クリスの物語

daichoro

文字の大きさ
上 下
215 / 227
第四章 パラレルワールド

第46話 闇の勢力のルール

しおりを挟む
 一時は田川先生やマーティスのことがあって重苦しい雰囲気となった歓迎の場も、戦いが終わったという実感とともに晴れやかな雰囲気へと変わって皆の顔から自然と笑みがこぼれた。

 闇の勢力との死闘を終えてまだ間もなかったが、すでに何日も経過したような気分だった。



「今思えば、田川先生は闇の勢力の本拠地を教えようとして、クリス君のことを教会までおびき出したのね」

 ふと思いついたように、優里が言った。



「そうね」と、その隣で紗奈もうなずいた。

「そこでわざと闇の勢力のおじさんに、クリスのことを調べるように指示したのね、きっと。そうすれば、闇の勢力がそこにいるということを、わたしたちに知らせることができると思ったから。

 それにもしかしたら、闇の勢力はあの時点ですでにわたしたちの存在に気づいていたのかもね。だからそのことも、田川先生はわたしたちに知らせようとしていたんじゃないかな」



 なるほど、とクリスも思った。

 田川先生はそうして本拠地の場所も暗に示そうとしていたのかもしれない。



「本当。真実を知った今となっては、色々と分かることがあるよね」

 紗奈の言う通りだった。



 しかしいくら考えても分からないのは、ネイゲルも闇の勢力だったというのに、ソレーテが闇の勢力であることをネイゲルは知らなかったこと、それにソレーテがサタンを使って同胞であるザルナバンを全滅させてしまったことだ。

 クリスがひとり考えていると、ハスールが教えてくれた。



『闇の勢力にもいくつもの組織があり、派閥があるのです。ソレーテは、地球を支配していたザルナバンを監視する役目として、闇の勢力の別組織から遣わされていたのでしょう。

 つまり、ザルナバンが闇の勢力の計画通り行動しているかどうかを見張っていたのです。そして、ザルナバンが行動しやすいように操作もしていた。



 しかし、ザルナバンは地球で私欲に溺れてしまい、本来の目的を忘れあまりに身勝手な動きをしていた。そのせいで闇の勢力の存在自体が危ぶまれることにもなった。

 その制裁として、地球消滅とともにザルナバンも抹消することが闇の勢力の間で決まったのでしょう。その実行役も、監視を任されていたソレーテだったのです』



 なるほど。闇の勢力の別組織に示しをつけるためにも勝手な行動をした組織を壊滅させるなんて、いかにも闇の勢力らしい制裁の仕方だ。



「ところで、ネイゲルさんってどうなったのかな?」

 クリスがひとり納得していると、優里が尋ねた。



「そういえば・・・」と、その隣で紗奈も記憶を探るように視線を巡らせた。

「たしかに、どうなったんだろう」と、クリスも腕を組んで考え込んだ。



 あまりにも衝撃的なことが立て続けに起こったために、ネイゲルの動向にまで気を回していた者はひとりもいなかった。

 ソレーテに操られたサタンがバルコニー席に上がったとき、そこにネイゲルがいたのは間違いない。しかし、その後どうなったのか誰も見ていないと言った。



「サタンにやられた中にいたのかな?」とクリスが言うと、「うーん」と紗奈が首をひねった。



『アルタシアがサタンを倒したときに、ネイゲルも巻き添えになったんじゃない?』と、横からクレアが言った。

 クレアの意見に3人とも「そうかもしれない」と、うなずいた。



 田川先生の魔法攻撃によって、サタンもろともバルコニー席にいた人たちは跡形もなく一層されていた。その中にネイゲルもいたのかもしれない。いずれにしても、あの場から逃げ延びたなんてことはないだろう。



『それより』と、クレアがハスールに問いかけた。

『ソレーテが最後自分を生贄に捧げてルシファーを召喚していたけど、ルシファーはなんで何もしないで去って行っちゃったの?

 地球を消滅させることが闇の勢力の目的なら、わたしたちを倒してクリスタルエレメントを奪えばよかったんじゃないの?』

 テーブルの上で頬杖をついたまま尋ねるクレアに、ハスールは微笑みかけた。



『ルシファーのような悪魔と呼ばれる存在は、術によって召喚された場合、召喚された目的を遂行するだけしか権限がないのです。そしてソレーテによってルシファーが召喚された目的とは、アルタシアを殺すこと』

 微笑みを称えたまま、ハスールは答えた。



『自分を生贄にしてルシファーを召喚したところで、ルシファーに依頼できる願いはアルタシアを殺すことが関の山であることはソレーテも承知のはず。

 恐らくソレーテも、もはやこの計画がうまくいかないことは分かっていたのでしょう。しかし、ただで死ぬわけにはいかない。死後、闇の勢力による裁きがありますから。

 ですから、少しでも処分が軽くなるようにアルタシアを道連れにしたのでしょう。闇の勢力のルールでは、敵を巻き添えに自害することは、すべての罪を帳消しにできるほどの償いに値すると定められていますからね』



 クレアから視線を外すと、ハスールは一同をゆっくりと見回した。



『惑星外の人間は、その惑星の事柄に直接手を出してはいけないのがこの宇宙の不文律です。それは闇の勢力であっても同様です。

 闇の勢力も宇宙から存在を消されることを恐れていますから、それを破ってまで今後地球に手出しをしてくることはないでしょう。



 ザルナバンの支配下にいた者たちを操ってまた何かを仕掛けようとする可能性もありますが、皆さんの勝利により地球は光の量が格段に上がっています。やがてその者たちも光の存在に変わっていくか、そうでないものは地球を去ることになるでしょう。

 しかし、念のため儀式の準備が整うまで、クリスタルエレメントは私たちが預かっておきましょう』



 ハスールがアラミスに視線を向けると、アラミスはクリスタルエレメントの入ったバッグをハスールに手渡した。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前世で家族に恵まれなかった俺、今世では優しい家族に囲まれる 俺だけが使える氷魔法で異世界無双

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
家族や恋人もいなく、孤独に過ごしていた俺は、ある日自宅で倒れ、気がつくと異世界転生をしていた。 神からの定番の啓示などもなく、戸惑いながらも優しい家族の元で過ごせたのは良かったが……。 どうやら、食料事情がよくないらしい。 俺自身が美味しいものを食べたいし、大事な家族のために何とかしないと! そう思ったアレスは、あの手この手を使って行動を開始するのだった。 これは孤独だった者が家族のために奮闘したり、時に冒険に出たり、飯テロしたり、もふもふしたりと……ある意味で好き勝手に生きる物語。 しかし、それが意味するところは……。

猫アレルギーだったアラサーが異世界転生して猫カフェやったら大繁盛でもふもふスローライフ満喫中です

真霜ナオ
ファンタジー
主人公の市村 陽は、どこにでもいるごく普通のサラリーマンだ。 部屋中が猫グッズで溢れるほどの猫好きな陽だが、重度の猫アレルギーであるために、猫に近づくことすら叶わない。 そんな陽の数少ない楽しみのひとつは、仕事帰りに公園で会う、鍵尻尾の黒猫・ヨルとの他愛もない時間だった。 ある時、いつものように仕事帰りに公園へと立ち寄った陽は、不良グループに絡まれるヨルの姿を見つける。 咄嗟にヨルを庇った陽だったが、不良たちから暴行を受けた挙句、アレルギー症状により呼吸ができなくなり意識を失ってしまう。 気がつくと、陽は見知らぬ森の中にいた。そこにはヨルの姿もあった。 懐いてくるヨルに慌てる陽は、ヨルに触れても症状が出ないことに気がつく。 ヨルと共に見知らぬ町に辿り着いた陽だが、その姿を見た住人たちは怯えながら一斉に逃げ出していった。 そこは、猫が「魔獣」として恐れられている世界だったのだ。 この物語は、猫が恐れられる世界の中で猫カフェを開店した主人公が、時に猫のために奔走しながら、猫たちと、そして人々と交流を深めていくお話です。 他サイト様にも同作品を投稿しています。

異世界ライフは山あり谷あり

常盤今
ファンタジー
会社員の川端努は交通事故で死亡後に超常的存在から異世界に行くことを提案される。これは『魔法の才能』というチートぽくないスキルを手に入れたツトムが15歳に若返り異世界で年上ハーレムを目指し、冒険者として魔物と戦ったり対人バトルしたりするお話です。 ※ヒロインは10話から登場します。 ※火曜日と土曜日の8時30分頃更新 ※小説家になろう(運営非公開措置)・カクヨムにも掲載しています。 【無断転載禁止】

前世は最強の宝の持ち腐れ!?二度目の人生は創造神が書き換えた神級スキルで気ままに冒険者します!!

yoshikazu
ファンタジー
主人公クレイは幼い頃に両親を盗賊に殺され物心付いた時には孤児院にいた。このライリー孤児院は子供達に客の依頼仕事をさせ手間賃を稼ぐ商売を生業にしていた。しかしクレイは仕事も遅く何をやっても上手く出来なかった。そしてある日の夜、無実の罪で雪が積もる極寒の夜へと放り出されてしまう。そしてクレイは極寒の中一人寂しく路地裏で生涯を閉じた。 だがクレイの中には創造神アルフェリアが創造した神の称号とスキルが眠っていた。しかし創造神アルフェリアの手違いで神のスキルが使いたくても使えなかったのだ。  創造神アルフェリアはクレイの魂を呼び寄せお詫びに神の称号とスキルを書き換える。それは経験したスキルを自分のものに出来るものであった。  そしてクレイは元居た世界に転生しゼノアとして二度目の人生を始める。ここから前世での惨めな人生を振り払うように神級スキルを引っ提げて冒険者として突き進む少年ゼノアの物語が始まる。

骸骨殿下の婚約者

白乃いちじく
ファンタジー
私が彼に会ったのは、九才の時。雨の降る町中だった。 魔術師の家系に生まれて、魔力を持たない私はいらない子として、家族として扱われたことは一度もない。  ――ね、君、僕の助手になる気ある? 彼はそう言って、私に家と食事を与えてくれた。 この時の私はまだ知らない。 骸骨の姿をしたこの魔術師が、この国の王太子、稀代の魔術師と言われるその人だったとは。 ***各章ごとに話は完結しています。お気軽にどうぞ♪***

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

転生王子はダラけたい

朝比奈 和
ファンタジー
 大学生の俺、一ノ瀬陽翔(いちのせ はると)が転生したのは、小さな王国グレスハートの末っ子王子、フィル・グレスハートだった。  束縛だらけだった前世、今世では好きなペットをモフモフしながら、ダラけて自由に生きるんだ!  と思ったのだが……召喚獣に精霊に鉱石に魔獣に、この世界のことを知れば知るほどトラブル発生で悪目立ち!  ぐーたら生活したいのに、全然出来ないんだけどっ!  ダラけたいのにダラけられない、フィルの物語は始まったばかり! ※2016年11月。第1巻  2017年 4月。第2巻  2017年 9月。第3巻  2017年12月。第4巻  2018年 3月。第5巻  2018年 8月。第6巻  2018年12月。第7巻  2019年 5月。第8巻  2019年10月。第9巻  2020年 6月。第10巻  2020年12月。第11巻 出版しました。  PNもエリン改め、朝比奈 和(あさひな なごむ)となります。  投稿継続中です。よろしくお願いします!

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) イラストブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

処理中です...