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第二章 クリスタルエレメント
第40話 海底洞窟
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水の滴る音がしてクリスは目を覚ました。クリスの目に飛び込んできたのは、つららのように垂れ下がる何本ものクリスタルだった。そのクリスタルのつららが、どこまでも天井を覆いつくしていた。
クリスは体を起こした。クリスが横たわっていたのは、青く輝くクリスタルに囲まれた泉のほとりだった。
人魚の姿をした女性がひとり、泉から身を乗り出してクリスを見つめていた。その人魚のことを、クリスはどこかで見た覚えがあった。
『気づいたわね』
人魚はクリスのそばへ近寄り、岸に腰かけた。腰まである白く長い髪と、銀色の瞳を見てクリスは思い出した。ポセイドーンでガイオンを紹介されたときに、滝つぼからずっと様子をうかがっていた人魚だ。
『えーと、ここは・・・?』
どうやら、死んだわけではなさそうだった。死後の世界をクリスは見たことがある。しかし今いる場所は、その世界とはまったく様子が違っていた。
『ここは、アトライオスの海底洞窟よ』
『ぼくは、どうして・・・』と言いながら、クリスは首を回して背中を見た。特に血が流れているような様子はなく、痛みもなかった。
『空から落ちてきたのをわたしが見つけて、ここまで運んだの』
『空から落ちてきたって、ぼくは海に落ちたんですか?』
人魚はうなずいた。
『でもぼくは海底人じゃないんです。それなのに、なんで海底に落ちても死ななかったんだろう?それに、銃で背中を撃たれたはずだ』
もう一度首を回して、クリスは手で背中をまさぐった。しかし、やはり撃たれたような形跡はなかった。
『あなたは水竜の加護を受けているわ。きっと、その身に着けている衣ね』
クリスの身に着けたピューラに視線を向けて、人魚が言った。
『だから海底でも死なずに生きていられるのよ。それに、鋼の肉体をまとう地竜の影も見えるわ。拳銃で撃たれても傷を受けなかったのは、そのためでしょう』
クリスは自分のピューラを見た。そんな特性が備わっていたとは夢にも思わなかったが、そのおかげでこうして助かったなんてとてもついている。
『あ、助けてくれてどうもありがとうございました』
はっと気づいたように、クリスは礼を言った。人魚は微笑み、首を振った。
『ぼくはクリスといいます。地底世界からやってきました』
ソレーテから言われていたように、クリスは念のため地表世界から来たことは伏せておいた。
『知ってるわ。あなたが“選ばれし者”だということも』
クリスの心の内を見透かすような笑みを浮かべて、人魚は言った。
『わたしの名前はアルメイオン。ガイオンの娘よ』
『え?そうなんですか?』
この色白でほっそりした女性があのガマガエルのようにゴツゴツした男の子供だとは到底信じられず、クリスは思わず聞き返した。驚くクリスを見て、アルメイオンは笑った。
『ところで、ここはアトライオスのどの辺りなんですか?』
周囲を見回して、クリスは質問した。紗奈とベベが海賊に捕まっていることを思い出し、クリスは焦った。
『ここはレグイアの真下よ』
『レグイア?』
レグイアといえば、アトライオスの南西の街だった。そんなところまで流されて来てしまったというのだろうか。どうやって船に戻ったらいいのかクリスが聞こうとすると、それを制するようにアルメイオンが言葉を発した。
『あなたには、アクアを探し出す使命があるわ』
『はい。それは分かっています』と、クリスはうなずいた。
『でも、ぼくの友達とペットの犬が海賊に捕まってしまったんです。先に助けに行かないと』
アルメイオンは首を振った。それから、手を伸ばしてクリスの額に手を触れた。すると、クリスの脳裏に船の上の映像が浮かんだ。
クリスが海に落ちた後クレアとラマルがやってきて、海賊たちを一網打尽にしてしまう映像だった。そして、そこへエランドラや他のメンバーも駆けつけた。ローワンが船を操縦し、カンナンの波止場に停泊させた。
その間、紗奈は甲板の隅でずっと泣いていた。ベベはクリスを探して海の上を飛び回っている。
クリスは体を起こした。クリスが横たわっていたのは、青く輝くクリスタルに囲まれた泉のほとりだった。
人魚の姿をした女性がひとり、泉から身を乗り出してクリスを見つめていた。その人魚のことを、クリスはどこかで見た覚えがあった。
『気づいたわね』
人魚はクリスのそばへ近寄り、岸に腰かけた。腰まである白く長い髪と、銀色の瞳を見てクリスは思い出した。ポセイドーンでガイオンを紹介されたときに、滝つぼからずっと様子をうかがっていた人魚だ。
『えーと、ここは・・・?』
どうやら、死んだわけではなさそうだった。死後の世界をクリスは見たことがある。しかし今いる場所は、その世界とはまったく様子が違っていた。
『ここは、アトライオスの海底洞窟よ』
『ぼくは、どうして・・・』と言いながら、クリスは首を回して背中を見た。特に血が流れているような様子はなく、痛みもなかった。
『空から落ちてきたのをわたしが見つけて、ここまで運んだの』
『空から落ちてきたって、ぼくは海に落ちたんですか?』
人魚はうなずいた。
『でもぼくは海底人じゃないんです。それなのに、なんで海底に落ちても死ななかったんだろう?それに、銃で背中を撃たれたはずだ』
もう一度首を回して、クリスは手で背中をまさぐった。しかし、やはり撃たれたような形跡はなかった。
『あなたは水竜の加護を受けているわ。きっと、その身に着けている衣ね』
クリスの身に着けたピューラに視線を向けて、人魚が言った。
『だから海底でも死なずに生きていられるのよ。それに、鋼の肉体をまとう地竜の影も見えるわ。拳銃で撃たれても傷を受けなかったのは、そのためでしょう』
クリスは自分のピューラを見た。そんな特性が備わっていたとは夢にも思わなかったが、そのおかげでこうして助かったなんてとてもついている。
『あ、助けてくれてどうもありがとうございました』
はっと気づいたように、クリスは礼を言った。人魚は微笑み、首を振った。
『ぼくはクリスといいます。地底世界からやってきました』
ソレーテから言われていたように、クリスは念のため地表世界から来たことは伏せておいた。
『知ってるわ。あなたが“選ばれし者”だということも』
クリスの心の内を見透かすような笑みを浮かべて、人魚は言った。
『わたしの名前はアルメイオン。ガイオンの娘よ』
『え?そうなんですか?』
この色白でほっそりした女性があのガマガエルのようにゴツゴツした男の子供だとは到底信じられず、クリスは思わず聞き返した。驚くクリスを見て、アルメイオンは笑った。
『ところで、ここはアトライオスのどの辺りなんですか?』
周囲を見回して、クリスは質問した。紗奈とベベが海賊に捕まっていることを思い出し、クリスは焦った。
『ここはレグイアの真下よ』
『レグイア?』
レグイアといえば、アトライオスの南西の街だった。そんなところまで流されて来てしまったというのだろうか。どうやって船に戻ったらいいのかクリスが聞こうとすると、それを制するようにアルメイオンが言葉を発した。
『あなたには、アクアを探し出す使命があるわ』
『はい。それは分かっています』と、クリスはうなずいた。
『でも、ぼくの友達とペットの犬が海賊に捕まってしまったんです。先に助けに行かないと』
アルメイオンは首を振った。それから、手を伸ばしてクリスの額に手を触れた。すると、クリスの脳裏に船の上の映像が浮かんだ。
クリスが海に落ちた後クレアとラマルがやってきて、海賊たちを一網打尽にしてしまう映像だった。そして、そこへエランドラや他のメンバーも駆けつけた。ローワンが船を操縦し、カンナンの波止場に停泊させた。
その間、紗奈は甲板の隅でずっと泣いていた。ベベはクリスを探して海の上を飛び回っている。
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