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第四章 パラレルワールド
第46話 闇の勢力のルール
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一時は田川先生やマーティスのことがあって重苦しい雰囲気となった歓迎の場も、戦いが終わったという実感とともに晴れやかな雰囲気へと変わって皆の顔から自然と笑みがこぼれた。
闇の勢力との死闘を終えてまだ間もなかったが、すでに何日も経過したような気分だった。
「今思えば、田川先生は闇の勢力の本拠地を教えようとして、クリス君のことを教会までおびき出したのね」
ふと思いついたように、優里が言った。
「そうね」と、その隣で紗奈もうなずいた。
「そこでわざと闇の勢力のおじさんに、クリスのことを調べるように指示したのね、きっと。そうすれば、闇の勢力がそこにいるということを、わたしたちに知らせることができると思ったから。
それにもしかしたら、闇の勢力はあの時点ですでにわたしたちの存在に気づいていたのかもね。だからそのことも、田川先生はわたしたちに知らせようとしていたんじゃないかな」
なるほど、とクリスも思った。
田川先生はそうして本拠地の場所も暗に示そうとしていたのかもしれない。
「本当。真実を知った今となっては、色々と分かることがあるよね」
紗奈の言う通りだった。
しかしいくら考えても分からないのは、ネイゲルも闇の勢力だったというのに、ソレーテが闇の勢力であることをネイゲルは知らなかったこと、それにソレーテがサタンを使って同胞であるザルナバンを全滅させてしまったことだ。
クリスがひとり考えていると、ハスールが教えてくれた。
『闇の勢力にもいくつもの組織があり、派閥があるのです。ソレーテは、地球を支配していたザルナバンを監視する役目として、闇の勢力の別組織から遣わされていたのでしょう。
つまり、ザルナバンが闇の勢力の計画通り行動しているかどうかを見張っていたのです。そして、ザルナバンが行動しやすいように操作もしていた。
しかし、ザルナバンは地球で私欲に溺れてしまい、本来の目的を忘れあまりに身勝手な動きをしていた。そのせいで闇の勢力の存在自体が危ぶまれることにもなった。
その制裁として、地球消滅とともにザルナバンも抹消することが闇の勢力の間で決まったのでしょう。その実行役も、監視を任されていたソレーテだったのです』
なるほど。闇の勢力の別組織に示しをつけるためにも勝手な行動をした組織を壊滅させるなんて、いかにも闇の勢力らしい制裁の仕方だ。
「ところで、ネイゲルさんってどうなったのかな?」
クリスがひとり納得していると、優里が尋ねた。
「そういえば・・・」と、その隣で紗奈も記憶を探るように視線を巡らせた。
「たしかに、どうなったんだろう」と、クリスも腕を組んで考え込んだ。
あまりにも衝撃的なことが立て続けに起こったために、ネイゲルの動向にまで気を回していた者はひとりもいなかった。
ソレーテに操られたサタンがバルコニー席に上がったとき、そこにネイゲルがいたのは間違いない。しかし、その後どうなったのか誰も見ていないと言った。
「サタンにやられた中にいたのかな?」とクリスが言うと、「うーん」と紗奈が首をひねった。
『アルタシアがサタンを倒したときに、ネイゲルも巻き添えになったんじゃない?』と、横からクレアが言った。
クレアの意見に3人とも「そうかもしれない」と、うなずいた。
田川先生の魔法攻撃によって、サタンもろともバルコニー席にいた人たちは跡形もなく一層されていた。その中にネイゲルもいたのかもしれない。いずれにしても、あの場から逃げ延びたなんてことはないだろう。
『それより』と、クレアがハスールに問いかけた。
『ソレーテが最後自分を生贄に捧げてルシファーを召喚していたけど、ルシファーはなんで何もしないで去って行っちゃったの?
地球を消滅させることが闇の勢力の目的なら、わたしたちを倒してクリスタルエレメントを奪えばよかったんじゃないの?』
テーブルの上で頬杖をついたまま尋ねるクレアに、ハスールは微笑みかけた。
『ルシファーのような悪魔と呼ばれる存在は、術によって召喚された場合、召喚された目的を遂行するだけしか権限がないのです。そしてソレーテによってルシファーが召喚された目的とは、アルタシアを殺すこと』
微笑みを称えたまま、ハスールは答えた。
『自分を生贄にしてルシファーを召喚したところで、ルシファーに依頼できる願いはアルタシアを殺すことが関の山であることはソレーテも承知のはず。
恐らくソレーテも、もはやこの計画がうまくいかないことは分かっていたのでしょう。しかし、ただで死ぬわけにはいかない。死後、闇の勢力による裁きがありますから。
ですから、少しでも処分が軽くなるようにアルタシアを道連れにしたのでしょう。闇の勢力のルールでは、敵を巻き添えに自害することは、すべての罪を帳消しにできるほどの償いに値すると定められていますからね』
クレアから視線を外すと、ハスールは一同をゆっくりと見回した。
『惑星外の人間は、その惑星の事柄に直接手を出してはいけないのがこの宇宙の不文律です。それは闇の勢力であっても同様です。
闇の勢力も宇宙から存在を消されることを恐れていますから、それを破ってまで今後地球に手出しをしてくることはないでしょう。
ザルナバンの支配下にいた者たちを操ってまた何かを仕掛けようとする可能性もありますが、皆さんの勝利により地球は光の量が格段に上がっています。やがてその者たちも光の存在に変わっていくか、そうでないものは地球を去ることになるでしょう。
しかし、念のため儀式の準備が整うまで、クリスタルエレメントは私たちが預かっておきましょう』
ハスールがアラミスに視線を向けると、アラミスはクリスタルエレメントの入ったバッグをハスールに手渡した。
闇の勢力との死闘を終えてまだ間もなかったが、すでに何日も経過したような気分だった。
「今思えば、田川先生は闇の勢力の本拠地を教えようとして、クリス君のことを教会までおびき出したのね」
ふと思いついたように、優里が言った。
「そうね」と、その隣で紗奈もうなずいた。
「そこでわざと闇の勢力のおじさんに、クリスのことを調べるように指示したのね、きっと。そうすれば、闇の勢力がそこにいるということを、わたしたちに知らせることができると思ったから。
それにもしかしたら、闇の勢力はあの時点ですでにわたしたちの存在に気づいていたのかもね。だからそのことも、田川先生はわたしたちに知らせようとしていたんじゃないかな」
なるほど、とクリスも思った。
田川先生はそうして本拠地の場所も暗に示そうとしていたのかもしれない。
「本当。真実を知った今となっては、色々と分かることがあるよね」
紗奈の言う通りだった。
しかしいくら考えても分からないのは、ネイゲルも闇の勢力だったというのに、ソレーテが闇の勢力であることをネイゲルは知らなかったこと、それにソレーテがサタンを使って同胞であるザルナバンを全滅させてしまったことだ。
クリスがひとり考えていると、ハスールが教えてくれた。
『闇の勢力にもいくつもの組織があり、派閥があるのです。ソレーテは、地球を支配していたザルナバンを監視する役目として、闇の勢力の別組織から遣わされていたのでしょう。
つまり、ザルナバンが闇の勢力の計画通り行動しているかどうかを見張っていたのです。そして、ザルナバンが行動しやすいように操作もしていた。
しかし、ザルナバンは地球で私欲に溺れてしまい、本来の目的を忘れあまりに身勝手な動きをしていた。そのせいで闇の勢力の存在自体が危ぶまれることにもなった。
その制裁として、地球消滅とともにザルナバンも抹消することが闇の勢力の間で決まったのでしょう。その実行役も、監視を任されていたソレーテだったのです』
なるほど。闇の勢力の別組織に示しをつけるためにも勝手な行動をした組織を壊滅させるなんて、いかにも闇の勢力らしい制裁の仕方だ。
「ところで、ネイゲルさんってどうなったのかな?」
クリスがひとり納得していると、優里が尋ねた。
「そういえば・・・」と、その隣で紗奈も記憶を探るように視線を巡らせた。
「たしかに、どうなったんだろう」と、クリスも腕を組んで考え込んだ。
あまりにも衝撃的なことが立て続けに起こったために、ネイゲルの動向にまで気を回していた者はひとりもいなかった。
ソレーテに操られたサタンがバルコニー席に上がったとき、そこにネイゲルがいたのは間違いない。しかし、その後どうなったのか誰も見ていないと言った。
「サタンにやられた中にいたのかな?」とクリスが言うと、「うーん」と紗奈が首をひねった。
『アルタシアがサタンを倒したときに、ネイゲルも巻き添えになったんじゃない?』と、横からクレアが言った。
クレアの意見に3人とも「そうかもしれない」と、うなずいた。
田川先生の魔法攻撃によって、サタンもろともバルコニー席にいた人たちは跡形もなく一層されていた。その中にネイゲルもいたのかもしれない。いずれにしても、あの場から逃げ延びたなんてことはないだろう。
『それより』と、クレアがハスールに問いかけた。
『ソレーテが最後自分を生贄に捧げてルシファーを召喚していたけど、ルシファーはなんで何もしないで去って行っちゃったの?
地球を消滅させることが闇の勢力の目的なら、わたしたちを倒してクリスタルエレメントを奪えばよかったんじゃないの?』
テーブルの上で頬杖をついたまま尋ねるクレアに、ハスールは微笑みかけた。
『ルシファーのような悪魔と呼ばれる存在は、術によって召喚された場合、召喚された目的を遂行するだけしか権限がないのです。そしてソレーテによってルシファーが召喚された目的とは、アルタシアを殺すこと』
微笑みを称えたまま、ハスールは答えた。
『自分を生贄にしてルシファーを召喚したところで、ルシファーに依頼できる願いはアルタシアを殺すことが関の山であることはソレーテも承知のはず。
恐らくソレーテも、もはやこの計画がうまくいかないことは分かっていたのでしょう。しかし、ただで死ぬわけにはいかない。死後、闇の勢力による裁きがありますから。
ですから、少しでも処分が軽くなるようにアルタシアを道連れにしたのでしょう。闇の勢力のルールでは、敵を巻き添えに自害することは、すべての罪を帳消しにできるほどの償いに値すると定められていますからね』
クレアから視線を外すと、ハスールは一同をゆっくりと見回した。
『惑星外の人間は、その惑星の事柄に直接手を出してはいけないのがこの宇宙の不文律です。それは闇の勢力であっても同様です。
闇の勢力も宇宙から存在を消されることを恐れていますから、それを破ってまで今後地球に手出しをしてくることはないでしょう。
ザルナバンの支配下にいた者たちを操ってまた何かを仕掛けようとする可能性もありますが、皆さんの勝利により地球は光の量が格段に上がっています。やがてその者たちも光の存在に変わっていくか、そうでないものは地球を去ることになるでしょう。
しかし、念のため儀式の準備が整うまで、クリスタルエレメントは私たちが預かっておきましょう』
ハスールがアラミスに視線を向けると、アラミスはクリスタルエレメントの入ったバッグをハスールに手渡した。
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