチな元帥と第一師団師団長。2人は仲が悪いわけではないが、よくこうやって言い合っている。

「2人とも、それぐらいしなさい。陛下、申し訳ございません」
「うむ。では話を進めるぞ」
「「「はっ」」」

「我が国は長年帝国を仮想敵国として警戒してきたが、それでも近年は大きな戦はなかった。しかし、ここにきての大規模な侵攻。おそらくだが、帝国はそろそろ本腰を入れてくるだろう。これらも準備を進めなければならん」
「後どれぐらいの猶予がありますか?」
「それについてはわしが。今回の侵攻失敗は帝国にとっても想定外のことじゃろう。レオンハルトの小僧がいなかったら、かなり奥深くまで攻め込まれていたじゃろう。しかし、それが失敗に終わり、我が国に潜り込ませた間者を一掃できたわけじゃ。しばらくは動けん。しばらくは、じゃがのう」
「爺さんよ。勿体ぶらずにさっさと期間を言ってくれよ」
「焦るでないわい、わっぱ。全く……わしの見立てでは5年は動けまい」
「五年か。思ったより時間があるといいてぇところだが……最近の騎士たちの質はあまりいいもんじゃねぇ」
「そうだね。うちも戦争を経験したことがない若いのが増えてて困ってるんだよね。しかも、そういうのに限って戦争を舐めてたりするんだよねぇ」
「状況は芳しくないということか」
「そうですねぇ。皇立学院のカリキュラムに問題があるかと。戦争でなくとも、実践を積ませる方法はいくらでもありますしねぇ。ダンジョンとか」
「今時のボンボンはダンジョンなんて潜りやしねぇ。それは騎士のやることじゃねぇ、とか言ってな。命令すりゃやりはするが、あんまり見れたもんじゃぇ」
「それもそうだね」

 三騎士のうち2人から辛口の評価を受ける新人の騎士たち。これには皇帝も思わず眉をひそめる。

「では、それも踏まえて準備を進めて欲しい。宰相は皇立学院のカリキュラム矯正を頼む」
「やれやれ、老人使いが荒いのう。まあ、これもやむなし。アーク坊や、手伝え」
「承知しました」

 こうして皇国は、いずれくるであろう戦争に向けて、準備を着々と進めていった。


ーーーーーーーーーーーーー

あとがき

 一章『転生・蘇る大帝』をお読みいただき、ありがとうございます。

 いかがだったでしょうか? 皆様の感想、お待ちしております。

 さて、3話ほどの幕間を挟んでから、二章へ入りたいと思います。
 作者の癖なのですが、幕間と言いつつも重要な話や伏線を入れてしまいますので、出来れば読み飛ばさないでほしいです……
 
 以上、作者鴉真似でした。

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