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第三章 悪魔の儀式
第20話 涙の真相
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エランドラ、クレアそしてラマルが突然やってきた。
校庭に降り立ったドラゴンと有翼人の姿を目にして、クリスも紗奈も興奮を抑えきれなかった。しかしそれと同時になんでまたやってきたのか、という疑問が湧き起こった。
ラマルの背からふわりと舞い上がったクレアは、クリスに向かって『元気そうね』と、笑顔で言った。
『うん。まあね』と、クリスも笑顔で返事をした。
『それより、突然どうしたの?』
周囲を気にしながら、クリスは尋ねた。誰か人に見られていないか心配だった。
しかし、校庭には相変わらずクリスたち以外誰もいない。誰かいたとしても翼の生えたクレアやエランドラたちドラゴンの存在は見えないはずだが、それでもやはり人目が気になった。
そんな中、優里がひとりあんぐりと口を大きく開けていた。どうやら優里には、クレアたちの存在が見えているようだ。
クレアもそれに気がついて、『あら?』と言った。
『あなたも、わたしたちのことが分かるみたいね?』
優里はかすかにうなずくと、説明を求めるようにクリスに視線を送った。
「やっぱり、桜井さんには見えるんだね」
クリスが微笑みかけると、優里は小さく「うん」とうなずいた。
「この子はクレアっていうんだ。それで、向こうのドラゴンはエランドラといってぼくの守護ドラゴンだよ」
紗奈のうしろに座る、白く大きなドラゴンを指差してクリスが紹介した。
「それと、こっちのドラゴンがラマルといってクレアの守護ドラゴン」
そう言って手前に座る、エランドラよりひと回り小さい青色のドラゴンをクリスが示した。
クリスが簡単に三人を紹介すると、優里は慌てて立ち上がった。それから深々と頭を下げて「桜井優里です」と、声に出して名前を名乗った。
『ぼくと紗奈ちゃんの小学校からの友達だよ』とクリスが補足すると、クレアは何も言わずにクリスを見てから、エランドラの方を振り返った。
振り向いたクレアに、エランドラが無言でうなずき返した。クレアは肩をすくめると、また桜井さんに向き直った。
『あなた、ちょっと危ないんじゃない?』
「え?」
突然クレアにそのように言われて、優里は絶句した。
たしかに優里は動物の死骸を平気で拾ってきて、悪魔を召喚しちゃうような危ない人かもしれない。でも、初対面の人にそんな風に言うのは、いくらなんでも失礼じゃないだろうか。
そう思ってクリスが意見しようとすると『ちょっと』と、紗奈が口を挟んだ。
『わたしの友達にいきなり何言ってるのよ。失礼じゃない』
強い口調でそう言った紗奈をちらっと一瞥したものの、クレアはそれを無視して再度優里に向かって言った。
『あなた、このままいくと悪魔に生気を吸い尽くされるよ』
『え?どういうことですか?』
優里が思念で聞き返した。さすが悪魔と会話し慣れているだけあって、筋がいい。
『悪魔に魅入られてるよ。何か、契約を交わしたのでしょう?』
『それはそうだけど。でも、もう約束は果たしてるはずです』
クレアは首を振った。
『地表人ってこれだから。学校で習った通りね。本当詰めが甘い』と言って、クレアはため息をついた。
『いい?悪魔ってものすごく狡猾だから、契約をした時点で魅入られてしまうことがよくあるの。生命エネルギーが強くて、潜在能力は高いのに、無知ゆえに悪魔を召喚しちゃったような人なんて尚更。悪魔からしたら、恰好の餌食だよ。
一度魅入られてしまうと、自分が考えたことは知らず知らずのうちに、悪魔が実現を手伝うのよ。そうして、知らぬ間に自分の寿命や、大切な人の命がどんどんすり減らされていってしまうの』
「そんな・・・」
優里は両手で口を押さえた。
『それで、桜井さんはどうなっちゃうの?』
『このままいったら、命の保証はないよ。突然死したりとか、何らかの事故に巻き込まれたりして命を落とすことになるんじゃないかな』
クリスの方を振り向いて、素っ気なくクレアは言った。
それを聞いて、優里はへたりこむようにブランコに座った。顔面は蒼白で、今にも泣き出しそうな顔をしている。
『ちょっと、それってどうにかできないの?』と問い詰める紗奈に、クレアは肩をすくめた。
『別にできないことはないけど、でもその前にまず本人に今後一切悪魔に頼らない、一切悪魔と関わらないっていう気持ちがあるかどうかが問題だよ』
クレアはそう答えながら、優里に視線を向けた。クリスも紗奈も優里を見た。
優里はうつむいたまま黙り込んでいた。
『悪魔に関わらないってことは、これから先ずっと悪魔の手助けは得られなくなる。悪魔に頼ってから今まできっとすべてうまくいっていたと思うけど、そういうのがなくなるっていうことだよ』
それでも覚悟できるかと確認するように、クレアは説明した。
しばらく黙り込んだ後、優里が顔を上げて紗奈を見た。それからクリスを見て一度またうつむき、かすかにうなずいた後にゆっくりと返事をした。
『はい。もう悪魔を召喚したり、悪魔にお願い事をしたりするようなことは二度としません。悪魔とは一切もう関わりません。だから・・・助けてください』
そう言って、優里は泣き出した。紗奈がそばへ駆け寄って「大丈夫だよ」と声をかけながら、背中をさすった。
悪魔のおかげでうまくいっていたのにまた元の生活に戻るのが怖いのか、悪魔と関われなくなるのが嫌なのか、それとも悪魔と関わってしまったばっかりに窮地に陥ってしまったことを悔いているのか。優里の涙の真相は分からなかった。
校庭に降り立ったドラゴンと有翼人の姿を目にして、クリスも紗奈も興奮を抑えきれなかった。しかしそれと同時になんでまたやってきたのか、という疑問が湧き起こった。
ラマルの背からふわりと舞い上がったクレアは、クリスに向かって『元気そうね』と、笑顔で言った。
『うん。まあね』と、クリスも笑顔で返事をした。
『それより、突然どうしたの?』
周囲を気にしながら、クリスは尋ねた。誰か人に見られていないか心配だった。
しかし、校庭には相変わらずクリスたち以外誰もいない。誰かいたとしても翼の生えたクレアやエランドラたちドラゴンの存在は見えないはずだが、それでもやはり人目が気になった。
そんな中、優里がひとりあんぐりと口を大きく開けていた。どうやら優里には、クレアたちの存在が見えているようだ。
クレアもそれに気がついて、『あら?』と言った。
『あなたも、わたしたちのことが分かるみたいね?』
優里はかすかにうなずくと、説明を求めるようにクリスに視線を送った。
「やっぱり、桜井さんには見えるんだね」
クリスが微笑みかけると、優里は小さく「うん」とうなずいた。
「この子はクレアっていうんだ。それで、向こうのドラゴンはエランドラといってぼくの守護ドラゴンだよ」
紗奈のうしろに座る、白く大きなドラゴンを指差してクリスが紹介した。
「それと、こっちのドラゴンがラマルといってクレアの守護ドラゴン」
そう言って手前に座る、エランドラよりひと回り小さい青色のドラゴンをクリスが示した。
クリスが簡単に三人を紹介すると、優里は慌てて立ち上がった。それから深々と頭を下げて「桜井優里です」と、声に出して名前を名乗った。
『ぼくと紗奈ちゃんの小学校からの友達だよ』とクリスが補足すると、クレアは何も言わずにクリスを見てから、エランドラの方を振り返った。
振り向いたクレアに、エランドラが無言でうなずき返した。クレアは肩をすくめると、また桜井さんに向き直った。
『あなた、ちょっと危ないんじゃない?』
「え?」
突然クレアにそのように言われて、優里は絶句した。
たしかに優里は動物の死骸を平気で拾ってきて、悪魔を召喚しちゃうような危ない人かもしれない。でも、初対面の人にそんな風に言うのは、いくらなんでも失礼じゃないだろうか。
そう思ってクリスが意見しようとすると『ちょっと』と、紗奈が口を挟んだ。
『わたしの友達にいきなり何言ってるのよ。失礼じゃない』
強い口調でそう言った紗奈をちらっと一瞥したものの、クレアはそれを無視して再度優里に向かって言った。
『あなた、このままいくと悪魔に生気を吸い尽くされるよ』
『え?どういうことですか?』
優里が思念で聞き返した。さすが悪魔と会話し慣れているだけあって、筋がいい。
『悪魔に魅入られてるよ。何か、契約を交わしたのでしょう?』
『それはそうだけど。でも、もう約束は果たしてるはずです』
クレアは首を振った。
『地表人ってこれだから。学校で習った通りね。本当詰めが甘い』と言って、クレアはため息をついた。
『いい?悪魔ってものすごく狡猾だから、契約をした時点で魅入られてしまうことがよくあるの。生命エネルギーが強くて、潜在能力は高いのに、無知ゆえに悪魔を召喚しちゃったような人なんて尚更。悪魔からしたら、恰好の餌食だよ。
一度魅入られてしまうと、自分が考えたことは知らず知らずのうちに、悪魔が実現を手伝うのよ。そうして、知らぬ間に自分の寿命や、大切な人の命がどんどんすり減らされていってしまうの』
「そんな・・・」
優里は両手で口を押さえた。
『それで、桜井さんはどうなっちゃうの?』
『このままいったら、命の保証はないよ。突然死したりとか、何らかの事故に巻き込まれたりして命を落とすことになるんじゃないかな』
クリスの方を振り向いて、素っ気なくクレアは言った。
それを聞いて、優里はへたりこむようにブランコに座った。顔面は蒼白で、今にも泣き出しそうな顔をしている。
『ちょっと、それってどうにかできないの?』と問い詰める紗奈に、クレアは肩をすくめた。
『別にできないことはないけど、でもその前にまず本人に今後一切悪魔に頼らない、一切悪魔と関わらないっていう気持ちがあるかどうかが問題だよ』
クレアはそう答えながら、優里に視線を向けた。クリスも紗奈も優里を見た。
優里はうつむいたまま黙り込んでいた。
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