125 / 227
第三章 悪魔の儀式
第11話 紗奈の記憶
しおりを挟む
翌日の昼下がり、クリスは昨夜置きっぱなしにしてきた自転車を学校まで取りに行った。
そして帰宅したクリスの元へ、紗奈から電話があった。
今から会えないかという。散歩に連れて行くようベベからせがまれていたクリスはそのことを紗奈に伝えたところ、紗奈も一緒に行くと言った。
今すぐにでも出かけたがっていたベベだったが、クリスの説得に仕方ないというように了承した。
そして15分ほどしてから紗奈が来た。自転車を停める音がすると、クリスとベベは家を飛び出した。
ガレージから出てきた紗奈は、ツバの広い帽子を被り、白のTシャツに花柄のショートパンツという真夏の服装だった。
気象庁によればまだ梅雨明け前ということだが、日射しも強くジメジメとしたその日には丁度良い格好だった。
紗奈のその涼しげな服装に比べれば、Tシャツにジーンズというクリスの服装はいささか野暮ったく映った。
紗奈へのあいさつもそこそこに、ベベは“お城”に向かって駆け出した。クリスと紗奈は、顔を見合わせて苦笑しながらもその後を追いかけた。
見たところ、紗奈は元気そうだった。昨日のことで思いつめたりしていないかというクリスの心配は、杞憂に過ぎなかったようだ。
クリスたちは、いつものようにお城の上に腰かけた。お城の上は風通しもよく、空き地を挟んだ裏手は森に囲まれているため、夏の暑い日でも比較的涼しくて気持ちがいい。
「昨日はありがとう」
クリスの隣に腰かけて「涼しい」と笑顔を見せた後、紗奈が礼を言った。
クリスは、首を振った。
「それより、大丈夫?」とクリスが尋ねると、紗奈は小首を傾げた。それから、『何が?』という思念を飛ばした。
「いや、紗奈ちゃんは覚えてないって言ってたけど、昨日やっぱり誰かに襲われたんでしょ?」
「うーん」と言って、紗奈はうつむいた。そして少し考え込んでから、口を開いた。
「実際、本当に覚えてないの」
ため息交じりに紗奈はつぶやいた。
「昨日、校門を出てスマホを取り出したところまでは覚えてるんだけど、その後のことがどうしても思い出せない」
紗奈は、左右に小さく頭を振った。
「それで気づいたら倉庫の中で横たわってて、目の前にはクリスがいて、桜井さんと田川先生が倒れてた」
眉根を寄せて訝しむように紗奈は言った。
「あ、スマホはちゃんとカバンに入ってて無事だったんだけどね」と、紗奈は小さなショルダーバッグに入ったスマホをちらっと見せた。
「でも昨日言ったように、ぼくは桜井さんの他に二人の男子がいたのをこの目で見てるんだ。と言っても、二人とも白い帽子をすっぽり頭まで被ってたから、男かどうかはわからないけど。でも体格からしてたぶん男だと思う。だから、その二人が紗奈ちゃんを倉庫まで運んだんじゃないかと思うんだ。その二人に心当たりはないかな?」
クリスの問いに、紗奈は首を振った。
「わたし、桜井さんとは別にそこまで仲良くなかったからね。なんで桜井さんがうちの中学にいたのかも分からないし。その二人は桜井さんとつながりがある人たちだろうから、うちの学校の生徒ではないかもしれないしね」
「ぼくもそれは考えたんだ。でも、桜井さんが進学した中学校って、女子中だったよね?だから、男子のつながりとなると、やっぱり小学校の時からの知り合いとかになるんじゃないかな?」
「そうかも」と、紗奈はうなずいた。
「でも、わたしをさらって、悪魔を呼んでどうするつもりだったんだろう?クリスの言ってたそのヘビのような胴体をしたゴリラみたいな悪魔は、わたしを食べようとしていたのでしょう?」
想像しただけで気持ち悪い、というように紗奈は顔をしかめた。
「食べようとしていたかは分からないけど、でも襲いかかろうとしていたのは確かだね」
たしかに。優里とその仲間は、悪魔を使って紗奈を一体どうするつもりだったのだろうか?
「桜井さんに何か恨まれるようなことした覚えはないんだけどなぁ。ほとんど接点なんてなかったし」
小学校時代のことを思い出すように、紗奈は宙を見つめてぼそっとつぶやいた。
そして帰宅したクリスの元へ、紗奈から電話があった。
今から会えないかという。散歩に連れて行くようベベからせがまれていたクリスはそのことを紗奈に伝えたところ、紗奈も一緒に行くと言った。
今すぐにでも出かけたがっていたベベだったが、クリスの説得に仕方ないというように了承した。
そして15分ほどしてから紗奈が来た。自転車を停める音がすると、クリスとベベは家を飛び出した。
ガレージから出てきた紗奈は、ツバの広い帽子を被り、白のTシャツに花柄のショートパンツという真夏の服装だった。
気象庁によればまだ梅雨明け前ということだが、日射しも強くジメジメとしたその日には丁度良い格好だった。
紗奈のその涼しげな服装に比べれば、Tシャツにジーンズというクリスの服装はいささか野暮ったく映った。
紗奈へのあいさつもそこそこに、ベベは“お城”に向かって駆け出した。クリスと紗奈は、顔を見合わせて苦笑しながらもその後を追いかけた。
見たところ、紗奈は元気そうだった。昨日のことで思いつめたりしていないかというクリスの心配は、杞憂に過ぎなかったようだ。
クリスたちは、いつものようにお城の上に腰かけた。お城の上は風通しもよく、空き地を挟んだ裏手は森に囲まれているため、夏の暑い日でも比較的涼しくて気持ちがいい。
「昨日はありがとう」
クリスの隣に腰かけて「涼しい」と笑顔を見せた後、紗奈が礼を言った。
クリスは、首を振った。
「それより、大丈夫?」とクリスが尋ねると、紗奈は小首を傾げた。それから、『何が?』という思念を飛ばした。
「いや、紗奈ちゃんは覚えてないって言ってたけど、昨日やっぱり誰かに襲われたんでしょ?」
「うーん」と言って、紗奈はうつむいた。そして少し考え込んでから、口を開いた。
「実際、本当に覚えてないの」
ため息交じりに紗奈はつぶやいた。
「昨日、校門を出てスマホを取り出したところまでは覚えてるんだけど、その後のことがどうしても思い出せない」
紗奈は、左右に小さく頭を振った。
「それで気づいたら倉庫の中で横たわってて、目の前にはクリスがいて、桜井さんと田川先生が倒れてた」
眉根を寄せて訝しむように紗奈は言った。
「あ、スマホはちゃんとカバンに入ってて無事だったんだけどね」と、紗奈は小さなショルダーバッグに入ったスマホをちらっと見せた。
「でも昨日言ったように、ぼくは桜井さんの他に二人の男子がいたのをこの目で見てるんだ。と言っても、二人とも白い帽子をすっぽり頭まで被ってたから、男かどうかはわからないけど。でも体格からしてたぶん男だと思う。だから、その二人が紗奈ちゃんを倉庫まで運んだんじゃないかと思うんだ。その二人に心当たりはないかな?」
クリスの問いに、紗奈は首を振った。
「わたし、桜井さんとは別にそこまで仲良くなかったからね。なんで桜井さんがうちの中学にいたのかも分からないし。その二人は桜井さんとつながりがある人たちだろうから、うちの学校の生徒ではないかもしれないしね」
「ぼくもそれは考えたんだ。でも、桜井さんが進学した中学校って、女子中だったよね?だから、男子のつながりとなると、やっぱり小学校の時からの知り合いとかになるんじゃないかな?」
「そうかも」と、紗奈はうなずいた。
「でも、わたしをさらって、悪魔を呼んでどうするつもりだったんだろう?クリスの言ってたそのヘビのような胴体をしたゴリラみたいな悪魔は、わたしを食べようとしていたのでしょう?」
想像しただけで気持ち悪い、というように紗奈は顔をしかめた。
「食べようとしていたかは分からないけど、でも襲いかかろうとしていたのは確かだね」
たしかに。優里とその仲間は、悪魔を使って紗奈を一体どうするつもりだったのだろうか?
「桜井さんに何か恨まれるようなことした覚えはないんだけどなぁ。ほとんど接点なんてなかったし」
小学校時代のことを思い出すように、紗奈は宙を見つめてぼそっとつぶやいた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
異世界ライフは山あり谷あり
常盤今
ファンタジー
会社員の川端努は交通事故で死亡後に超常的存在から異世界に行くことを提案される。これは『魔法の才能』というチートぽくないスキルを手に入れたツトムが15歳に若返り異世界で年上ハーレムを目指し、冒険者として魔物と戦ったり対人バトルしたりするお話です。
※ヒロインは10話から登場します。
※火曜日と土曜日の8時30分頃更新
※小説家になろう(運営非公開措置)・カクヨムにも掲載しています。
【無断転載禁止】
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
召喚勇者の餌として転生させられました
猫野美羽
ファンタジー
学生時代最後のゴールデンウィークを楽しむため、伊達冬馬(21)は高校生の従弟たち三人とキャンプ場へ向かっていた。
途中の山道で唐突に眩い光に包まれ、運転していた車が制御を失い、そのまま崖の下に転落して、冬馬は死んでしまう。
だが、魂のみの存在となった冬馬は異世界に転生させられることに。
「俺が死んだのはアイツらを勇者召喚した結果の巻き添えだった?」
しかも、冬馬の死を知った従弟や従妹たちが立腹し、勇者として働くことを拒否しているらしい。
「勇者を働かせるための餌として、俺を異世界に転生させるだと? ふざけんな!」
異世界の事情を聞き出して、あまりの不穏さと不便な生活状況を知り、ごねる冬馬に異世界の創造神は様々なスキルや特典を与えてくれた。
日本と同程度は難しいが、努力すれば快適に暮らせるだけのスキルを貰う。
「召喚魔法? いや、これネット通販だろ」
発動条件の等価交換は、大森林の素材をポイントに換えて異世界から物を召喚するーーいや、だからコレはネット通販!
日本製の便利な品物を通販で購入するため、冬馬はせっせと採取や狩猟に励む。
便利な魔法やスキルを駆使して、大森林と呼ばれる魔境暮らしを送ることになった冬馬がゆるいサバイバルありのスローライフを楽しむ、異世界転生ファンタジー。
※カクヨムにも掲載中です
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
私に成り代わって嫁ごうとした妹ですが、即行で婚約者にバレました
あーもんど
恋愛
ずっと腹違いの妹の方を優遇されて、生きてきた公爵令嬢セシリア。
正直不満はあるものの、もうすぐ結婚して家を出るということもあり、耐えていた。
でも、ある日……
「お前の人生を妹に譲ってくれないか?」
と、両親に言われて?
当然セシリアは反発するが、無理やり体を押さえつけられ────妹と中身を入れ替えられてしまった!
この仕打ちには、さすがのセシリアも激怒!
でも、自分の話を信じてくれる者は居らず……何も出来ない。
そして、とうとう……自分に成り代わった妹が結婚準備のため、婚約者の家へ行ってしまった。
────嗚呼、もう終わりだ……。
セシリアは全てに絶望し、希望を失うものの……数日後、婚約者のヴィンセントがこっそり屋敷を訪ねてきて?
「あぁ、やっぱり────君がセシリアなんだね。会いたかったよ」
一瞬で正体を見抜いたヴィンセントに、セシリアは動揺。
でも、凄く嬉しかった。
その後、セシリアは全ての事情を説明し、状況打破の協力を要請。
もちろん、ヴィンセントは快諾。
「僕の全ては君のためにあるんだから、遠慮せず使ってよ」
セシリアのことを誰よりも愛しているヴィンセントは、彼女のため舞台を整える。
────セシリアをこんな目に遭わせた者達は地獄へ落とす、と胸に決めて。
これは姉妹の入れ替わりから始まる、報復と破滅の物語。
■小説家になろう様にて、先行公開中■
■2024/01/30 タイトル変更しました■
→旧タイトル:偽物に騙されないでください。本物は私です
ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~
にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。
その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。
そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。
『悠々自適にぶらり旅』
を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。
グーダラ王子の勘違い救国記~好き勝手にやっていたら世界を救っていたそうです~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
ある日、ティルナグ王国の自堕落王子として有名なエルクは国王である父から辺境へ追放を言い渡される。
その後、準備もせずに木の上で昼寝をしていると、あやまって木から落ちてしまう。
そして目を覚ますと……前世の記憶を蘇らせていた。
これは自堕落に過ごしていた第二王子が、記憶を甦らせたことによって、様々な勘違いをされていく物語である。
その勘違いは種族間の蟠りを消していき、人々を幸せにしていくのだった。
前世は最強の宝の持ち腐れ!?二度目の人生は創造神が書き換えた神級スキルで気ままに冒険者します!!
yoshikazu
ファンタジー
主人公クレイは幼い頃に両親を盗賊に殺され物心付いた時には孤児院にいた。このライリー孤児院は子供達に客の依頼仕事をさせ手間賃を稼ぐ商売を生業にしていた。しかしクレイは仕事も遅く何をやっても上手く出来なかった。そしてある日の夜、無実の罪で雪が積もる極寒の夜へと放り出されてしまう。そしてクレイは極寒の中一人寂しく路地裏で生涯を閉じた。
だがクレイの中には創造神アルフェリアが創造した神の称号とスキルが眠っていた。しかし創造神アルフェリアの手違いで神のスキルが使いたくても使えなかったのだ。
創造神アルフェリアはクレイの魂を呼び寄せお詫びに神の称号とスキルを書き換える。それは経験したスキルを自分のものに出来るものであった。
そしてクレイは元居た世界に転生しゼノアとして二度目の人生を始める。ここから前世での惨めな人生を振り払うように神級スキルを引っ提げて冒険者として突き進む少年ゼノアの物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる