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第四章 パラレルワールド
第17話 尾行
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『田川先生?』
クリスがそう言ったのと同時に、赤いカットソーの女性がちらっと振り返った。クリスは慌てて顔を引っ込め、壁と一体になろうかというほど背中を壁に押し付けた。バクバクと心臓が脈打っていた。
気づかれただろうか?
いや、そんなことはないはずだ。先ほど発した思念は、ベベにだけ聞こえるように発していた。つまり、他の人には読み取れないはずだ。
振り返ったのは、恐らく偶然だろう。それにもし見られていたとしても、髪型も変えているしサングラスもかけている。ばれるようなことはないはずだ。
クリスは自分にそう言い聞かせたものの、全身縮み上がっていた。
しかし、とクリスは思い直した。
ベベの見間違いじゃないだろうか?
女性が振り返った瞬間にクリスは横顔を捉えていたが、ほんの一瞬だったしサングラスをかけていたため判断のしようがなかった。しかし、それにしてもこんなところに田川先生がいるとは思えない。
クリスは、物陰からそっと顔を出してもう一度のぞき込んだ。
すると突然『クリス』と呼ばれて、紗奈の顔がどんと目の前に現れた。クリスはびっくりして「うわあ」と、体をのけ反らせた。
『どうしたの?大丈夫?』と、心配そうに紗奈が聞いた。紗奈は、ホロロムルスを通じて連絡をしてきたのだった。
『ごめん、大丈夫だよ』
クリスは呼吸を落ち着かせながら返事をした。
『ベベは捕まえられたの?』
『うん。ベベは捕まえられたんだけど、今ベベと一緒に女の人を尾行してるんだ』
『何それ?どうゆうこと?』
眉間に皺を寄せて、訝しむように紗奈が聞き返した。
『うん。なんかベベが言うにはその女の人、田川先生らしいんだけど。あ』
クリスが話している最中に、ベベがまた走り出した。クリスは慌てて後を追った。
『ごめん。とりあえずちょっと確かめてみる。どこかで待っててくれるかな?それか、先にホテルに帰ってて。終わったらまた連絡するから』
クリスがそう伝えると、画面がハーディに切り替わった。
『分かった。こっちのことは心配しなくていい。連絡もらえればすぐに迎えに行く。でも、あまり深追いはするなよ』
『うん。分かった』と返事をして、クリスは接続を切った。
女性は変わらず前を向いたまま、通りを颯爽と歩いていた。
クリスとベベは、物陰に隠れながらつかず離れずして尾行を続けた。
そうだ。ホロロムルスで正体が判るかもしれない。そう思ったクリスは、ターゲットを赤いカットソーの女性に向けて詳細を開いた。
しかし、なぜかその女性のプロフィールはまっさらだった。
どうやらデータを消去しているか、もしくは情報を見られないようブロックしているようだ。そうなると、ますます怪しい。
そんなことを思いながら尾行を続けていると、大きな広場に出た。
古めかしい建造物に囲まれた巨大な広場は、人で溢れかえっていた。しかし、ひときわ目を引く真っ赤なカットソーは見失う心配がなかった。
人ごみをものともせずに、スピードを緩めることなく女性は噴水のある方へと向かっていた。
広場に身を隠す場所はないが、人に紛れられるため先ほどの路地よりも尾行は楽だった。
クリスはベベのリードを手に、犬の散歩をする現地人に扮しながら一定の距離を保って女性の後を追った。
女性は噴水の前を通り過ぎると、正面の大きな階段を上がり始めた。
階段にはたくさんの人が腰かけていた。そして、それをよけるように上がっていく観光客も、途中で立ち止まってはあちこちで記念撮影している。そのため、蛇行しながら上がっていく必要があった。
クリスはベベを抱え上げ、女性とは少し間隔を空けて立ち止まる人の陰に隠れながら階段を上がった。
階段を頂上まで上り切ると、女性は通りを渡った先にある白い教会のような建物の中へと入っていった。
その建物には、観光客らしき人々も多く出入りしている。つまり、一般客でも入れるということだろう。
クリスはベベを抱えたまま建物の階段を上がって、入り口から中をのぞき込んだ。
クリスがそう言ったのと同時に、赤いカットソーの女性がちらっと振り返った。クリスは慌てて顔を引っ込め、壁と一体になろうかというほど背中を壁に押し付けた。バクバクと心臓が脈打っていた。
気づかれただろうか?
いや、そんなことはないはずだ。先ほど発した思念は、ベベにだけ聞こえるように発していた。つまり、他の人には読み取れないはずだ。
振り返ったのは、恐らく偶然だろう。それにもし見られていたとしても、髪型も変えているしサングラスもかけている。ばれるようなことはないはずだ。
クリスは自分にそう言い聞かせたものの、全身縮み上がっていた。
しかし、とクリスは思い直した。
ベベの見間違いじゃないだろうか?
女性が振り返った瞬間にクリスは横顔を捉えていたが、ほんの一瞬だったしサングラスをかけていたため判断のしようがなかった。しかし、それにしてもこんなところに田川先生がいるとは思えない。
クリスは、物陰からそっと顔を出してもう一度のぞき込んだ。
すると突然『クリス』と呼ばれて、紗奈の顔がどんと目の前に現れた。クリスはびっくりして「うわあ」と、体をのけ反らせた。
『どうしたの?大丈夫?』と、心配そうに紗奈が聞いた。紗奈は、ホロロムルスを通じて連絡をしてきたのだった。
『ごめん、大丈夫だよ』
クリスは呼吸を落ち着かせながら返事をした。
『ベベは捕まえられたの?』
『うん。ベベは捕まえられたんだけど、今ベベと一緒に女の人を尾行してるんだ』
『何それ?どうゆうこと?』
眉間に皺を寄せて、訝しむように紗奈が聞き返した。
『うん。なんかベベが言うにはその女の人、田川先生らしいんだけど。あ』
クリスが話している最中に、ベベがまた走り出した。クリスは慌てて後を追った。
『ごめん。とりあえずちょっと確かめてみる。どこかで待っててくれるかな?それか、先にホテルに帰ってて。終わったらまた連絡するから』
クリスがそう伝えると、画面がハーディに切り替わった。
『分かった。こっちのことは心配しなくていい。連絡もらえればすぐに迎えに行く。でも、あまり深追いはするなよ』
『うん。分かった』と返事をして、クリスは接続を切った。
女性は変わらず前を向いたまま、通りを颯爽と歩いていた。
クリスとベベは、物陰に隠れながらつかず離れずして尾行を続けた。
そうだ。ホロロムルスで正体が判るかもしれない。そう思ったクリスは、ターゲットを赤いカットソーの女性に向けて詳細を開いた。
しかし、なぜかその女性のプロフィールはまっさらだった。
どうやらデータを消去しているか、もしくは情報を見られないようブロックしているようだ。そうなると、ますます怪しい。
そんなことを思いながら尾行を続けていると、大きな広場に出た。
古めかしい建造物に囲まれた巨大な広場は、人で溢れかえっていた。しかし、ひときわ目を引く真っ赤なカットソーは見失う心配がなかった。
人ごみをものともせずに、スピードを緩めることなく女性は噴水のある方へと向かっていた。
広場に身を隠す場所はないが、人に紛れられるため先ほどの路地よりも尾行は楽だった。
クリスはベベのリードを手に、犬の散歩をする現地人に扮しながら一定の距離を保って女性の後を追った。
女性は噴水の前を通り過ぎると、正面の大きな階段を上がり始めた。
階段にはたくさんの人が腰かけていた。そして、それをよけるように上がっていく観光客も、途中で立ち止まってはあちこちで記念撮影している。そのため、蛇行しながら上がっていく必要があった。
クリスはベベを抱え上げ、女性とは少し間隔を空けて立ち止まる人の陰に隠れながら階段を上がった。
階段を頂上まで上り切ると、女性は通りを渡った先にある白い教会のような建物の中へと入っていった。
その建物には、観光客らしき人々も多く出入りしている。つまり、一般客でも入れるということだろう。
クリスはベベを抱えたまま建物の階段を上がって、入り口から中をのぞき込んだ。
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