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転生・蘇る大帝

第3話 罰と変化

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 レオンハルトがダイエットを決意して1ヶ月、魔法回路こじ開け作戦から3週間、ついに父ラインハルトからの呼び出しがかかった。
 別邸から、本邸へと戻り、すぐさま父の執務室へと向う。

「お呼びでしょうか、父上」
「うむ。お前への処罰が正式に決まった。何に対する罰かは、説明不要であろう?」
「っは、公爵家の名に泥を塗るような真似をしてしまい、申し訳ございませんでした。如何様な処分でも受け入れる所存」
「……レオンハルトよ、何かあったか?」
「はい? 何もございませんが?」
「いや、そんなはず……うむ、そうか、そうだな。では改めてお前への罰を言い渡す」
「っは」
「この度のお前の失態は看過できるものではない。公爵家をつぐに相応ではないと当主たる私が判断し、お前を廃嫡とする。また、ライネル領・領主代理として辺境に赴き、辺境の発展に尽力せよ」

「っは」
(思ったよりも緩い罰だな。追放ぐらいはあるのかと思った)

「……やはり何かあったのではないか、レオンハルトよ」
(やけにあっさりだな。もっとごねると思っておったのだが……)

「いえ、何もございません」
「そうか……では荷物がまとまり次第出発せよ」
「っは!」


 こうして、レオンハルトは北の国境に位置するライネル領へ向かうこととなった。
 歴史に新たな1ページが刻まれる瞬間である。




 父から処罰を言い渡された3日後、出立の準備が整った。公爵家が用意した馬車を前にしてレオンハルトは苦笑いを禁じ得なかった。

 馬車そのものは立派であり、さすが公爵家というところである。しかし、その馬車の前にわずか二人の人間しかいなかったことにレオンハルトは苦笑いしたのだ。

「仮にも公爵家の人間が辺境に向かうのに従者はたった二人か……笑えてくるな」

 馬車の前の一人は執事然とした男性である。20代後半といったところであろう。
 まるで鏡を彷彿とさせる銀髪をオールバックにし、金色の瞳を際立たせるようなモノクルをかけていた。

「お初にお目にかかります。この度レオンハルト様の専属執事となったセバスチャンでございます」
「おう、外れくじご苦労様さま。わざわざ辺境に送りになった人間の専属とは」
「いえ、そのようなことは……」

 そして、もう人のはいかにも侍女という格好をしていた。
 紫の髪に、紫の瞳。神秘さを感じさせる見た目であるにもかかわらず、本人のソワソワとした雰囲気がそれを台無しにしている。

「この度レオンハルト様の専属侍女となったシリアです。よろしくお願いします……あの……先日はありがとうございました!」
「ん? ああ、あの時皿を落とした子か。いや、いい。怪我がなくてなりよりだ」
「はい!」

 元気な子だなとレオンハルトは思っていたそばで、セバスチャンは困惑していた。

(これがあの噂のレオンハルト様ですか? あの横暴で好色で人を人とも思わない豚にも劣る畜生と悪名高いレオンハルト様が……これでは年相応の少年、いや、年の割に賢い少年のように思えますが……)

 失礼な考えるセバスチャンを無視して、レオンハルトは馬車に乗り込む。我に返ったセバスチャンとシリアが馬車に乗ると、主従3人と御者1人がライネル領へと出発した。

 ライネル領へと向かう馬車の中。午前中の走り込みがない分、レオンハルトは魔法の修行を続けていた。当然、あの自虐としか思えないような修行である。

それをそばで初めて見るセバスチャンとシリアはもちろん慌てていた。

「っブヒッ!」
「レオンハルト様! どうされました!」
「……い、いや、な、なんでもない。ただの魔法修行だ」
「どんな修行ですか! そんな鳴き声を出す修行など聞いたことありません!」
「いいから、いいから。それより、頼みがある」
「……なんですか?」

 セバスチャンは言い知れむ不安を感じ、背中からゾワっと寒気のぼるような錯覚を覚えた。

「気絶したら叩き起こしてくれ」
「はい?」
「ではいくぞ!」
「レ、レオンハルト様!」
「ぐあっ……がっは……がああぁ……ブヒイイィ!……」
「「レオンハルト様!」」

 車内は阿鼻叫喚の地獄絵のようであった。

 ちなみに豚の鳴き真似はわざとである。今自分の立ち位置をはっきりさせるためであり、決して悪ふざけではない。

 閑話休題。

「なんなんだ、一体?」

 御者は車内が気になって仕方なかった。




 ライネル領はラインクール皇国から見て北に位置する。その北にある国といえば、ルドマリア帝国。ラインクール皇国と同じく、大陸3強に数えられる大国。ライネル領はその国境と接していた。

 帝国は皇国にとっては仮想敵国であるが、商人の行き来がないわけではない。そのため、ライネル領は辺境ながらも、それなりに発展していた。ただし、ルドマリア帝国側が制限を設ければその限りではない。

 ちなみに、ライネル領はシュヴァルツァー公爵が領有しているが、シュヴァルツァー公爵領と接してはいない。むしろ、かなり離れている。

 それなのにシュヴァルツァー公爵家が領有しているのは、任せられる貴族がいなかったからだ。
 元々、ライネル領を治めていた貴族は何者かに暗殺されてしまい、利権関係を巡って一族で争っているところを帝国に攻め込まれた。国軍がなんとか追い返したがその責任を取らされ、一族のものは皆処刑されてしまったか、帝国に亡命してしまった。

 そこでライネル領は一度天領をして皇族が治め、その後シュヴァルツァー公爵家が治めることとなった。

 これも、もう80年前の話になるが。そんなライネル領にて。

 シュヴァイツァー公爵からの使者の報告を受けた初老の男が頭を抱えた。

「領主様の馬鹿息子が代理としてやってくるだとぉ……ここは国防の要だぞ、素人が領主代理とは……領主様は何を考えているのだ!」
「如何なさいますか? ケトリー様」
「どうもこうも、領主様の命令となれば受け入れるしかあるまい」

 初老の男はケトリーという。このライネル領の代官をやっているものである。この度のレオンハルト辺境送りで最も影響を受けた人物といっていいだろう。

 代官の位はそのままにし、そのまま上に領主代理が置かれた状態ではあるが、政治の一番手の二番手では意味が大きく異なる。
 これまで自分の判断でできたことが全て領主代理であるレオンハルトの許可が必要となるだけでなく、レオンハルトの命令には逆らえない。

 これがまともな領主代理ならケトリーもここまで慌てることはなかったが、なんせ領主代理となるのは悪名高きレオンハルトである。不安になるなという方が無理である。

「あんな豚畜生が上司では何をさせられるかわかりません。いっそう排除しますか?」
「ヒルダ……それは過激すぎるというものだ」
「しかし、私も女性の身。あんな豚畜生に汚されるぐらいなら……」
「気持ちはわからんでもないが」

 ケトリーと共に報告を受けたのは代官補佐であるヒルダという女性である。
 基本的に男尊女卑であるこの世界で、代官補佐にまで上り詰めたと事実だけで、彼女の優秀さわかるであろう。

 ヒルダもレオンハルトの噂を耳にしており、過剰なまでの嫌悪感と敵意を示している。女性なら誰彼構わず発情する豚という認識は彼女の中で強く根付いている。

「とにかく、領主代理の受け入れ準備を進める。豚なら豚でうまく利用してやればいいだけのこと」
「……わかりました」

 不服そうにしながらもしっかりと仕事はこなすヒルダであった。

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