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第三章 悪魔の儀式
第3話 紗奈の疑念
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「最近、どうしたの?」
校門を出たところで、紗奈が聞いた。
「授業中に寝るなんて、クリスらしくないじゃない」
「うん」
クリスがうなずき返すと、風になびく髪を手でかき分けながら紗奈が振り向いた。
茶色くカールしていた髪を、紗奈は中学に上がる前に黒髪のストレートに戻していた。爪も短く切りそろえている。
「普段の生活がつまんない?」
「いや、まあそれはそうだけど・・・」
クリスのその返事に、紗奈はうなずき返した。
「まあ、そうだよね。向こうでは死ぬか生きるかの大冒険だったもんね。本当に怖かったけど、でもスリリングで、今となってはすごく楽しい小学校最後の思い出」
紗奈がそう話すのは、地底世界や海底世界でクリスタルエレメントを探し求めての冒険のことだ。
たった3ヶ月前の出来事だったが、紗奈は懐かしむように話した。
「それに、クリスなんてヒーローってもてはやされていたしね」
そう言って、紗奈はクリスに笑いかけた。クリスが肩をすくめると、「まあでも、たしかにかっこよかったけど」と紗奈はボソッとつぶやいた。
クリスは顔を赤らめ、聞こえてないふりをして話を戻した。
「というより、ここ最近突然体がズーンって重くなる時があるんだ。急激な眠気に襲われて」
「ふーん、寝不足?」
「いや。夜はしっかり8時間以上寝てるから、寝不足ってことはないと思う。でもなんて言うか、突然意識がどこかに持っていかれちゃうような感じがあるんだ」
クリスが症状を説明すると、紗奈はまた「ふーん」と言った。自分から聞いておきながら、あまり興味がなさそうだった。そして「部活で疲れてるのかもね」と、ありきたりの感想を述べると話題を変えた。
「ところで、今日田川先生からはなんて言われたの?」
その質問を聞いて、今日紗奈が一緒に帰ろうと言い出した理由が分かった。紗奈はきっと最初からそれが聞きたかったのだ、とクリスは思った。
「別に大したことは言われてないよ」と、クリスは紗奈から視線を外して首を振った。
「ただ注意されて、あと何かあれば相談してって言われたくらい」
紗奈はまた「ふーん」と言った。今度は、何かを探るような「ふーん」だった。
田川先生が就任した時から、なぜか紗奈はあまりいい感情を持っていなかった。クリスたちが入学した当初、担任は吉田和子というベテランの先生だった。
しかし、突然体調を崩して長期療養が必要になった。そこで急遽やってきたのが田川先生だ。入学式の2週間後の出来事だった。
吉田先生の病気については、詳しい話は伝えられなかった。癌にかかったとかノイローゼになったとか、噂は様々飛び交ったが真相は不明だ。
田川先生は、吉田先生と同じ英語の担当だった。しかし、吉田先生のように20年以上のキャリアがあるわけではなく、大学を卒業したばかりの新任の先生だ。
ハーフでまるでモデルのような容姿をしていることもあり、男子だけじゃなく女子からも憧れの的だった。
しかし、紗奈だけは違った。「なんか田川先生って裏があるような気がして信用できない」と、よく言っていた。
「田川先生がどうかしたの?」
黙り込んでいた紗奈に、クリスが聞き返した。
「ん?ううん」と、紗奈は首を振った。
「やっぱり信用できない?」
「うーん。まあね」と、うつむきがちに紗奈は返事をした。
「何もそんなに心配することはないんじゃないかな。地底世界や海底世界ではあんな色んなことがあったから、何かと心配になるのも分かるけど。でもここは地表世界だし、ぼくたちをだまそうとするような人はいないと思うよ。
それにもうクリスタルエレメントはアクアをひとつ手に入れてるわけだから、闇の勢力によって地球が消滅させられちゃう心配もないしね。他のクリスタルエレメントについても、今頃ソレーテさんたちが着々と手に入れているだろうし」
「そうだけど・・・」
「何かあれば、またクレアたちが言ってくるはずだよ」
クリスがそう言って微笑みかけると、うなずき返しはしたものの、紗奈はどこか腑に落ちない様子だった。
その証拠に、「もしまた田川先生に何か言われたら教えてほしい」と別れ際に念を押された。
その日の夜、クリスはまた夢を見た。昼間、授業中に見たのと同じ夢だ。見知らぬ場所で、霧が立ち込める道をずっと歩いていた。
車が通ることもなければ、人の気配もない。何かを求めて、ただひたすらその道をまっすぐ進んでいた。
「そう。それでいいわ」
どこからかまた女性の声がした。
「何も心配いらない。何があってもわたしを信用して。すべてうまくいくわ。信じて身を委ねていれば大丈夫よ」
この声・・・田川先生だ。また寝ちゃった!
クリスは、はっとして飛び起きた。しかし、そこは自分のベッドの上だった。
枕元のデジタル時計は、AM4:14を示している。よかった。授業中にまた寝てしまったのかと思った。
クリスは、ほっと胸を撫で下ろした。
『どうしたの?』
足もとで寝ていたベベが、眠たそうにクリスを見上げた。
『ううん。なんでもない。ごめん、ごめん』
クリスはまた横になって、布団をかぶった。
なんでまた田川先生の声が聞こえたのだろう?
今日注意されたからだろうか。そんなことを考えながら、クリスは再び眠りの中へと吸い込まれていった。
校門を出たところで、紗奈が聞いた。
「授業中に寝るなんて、クリスらしくないじゃない」
「うん」
クリスがうなずき返すと、風になびく髪を手でかき分けながら紗奈が振り向いた。
茶色くカールしていた髪を、紗奈は中学に上がる前に黒髪のストレートに戻していた。爪も短く切りそろえている。
「普段の生活がつまんない?」
「いや、まあそれはそうだけど・・・」
クリスのその返事に、紗奈はうなずき返した。
「まあ、そうだよね。向こうでは死ぬか生きるかの大冒険だったもんね。本当に怖かったけど、でもスリリングで、今となってはすごく楽しい小学校最後の思い出」
紗奈がそう話すのは、地底世界や海底世界でクリスタルエレメントを探し求めての冒険のことだ。
たった3ヶ月前の出来事だったが、紗奈は懐かしむように話した。
「それに、クリスなんてヒーローってもてはやされていたしね」
そう言って、紗奈はクリスに笑いかけた。クリスが肩をすくめると、「まあでも、たしかにかっこよかったけど」と紗奈はボソッとつぶやいた。
クリスは顔を赤らめ、聞こえてないふりをして話を戻した。
「というより、ここ最近突然体がズーンって重くなる時があるんだ。急激な眠気に襲われて」
「ふーん、寝不足?」
「いや。夜はしっかり8時間以上寝てるから、寝不足ってことはないと思う。でもなんて言うか、突然意識がどこかに持っていかれちゃうような感じがあるんだ」
クリスが症状を説明すると、紗奈はまた「ふーん」と言った。自分から聞いておきながら、あまり興味がなさそうだった。そして「部活で疲れてるのかもね」と、ありきたりの感想を述べると話題を変えた。
「ところで、今日田川先生からはなんて言われたの?」
その質問を聞いて、今日紗奈が一緒に帰ろうと言い出した理由が分かった。紗奈はきっと最初からそれが聞きたかったのだ、とクリスは思った。
「別に大したことは言われてないよ」と、クリスは紗奈から視線を外して首を振った。
「ただ注意されて、あと何かあれば相談してって言われたくらい」
紗奈はまた「ふーん」と言った。今度は、何かを探るような「ふーん」だった。
田川先生が就任した時から、なぜか紗奈はあまりいい感情を持っていなかった。クリスたちが入学した当初、担任は吉田和子というベテランの先生だった。
しかし、突然体調を崩して長期療養が必要になった。そこで急遽やってきたのが田川先生だ。入学式の2週間後の出来事だった。
吉田先生の病気については、詳しい話は伝えられなかった。癌にかかったとかノイローゼになったとか、噂は様々飛び交ったが真相は不明だ。
田川先生は、吉田先生と同じ英語の担当だった。しかし、吉田先生のように20年以上のキャリアがあるわけではなく、大学を卒業したばかりの新任の先生だ。
ハーフでまるでモデルのような容姿をしていることもあり、男子だけじゃなく女子からも憧れの的だった。
しかし、紗奈だけは違った。「なんか田川先生って裏があるような気がして信用できない」と、よく言っていた。
「田川先生がどうかしたの?」
黙り込んでいた紗奈に、クリスが聞き返した。
「ん?ううん」と、紗奈は首を振った。
「やっぱり信用できない?」
「うーん。まあね」と、うつむきがちに紗奈は返事をした。
「何もそんなに心配することはないんじゃないかな。地底世界や海底世界ではあんな色んなことがあったから、何かと心配になるのも分かるけど。でもここは地表世界だし、ぼくたちをだまそうとするような人はいないと思うよ。
それにもうクリスタルエレメントはアクアをひとつ手に入れてるわけだから、闇の勢力によって地球が消滅させられちゃう心配もないしね。他のクリスタルエレメントについても、今頃ソレーテさんたちが着々と手に入れているだろうし」
「そうだけど・・・」
「何かあれば、またクレアたちが言ってくるはずだよ」
クリスがそう言って微笑みかけると、うなずき返しはしたものの、紗奈はどこか腑に落ちない様子だった。
その証拠に、「もしまた田川先生に何か言われたら教えてほしい」と別れ際に念を押された。
その日の夜、クリスはまた夢を見た。昼間、授業中に見たのと同じ夢だ。見知らぬ場所で、霧が立ち込める道をずっと歩いていた。
車が通ることもなければ、人の気配もない。何かを求めて、ただひたすらその道をまっすぐ進んでいた。
「そう。それでいいわ」
どこからかまた女性の声がした。
「何も心配いらない。何があってもわたしを信用して。すべてうまくいくわ。信じて身を委ねていれば大丈夫よ」
この声・・・田川先生だ。また寝ちゃった!
クリスは、はっとして飛び起きた。しかし、そこは自分のベッドの上だった。
枕元のデジタル時計は、AM4:14を示している。よかった。授業中にまた寝てしまったのかと思った。
クリスは、ほっと胸を撫で下ろした。
『どうしたの?』
足もとで寝ていたベベが、眠たそうにクリスを見上げた。
『ううん。なんでもない。ごめん、ごめん』
クリスはまた横になって、布団をかぶった。
なんでまた田川先生の声が聞こえたのだろう?
今日注意されたからだろうか。そんなことを考えながら、クリスは再び眠りの中へと吸い込まれていった。
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