クリスの物語

daichoro

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第四章 パラレルワールド

第7話 闇の勢力の総本部

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 優里はクリスタルエレメントが奪われたことを知って驚きはしたものの、それについて疑うようなそぶりは見せなかった。

 クリスがマーティスにも優里を紹介すると、マーティスはすでに優里のことを知っていた。そして『ユリさんにも是非ご協力をお願いしたい』と言って、頭を下げた。



 ひと通り話を聞き終えた優里は、エンダを胸ポケットから出して肩に載せた。

 エンダのドラゴン飛翔から戻ったときに、優里はヘリコプターとスーツの男を見かけて警戒した。そしてエンダを見られてはまずいと思い、森の奥にエンダを着地させて歩いてお城まで戻ったのだった。



『でも、クリスタルエレメントが闇の勢力に奪われてしまったなら、早くしないと地球が滅亡させられてしまうんじゃない?』

 クリスと紗奈に向かってそう言った優里に慌てる様子は見られず、至って落ち着いていた。



『銀河連邦の話では、その心配はないようです』と、マーティスが横から答えた。

『詳しい話は私も知らされていませんが、万一のことを考えてすでに保険を掛けてあると言っていました。ですから、闇の勢力が滅亡の儀式をしたとしても成功はしないようです。

 それに、地球を滅亡させるにあたって、闇の勢力に携わる多くの人間を他の星へ移送する必要もありますから、すぐすぐに儀式が始められることもないとは思います』

『そうなんですか』と、優里は納得したようにうなずいた。



『ところで、闇の勢力はすり替えたクリスタルエレメントをどこに保管しているのですか?地底都市のどこかですか?』と、紗奈が質問した。

 マーティスは『いえ』と、首を振った。

『恐らく、ローマにある闇の勢力の総本部でしょう』



『ローマ?ローマって、イタリアのローマですか?』

 驚く紗奈に、マーティスはうなずき返した。



『それじゃあ、今からローマへ行くということですか?』

 マーティスはまたうなずくと、言った。

『それに伴う必要な手続きや滞在先など、すべて私どもが手配しております。ですからご心配無用です。もちろん、ベベも渡航できるよう手配済みです』



『でも、なんでわたしたちなんですか?クリスタルエレメントを奪い返すということなら、選ばれし者であるクリスでなくてもいいわけでしょう?警察とか政府とか、もっと大人の人たちにお願いした方がいいんじゃないですか?』



 紗奈の言い分は、もっともだった。

 闇の勢力の本部に乗り込んで奪い返すなどという危険な任務を、一介の子供たちに依頼すべきではない。それよりも国家や軍隊など、強大な力を持つ組織にお願いするべきだ。



『地表世界では、ほぼすべての機関に闇の勢力の息がかかっています。当然、政府や軍隊から国家に至るまで、あらゆるものを闇の勢力が動かしているのです。ですから、それらの機関へお願いするわけにはいきません。

 また、地底都市も誰がスパイか分からない状況ですし、地底都市の人間に知られることなく秘密裏にこの任務は進める必要があります。 そこで、地表人であるクリスさん方に白羽の矢が立ったというわけです。これまでクリスタルエレメント獲得に携わってこられたことで、アセンションに対する知識もある。それに信用も置けて実力もあるということで・・・。

 今回の任務をお願いするのに、これ以上ないほど適任ということです。そこに年齢などは一切関係ありません。銀河連邦のお墨付きですから、間違いありません』

 銀河連邦から認められることはとても名誉なことなのだ、とでもいうような口ぶりでマーティスは話した。



『地底都市の人間にも知られてはいけないということは、このことはクレアやエランドラたちも知らないっていうことですか?』

 紗奈のその質問に『はい。今のところは』と、マーティスは答えた。



『ただエランドラさんについては、クリスさんの守護ドラゴンですから知られても問題ありませんし、クリスさんが行動を始めたら自然と気づかれることになるでしょう』と、マーティスは付け加えた。



 それならば何かあった時にはエランドラが助けに来てくれるかもしれない、とクリスは思った。しかし、今回の任務は地上でのことだ。地表世界はエランドラたちにとって人の姿にシェイプシフトすることすらきついと言っていた。それならば、頼ることはできないかもしれない。

 ひとりそんなことを考えるクリスに、紗奈が「どう思う?」と聞いた。



「地底世界の人に確認ができないなら、本当にクリスタルエレメントがすり替えられたのかどうか分からないよね?」

 まだマーティスの話を信用したわけではないとばかりに、聞こえよがしに紗奈は言った。



「でも、わたしはクリスタルエレメントが奪われてしまったっていうのは、案外本当じゃないかっていう気がするよ」と、優里がマーティスを擁護するような発言をした。

「なんで?」と聞き返した紗奈に、「確証はないけど」と優里は肩をすぼめた。



「でも、前回ウェントゥスを入手した後に紗奈も言っていたでしょう?闇の勢力の諦めが早い気がするって。実はわたしも、あのとき同じことを思ってたんだ。なんか詰めが甘いなって。というよりも、なんだかまるでわたしたちがウェントゥスを入手するように仕向けられていたような気がしたの」



 たしかに闇の勢力の諦めが早いとは、紗奈も思っていた。何としても地球のアセンションを阻止しようという割には、意地でも手に入れようとすることなくウェントゥスを残して田川先生は逃げ去ってしまったのだ。

 全勢力を上げてかかってくる、という感じではなかった。しかしクレアからは、宇宙戦争に発展するからこれ以上闇の勢力が手出しをしてくることはないと言われた。



「わたしもなんとなくそう感じているだけだから、実際分からないけどね」と優里は付け加え、「でも」と続けた。

「闇の勢力って地上を牛耳っているような組織なわけでしょう?それが、5つのクリスタルエレメントを5つ全部取り損なうことなんてあるのかなって単純に思ったの。もっと、やりようがあったんじゃないかなって」



 優里のその意見に、紗奈も同感だった。世界中の国家を裏で操作しているような組織が、クリスタルエレメントをひとつも奪えずに諦めるなんてたしかにおかしいかもしれない。すると「でも」と、クリスが口を挟んだ。

「闇の勢力の人間にはそもそも選ばれし者がいないから、だから最初から不利だったっていうのもあったんじゃないかな。それに、実際敵も味方も含めて何人も命を落としているし。向こうも本気だったと思うけど」

 クリスの意見に、優里はうなずき返した。



「うん。もちろんクリス君の言う通り向こうも本気だったし、それに最初からこっちの方が有利だったっていうのもあると思う。だから、もしクリスタルエレメントを手に入れられなかったとしても、どうにかできるような最後の手段を闇の勢力は最初から用意していてもおかしくないなって思ったの」

 なるほど、とクリスも納得した。桜井さんの言う通りかもしれない。



「その最後の手段というのが、セテオスにいるスパイにクリスタルエレメントを奪わせるということだったんだね」とクリスが言うと、優里は笑顔でうなずき返した。その隣で紗奈も納得したようにうなずいた。

 それからふたりは、クリスに向かって『どうする?』と思念を飛ばした。




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