クリスの物語

daichoro

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第一章 過去世の記憶

第33話 ラムザの見解

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『うーむ。何とも言えんのう』

 クレアが一部始終話終えると、ラムザは腕を組んだ。


『たしかにイビージャとアルタシア、二人ともその部分しか情報が残されていないというのはおかしな話じゃがのう。それ以外の情報が二人ともなくなっているというのは、偶然にしてはあまりにも不自然じゃ』

『でしょう?やっぱりラムザおじいさんもそう思うでしょう?きっと、わたしたちが調べに来ることを知って、誰かがクルストンをいじったのだと思うんだよね』


『じゃが、いじるといったって、中央部のそれも情報統制局の司令官以上の人間でないと操作することなどできんからのう。それに、ここ最近そういった人間は出入りしとらんしの。

 仮に情報統制局の人間が操作していたのだとしても、そういった人間でも情報を削除する以上の権限はないんじゃ。じゃから、少しの情報しか残っていなかったとはいえ、残っていたその情報はやはり正しいのではないかと思うがの』


「ということは、やはりアルタシアが呪いをかけたのは本当だということか?」

 ファロスが間に入って確認すると、『まぁ、そういうことになるかの』とラムザは2,3度うなずいた。


 すると、クレアが納得いかない表情で異議を唱えた。

『でもそれだったら、何のためにあの部分だけ残しておくの?どうせ消すなら全部消せばいいじゃない。あんなの、いかにもわたしたちに見てくださいといわんばかりの内容だったよ』


『ううむ。そう言われてものう』

 ラムザは困ったように、視線を落とした。


『だって、偶然にしてはあまりにもできすぎているもの。なんか、アルタシアが呪いをかけたのは本当のことだから、イビージャの言う通り、黒いドラゴンの石を取ってくるようにって誰かがファロスにそういう風に仕向けているような気がする』


 クレアはテステクをカウンターに置くと、組み合わせた手の上に頬杖をついた。


「さっきからクレアは疑ってばかりいるが、逆にあの情報が正しいからこそ他の余計な情報は削除して、あの部分だけは残しておいたという風には考えられないか?」

 頬杖をついたまま、クレアはファロスに視線を向けた。


『それなら、なんで他の情報は削除する必要があるの?』

「それは分からんが、何か削除しないといけないような不都合な内容があったということじゃないか?」


 話にならないとでもいうように、組んだ手をぱっと離してクレアは首を振った。


『まず第一に、イビージャの言っていることが正しいことだとして、イビージャが闇の勢力の人間じゃなくて本当に地底世界の人間なのだったら、ドラゴンの石を使ってアルタシアを殺そうなんて考えは起こらないはずだよ。

 それに・・・そうだよ。仮に、中央部の人間があの情報を認識していて他の余計な情報を削除したというのなら、アルタシアが闇の勢力の人間だと気づいているっていうことでしょう?そしたら、アルタシアのことをまず放っておかないはずだよ。

 やっぱり、あの情報はわたしたちに見せるために、あえて作られたでたらめの情報だよ。きっと』


 合点がいったように、クレアは腕を組んでうんうんとうなずいた。


『情報を書き換えることって、絶対にできないことなのかなぁ?』

 ラムザに向き直って、クレアが聞いた。


『いや、絶対にできないということはない』

 ラムザのその言葉に、クレアは目を輝かせた。


『本当?』

『うむ。理論的にはの。しかし少なくとも中央部の人間には不可能なはずじゃ』

『え?それなら、誰だったらそういうことができるの?』

『うむ。銀河連邦クラスの人間であれば、そういったことも可能だろう』

 思い出したようにうむうむと、ラムザはうなずいた。


『ただ、銀河連邦の人間が地球のこのような、彼らにしてみれば些細なできごとで動くはずはないと思うがの』

『何?その銀河連邦って?』


『わしらのいるこの銀河系のすべての惑星を監視・指揮している艦隊じゃよ。この銀河系には1万を超える銀河連邦の艦隊があり、この銀河系に存在する惑星を常に監視しているということじゃ。光が闇に包まれてしまわないようにの。

 そしてさらに、宇宙にはそのすべての銀河連邦を司る、宇宙連盟なるものがあるということも聞く』


『へぇー。そんなの初めて聞いた』

『うむ。まぁ、そうじゃろう。この地底世界でも知る者はあまりおらんじゃろうからの』


『あ。もしかして、わたしたちより先に来てたあの黒い服の男の人がその銀河連邦っていうところから来た人なんじゃないの?』

 思いついたように、クレアが両手でカウンターを叩いた。その瞬間、ラムザはびくっと肩を震わせた。


 咳払いしてから、ラムザは言った。

『いや、銀河連邦の人間がまさかこんなところに来たりはせんよ。仮に万に一つ来ることがあったとしても、事前にその旨を知らせる連絡があって、中央部の人間を何人も伴って来るはずじゃ』

『そうなの?でも、もしかしたらお忍びで来たっていうこともあるかもしれないよ?』

 苦笑しながらラムザは首を振った。


『銀河連邦の人間であればなおのこと、イビージャがアルタシアに報復をするその手助けをするよう誰かに仕向けるということはないじゃろう』

『それもそうか』

 大きくため息をついて、クレアはまた腕を組んだ。


『ねぇ』

 皆が沈黙する中、ラマルがクレアの袖を引っ張った。

『何よ?』

『ええと、だからさ、受付の人がクルスターで記録を取っているのだから、あの黒い服の人のことについてはひとまずそれで調べてもらったらどうかな?だって、そのこともあって館長に相談しに来たんじゃない・・・?』

 ラマルが遠慮がちに発言すると、クレアは『あ、そっか』と言って手を叩いた。


『ねぇ、ラムザおじいさん。わたしたちより先に3312号館の1648階―25号室に入っていた黒い服の人が誰だかっていうのは、記録に残っているでしょう?それを調べてもらえないかな?』


 ラムザは『ふーむ・・・』とうなって、少し考え込んだ。

 それから『まぁ、事情が事情じゃからの。特別じゃ』と言って、自分の席へと戻っていった。



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